月城ミナト
現代、東京 新宿。
2年前から驚異的な発展を見せたこの街に住む
青年。月城ミナト。人並み外れた身体能力を持つ彼から物語が始まる。
〜そして今〜
東京 新宿
「次元科学技術の応用分野でノーベル科学賞の受賞者のアーノルド先生からお話を伺いたいと思います!」
テレビに癖がかった髪を肩まで下ろしたフランス人の男が記者に囲まれて、フラッシュを浴びている。
「この度の受賞を光栄に思います。我がアーノルド研究所の次元科学は、他に類を見ない発展性を秘めております。例えば必要な物を必要な場所にいつでも取り出せる…などね。この先あらゆる科学分野に応用し、人類の更なる進化に貢献して参ります」
アーノルドは流暢な日本語で対応し、記者団を後にした。
青年は持っていたリモコンでテレビを消し、オレンジジュースを一気に飲み干す。
「やべ…授業間に合わな!!」
寝癖のついた黒髪を急いで整えて、リュックを掴んで玄関から飛び出す。
マンションの階段を駆け下りて新宿国際ステーションに走った。
東京は2年前のオリンピックから様変わりしている。都心部は最早移動手段としてモノレールがビルの合間を縫う様に張り巡らされ、新宿駅は新宿国際ステーションとして東京駅を差し置いて新たな東京のターミナル駅として稼働していた。
東京中のモノレールのホームを始発駅として兼ね備えた新宿国際ステーションビルは、東京のシンボルとなり、その様相は要塞都市と比喩する者もいる位だった。
池袋方面の山手線の改札に走っていると
「キャッ!」
遠くから女性の悲鳴が聞こえる。
「500メートルってとこか…」
目で追っていると女性がトートバッグを持った男を追いかけている。
「なるほど…引ったくりね!!」
地面を蹴って3秒後には男の目の前に立ち塞がる。
そのまま膝蹴りを鳩尾に入れた後、怯んだ隙に男の手からトートバッグを取り上げる。
「運がなかったなぁ!」
そのまま掌底を顎に叩き込むと男は仰け反って床を転がっていった。
「はいっ!」
後から追いついた女性にトートバッグを差し出す。男は警備員に取り押さえられていた。
「新宿もまた2年前から治安が悪くなってるから気をつけてね」
女性は驚いた様子でトートバッグを受け取ると
「お、お強いですね…御礼をしたいのですがお名前は…?」
「月城ミナト!…御礼なんだけどオレンジジュース買ってくれません?」
女性か小走りで自販機に向かい、ジュースを買って手渡す。
「ありがとうございます!授業に遅れるんで!また!」
ホームにまた走り出した。
〜池袋 立花大学 キャンパス〜
息を切らして講義室になんとか着席出来たミナトはおもむろにジュースを取り出して飲もうとするとラベルからメモの様な物が落ちてきた。
「ん?」
拾い上げて広げると
今夜3時 新宿国際ステーションで待つ
と書いてある。
(俺に向けてか?)
だが喉が渇いたのには耐え難く、メモはポケットにしまいジュースを飲み干した。
授業が終わると新宿国際ステーションのカフェの窓際に座りパソコンを弄りながら、行く人々を横目で観察する。
(テロ…にしてはメモなんか寄越さないよな…3時まで粘ってやるか…)
〜新宿国際ステーション 深夜3時〜
ミナトは5杯目のコーヒーと6個目のベーグルを両手に持ち、疲れた目で辺りを見回す。
(何も起きねー…こんな時間まで無駄足か
もう眠いし帰ろ)
カフェで会計を済ませて駅構内に出る。
夜中なので所々照明も消されており、昼間より不気味さを醸し出している。
早く通り抜けようと早足にしたところで
右手の壁が轟音と共に爆発した。
「うおっ!!やっぱりテロか!」
咄嗟に横に飛び、体制を立て直す。
「何が出てくんだチクショー…」
爆発の煙が晴れてくると犯人と思わしき存在が出てきた。
「人間…じゃないのか」
煙から出てきたそれは仮面の様に見える顔に赤いセンサーアイ。
全身金属で背中から金属製の4本の触手が生えていた。
「月城ミナトだな」
無機質な声でこちらを見ながらそれは話しかける。
「何で俺の名前を知っている!大体お前は一体何だ!」
「知っている。お前の事は昔からな。ワタシの事はアダムとでも呼んでくれ。」
(アダム…聖書かよ…こいつ何が目的なんだ…)
金属製の触手がこちらを捉えた様に思った。
「ヨロシク」
アダムはそう言って触手をこちらに飛ばしてきた。
「話していきなり攻撃かよ!」
触手はコンクリートの床を軽く貫いていた。
回避したミナトをすぐ残りの3本の触手が襲う。
「そんなもん当たらねえ!」
回避から足を切り返して前進する。そのまま
懐に入り込み、思いっ切り胴体にパンチを入れる。
金属製の胴体が大きく凹み、後ろによろけた
所に回し蹴りを入れる。
「!!まじかよ」
アダムは回し蹴りを入れた足首を掴み止めてみせた。
「やはり人間レベルの力ではないな」
「俺に何の用だ!」
アダムはセンサーアイを更に光らせ
「復讐だ」
次回に続く
突如現れたアダムと名乗る存在に攻撃されるミナト。復讐と言われるものの心当たりのないミナト。
未知の存在との闘いが始まる。