第八話 新天地へ
身体が宙に浮き、漂うような、そんな不思議な感覚を宗一郎は感じていた。
「ここは…?」
辺りの風景は元いた原っぱとは違い、星が瞬く星空の様な空間だった。
しばらく眺めていると、その星々の一部の瞬きが強くなり、重なり合い、一つの大きな光となった。
「星が…集まってる…?」
大きな光は更にその大きさと輝きを上げ、形を変えていった。
そして変化が収まり「ある形」となり、光が消え、それは姿を現した。
「龍…?」
光から現れたのは鮮やかな青い身体をした巨大な龍だった。西洋龍というよりは東洋のものに近いが、角の形などに西洋の雰囲気を感じる独特な姿をだった。
「今世の勇士は貴様か」
龍は語りかけた。
人語を話したことに驚く宗一郎だが、昔読んだ何かの作品で龍は高度な知性を有していると読んだことがあり割と素直に受け入れた。
「そう…らしい。キミは?」
「私はこの東の大陸を守護している龍だ。起源の四種の一つも守っている」
「なるほど。さっき喰われかけた時力を貸してくれたのはキミが…」
「ふん。情けない。あの程度の魔物に翻弄されるとは。だが死なれては困る。私も、世界もだ。」
バツがわるそうに頬をかく宗一郎
「いや、悪いな。まだルーキーなもんでね」
フンと鼻を鳴らす龍
「貴様…宗一郎とか言ったな。実力はまだまだだが…気合いは一人前だ。あの殺気は見事だった。認めよう。私が守る四種の一つ「オリジンブレード」の担い手である事を」
龍が笑った。宗一郎にはそう見えた。
「ありがとよ」
宗一郎も笑顔で返す。
すると今度は周囲の星全体が輝き始めた。
「こ、これは?」
「ここは私とお前の精神を繋ぐ為に作り出した空間。言うなれば会話出来る夢といったところだ。お前が目覚めようとしている。そちらへ戻る前に伝えておく。お前がこの世界へ来る時持っていた手帳。大事に持っておけ」
「わ、わかった」
「うむ。では…」
星々の光が一層強くなる
「ま、待ってくれ!最後にもう一つ!キミの名前は?」
鼻で笑う龍。
「名などない。好きに呼ぶがいい」
「ではな」
光が激しくなり宗一郎の視界を完全に支配する。
強烈な光にめまいを起こし、意識を失う宗一郎。
…
目を覚ました宗一郎はベッドの上にいた。
寝泊まりしていたグランの家ではない。
部屋全体の作りが豪華すぎる。
身体を起こそうとした時部屋のドアが開き、リースが入ってきた。
「…!宗一郎!身体は大丈夫!?」
「あ、ああ…少し痛いけどなんとか」
辺りを見回す宗一郎。
「ここは?」
「お城よ。山での戦いが終わった後、宗一郎は気を失ったの。ダンさんが担いでウッド村まで下山して、長老様に事情を説明したんだけど、宗一郎の手当てもあるし報告しなきゃって事で長老様の転移魔法で一気にここまできたってわけ」
「なるほど…長老様とダンさんは?」
「王様と会議中。といってもこれ以上進めるには宗一郎の回復を待たないとって事で止まってるみたいだけど」
「もしかして…リース看病してくれてた?…ありがとう」
微笑みかけると、ぷいっと後ろを向いてしまうリース。
「私は一応キミの従者って事だし?それに看病って程でもないわよ!打撲だけで命に別状はなかったんだもの」
耳まで赤くなったリースであった。
「さ、さあ、もう動けるなら玉座の間へ行くわよ。お待ちかねなんだから」
「よし行くか…いてて」
立て掛けてあった剣を拾い、腰をさすりながら部屋を出る宗一郎。
二人は玉座の間へと向かった。
大扉を開け、玉座の間へと入ると、グラン、ルビウス、ダンの三人が待っていた。
「おお。宗ちゃんや。目が覚めたか」
「宗一郎よ。よく無事に戻った。怪我が大した事なくて何よりだ。話はダンとグランからある程度聞いておるぞ」
「はい。御心配をおかけしてすみません。」
腕を組み、深呼吸するルビウス。
「では、まずは起源の四種を見せてもらおう」
「いや、それがわかんないんですよ。アイツその辺詳しく教えてくれなくて」
予想外の答えに皆がざわつく
「宗一郎。アイツ…とは?あの場に居たのは私とリースだけだっただろう?」
どうやらダンは公私をわきまえるようで今はいつものダンさんではなく、王の前ではダンタリアン兵士長らしい。
「いや、実は…」
宗一郎は先ほどの夢の話をした。
一同、驚きはしたがグランとルビウスはどこか納得したようだった。
「グラン、いや師よ。宗一郎の魔力を開いてみてはくれぬか」
「そうじゃの。一度も使ってないということは恐らくガチガチなはずじゃ」
「リース先生!質問!長老様と王様はなんの話してるんでしょうか!」
元気よく挙手をして質問する宗一郎。
「誰が先生よ…まあいいわ。簡単に言うと人間の中に魔力が通る道があるのよ。そこに異常があると、魔力を上手く操れないの。そもそも魔力って体内以外にもいたるところに…ってこれは長くなるからやめとくわ。とにかく、宗一郎の場合、その道を全然使ってないから凝り固まって魔力が全然通らないし、そもそも使い方も知らないでしょって事よ」
リース先生の講義はいつもタメになると感心する宗一郎。
「ま、そういうわけじゃ。宗ちゃんよ。ちょっと跪きなさい。」
グランの前で跪く宗一郎。グランの手が宗一郎の頭にかざされる。
グランの手がぼんやり光り、その光が宗一郎の頭へと引き込まれていった。
「宗ちゃんの魔力を流す事で剣を媒介にして起源の四種…龍の話じゃとオリジンブレード…じゃったか。それが現れるのじゃろう。今、流れを作った。宗ちゃん、剣を持ち、魔力を込めてみるんじゃ。宗ちゃんが感じた凄まじい力を思い出し、そいつをイメージしながら気合いを込める要領じゃ」
剣を抜き、集中する。
「――はっ!!!」
瞬間凄まじい光が宗一郎の手元から発され、剣を包んだ。
そしてレッサーファングを退けた時と同じく、光輝く剣が現れた。
「くっ…!」
苦しくなる宗一郎。そして光が弱まっていき、次第に消えて元の剣へと戻った。
「ふむふむ。なるほどなるほど」
あごひげをいじりながら宗一郎に近寄るグラン。
剣と宗一郎を交互に眺める。
「なるほどの。どうやら宗ちゃんの体力に比例して発動時間が左右されるようじゃ。宗ちゃんの魔力を起爆剤にして魔力の塊であるオリジンブレードが反応。その姿を現すのじゃな。そしてオリジンブレードの本来の持つ魔力はまだ底知れぬの。本来持つ力が解放されれば宗ちゃんの身がもたぬ。オリジンブレード側で主人がコントロール出来る分だけ力を解放するようじゃ」
「長老様…あの一瞬でそこまで分析を…スケベなだねじゃなかったのね…」
「リースや?ちとひどくはなかろうか?」
「うっ…」
グラついて倒れこむ宗一郎。ダンが支える。
「しかし宗一郎。すごい力だな。消耗も激しそうだが」
「ええ…ちゃんと考えて使わないとすぐガス欠起こしますね…」
「師 グランよ。これで間違いないな?」
ルビウスの問いに頷くグラン。
「そうじゃの。これではっきりした。宗ちゃんはこの世界の命運を担う勇士である。それと共にこの東の大陸の守護龍も我らの味方に着いた」
ルビウスが支えられる宗一郎に手を差し伸べ、引っ張り上げた
「守護龍とはまだ会話はできるのか?」
「いえ…わかりません。一方的だったので…」
「そうか…もしまた話す事があれば、お前と守護龍は今や運命共同体の戦友。名など無いと言うなら名付けてやればよい。私達からしたら神とも呼ぶべき存在に等しいが、宗一郎にとっては友の様なものだろうからな」
そう言ってニカっと笑うルビウス。
「しかし、今の話を守護龍が聞いておったらまずいかもな。「無礼である!」などと怒りに触れ天罰など無い様とりなしておいてくれよ?」
「わかりました」
笑い合う二人。
「さてと、宗一郎にリースにダンよ。この度の働き見事であった。大義である。だがしかし、お前達の旅はまだ始まったばかりである。今後の旅で困る事もあろう。もし私で力になれる様であればいつでも頼ってくれ」
一国の王の演説にこうべを垂れる三人。
「次の目的地じゃが、西はどうじゃろうか?」
グランの提案にうむ。と頷くルビウス。
「「ヴァイシア」か。同盟国でもある。ドラグーンゲートの伝承は各大陸の王家にも伝わってある故、きっと力になってくれるだろう」
新たな旅の訪れに、疲労感に襲われながらもワクワクする宗一郎。
「よし。皆の者。今夜は城で過ごすがよい。明日の朝、港へ伝令を出し、お前たちが乗船できるよう、手配しておく。では、解散としよう」
ルビウスの号令のもと、一同は玉座の間を後にする。
城の使用人達に案内され、それぞれ部屋に向かった。
翌朝
長い一日の疲れをしっかり癒した三人はルーブ港にいた。
船着場でルビウスの書状を見せ、乗船する。
ルビウスを初め、グランも見送りに来たがったが、一国の王とその師である長老が港へ出向くなど、人目につきすぎるという理由で控えてもらっていた。
三人が船に乗りこみしばらくするとイカリが上げられ、真っ白な帆がいっぱいに広がり、風を受け、船を進めた。
船首に立ち、海原を見つめる宗一郎。
「(ルーブにはいなかった…これから向かうヴァイシアにいるといいが…泰三、仁香、四葉…無事でいてくれ…)」
仲間との再会を祈り、一行は海を走り、西の国ヴァイシアへと向かうのだった。
ご覧いただきありがとうございます。
かわせみです。
今回でひとまずルーブ王国編は終わりになります。
次回よりヴァイシア編になります!こちらでも色々と構想は練っておりますのでお楽しみに!
今回のあとがきはあっさりめですがこの辺で終わりになります。
それでは!