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「さて、これで何を作ろうか」
目の前の机の上には10キロの鉄の塊が鎮座しており存在感が半端ない。
受付嬢さんが言うにはアクセサリー、ピアスやネックレスを作り資金を調達してから回復薬を作ることにした方がいいらしい。
材料にしても依頼の内容によっては全て実費らしいのだ。
まぁあと10泊したら消える程の金だからしょうがないので資金集めから始めることにした。
まずは適当に鉄を少し取ろうとしたのだが…取れない。
(…詰んだ気がする)
魔法に頼ろうにも火だと危険極まりないし、他の魔法でどうにかしようにもどうにも出来ないものばっかりだ。
(あれ?でもこれだったらいけ…る?)
魔法にはその属性にあった物から物質を生成して攻撃に使用する事が多いのだが、自然のもの、つまり土魔法であれば地面の土を利用して魔法を使うことができる。
そうすると利用する魔力量が減少し効率もアップするし、何より鉱物や土、石の形を変えることが出来るのだ。
試しに『石礫』と言うと鉄が十cm程の大きさの塊に分かれた。
魔法の運用方法としては間違っている気がするが気にしない方向で行こう。
(…待てよ、そしたら手に形を変えるための魔力を纏わらせれば簡単に形を変えられんじゃないか)
そんな仮説が思い浮かび試すことにした。
土の魔力を使い、それをそのまま発動させるのでは無く手に纏わりつけさせた。
数秒経つ事に魔力が持って行かれるがそこまでの量では無い。
これならしばらくは持ちそうだ。
そして鉄の塊を手に持ち、そして軽く押してみた。
すると軽く押しただけで凹んだ。
(…本当に成功するとは思って無かったよ)
出来たらいいか、という軽い気持ちでやってみたのだが何故か出来てしまったようだ。
だがそれが分かれば遠慮することなんてひとつもない。
魔力の尽きるギリギリまで作り続けようじゃないか。
作業を続けて約三時間ぐらい経ち、外を見れば既に日が傾いている。
そして目の前にはピアスのセットが約三つ、指輪が五つ、ネックレスが九つ出来た。
だが魔力の使いすぎの反動なのか、それとも動いてなかったから筋肉が固くなってるだけなのか分からないが体が痛い。
(もう、動ける気がせん…)
ずっと座っている影響で尻が痛くなっているのだが、如何せん魔力が底をついたことで脱力感が半端ではなく立つことがままならない。
しょうがないので机の上に置いてあったベルを鳴らした。
すると先程案内してくれた受付嬢さんが入って来た。
「はいはーい、何か御用で…って、大丈夫ですか?」
「…大丈夫じゃないです」
机に頭を乗っけたまま答えた。
受付嬢さんは何か考えるような仕草をすると僕の横に来て僕を地面に置いたと思うと頭の後ろに柔らかく暖かい感覚が襲ってきた。
何が起きた!と思って目を開けると受付嬢さんが膝枕をしていた。
双丘の圧迫感が凄いがそれ以上に柔らかさが半端ない。
「あ、あの動かないで下さいね」
声からも羞恥心という物を感じる事が出来るし顔を見れば顔が赤く染まっている。
見るからに男慣れしてない初心な女の子だ。
そんな雰囲気に僕は惹かれそうになったがフィーがいるんだ!と思い直し煩悩を消し去った。
「あのー、無理してしなくてもいいですよ?」
僕は受付嬢さんの事を想いそう言っが受付嬢さんは首を横に振った。
「一度した事は投げ出しません。しっかりと付き合って貰いますよ?」
そう言って起こそうとしていた僕の体を押さえた。
(…まぁいいか)
これがバレたらフィーになんて言われるんだろうと思いながら受付嬢さんに身を預けた。
しばらくして体の調子が戻って来て体を起こすと受付嬢さんはうたた寝をしていた。
僕は少し申し訳無く思いながら起こした。
「…ふぇ?なんですか?」
心が撃ち抜かれるかと思った。
フィーという心に決めた人が居るにも関わらずこれほどに人を引き付けてやまない容姿に性格。
(まるで聖女様だな)
そう思ってしまった。
僕は受付嬢さんを持ち上げて立たせた。
「受付嬢さん、今日はありがとうございました」
「いえいえ、大丈夫ですよ。きちんと世話をするのが受付嬢としての役割ですから」
ニッコリと微笑む受付嬢さん。
後ろに純白の翼が生えている錯覚を見てしまった。
僕は内心ドキドキしながらも平静を装い続けた。
「それで、何かお礼にこのアクセサリーから一つ上げます」
「え?!本当ですか?」
「はい、本当ですよ」
受付嬢さんは今まで一番食らいつき僕の作ったアクセサリーを選び始めた。
そしてしばらくして受付嬢さんは指輪を選び持ってきた。
「あの、本当に貰っていいのでしょうか」
「はい、大丈夫ですよ。これからもお願いする分と今日の分です」
「本当にありがとうございます!」
受付嬢さんは腰を90度以上曲げて頭を下げた。
僕は苦笑するしか無かった。
そして元の受付嬢さんに戻りアクセサリーを真面目に査定し始めた。
十分位査定してようやく終わったようだ。
「うん、全部良品ですね。というか素人が作った様に見えないんですよね」
「そ、そんなにですか」
「はい、鉄に殆ど不純物が混じってないですし装飾が細かいですね。その点でかなりの高価格で買取させて頂けます。まぁ───金貨五枚くらいですかね」
僕は言葉を失った。
ただ鉄を塊から均等に分けて手で捏ねて作っただけの物がこれ程の金額になるとは思わなかったのだ。
僕はもちろんそれで買い取って貰った。
そして僕がギルドから出ていく時に受付嬢さんが声をかけてきた。
「あ、あの、リンさん」
「はい、なんですか?」
「私の事はレフィーエって呼んでください」
少し受付嬢さん───レフィーエは緊張した面持ちで僕にそう言った。
「分かりました。これから宜しくお願いするよ、レフィーエ」
「───はい!」
レフィーエはまるで向日葵が咲くかのような笑を浮かべた。
(まぁ、明日は冒険者ギルドに行くか。薬草取りに行きたいし)
明日の予定を建てながら帰路に着いた。
そしてレフィーエは僕が見えなくなるまで手を振っていた。