赤ずきん1996
※1996年の出来事・流行したものが所々に盛り込まれた内容です。
当時のネタを見つけながら楽しんで頂けると嬉しいです。
むかしむかし。
バブル期に建築された集合団地の一室に、それはそれは可愛らしい少女が住んでいました。
「うおお!ジーノカッター強っ。ダメ999とかヤバ過ぎー」
SF〇のコントローラーを振り回し、楽しそうに配管工を操る……赤色のヘアバンドがチャーミングな女の子。
明るく元気で、とっても無邪気。
ネズミ嫌いでたまに天然ぼけをする様子が、某魔法少女アニメの主人公みたいだと言う事から『赤ずきん』と呼ばれ、可愛がられていました。
赤ずきんの家は、祖母が重役を務めていた証券会社が倒産。責務の一旦を負っていた父が蒸発。
不況の煽りを受けた家族は手元の有価証券を処理し、細々と母と娘の気ままな二人暮らしをしています。
─────PiPiPiPiPiPiPiPi
机の上のポケベルにメッセージが届きました。
【a-z.88951】
それを見た赤ずきんは、急いで母親の元へと向かいます。
「ちょっとママ!家に居るんだから声を掛けてくれればいいのに」
「ああ、ごめんなさいね赤ずきん。実は……お婆ちゃん、風邪を引いてしまったみたいで。お見舞いに行って欲しいのよ」
「え、お婆ちゃんが?」
お祖母ちゃんは現在、金融関係の特別アドバイザーという仕事の関係で、都内のマンションに一人で暮らしていました。
ついこの間も、一緒にデニーズでパンナコッタを食べたばかりだったのに。
赤ずきんは心配です。
「大丈夫よ、お祖母ちゃん、電話じゃ元気そうだったから。……悪いけど、お願いね!」
母親から渡されたカゴの中には、新発売の桃の天然水。
それに、お婆ちゃんの大好きなJリーグカレーが沢山入っていました。
「お婆ちゃん、スト〇コビッチ大好きだし、喜ぶわね」
「あ、赤ずきん!お使いの道中は気をつけるのよ。最近、物騒な事件が多いし」
「大丈夫だよ、お母さん」
近年は、様々な災害や異常な事件が連日お昼のワイドショーで取り上げられています。
お母さんは少し心配になりました。
「怪しい団体には気を付けてね。あと、生水はO157が心配だから飲んじゃダメよ」
「はーい。じゃあ、行ってきまーす!」
いよいよ赤ずきん、お婆ちゃんの家に向かって出発です!
───────────────
電車に揺られる事1時間、赤ずきんはお祖母ちゃんの住む町にやって来ました。
「ふーふーふふんーーふんーふんーこーこーろでーー♫」
赤ずきんがお気に入りの男性バンドのヒット曲を口ずさんでいると
「おー、あの子、超マブじゃん。へへへ」
赤ずきんの後ろから、恐ろしい狼が付いて来ていました。
長いロン毛にオーバーサイズの白いトップス。
デニムのジーンズを腰履きする様子は、まさにナウでヤングな都会の若狼、と行った感じです。
そして若干ロングバケーションのキ〇タクリスペクトでもありました。
「カーノジョッ、俺と、お茶しない?」
「えー?私ですかー?」
「うん。デートしようよ」
「ダメですよォー。私、これからお婆ちゃんのお見舞いに行くんですからー」
赤ずきんはシノラー調で断ります。
ですが、狼は諦めません。
「一日付き合ってくれたらさー、俺、何でも買ってあげちゃうんだけどなー」
狼はチラリと左腕につけたイルクジモデルの腕時計をアピールします。
さらに、足に履いたエアMAXをさりげなく見せつける事も忘れません。
「で、でもお婆ちゃんが待ってるから」
「少しだけ付き合ってよー。それだけで俺、満足するからさー」
「急いでるんで、またの機会に」
「一緒に映画見に行こ!ほら、近くの映画館で『学校の〇談2』やってるから」
「えーと、だから私、急いでるって……」
しつこい狼だなー。
赤ずきんが正直チョベリバと思っていたその時。
『キャー!皆、ポケ〇よ!ポケ〇の三人組が今から近所の公園でゲリラライブを開くんですって!』
道行く人々が騒ぎ始めました。
『本当?……俺サイン欲しかったんだよな!』
『ええ!〇秋ちゃんに会えるの?』
『炎チャレ、大好きなんだけど!』
声を聞きつけた群衆が赤ずきん達の周りを包みます。
これはチャンス!……と思った赤ずきんは、狼が目を話した隙を見計らい、その場を離れる事にしました。
そろり……そろり……。
赤ずきんは狼に気付かれないよう、ヨチヨチ歩きでじりじりその場を離れていきます。
その頼りない足取りは、まるで社交ダンスを始めたばかりの役〇広司、といった所でしょうか。
よし、このまま人込みに紛れて逃げてしまえ!
赤ずきんが狼を振り切ろうとしたその時。
「あ、あれ?さっきのカワイ子ちゃんは……って……あっ!ちょ、どこ行くんだ。逃げんなよ!」
あと一歩の所で狼に気付かれてしまいました。
赤ずきんは捕まるまい、と必死になって逃げ出します。
それを野生の本能で追いかける狼。
「もう、もう付いて来ないでーー!」
「お、おい、待てよ!待てって…………くそ、何てすばしっこい奴なんだ」
狼は必死に手を伸ばし、追いかけます。
ですが、人込みが邪魔になり、なかなか追いつく事が出来ません。
赤ずきんの逃げ足は、往年の逃げ馬ツ〇ンターボのように見事な走りでした。
その逃げっぷりが功を奏し、赤ずきんは狼を撒く事に成功したのです。
赤ずきんに逃げられた狼は、悔しそうに地団太を踏みました。
「はあ、はあ……全く、この俺が女の子に逃げられちまうなんて。にしても……マブい子だったなァ」
狼は赤ずきんのような、穢れを知らない清純そうな広〇涼子系の女性が大好きでした。
「へへへ……コソッと抜き取ったコイツが役に立ちそうだ!」
狼が手にしたのはお祖母ちゃんからの手紙。
なんと、いつの間にか赤ずきんが気付かぬ内に、カゴの中から抜き取っていたのです。
手紙の中身を読み、彼女の行き先を突き止める魂胆なのでしょう。
「えーとなになに…………ほお、ここがあの子の婆さんの家か。しめしめ……」
先回りしてあの子の婆さんに取り入っちまおう。そうすれば何の邪魔も無くあの子を喰っちまえる!
狼は、某名探偵の孫が主人公の漫画に登場する直情型でクレイジーな犯罪者に近い考え方で、早速赤ずきんの手紙に書いてある住所に向かいました。
───────────────
「ここか……」
やってきたのは都内のマンション。
501号室の扉の前に立った狼はベルを鳴らします。
─────ピンポーン!!
『ゴホゴホ……はーい、どなたかのう?』
扉越しにお婆さんが声を掛けました。
「えーと、俺、お孫さんのオトモダチなんだけど。ここ開けてくれる?」
狼は嘘をつき、お祖母ちゃんに取り入ろうとします。
『はいぃ?失礼じゃが……あたしやァ耳が遠くての。おまけに風邪を引いてますます聞こえにくくてな。悪いがどなた様じゃい?』
「アアン?赤ずきんのトモダチって言ってんだろ」
『ええ……あじあの純真と堂本〇一?何を言っとるんじゃお前さんは』
「ハァ……いいか?ト・モ・ダ・チ。友達なら、遊びに来るのもアタリマエだろ?」
『ともだちなら………………あたりまえ?…………ああ、分かった!あんた、こまあしゃるに出てた、さっかぁ選手の河童さんか?』
「訳分らん事を言いやがる!だから、俺は赤ずきんとトモダチなんだって」
『あいにく、あたしは外国語が喋れなくてな。河童さん、通訳さんを呼んで来てくれないと』
「違うっつってんだろ!早くここを開けやがれ!」
狼は身に余る劣情を柴〇恭兵のようにはみ出しながら、扉をこじ開けようとしました。
『ゴホッ……な、何をするんじゃ!扉が壊れる』
「もう我慢ならねえ!無理やりにでも押し入ってやるぞ。クソババア!」
『だ、誰か助けとくれーー!」
お祖母ちゃんの叫び声が、マンション中に響き渡りました。
───────────────
「この声は……お祖母ちゃん?た、大変!」
赤ずきんがマンションに着くと……さっきの狼がお祖母ちゃんの家に押し入ろうとしているではありませんか!
お祖母ちゃんの命が、銀〇怪奇ファイルに出てくるモブ生徒のように危険に晒されています。
「やめて!お祖母ちゃんに乱暴しないで!」
「ん……誰だ?こっちは取り込み中なん…………お、おお!キミは!」
赤ずきんは果敢にも、狼の前に飛び出しました。
その勇気は、さながら日本でバッシングを受けながらも単身メジャーに挑戦した〇茂に匹敵すると言っていいでしょう。
ですが……所詮人と狼。その力の差は新〇・桧〇の抜けたタイガースが〇チロー率いるオリックスに歯向かうに等しい行為です。
「待ってたんだよォ……やっべー。怒った顔もかわいいね。これから一緒にデートしようよ」
「そんなのお断りよ!」
「グッヘッヘ。何して遊ぶ?やっぱ定番のカラオケ?スケートも良いね。このまま高嶋政〇の働くHOTELで二人、ナースのお仕事ごっこでもしちゃおうか」
「ふざけないで!それ以上私に近づくと、大声を出すわ。あ、暴れるわよ!」
「ガッハッハ!そんなの全く怖くないね!俺を怖がらせるなら聖〇魔Ⅱのボーカルかトイレの花子さんでも連れてくるんだな」
そう笑うと、狼はゆっくり赤ずきんちゃんに近づいて行きます。
「い、いや……!」
このままでは狼に喰べられちゃう!
あまりの恐怖に、赤ずきんが目を閉じたその時。
「そこまでだ!!」
そこに現れたのは、ペプシマン……ではなく、険しい顔をしたお巡りさんでした。
「な、何だよ。公僕の癖しやがって!一般シミンに手を出していいのか?」
「『狼がマンションで暴れている』と通報があって来てみれば。幼気な少女を狙って暴行を働くとは許せん。ロリコン狼は大人しくドレミファどーなつで我慢していれば良いものを」
そう言うと、お巡りさんは狼の手に手錠を掛けます。
「ま、ちょっ、待てよ。俺はただ、ナンパをしてただけだ!それ以上は何もしてねェのにこんなモン掛けられる謂れは」
「ほほぉ……本当に覚えがないのか」
「な、何だってんだ!」
「最近、この辺で夜闇に紛れ、酒に酔ったサラリーマンを襲い、金目の物を狙う狼がいると聞いた」
「お、俺じゃねえ!」
「お前の履いているエアマックス95、ネオンは人気でな。滅多にお目に掛かれない一品なんだ。どこで手に入れた?」
「……それは……く、くそう!!」
狼は暴れようとしましたが、すぐに警察官が取り押さえました。
「言い訳は署で聞こう。たっぷりお説教を交えてな。観念しろ!」
「ち、ちくしょーーー!!」
お巡りさんは赤ずきんに一礼すると、狼を連れて去っていきました。
「た、助かった」
赤ずきんは、すぐさまお祖母ちゃんの無事を確認します。
狼の暴走で腰を抜かし、扉の向こうで動けなくなっていたお祖母ちゃんを助け起こしました。
「お祖母ちゃん、大丈夫?風邪なんでしょう?」
「お、おお。赤ずきんよ、あたしは大丈夫じゃ。お前こそ無事じゃったか?……スマンなあ、迷惑をかけて」
「ううん!私は無事よ。大好きなお祖母ちゃんを守れて、初めて自分で自分をほめたい気分なの!そんな事よりホラ、お見舞いに来たよ!」
こうして、赤ずきんの初めてのお使いは無事に終わりました。
赤ずきんは、自分に起こったメークドラマな一日をお話ししながら、お祖母さんと仲良く二人の時間を過ごしたそうな。
めでたしめでたし。
若い世代にはチンプンカンプンな内容だと思います。というか、全部ネタが分かる人は恐らくいないでしょう。私もいくつか調べました(笑)。分かった方はご報告下さい('ω')ノ