1ー3
注)第一章は主に設定関係を出していきます。
話が動き始めるのは二章からとなっております。
窓から射し込む太陽の光が私の柔らかく目を刺激する。
目を覚ませば僕の腕の中でフィーが警戒心も無く寝ていた。
(少しは警戒心持っといた方がいいんだけどな)
フィーの頭を撫でながらそう考える。
勇者とはいえ一人の女の子だ。
そんな子が無警戒で野宿をしていればどうなるかは分かる筈なのだが…
そうやってフィーの身を案じているとフィーが少し身じろぎして目を開けた。
そして目を擦る。
「リンかー、おはよう」
「うん、おはよう」
そうやって朝の挨拶を交わして流れる様に唇にキスを落とす。
ほんの一瞬程度だがフィーは耳を赤く染めながらも仕返してくれた。
昨日は別に何も無かったのだが、何故か積極的になっている自分がここに居た。
ただデートをして宿に戻り一緒に寝ただけだ。
いやらしい事は一切していない。
ただ、精神力を鍛える訓練にはなったのだが。
「…ねぇ、いつまで撫でてるの?」
「あ、ごめんごめん」
僕は惜しみながらもフィーを腕の中から解放した。
少しジト目気味になっているが顔のせいで怖いと思うことはない。
逆に少し可愛いさを増させている。
そして僕はすぐにフィーに背を向ける。
さっさと着替えて朝ごはんを食べに行くためだ。
そして僕が着替えている間には後ろから衣擦れの音が聞こえさらに妄想を加速させ息子を反応させる。
それでも鋼鉄の精神力で無理やり抑え込む。
「それじゃあ行こうか」
「うんっ」
フィーも着替え終わったようで衣擦れの音が聞こえなくなり、一緒に下に降りて軽く朝食を摘んだ。
そうして丁度朝食を食べ終わった頃になり宿の表がうるさくなってきた。
ご飯も食べ終わったので表に出てみると豪華な馬車に兵士が四人ほど着いていた。
これで大体察した。
これはフィーのお迎えだと。
「勇者様、お初お目に掛かりますナイスト王国騎士団長フェルト=デイ=アーストと申します。この度は貴方様を王城にお連れする為に参りました」
そう言って頭を下げた。
貴賓のある佇まいに強者を連想させるような足使い、日常生活の一コマを切り抜いたとしても強さを分からせる様な威圧感。
これが王国最強と言われる騎士団長の強さだとハッキリ分かった。
威圧により体が動かないでいると後ろにいるフィーに正面から抱きつかれ口を塞がれた。
その時に軽く周りがザワつく様な雰囲気を感じたがそこまで頭が回らなかった。
先程までの軽いようなキスでは無く、大人の濃いキスだった。
舌が口の中に入ってきて口内を蹂躙する。
そしてフィーの匂いが鼻腔を刺激する。
甘さが口の中に広がり永遠に離したくないとすら思える時間だった。
その時間もすぐに終わりを迎えた。
そしてフィーが僕の目を見つめた。
「じゃあまた今度ね」
「うん、またね」
フィーはそう言い残すと馬車に乗り込み、そして去っていった。
僕はフィーがいなくなった事を悲しく思いながらも宿に居ることも無いので用事をこなそうと歩こうとしたのだが、周りに居た野次馬的な人達に捕まり小一時間程話を吐かされた。
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「つ、疲れた〜」
道の端を歩きながら大きな溜息をついた。
精神的にも肉体的にも疲れ、今日はもう休みたいのだがやらなければいけないことがあるのだ。
(練成術師ギルドの入るための試験ってなんだろう)
生産系の職業でなおかつ、練成術が出来るもの以外は門前払いの珍しい感じのギルドだ。
まぁ練成術以外が使える人を雇っても意味がない。
あるのは受付嬢ぐらいだろうか。
(まぁ、そこら辺は程々に期待と言う感じで…ってここか)
しばらく歩いているとT字型に道が分かれ、右に曲がりその突き当りに練成術師ギルドがあった。
見た目は冒険者ギルドとさほど変わらず木製の居酒屋を大きくした様な建物だ。
中に入ってみると受付嬢が二人おり静寂な雰囲気が漂っている。
僕は二人のうち左側の受付嬢の前に行き話し掛けた。
「あの〜、すみません。ここで試験受けたいんですけど」
「は、はい!どうぞこちらへ!」
入って間もないのか、かなりたどたどしい。
(それにしても、なんでこんなに綺麗な人がここにいるんだ?)
彼女を見て最初に思ったことだ。
受付嬢は基本的に綺麗どころで揃えられている。
だがその中でも群を抜いて綺麗と言える程だ。
銀髪ロングの碧眼で胸も物凄く大きい。
何処かの令嬢と言った方が分かる漂う雰囲気。
まぁそれでもいいか、と思考を放棄した。
この受付嬢が令嬢であろうとなかろうと僕には関係ないからだ。
それよりも先にこの試験をクリアすることがで出来るかだが…
「それではこちらにお立ちください。これから私が貴方の技量を見させて貰います。作るのは回復薬、効力は劣以上、制限時間は二十分とさせて頂いてます。まぁ、私は新人ですがとある魔道具があるり、公平なジャッジが出来ますのでクレームは受け付けません」
僕は案内されるがままについて行き最終的に真ん中に机と薬品を作るための物が置いてある部屋に連れられてきた。
そして受付嬢の話しを聞いて成程と思った。
新人がどうやって試験を見ているのか、それは受付嬢が手に持っている小さな結晶の様なものだ。
あれは特別にチューニングされた物で他人の動き等を観察し、そして採点するという特殊な結晶だ。
「それでは、始め!」
その声と同時にもう腕を動かし始めた。
いや、腕が動き始めたと表現した方がいいのかもしれない。
自分は意識してなくとも何故か体が勝手に動いて回復薬を作っているのだ。
そうこうしている内に既に回復薬を作り終えていた。
そして品質を見る。
《回復薬(中)》
(うん、これなら合格だろう)
自分の結果に満足した。
多少の違和感はあれど短時間で回復薬を作れたのだから。
多分大丈夫だろうと思って受付嬢の方を見れば何故か腕が震えていた。
「あ、あのー。大丈夫ですか?」
「あ、は、はい!大丈夫です!」
言葉をかけると先程の状態から復帰したようだ。
「それにしても凄いですね、一発合格なのは見て明らかですし最初から《回復薬(中)》を作るなんて聞いた事がありません。最初は精々(小)が作れる位ですから」
「そうなんですね」
「だからもっと誇ってもいいんですよ?」
そうは言われても誇っても意味無いからな、と思いながら受付嬢さんは一度カウンターの方へ戻り二分後に戻って来た。
その手には先程までは無かっ銀色のカードがあった。
「これで貴方は練成術師ギルドの一員です。これは中級のギルドカードなので一部の税金が免除されます。説明が欲しいならしますが…どうしますか?」
「お願いします」
はい、と一言だけ言って受付嬢さんは説明を始めた。
「練成術で作ったものは劣、小、中、上、特上という品質に別れています。劣から小を作れるのが下級ランクの練成師、上までを作れるのが中級、特上まで作れるのが上級ランクの練成師となっています。そして中級ランクから特典がありまして、中級は練成術師ギルドの年会費無料、そして国に納める税金の一部の免除、上級は国の税金の免除、年会費無料に加えて珍しい材料などを入手する時の優先権があります。
そして年に一度ほどランクアップ試験があります、その時か有事の時に活躍した人以外ランクが上がることはありません」
「成程、それと別に聞きたいんですけど何故ギルドの中に人がいないんですか?」
「あー、全員自分の家に引きこもって作ってますからね。依頼もこちらから頼みに行って品物も全部こっちが回収してるんです」
「それって結構大変なんじゃ…」
「いや、そうでもないですよ。練成術師は生産職の中でも人が少ないですので構成員は約三十人程、私たちは受付嬢なので分からないですが回収するにしても練成術師は殆ど人に興味が無いそうで人付き合いが悪いかと言えばそうでも無いしいいかと言われればそうとも言えない、言えば中間職の様な人が集まってますので」
「そうなんですね、ありがとうございます」
俺はそう言って頭を下げた。
そうして帰ろうとした所に受付嬢さんの一言が耳に入った。
「そう言えば入って初日だけこの部屋の貸出と鉄を10キロまで提供出来るんですが…どうします?」
「もちろん貰います」
即答だった。
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馬車に揺られながら手の中にある一つのピアスを見つめる。
これは先程別れたリンがくれたものだ。
(それにしても、こんな高いもの貰っても良かったのかな?)
このピアスは婚約者が付けるためのピアスであり、状態以上耐性(小)のついた高級品だ。
一つ金貨四枚、三人家族が四ヶ月は暮らせる位の高価なもの。
昨日のデートの時に買ってもらったものだ。
装飾は小さめなサファイアが少しあしらわれている位ではあるが上品さを強調するような品だ。
(リンの作る指輪が出来るまでの埋め合わせって言っても…これでいいんだけどな)
リンが指輪を作ってくれるならそっちの方が嬉しいが、大切にされているという気持ちだけで嬉しい。
本当ならこれも断るつもりだったのだが押し切られてしまったものはしょうがない。
(まぁ、しばらく会えないからそう考えればいいか)
そう思いながら彼女はピアスを手で優しく握り胸の前まで持っていった。
ただそれだけの行為で胸がときめき、リンの姿が見えるような気がした。
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