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心折れた俺の異世界浪漫譚  作者: 黄色い翁
第一章
36/43

幕間ーある晴れた日の影ー

閑話第二部です。

通常通りの長さになってしまいましたが、会話回となっております。


 紫煙煙る店内。カウンターの向こう側で白髪の紳士がグラスの水気を綺麗に拭き取る仕草一つ一つが洗練されており厳かな空気と柔らかい空気が同居している。

 人によっては落ち着くと表現する人もいるだろう。またある人にとっては集中する事のできる空間と表現する人もいるだろう。はたまた紳士が淹れる珈琲、紅茶が絶品だからという理由の人もいるだろう。

 故にここを知り、訪れる人たちは口を揃えて最高の店だと言う。


 しかしそんな最高の店「喫茶デイブレイク」はカウンター席に座る三人の空気に中てられ、張り詰めていた。

 ちらほら見える客達は目線を送る事もせず、見慣れた光景ではあるが、ただこの嵐が通り過ぎるのを待つばかりだと俯いて過ごしていた。


 その中で一番右に座っている赤髪オールバックの男性が口を開く。


 「おい。どうなっているんだ?」

 「我は知らんな。その領分はお前達であろうが。」

 「俺だってわかんねーよ。こちとら中央勤めじゃない上に、元凶は他国だぜ?無理があるってもんだろ?寧ろそういった者は影の仕事なんじゃねぇのか?」


 一番左に座っており、最初に口を開いた男性とはまた違う紅髪をストレートに背中に流した女性が短く答え、その女性に対し真ん中に座る栗毛を逆立てた男性が愚痴を零し、口火を切った男性に投げ返す。


 「まぁそうなんだがな?如何せん限界がある。正直娘からの報告と表のお前からの情報が頼りなんだよな・・・・・・」

 「我はお前達の情報が頼りであるのになぁ?まったく機能しないとは情けない。半年前は完全に後手、今回も後手に回りつつあるのだろう?何とかしろ筋肉。」

 「あ?筋肉馬鹿にしてんのか?いいか?筋肉はうらぎらねぇ!筋肉を信じるものは救われるっていうだろう?それに半年前は後手だったが影がなんとかしてくれたじゃねぇか。今回は否定のしようがない程に後手ってのは間違いないがな。」


 「おい。間違えるな。俺がやったんじゃない。自慢の息子が自らの手で森の民を守ったんだ。それにあの時も完全に後手。神託に邪魔されて何もできなかっただろうが。

 だから、どうなっているんだ?と聞いてるんだよ。全く、何が筋肉だ。脳みそまで筋肉かよ。」


 「くはは違いない。こやつの頭は手遅れよな。流石我がおと「おい。」っと宿だな。それにしても臭いのぉ・・・・・・何故今更神獣なのだ?場所も遠く利があるとは思わんのだ。

 そこを掴むのが中央とのつながりのある筋肉の役目だろうに嘆かわしい。」


 「かぁ~お前ら好き勝手言いやがってよぉ。今ザイルは向かい風だ。下手に動かせないし動けないのが現状なんだよ。

 だから今回も寝耳に水だぜ?表が役割でも限界がある。その辺の不可能をなんとかするのが紅の領分じゃねぇの?」


 カウンターに座る三人が喋りだしたおかげで幾分か空気が軽くなり、他の客達も一安心する。しかし内容が内容なだけに客達の間には自然と緊張感が走る。

 客達はカウンターの三人の正体を知っており、会話の内容も自分達に関係しているものだということも理解していた。

 しかし何故表立って話さないのか・・・・・・それはここがザイル帝国、辺境防塞都市ポラリスだからである。

 ザイル帝国は人種差別などなく共存共生を掲げているが、他国は人族至上主義である。

 どこに間者が紛れ込んでいるかわからず、下手に情報を流したくない為に配慮しこういった形になっているのだ。

 彼らが影と呼んだり、表、紅と呼んだりしているのは効果があるか不明だが上記の理由からであった。


 「っはん。我らの能力は確かに強力であるが、使用したら最後。やつらに見つかって今度こそ滅ぶであろうな。筋肉よ。お主は我らに滅べと申すか?なぁ影。」

 「表、そういうことだ。そのためにお前の力が重要なんだよ。もし仮に、紅が中央と繋がったままだったら滅んでいるぞ?紅もザイル帝国も。」

 「ったく・・・・・・わぁーったよ。神獣の件は完全に後手だ。保障はできないが、ここに来る討伐隊は別だ。何とか探ってやる。

 んで?森の民んとこにいる影の倅に情報を流すようにすればいいのか?」


 「いや、それはこっちでやるさ。それに今あいつは紅の所にいるはずだろ?」

 「いかにも。なあ影。あの子、我にくれないか?」

 「紅だけにってか?―――「あ゛?」「は?」・・・・・・調子乗りました。」


 「ダメだ!あいつだけは姉さんには渡せない。ていうか幾つだよ!それに子供もいるだろうが!」

 「熱くなるな影。普段どおり涼しい顔を忘れておるぞ?まったくそういう所は美徳でもあるが欠点だと言うておるに。

 まぁ影、聞くがよい。お前がどこまで知っておるか分からないが、あの子はハーフエルフだ。しかも王家の血筋よな。生まれの問題故なのか魔力が少ないにも関わらずお主の嫁、義妹の刀一本で切っ先だけとはいえ我に傷を付けたのだぞ?

 我としては惚れるには十分よ。まぁ半分は冗談である故許せ。」

 「まじかよ・・・・・・まだ14か?今年で15だろ?紅に傷を刀一本でとか人外だろ。」


 「すまない紅。熱くなりすぎたが・・・・・・半分は本気ってことか?いや、置いておこう。

 まぁ森の民達から報告してもらったからな。それまでは14年も一緒にいて気が付かなかったのはあの日の事も含めて親として申し訳ないと思っているさ。

 それにしても紅に一太刀当てたのかぁ。こんなに喜ばしいことはないな。帰ったらあいつの事を頼むよ。それとくれぐれも俺の事は伏せておいてくれよ?」


 「影よ、良い顔をするようになったな。気にするでない、あの子はお前達の辛さを理解しておる。それにリリエル様も一緒についておられるしな。気がかりなのは偽り共の仲間が一緒にいた事くらいかの。

 その辺も含め観察は怠らないつもりだぞ?

 それに最近は我が愚息と何やら企んでおるようでな?中々に面白い日常を送らせてもらっておるよ。」


 「は?リリエル様だと?それに偽り共の仲間も?加えて紅のとこの変態と?おい、影よ。お前の倅大丈夫なのか?というかリリエル様って本物なのか?」


 三人の会話が別の意味でヒートアップしていくが、同時にそれを聞いていた客達もリリエルの名前が挙がった事で店内の温度が上がっていた。

 ある者は涙を流し、ある者は天に祈りそれぞれの感情を静かにではあるが心から表現していた。


 「紅は既に本人から聞いているだろう?俺はカインから文が届いて知ったんだ。まぁ表が知らないのは仕方の無い事だな。どちらにせよ驚愕するってことに変わりは無いと思うがな。

 あいつはどうやら封印を解いて解放したらしい。それでなのかは分からないがリリエル様の伴侶となったと書いてあったな。偽り共については、リリエル様と息子が罰を与える事で赦したと簡潔に書いてあったな。」

 「ふむ、であるか。我のすることに変わりは無いゆえ安心しておくがよいぞ。勿論婿に欲しい云々は今後また話し合おうかの?」

 「えぇ・・・・・・お前らその辺の情報は俺に報告するべきなんじゃないですかね?」


 彼らの話はマイナスの部分もあるがそれ以上の収穫が希望となり伝播していく。

 店内にいた客達はいつの間にか誰もおらず、残すはカウンターの三人と店主の四人だけであった。


 「さてお三方。誰も居りませぬ故、気の向くままにごゆるりと。」


 店主はそういい残し、字の如く煙と共に消えていった。


 「はぁ~身内連中しかいないとはいえ緊張するな。」

 「くはは!アークよ、そろそろ馴れるべきだぞ?お主何年生きておるのだ。」

 「人外共め!こちとら一般人だぞ!」「は?」「ひと?」「ふざけるなぁぁぁ!」


 「っふ。まぁいつもの流れだろ?ジンクロード・ポラリス辺境伯様。とはいえ姉さん、やっぱり緊張はする。いつどこで誰が何を見聞きしているか分からないんだ。一歩間違えればあの時の二の舞になりかねないし、今は妻もキーラもいるんだ。半年前はカレンに救われたのが大きい。見たくない物を見た筈だ。それでも大戦を回避し、カレンが邪神認定されなければ今に繋がらなかったんだ。それを父親の俺が崩すわけにはいかないだろ?」


 「全くアークの言うとおりであるな。あの子がいたから助かった。あの子がいたから一時とはいえエルフの支えにもなったはずであろうな。

 それにしてもあの子に全てを押し付けているようで、我の本音はとても心苦しいのだ。

 だから今日時間を取ってもらったのだ。感謝するぞ」


 「まさか魔王様から感謝される日が来るとはな・・・・・・俺は今のところ何もしていない、出来ていないのが現状だからな。少なくとも討伐隊のことは任せて欲しい。責任を持って対処するさ。

 さてそろそろ戻らねぇと嫁にどやされるから先に帰るぜ。」


 そういい残し、栗毛を逆立てた男、ポラリス辺境伯ジンクロード・ポラリスは店から出て行った。


 「行ったか。なぁ、姉さん。カレンは・・・・・・ハーフなんだろ?大丈夫なのか?」


 赤髪オールバックの男アークが、姉と呼ぶ紅髪の女性、魔王に問う。


 「我にも分からぬ。本来ハーフはどの種族でも死産であった。しかしどういうわけか生きておる。確かに不安はあるだろうが生きている事を喜ぼうじゃないか。

 なにかあれば我らは魔族、なんとかできなければレイルガータの名が廃るというものであろう?

 だから安心しなさい、アーク。私達で見えないところから支えてあげるの。それが神様達への恩返しでもあるし、カレンの為なのよ。」


 「姉さんの言うとおりだな。俺はもう姓を捨てたけど誇りまでは捨てたつもりはないからね。その誇りにかけて負けていられないな。

 それとやっぱり最後の口調のほうが姉さんっぽいから戻してくれないか?今の口調はちょっとね。」


 「ええい!うるさいぞ!偶々でてしまっただけだ!我は我である!以上!

 それじゃあそろそろ非常に惜しいが我も戻らなければならぬ。我のほうも探ってみる故、何か分かれば使いを出そう。アークよ。くれぐれも無茶だけはするな。いいな?」


 「姉さんらしいっちゃらしいか。ああ分かってる。無茶はしないさ。俺も戻らないとセレンが泣き出すからね。それじゃあまた。」


 彼らはお互いに言葉を交わしその場から消えるようにいなくなった。

 やがて喫茶デイブレイクも至るところから煙となりその姿を消してゆく。

 そして残ったのは、喫茶デイブレイクがあったであろう小さな空き地だけが残すのみとなっていた。



 

どうも黄色い翁です。

短めの閑話になると言ったな?・・・・・・あれは嘘だ。


どうしても会話パートは文字数が増えてしまいますね。

匂わせていた影の宿、それを黙認している領主、ポラリスで有名な魔王。

彼らを出しておきたかった。ただそれだけです。


別々で出そうか悩みましたが、まとめて出しました。

彼らのつながりは一体なんなのか等は今後出していきますが予想して楽しんでみてください。

だけど割と父親アークがヤバめでしたね。妄想を楽しんでくれたら幸いです。



次話辺りで幕間の物語は一旦締めようかと思っております。次は「奴ら」のパートです。

その後に一旦整理のために人物紹介や現状分かっている世界設定等を出したいなと思ってます。

おそらく設定等の執筆に一番時間が掛かると思います。予定通り21:00投稿できるように執筆していきますが、ずれ込むかもしれませんのでその時は御容赦ください。


それでは長くなりましたがここまでお読みいただきありがとうございます。

もし面白かった!続きが気になる!と感じていただけましたら、ページ下部の評価とブックマークをよろしくお願いします!


それではまた会いましょう。黄色い翁でした。

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