プロローグ
季節は夏。
茹だるような熱帯夜の中、真っ暗な部屋の中、彼らは一本のロウソクを中心に四人、円になって怪談話をしていた。
「そしてその時。車の窓から髪の長い女が、「ぽぽぽ……」ってなあ!!」
突然話の締めで声を荒げ、隣の少女を脅かしたのはこの部屋の主、赤井 宗一郎である。
「ひいいいいっ!」
叫びながら小柄の女の子がベッドに飛び込んで行く。彼女の名は白井 四葉。布団から栗色の瞳に涙を浮かべ、宗一郎を睨む。
「宗…!アンタふざけんじゃないわよ!このチビ!170未満!」
怒鳴られた宗一郎は立ち上がり、反論する。
「待てコラ!身長は関係ねえだろ!それに世の中には魔法の言葉があってだな。「切り上げ」ってんだ。
それによると俺はあら不思議。170cmなんだなぁ。」
「なによそれ!ほとんど詐欺みたいなもんじゃない!だいたいね---」
「はいはいストーップ!雰囲気!雰囲気だいじに!」
そう言って怒りに震え、栗色のショートヘアをプルプル震わせて喚く四葉を制したのは、黒井仁香だった。
「宗一郎君も脅かしすぎ!四葉も四葉!あんたが怪談やろうって言ってみんなで宗一郎君のお家に押しかけたんじゃない。その程度でいちいち怒らない!」
長い黒髪をいじりながら正座する二人へお説教する仁香。
スラリとしたスタイルのためか、見た目以上に背が高く見え、その発言の正論さから、高校生なのだがまるでいたずら小僧を嗜める先生のような風格があった。
「高校2年の夏、17歳の夏って事で色々遊び倒そうって事で集まってんだから痴話喧嘩はあとにしなさい!」
「いや、俺らはそんなんじゃ…」
「いや、私らはそんなんじゃ…」
揃う抗議の声を無視してもう一人の男が割って呟いた。
「次、俺の番だよな?話すぞ。」
眼鏡の奥に鋭い眼光を放ち語り出したのは、青山 泰三。勉強もできて背が高く、おまけにスポーツもソツなくこなすというザ・優等生である。
泰三と仁香に制され、仕方なくおし黙る二人。
「これは怪談とは少し趣きが異なるかもしれん。だが、実に奇妙な話はである事は確かだ。奇妙さという点では怪談とも共通する部分もあるだろう。」
暗闇の中ロウソクに照らされる泰三。
その顔を見て再び怯え始める四葉。
「まず…これは日本問わず海外でもよくある話だとは思うが、突然人や物、動物などが消えて無くなる。なんて話は聞いたことあるか?」
問いかけに対して頷く3人。
「うむ。では消えたモノは何処へ行くのか。そこに関しても永遠の謎とも言える。だが、俺はある仮説を立ててみた。もし、もしもだ。これが偶然や作り話ではなくなんらかの条件の元、起こせる事象だとしたら?」
時が止まる3人。
そして宗一郎が切り出す。
「なるほどな。仮説のあたりからなんとなく思ったけどお前…」
泰三は文武両道の上、容姿も端麗である。だが異性との浮ついた話を一切聞いたことがなかった。
小学生の頃から近所で暮らし、一緒に遊び、育ってきたこの3人ですら聞いた事がない。
その理由はここにあった。
「泰三くんまたそういう系?」
苦笑いで頭をかく仁香。
「泰三もそういう暴走(?)的なの無ければモテモテなんだろうけどねえ…」
続く四葉。
「ええいうるさい!今はそんな事はどうでもいい!
話を続けるぞ!今回はお前らも納得するはずだ!」
「まあまあ。泰三、こんなんだけど話としては俺は面白いと思うぞ。四葉も仁香も、とりあえず最後まで聞いてみようぜ。なにやらお楽しみもあるみたいだし。」
「フン。とりあえず宗一郎の言うように最後まで聞け。文句はそのあと言うがいい。聞くかどうかは知らんがな。」
そう言って泰三は一息つき、再び語り出した。
「では、続きだ。偶然ではなかったとしたら、だな。
古来より世界中には空想の産物とも言われている神話上の動物などがいる。日本で言うなら妖怪みたいなものだな。もし、こいつらが映画や漫画の様に別世界からやってきたものだとしたらどうか。」
「ほう。」
「俺は前々から疑問だった。龍やら天馬やら、何故存在し得ない動物をあそこまで描写細かく絵に残せたのか。実在したのではないか。そう考えてならなかった。もちろん、絶滅動物の生き残りなんかをスケッチした可能性も捨てきれない。だがそれにしてはあまりに化石などの復元図からかけ離れすぎている」
ヒートアップしていく泰三。
「そこでもし仮に別次元への穴がなんらかの条件の下、開いたとしたら、空想の産物と思えた生き物たちに出会えるということになる。そこで家の蔵を漁ってみた。そしてこれを見つけた」
部屋の温度を上げる勢で熱弁した泰三が取り出したそれは古ぼけた革表紙の手帳だった。
「なんだ?手帳?か?」
「そうだ。どうやら日記のような物らしいが、中の文字が全く読めない。恐らく現存しない文字だろう。」
そう言いながら手帳をめくる泰三。そして手帳の中程で手を止め、3人に開いてみせる。
「これを見てくれ。文字は読めないが挿絵が入っている。これをどう思う?」
その絵を見た途端、3人の顔色が変わった。
ほとんど寝かけてた四葉が完全覚醒するほどだった。
「この絵に描かれてる場所…もしかして俺らの町か?」
「うん…かなり古いけどこの丘と山…確かに私たちの街だよ…前に学校で見たことがある。学校が建つ前の街の景色を模写した絵があった。でも宗一郎くん…これって…」
「ああ…」
二人とは対照的に言葉を失って唖然としている四葉。
そして自慢気に笑みを浮かべる泰三。
その絵には確かに過去の宗一郎達が暮らしていた街が描かれていた。時代にして恐らく数十年前か。
だが、そこに描かれていたのは街だけではなかった。
鮮やかな緑色の鱗に包まれた全身に頭部には二本の大きな角。
背中には一対の巨大な翼を備え手足には鋭い爪を生やし、長い尾を携え、口から火炎を吐くそのファンタジー要素たっぷりな爬虫類的生き物の絵を見て宗一郎が呟いた。
「おい泰三…こいつは…ドラゴン…か?」
ご覧いただき、ありがとうございます!
かわせみと申します。
今回が初執筆となりデビュー作?となります!
一応色々と設定なんかも考えつつ進めておりますがいかんせん初めてなもので手探り状態にあり、読み苦しい点なんかもあるかと思いますが、暖かく見守りいただけますと幸いです。また、アドバイスなんかもいただけましたら今後の糧とさせていただきたいと思っております!
できる限り更新スパンを早めたいと思っております。今後ともご愛読お願い致します!