1ー2
注)ここから数話説明文的な文章が多くなります
馬車に揺られ木一本すら見えない草原に出来た街道を通っている。
今はあの夜から一晩経ち王都へ移動中だ。
フィーとは目が合う度にあの時の事を思い出し顔が赤くなる。
それはフィーも同様であからさまにではないが微妙に耳が赤くなっている。
別にキス以上の事をしている訳では無いのだが、どうも恥ずかしい。
そして他の奴らはその様子を不審に思いながらも各々話に花を咲かしていた。
そして微妙な空気の中、馬車はガタゴトと音を鳴らしながら確実に王都へ近づいていった。
▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀
「やっとついた〜」
流石に座りっぱなしでお尻が痛くなり、少し身体を動かすだけで音がなる。
それは皆同じようでわざと音を鳴らしている奴もいた。
「それじゃあこれからはお前達に任せる。最初の資金として金貨五枚渡しておくから無くすなよ」
御者はそう言って俺たちの傍を離れた。
街に着けばあとは自由。
冒険者になろうが鍛冶師になろうがなんだっていいのだ。
もちろん、『勇者』や『賢者』は元々職業が決まっているのでダメなのだが。
そんな訳で俺たち五人は近場の宿に泊まることにした。
当然ながら一番安い部屋に泊まるのだ。
それでも一人一部屋なのだから他人の目を気にしなくて済むはずだ。
「それじゃあこれからは自由行動ね」
フィーがリーダーぽくそう言った。
俺はそう言われすぐに自分の部屋に入ってベットに突っ伏した。
部屋は机と小さな椅子とベットぐらいしかないが不自由と言うことは無いはずだ。
そしてそのまま夢の世界へと旅たった。
「リン、起きてるー?」
「……ん?開いてるから入って来ていいよ」
何故かここ数年ずっとフィーに起こされてる気がするでもないが、まぁいいや。
ドアが開いてることを言うとドアを開けてフィーが入ってきた。
手にはこの宿で出される夕食が二人分あった。
多分フィーと僕の分だろう。
しかしフィーの顔には不満がアリアリと浮かんでいた。
何故不機嫌なのか良く分からず聞こうとしたが地雷を踏み抜きそうなのでやめておいた。
その原因を考えているとフィーがこの部屋に唯一ある机に二人分の夕食が乗っているお盆を置く。
そして唯一ある椅子に腰掛けこっちを見つめる。
「ねぇ、なんで寝ちゃったの」
「いや疲れてさ…って、今日一緒に回れなかったから機嫌悪くなってるの?」
「別にー」
そう言って顔を横に向ける。
あからさまにそうですよという態度を取るフィーが面白くてつい小さく笑ってしまった。
「…なんでそうやって笑うの?」
「いや、そうやって拗ねてるのが可愛くて」
「なっ……!?」
僕がそう言っただけで顔を赤らめた。
やっぱり普通に見ても可愛い。
「ふふ、じゃあフィーが持ってきてくれたご飯でも食べよう」
「……うん」
そしてこの後は特に何も無く、いや、明日の予定を一緒に立ててデートをする事にかなった。
夜が明け朝日が窓から射し込む。
目を柔らかく刺激して気持ちのいい目覚めへと誘ってくれた。
「うーん、はぁ。もう朝か」
ベッドの上で背を伸ばしながら今日の予定を確認する。
(えーと、そうだ。今日はフィーと一緒に出かけるんだ)
そうなると早く準備をしなければならない。
手早く着替えると階段を降り、宿の裏にある井戸から水を汲んでたらいに入れる。
そしてその水で未だに寝ぼけている顔を洗いついでに寝癖も治した。
宿の一階は食堂となっており一緒にここに止まった三人は既に食べ終わっていたようだ。
目線の先では三人が立ち上がりお盆を返して出入口から出る所だった。
やはりよく分からないがあの三人から疎まれている気がする。
「まぁいいか」
特に気にしても害は無いのでスルーする方向で行こう。
そうして黒パン、野菜のスープ、チーズをひと欠片乗せたお盆をもちカウンター席に座る。
そうやって一人で食べていると隣に誰かが座った。
見ればフィーだった。
服はフィーが持ってきた服の中で最も派手で実用性のある服だ。
とはいえそこまで目を引くような物ではなく、私服であったら多少浮くだろう位のものだ。
人によっては綺麗さが際立つがフィーがそれを表している。
そしていつもとは違う雰囲気で楽しそうだった。
「フィーいつもより機嫌いいね」
「うん、だってリンと一緒に出かけるんだよ。嬉しいに決まってるじゃん」
「ありがとう」
よくこんなに恥ずかしい事を言えるなーと思いながらも彼女からの好意だと言うことだから素直にお礼を言った。
別にこういう事を言われたくない訳では無く、大勢の人のいる前で言って欲しくないだけなのだ。
既にこの話を聞いていた複数の独り身の男性がこっちを睨み殺すかのような目線を送っていた。
フィーがこの国でもずば抜けて可愛いということもあるのだろう。
「フィー、早く食べ終わってね」
「あ、うん」
流石にその目線に耐えられる訳ではなく、居心地が悪くなったのでフィーに朝食を食べるのを催促して一緒に出かける。
既に行く場所は決めており、最初は僕の用事を済ませることから始める。
向かったのは冒険者ギルド。
この国では職業を決められたら必ず、どの職業の人でもここに登録してほかの所にも登録しなければならない。
なぜならここ以外で自らのステータス、スキルを見ることが出来ないからだ。
僕は意を決して足を踏み入れた。
中は思ったよりも清潔で冒険者がいなかった。
何人かは僕達を値踏みする様な目で見ていたがすぐに目を逸らした。
ここでは小説のように絡まれたりはしないようだ。
「ようこそ冒険者ギルドへ、今日はどのような御用ですか?」
「登録をお願いしたくて」
「はい、登録ですね。登録自体は無料ですのでここに名前と職業、それに血判をお願いします」
かなり綺麗な受付嬢さんの所へ行くと毎年の事だからなのか、流れる様に物事が進んだ。
やはり慣れはすごいものだ。
「それではこちらへ。連れのお方もどうぞ」
名前と職業を書き込み渡すと少し顔を驚き染め、すぐに素の顔へへと戻した。
そして僕達は二階へと連れていかれた。
そこには先程とは違う、高価な真っ白な紙が机の上に置いてあった。
大抵は茶色に染まった紙を使っているのでここまで綺麗な紙は見なことがない。
「この紙は一つの神具です。と言ってもそれを劣化させた魔法具なんですけどね。さぁ、ここに血を一滴垂らしてください」
まるで自分の心の中が見透かされているように感じるが多分大体の人が聞くことなのだろう。
余計な口は挟まずに紙の横に置かれていた小さな針で親指を刺した。
そこから血が一滴だけ垂れ大きな光を放ち始めた。
目を腕で隠してないといけない程だ。
しばらくすると光は弱まり紙の上に何かが書かれていた。
「その紙に書かれているのが自らのステータスとスキルです」
あくまで業務用の顔でそう告げる受付嬢。
その言葉通り自分のステータスが書いてあった。
____________________
名前:リン 職業:錬金術師 Lv.3
攻撃:10
俊敏:9
防御:5
魔力:19
魔耐:21
スキル
『錬金術』
・識別
・略式
・合成
・錬成
・ストック
《》
《》
《》
《火魔法》
・火生成
・火玉
・火矢
『土魔法』
・土生成
・石礫
・土壁
『水魔法』
・水生成
・水球
・水毒
『風魔法』
・風生成
・突風
・風矢
________________________
「おぉー、生産職なのに初級とは言えこんなに魔法が…」
「それは生産職が運が良ければ手に入るものです。魔法は絶対に必要と言うわけでは有りませんが物を作る時にかなり楽が出来ます。人によっては自ら素材を取りに行く強者もいますしね」
「な、なるほど」
「自分のスキルの内容をより知りたいのであればこの紙に魔力を流してみて下さい」
「は、はい、ありがとうございます」
「それでは私はこの辺りで、何か不明な点があればお聞きください。夕方までは暇ですから」
そう言って軽く笑みを浮かべ頭を下げた。
そしてそのまま受付嬢さんは一階へ降りていった。
そんな様子の受付嬢をポケーとして見ていると脇腹をフィーに抓られた。
「痛っ、ちょっと何すんだよ」
「…別に、てゆうか早く見ないの」
「わ、分かったよ」
口には出さないけど多分妬いてるんだろうな。
別に受付嬢さんが綺麗だから見てるって訳じゃあ無いんだ。
違うって言ったら違うからね!
イカン、ツンデレぽくなってしまった。
俺はフィーの何処か非難する様な目で睨まれながら(可愛い)に急かされる様に紙に魔力を流した。
すると紙の下あたり、余白の部分にスキルの説明文が出てきた。
_________________________
攻撃:自身の攻撃力を数値として表示している。表示出来るのは最大999まで。
俊敏:自身の素早さを数値として表示している。表示出来るのは最大999まで。
防御:自身の防御力を数値として表示している。表示出来るのは最大999まで。
魔力:自身の魔力を数値として表示している。表示出来るのは最大999まで。
魔耐:自身に対して使用された魔法や魔道具の耐性を数値として表示している。表示出来るのは最大999迄であり、『改心魔法』を完全に防御するには560程必要である。
錬金術:錬成術と錬金術の技能が入手できる。錬成や錬金する時に成功率や良品が出来やすい。
識別:生産職であれば誰でも持っている。自身よりレベルの低い生物は識別出来るが自身以上のレベルを持っている生物の場合は名前や種族名、レベルを表示するに留まる。生物以外の物を鑑定するのに『隠蔽』が成されていなければなんでも鑑定できる。隠蔽も自身のレベルがある程度高くなれば見切ることが出来る。
略式:錬成術士、錬金術師の持つスキル。物を作る際に使った魔法を詠唱無しで使用出来、一度作った物を劣化版ならば材料があれば一瞬で製造出来る。今のところ同時に五つまで製造可能である。
錬成:錬成術士、錬金術師の持つスキル。錬成するのが上手くなる。レベルが上がればこのスキルの効果も大きくなる。
合成:錬金術師のみが持つスキル。視認して合計30秒たったもの同士を合成させる事が出来る。ものにも相性があり能力が矛盾する様なものどうしは合成出来ない。
ストック:体内にスキルを貯めておく事が出来る。レベルが二上がれば容量が一つ増える。現在貯められるのは三つまで。
火魔法:火魔法を使えるようになるスキル。
火生成:火種を起こせる魔法。最大で大きさは親指の二倍ほど。
使用魔力:1
火玉:攻撃用の魔法。大きさは直径で約三メートルほど。込める魔力の量によって威力は変化する。
使用魔力:2~5
火矢:火で作られた広範囲殲滅用の魔法。 最大で100本程でる。込める魔力の様によって威力は変化する。
使用魔力:一本につき1~3
水魔法:水魔法を使えるようなるスキル。
水生成:水を生成する事が出来る魔法。魔力を止めない限り永遠に流れ出る。
使用魔力:十秒で1
水玉:攻撃用の魔法。大きさは最大で二メートル程。込める魔力の量によって威力は変化する。比較的威力は低い。
使用魔力:1~4
水毒:毒を生成する事の出来る魔法。極めれば何にでも見つからない毒を生成する事が出来る様になる。多少レベル依存ではある。
使用魔力:4
土魔法:土魔法を使えるようになるスキル。
土生成:砂や粘土、石や土、更には砂利などを生成出来る。作る物によって魔力に差がある。
使用魔力:砂系統2~10 土系統1~9 石系統1~40 粘土系統1~15
石礫:石を飛ばす魔法。硬さと量、速さは魔力によって調節出来る。
使用魔力:3~8
石壁:石で作る壁。一回は必ず相手の攻撃を守る。耐久力がなくなると崩壊する。
使用魔力:5~60 耐久力:30~9000
風魔法:風魔法を使えるようになるスキル。
風生成:軽い風を起こす事が出来る。スカートを捲る時によく使われる。精度を上げれば魔法ということに気付かれなくなる。
使用魔力:1~10
突風:かなり強い風を巻き起こす事が出来る。レベルの低い魔物や人であれば簡単に吹き飛ばす事が可能。
使用魔力3~70
風矢:風で作られた広範囲殲滅用の魔法。透明で認識しづらい。最大で100本程出る。込める魔力の量によって威力は変化する。
使用魔力:一本につき2~4
改心魔法:別名洗脳魔法。人族は賢者以外使用が出来ない。相手の心に侵入し操ることが出来る。
隠蔽:『無属性魔法』の一種。この魔法をかけるとその物や人のスキル、ステータスが隠蔽される。
無属性魔法:五つの属性魔法を持っていれば入手出来る。そのため使える人は少ない。
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「結構わかりやすいな。これはかなりいいね」
「リンって結構スキル持ってんじゃん」
いいなーという目で見てきたフィーはそんなにスキルは無いのだろうか。
「フィーはスキル少ないの?」
「いや、まだやってないんだよ。王城でやるとか言ってるけど、それは明日からだし」
「じゃあ一緒にいられるのは今日まで?」
「…うん、一応そうだね。多分ちょくちょく逢いに来るからそんなに心配しないで」
そうか、だから昨日の夜は不機嫌だったのか。
それを知ってたらな…なんて今更知った所でって感じだがそれなら今日は出来るだけフィーを楽しませてあげよう、とそう思った。
「なら、今日は夜まで一緒に居よう。それと、明日までたくさん楽しもう」
「うん!」
純粋で無垢な笑顔を向けられ一瞬頭が可愛さでショートしそうになったが腕に胸を押し付けられる事によりそれに拍車をかけたのだが引っ張られる感覚に正気を取り戻した。
(それにしても、本当に勇者なのかな?)
そう疑問を抱かざるを得ない程に、彼女はただの一人の乙女の顔をしていた。
▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀▶◀
「ギルド長、これはなんですか!」
「おい、シェーラちょっと落ち着け!何の用だ!」
受付嬢のシェーラは焦っていた。
彼、リンと呼ばれていた男の職業を見てだ。
あの時は顔に少し出てしまったが殆どの人に見られてはいない。
これは秘匿しなければならない情報だろう、と思い彼への説明を終えてギルド長の部屋へやってきた。
ギルド長は案の定冒険者の起こした問題やクリア報酬、失敗した依頼の始末書を書いていた。
見ていて何故か悲壮感が漂って来るがこればかりはレベルが違う。
「ギルド長、この部屋は誰にも盗聴されてませんか?」
「ん?ああ、勿論だ。出来るのは国家の暗殺集団位だろ」
ギルド長は元々ランクS冒険者で盗賊という事もあってこういう探索系のは得意なのだ。
そんな人にかかれば人がいるか居ないかぐらい簡単に分かる。
「それで、これを見てください」
「どれどれ………チッ、そういう事か。めんどくせぇ事になったな」
彼の職業名の書かれた紙を手渡すと苦虫を噛み潰したような顔をした。
それもその筈、錬金術師は世界の運命を握る唯一無二の職業なのだから。
下手すれば勇者よりも重要な役割を果たすことになる役職。
こんなのが紛れ込んでいたら驚くしかない。
とは言えこの事実を知っているのは極小数に留まるのだが。
「これは王家にも伝える事は出来ねぇな。多分教会もこれは黙認 してくれる筈だ、あいつらも王家に伝える事は出来ないからな」
「それで、これはどうすれば」
「…そうだな、取り敢えずお前はあいつの専属になれ。本来なら高ランク用の制度だがこれは特例だ」
「はい、勿論給料は…」
「上げるからそうやって言うな。全く、現金な奴だな」
ギルド長は大きく息を吐き先程まで座っていた自らの椅子に座り直した。
「それじゃあよろしく頼むよ」
「はい、任されました」
リン達の知らないところで確実に何かが始まっていた。