1ー5
既に夜が明け街には活気がこもっていた。
僕は定番となりつつある黒パンを齧りスープを飲んでお腹を満たしていた。
スープは美味しいし黒パンも固いが美味しいのだがやはり飽きてきた。
もう少しお金があれば別メニューを頼めたのだがまだお金がないのだ。
昨日稼いだお金も何もしなければすぐに消えるだろう。
「それで効率的に稼げるのが冒険者ギルドって訳か」
冒険者ギルドは依頼が毎日のように舞い込み依頼が無くなることはない。
それに一番最初のランクの採取系で得られるお金でさえも最低で銀貨二枚だ。
銀貨一枚で一人の成人男性が贅沢をしないで一週間生きてられる程の金額だと言えば分かるだうか。
銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨十枚で金貨一枚となっている。
そのため冒険者は人気の職業ではあるのだがその分危険も多い。
採取系の依頼でさえもモンスターに襲われ喰われる可能性があるからだ。
命を賭けた職業ではあるのだがやはり実入りが良いからか、実力が伴わずすぐに死んで行った奴らも多いそうだ。
それが世の常であるからしょうがないが少し可哀想に思ってしまう。
まぁどう言おうと何も変わらないので言いわしないのだが。
そして僕は一日ぶりに冒険者ギルドに入った。
まだ朝方だから結構な冒険者が居る。
僕は依頼を受けるために並んでいる冒険者の列の一番後ろに並んだ。
「リンさんー、こっちだよー」
すると先程まで冒険者の依頼の対応をしていた受付嬢さんが呼んでいた。
僕は他の冒険者が驚いて居ることに気付かずに一昨日お世話になった受付嬢さんの元に向かう。
行列をなしている隣の専属受付嬢専用のカウンターに行くと受付嬢さんが営業スマイルをみせていた。
そして僕はステータス等が書かれた紙を受付嬢さんに渡し、代わりにギルドカードを貰った。
褐色で艶は無く見ただけで安物だと分かる品だ。
「そのカードはランクが上がれば色も変わります」
との事だそうだ。
ランクはG、F、E、D、C、B、A、Sがあり、最下位がG、最上位がSらしくSランクの人は世界でも二人しか居ないらしい。
目指す気は無いのでそこまで興味は無いのだが。
「それと私はこれから貴方の専属受付嬢となりました、シェーラと言います。本来ならばBランク以上の冒険者限定なのですが様々な理由を加味してこのような事になりました」
「…一応聞くけどいいことなんだよね?」
「はい、デメリットはありません。メリットととして依頼が優先的に確保出来たり買取や依頼を達成した後の並ぶ時間を無くすことが出来ます」
「まぁならいいのか、な?」
「そこには私も疑問符がつきますが、まぁいいのでしょう」
それと軽く冒険者ギルドの使用の仕方を聞いた。
この中では争いや賭け事は禁止で、発見した場合は冒険者カードの没収、ランクの取り消しがあるそうだ。
何故そこまでするのかは良く知らないが昔どっかのギルドでそれが絡んだ大事件があったらしく、それから禁止されているのだとか。
するとシェーラさんから二つの紙が差し出された。
「こちらの片方はオススメの依頼でリンさんなら簡単に出来るものです。もう片方はギルド長からの手紙ですのでしっかりと読んで下さい」
僕はミカさんはまさに僕の望んでいた依頼を提示してきた。
薬草の採集、一つごとに銅貨を十枚という妥当な依頼だ。
僕はそれに簡単に目を通しもう一つのギルド長からの手紙を読んだ。
『突然専属受付嬢を付けた事になって済まない。本来ならば私が直接伝えた方がいいのだが、しばらく他のギルドに行く為この手紙を書かせてもらった。理由は今説明出来ないがシェーラは大きな助けとなってくれるだろう。ついでに嫁に貰ってくれると嬉しいのだが……中々の優良物件だからな、どうかね?まぁただの親心だ、君なら見なくても安心して娘を預けられる。まぁすぐには決めなくてもいいぞ、もし付き合っている人がいるなら妾でもいいからな。
冒険者ギルド本部ギルド長 ヒューレン=サイル』
「……なんだこれ?」
見れば見る程に謎が深まる手紙であった。
半分程が自分の娘と結婚してくれという謎の手紙。
僕がシェーラさんと結婚?
こんなに綺麗な人と?
ダイナマイトボディを持ち、なおかつ金髪ロング、碧眼と尖った耳が見るからにエルフということを教えていた。
僕がじっと耳を見つめているとシェーラさんが少し耳を赤くした。
「…流石に見すぎです」
「あ!すみません!」
「いえ、今度から気おつけてくれればいいんですよ。それで依頼はそれでいいですか?」
「は、はい、それでお願いします」
「分かりました、それでは気をつけて下さいね」
そして僕は奇異の視線が向けられている事に気付きながらも対応するのが面倒臭いので知らない振りをして冒険者ギルドを出た。
そしてそのまま街を出て近場の森の中に入って行った。
森は人がある程度行き来しているからか、地面が踏み固められていて案外歩きやすかった。
そしてその道を少し外れて歩くと獣道とも言えない人が歩くような道では無いところを歩いた。
僕はスキルで薬草を探しながら歩き既に三個程手に入れていた。
意外とそこら辺に生えておりそこまで苦労はせずに取れそうだ。
「お、ここめっちゃ生えてるじゃん」
途中で運良く開けた所に行けることが出来、そしてそこには薬草がたくさん生えていた。
見えるだけで百個はくだらない程の量だ。
持っている袋に入るか分からない程の量だが持ってけるだけ持って帰るとしよう。
採集している途中で昼休みを挟んだりしたが結局何が起こるわけでも無く無事に採集し終わった。
「よーし、じゃあ帰るか」
まだ日は高いがこの位に帰らないとかなり遅くになってしまう。
僕は袋を背負い帰ろうとした。
しかし後ろに異様な雰囲気を感じ取り横に飛んだ。
すると先程まで僕がいた所が大きく抉れていた。
後ろを見るとこの森で一番凶暴だと言われている『ヴィザーズウルフ』が灰色の毛を逆立てていた。
「………おいおい、最後にこれはないでしょ」
見るからに完全にこちらを敵視している。
(今は剥ぎ取り用のナイフ位しか無いな…戦闘用じゃ無いからサブウェポンとして、やっぱり魔法中心の戦いになるか)
今手持ちのもので何とかしようと考えるがろくなものが思いつかない。
ヴィザーズウルフは中級の冒険者がソロでギリギリ倒せる位の魔物だ。
間違っても初心者が狩れる様な魔物ではない。
そして、魔物にしては珍しく魔法を使える魔物でもある。
僕は戦闘になるのは確定で、どれだけ時間を稼いで街に近づけるか作戦を一瞬で立てる。
そして、まるで見計らったかのように襲ってきた。
「こん──にゃろ!」
ヴィザーズウルフが飛び掛って来たので僕は『火矢』を一発だけ放ち真横に避けた。
そして全力で来た道を走った。
後ろを見ると魔法で防がれたようでダメージを負っておらず余計に挑発しただけのようだ。
「グァァァァァァァーーーー!」
大きな遠吠えをしたかと思うと何かが肩を貫通して行った。
「チッ、『風矢』持ちかよ」
初級魔法に分類されているが魔物の能力と合わさって中級レベルにまで達している。
血の流れる肩を押さえながら何とか走る。
時々『土壁』等で足止めをしているが最初に作った貯金がほぼない状況だ。
少しでも魔法を撃つタイミングを間違えれば運の悪かった一介の冒険者として死ぬだろう。
「………………ッ!?」
突然目眩が起き平衡感覚を失い転んだ。
十中八九肩から流れる血が原因だろう。
先程からずっと血が流れており止まる気配を見せない。
応急処置でもすれば多少は違うのだろうが残念がら魔物がそんな時間を作って貰うことなんて出来る筈も無く、貧血が起こったようだ。
(あぁ…こりゃあ終わったかな)
諦観の感情しか湧かずに完全に死を覚悟した。
後ろを見ると距離が10m程しか離れていない木の影からヌッと姿を表す。
そして僕を見て嬉しそうに吠えた。
ようやく獲物を喰らえる事に喜んでいるのだろうか。
そしてヴィザーズウルフは僕に飛びかかった。
その瞬間、周りの世界が灰色に見え時間の経過がゆっくりになった。
そして今まで自分の身に起きた記憶が甦ってきた。
その一つ一つの記憶に懐かしいという感情がフツフツと湧いてくる。
そして最後に僕に冒険者のイロハを教えてくれた冒険者が記憶に出てきた。
『いいか、今はまだ出来ないと思うが魔力を武器に纏わすと切れ味と武器の耐久力があがるんだ。言っちゃえば制限時間付きのメッキだな。その魔力をほかの属性に変換させると───ほら、その属性の特色が表面に浮き出てくるんだよ。ほら、今だよ』
俺のその言葉に導かれるようにナイフを未だに使える腕に持ち、そして火の属性魔力を纏わせた。
「グァァァァァー!!」
「─────────ッ!」
そして飛び掛って僕に当たる直前にそのナイフで首を狙った。
その刃が少し食い込み腕が異音を鳴らした。
しかしヴィザーズウルフは獣の本能なのか、火を怖がるようにして逃げていった。
「……助かった、のか」
静寂を取り戻した森の中に声が溶けるように消えた。