第七話 起源の眠る山
グランの屋敷の使用人が夕飯の完成を告げる頃、辺りはすっかり暗くなっていた。
そして宗一郎はボコボコに鍛えられ、ピクピクしていた。
「うむ。連続して保ったのは3分か。初めてにしては上出来だ。じきに五分と言わず、組手ができるだろう」
肩に木刀を乗せながら悠然と屋敷へ歩いていくダン。
「ちょっと…大丈夫?」
「うう…面目無い…」
リースに肩を借りながら宗一郎も屋敷へと入る。
食卓には豪勢な食事が並んでいた。一際目を引いたのは大きな塊肉の丸焼きだった。
「では、存分に食べてくれい!」
追い込まれたからかがっつく宗一郎。
食事の合間にも様々な話がされた。
そしてグランが知っている事についても新たに聞かせられた。
起源の四種の一つは、宗一郎が飛ばされたウッド村東の山に眠っているかもしれない事。そこは、昔からこの地の龍が眠る山と言われているとの事だった。
そして宗一郎のトラウマであるレッサーファングが依然として子育て真っ盛りで狩りの練習をさせているとの事だった。
肉に夢中で聞いてなかった宗一郎は幸運だったかもしれない。
食事を終えると各々が寝床へ向かった。
朝
眩しい朝日に起こされた宗一郎はいつかの様にまた窓を覗き込んだ。変わらず村の子供たちが広場であそんでいる。
「おっと。装備を整えないと。またどやされる」
思い出した様に旅支度を整え始める宗一郎。
グランの屋敷を出ると家の前にはグランとダン、そしてリースがすでに待っていた。
「来たの。では、昨日話した通り、行き先は東の山じゃ。気をつけるんじゃぞ」
「はい!」
元気よく返事をする宗一郎。
一行は村の門へ向かう。
村の門には村人達が集まっていた。
「リースちゃん!王宮の勅命だって!?」
「頑張れよ!応援してるからな!」
「少年と兵士長さんもな!リースを頼むぞ!」
詳細までは渡っていないが、王宮の命でリースが村を空ける事を聞いた事で村人達が見送りに集まったのだった。
「みんなありがとう!行ってきます!」
元気よく挨拶をして村を出る。
しばらく歩いた頃リースが二人に尋ねる
「ごめんなさい。二人とも。ちょっとだけ寄りたいところがあるの。山への通り道にあるから少しだけいい?」
「おう。構わんぞ」
「うん。俺も」
「ありがとう!」
そうしてしばらく歩くと、二つ、大きな石が並んでいた。
花が供えられ、周囲を柵で囲まれたそれは墓だった。
「お父さん。お母さん。行ってきます」
リースが物言わぬ両親へ語りかける。
「これから長い旅になりそうだし、大切なお役目を授かったから。挨拶してから行きたくて」
笑いかけるリースの眼はどこか哀しげだった。
「リース…お父さんとお母さん、亡くなってたのか…」
「ええ。私が物心もつく前にね。生前の話はある程度長老様から聞いてるけど、覚えてないからなんともね。魔物に襲われたとは聞いてるけど詳しくは知らないの」
「そうだったのか…」
そう言うと、墓の前に仁王立ちするダン。
「父君殿、母君殿。困難な旅になるかとは思いますがどうかご安心を。私が娘さんを支えていきますので。そこの半人前の勇者と共に!」
「ダンさん勘弁してくださいよ…半人前じゃ安心できないですよ」
「ならとっとと一人前になる事だな!」
そんな二人を見てフフッと笑うリース
「(お父さん。お母さん。大丈夫。こんなに楽しい人達と一緒だもの。きっと世界もなんとかしてみせる)」
誓いを立てたリース。一行は再び歩みを進め、遂に山道へ辿り着いた。
「ここが起源の四種の一つが眠る山…か…」
山を見据える宗一郎。
「初めて来たみたいなコメントしてるけどキミ一度来てるからね」
「あ、バレた」
山を見据え、ダンも一言ぽつりと漏らす
「ここが宗一郎が半べそかきながらレッサーファングに追い回されたという山か…」
「ちょっとーそこの兵士長さーん。微妙に間違ってまーす」
訂正虚しくスルーされ、山道へ入っていくダンとリース。
「でもまぁ、気のりはしないわな。でも行かないと」
頬をパンと叩き気合を入れて後に続く宗一郎。
山道をしばらく歩くと、ひらけた場所に出た。
石柱が五本立っている。そこは宗一郎が飛ばされてきた場所だった。
「ここは…俺が目覚めた場所だ…」
立ち尽くす宗一郎。
「ほう…ここが…勇士たる宗一郎が飛ばされてきた場所なら起源の四種とも関係があるかもしれないな。調べるぞ」
石柱をくまなく調べるダンとリース。
宗一郎は立ち尽くしていたが次第にソワソワしだした。
何かを感じる。強い力のようなものを。そしてそれに呼ばれている気さえした。
次第に強まる力の鼓動。中心の石柱に手をかざそうとしたその時、茂みが揺れた。
再会を果たしてしまった。
相変わらずのデカさと赤く光る眼。以前と違うのは腹に二本矢が刺さっていた。
「あー…お久しぶり。元気してた?」
「グルルルル…」
よだれを垂らし唸っている。どうやら再会を喜んでいる様子はなさそうだ。
「あ、コイツ…この前の…!私が打った矢が刺さってる」
「ほうこいつか!しかし野生の魔物とは再生力がすごいな。深く刺さった傷口がそのまま治癒してやがる」
遠巻きに解説する二人に叫ぶ宗一郎。
「おおおおーい!なんでそんな遠く!?パーティプレイ!チームワーク!みんなで戦いましょうよおおおお!」
「せっかくだ。お前一人でやってみろ。修行はつけたんだから。ヤバかったら助けてやる」
師匠は厳しかった。
くそおおと半分開き直りながら腰の剣に手を添える宗一郎。
一息で引き抜き、はすに構える。
踏み込もうとしたその時。レッサーファングの背後の茂みが大きく揺れた。
先ほどの3倍近くは揺れている。バキッ!メキッ!と木々をへし折る音が響く。
そしてそれは姿を現した。
目の前にいるレッサーファングの3倍近い体躯。それに伴い更に大きく発達した爪と牙。
レッサーファングの成獣が現れた。
「あ、これはヤバイぞ。リース、構えろ!」
剣を抜き、一瞬で間を詰め、移動するダン。
一閃の元、成獣を怯ませる。
「ちっこいのは頑張れよ!後ろからリースの援護もある!」
「は、はい!」
斬りかかる宗一郎。しかし避けられる。
それはリースの矢も同様だった。
「宗一郎!今のままだと攻撃が当たらない!属性矢を使うから時間稼いで!」
何のことかわからなかったが状況を打破する手段瞬間的に理解した宗一郎。
「わかった!任せろ!」
リースの前に立ち剣を構える宗一郎。
そこへ飛びかかるレッサーファング。
剣で受け止める。
顎にガッチリと剣がはまる。
踏ん張り、互角に押し合う宗一郎。
「ぐぬぬぬ!」
しかし次第に押し負けていく。
「おいリース!まだか!なんかとっておきのがあるんだろ!?」
「ふう…ええ。おまたせ。強烈なのお見舞いするわ。風の属性矢よ!」
そう言ってリースから放たれた矢は先程と異なり真空の刃を伴って発射された。
着弾した矢はその勢いを殺すことなく、そのまま加速をし続け、レッサーファングの腹で炸裂した。
レッサーファングの力が弱まる。
と、同時に宗一郎が押し返し、トドメの一撃を加えた。
倒れこむレッサーファング。
喜びもほんのひと時だった。
宗一郎とリースの連携によって倒された幼獣の姿を見るや否や、戦っていたダンを弾き飛ばし、駆け寄る成獣。
雄叫びをあげる。
二人を睨むその赤い眼には強烈な怒りの炎が灯っていた。
「まずい!二人とも逃げろ!」
ダンが叫んだ頃には遅かった。
宙を舞う宗一郎。強烈な体当たりを受けた。
石柱に背中を強打し、うまく息が出来ない。
リースが次の属性矢の準備をしている。
ダンがこちらへ駆け寄ってくる。
その全ての動きがゆっくりと宗一郎の目に映った。
大きな口を開けて迫り来る牙でさえも。
「(死にたくねえなあ…)」
宗一郎の頭にそうよぎった。
だが仲間の助けも期待できず、自分の身体も動かない。
全てを諦めそうになった
その時、再び感じた。ほとばしる力を。
しかも先ほどは比にならないほど強く。
気づくとレッサーファングの動きが止まっている。
野生の勘が働いたのか、攻めるのをためらった様だった。
宗一郎はその間も激しく力を感じた。その力は背後から流れていた。
石柱が光っている。
次第に光が一筋となり、宗一郎の剣に流れ込んだ。
凄まじい力を剣から感じる。そしてなんとか自由が効き始めた身体を無理やり起こし、剣を構える。
そして、宗一郎は全力で睨んだ。
手負いの宗一郎には反撃する力が残っていなかった。
殺気を込めた威嚇をするしかもう手が残っていなかった。
しばし睨み合う両者。
そして…
レッサーファングは唸りを止めた。
森へ去っていこうとする。
どうやら宗一郎に根負けした様だった。
命拾いした宗一郎はその場に崩れる。
安堵したその時、うずくまっていた幼獣が突然立ち上がった。
慌てて宗一郎に駆け寄るダンとリース。
去っていく親と構える人間達を見て、親に付いて森へと消えていった。
全ての決着を見届け、安堵から宗一郎は気を失った。それと同時に剣も輝きを失った。
「リースよ…もしかしてこいつが…」
「ええ。陛下は純粋な魔力の塊だとおっしゃってました。先ほどのほとばしる魔力から見ても間違いないでしょう。あれが起源の四種…」
偶然とはいえ発見した起源の四種に驚きを禁じ得ない二人だった。
ご覧頂きありがとうございます。
かわせみです。
今回でいよいよ起源の四種の一つを手にする事が出来た様な形となりました。
書いてみて思いましたが、戦闘描写は難しい!
今後も戦闘はありますのでもっと精進します…
それでは!