1歳になりました。1
1歳3ヶ月でのお話。
5話目となります。よろしくお願いします。
「リナルド……頑張れ……あとちょっとだよ……!」
「ぱーぱ」
「そうそうパパはここだよ! 後もうちょっと! もうちょっとだから!」
伸ばしてくる父親の手をどうにか掴もうとよたよたと歩く。ヤバイ倒れそう、とどうにかバランスを取りながら耐えて父親の場所まで来たら、「良くやったね!!」と抱え上げられ高い高いされて楽しくなって笑みを零した。褒められるとやっぱり嬉しくなるものだね。
「よくできたわねリナルド、もっと練習すればもっと長く歩けるようになるわよ」
「ん!」
「お、おれ! おれもあるけう!」
「うんうんそうだなぁ~リュミエールも歩けて偉いなぁ~~!!」
「貴方ってば……親馬鹿になりすぎても困るのよ?」
「構わないね! 2人の為なら私は馬鹿にだってなろう!!」
「全く……」
ハイテンションな父親に母親が呆れているが、その表情はとても穏やかである。父親に抱きかかえられ、母親に頭を撫でられ、兄がその父親の服を掴んで自己主張している。うん、平和だなぁ、と父親の腕の中で笑みを浮かべた。
【1歳になりました。1】
ようやく両親の言葉が完全に理解できるようになって、更にちゃんと2足歩行もマシになってきた生後1年3ヶ月の僕です、こんにちは。魔法で整えられた花壇に囲まれ、毎日母親が水やり(魔法)してる事で、家の中から見ても綺麗な花に囲まれているレンガ造りの家の中からお送りします。
やっぱり毎日聞き続ければ、自分の分かる言語で翻訳されながら教えられなくても分かるようになるものだね。1歳を超えた辺りで単語自体は何となく分かるようになってきたけど、3ヶ月を超えた今ではしっかりと言葉が理解できるようになった。更に、まだ少しフラつくけれど2本足で歩く事もできるようになってきている。やっぱりできない事ができるようになると嬉しいね。
ああ、誕生日の時の神様とはあの後少しだけ会話したけれど、頭を撫でられ続ける内に眠気が襲ってきて、次に目が覚めた時にはベッドの上だったよ。神様はハッキリ言わなかったけど、やっぱりああやって神様と会える事は珍しいんだろうね。だって、あの空間に僕以外の存在は居なかったから。まぁ神様、なんて呼ばれるような存在だ、本来僕も魂云々がなければ会う事も、そもそも“僕”の人格がなくなったままに転生していたのだろうから。でもそれは、僕ではきっとさみしいと感じてしまうだろうなぁ、なんて思ったりもしたけど。
ただその事に関しては、どうせ今後も誕生日の後に神様に会う事になるのは確定事項なのだから、であれば僕が行く度に何か手土産代わりに話でもできるように人生を楽しんでおこう、と思うことにしている。神様は、僕の事を気にかけてくれている上に、僕に転生してからの事を(どちらかといえば)熱心に聞いてきていたから。長い付き合いになる事が確定している相手には、好印象であってほしいと思うのは普通だろう?
そんな思考があるから、とりあえずはと力を入れていたのが言語聞き取り能力と歩行能力だったのだ。言葉が理解できないとそもそもどう喋れば良いのかすら分からないし、歩けないと行動範囲は狭いままだ。その意思の下、3ヶ月我武者羅に続けた結果が今の現状だったりする。生前の“僕”では習得する事は半義務化したものだったから楽しいなんて感じたりはしなかったけど、今世では非常に楽しんで取り組めている。やっぱり成長具合が分かるからかな。母親が日常的に使う魔法にも、やっぱり興味があるし。
……比例して兄と遊ぶ時間も増えたのだけどね。父親はやっぱり1週間に1回レベルでしか帰ってこない――と、思っていたのだけど正確には僕が寝た後に帰ってきて起きるより前に出て行っていると気づいたので、そもそも満足に会えるのが週に1回だけ。母親は家事やら、朝に送られてきているらしいプリントのような物を見たりするのにも時間が割かれるので、ずっと僕につきっきりというわけにもいかない。だから兄に僕の事を見ていてくれる? と言っていたので、それに乗り気になった兄が精一杯構ってくるのを微笑ましく思いながら相手している。いや、流石に中身大人だから微笑ましく思っちゃうのは勘弁してね。だって実際に兄――リュミエール、微笑ましいんだもの。精神年齢的に子供を見守る感じになっちゃうのはやっぱりどうしようもないし。最近じゃ兄の言動に悶えながらままごととかしてるよ、以外と手で物を掴む練習とかになるしね。
そんな感じで、順調に育っていく自分の体を実感している僕なのである。
◆◇◆◇
「はーい、リナルド~? お風呂の時間よ」
「うー」
「貴方、リュミエールの方見といてあげてね」
「ああ。リュミエール、父さんと遊ぼうな」
「うん!」
父親の言葉に兄が元気よく頷くのを見ながら、母親に抱きかかえられて脱衣所になっている場所にまで移動する。流石に僕の歩幅や時間に合わせていたら時間がかかるから、というのは分かっているのだけど、それでももっと長く歩けるようになりたいなぁ……なんて思っていたら、脱衣所にある椅子に僕を座らせた母親がニッコリと笑う。
「さーリナルド、服を脱ぎましょうね」
「……うー」
「抵抗しようとしても無駄よ、せぇい!」
この時間は憂鬱である。母親の容赦の無い手によって脱がされた服を未練がましく掴むけれど、母親はサッサと服を洗濯する服入れに放り込んで、自分の服に手をかけた。その瞬間にパッと別の方を向く。
……そうなんだよね、父親は基本的に週1しか居ないから、まだ1人でお風呂に入れない僕は母親と一緒に風呂に入る事になるわけで。しかも意外といっぺんにやってしまう所のある母親は、いちいち僕を洗った後で自分が入る、だなんて事はしないから必然的に僕は母親の体を直視する事になるのだ。流石にちょっと、成人男性としては色々と思う所があるのは仕方ないと思う。母親は全くそんな事考えてるだなんて思ったりしてないだろうし、僕も言う気はないというか満足に喋れない現状言えないのだけど。母親、もの凄くプロポーション良いから……本当に、幼児期のミルクが哺乳瓶からで良かったと毎度このお風呂の時間になる度に思う。
目を逸らしている事を変に思われないように、実際服を着ていない所為で寒いから服を着たいと遠くに追いやられた服に手を伸ばしていると、服を脱ぎ捨てた母親が「大丈夫よ~ちゃんと温かくなるからね~」と言いながら扉を開けてお風呂の中へと入った。お風呂となる石でできた湯船には、お湯――ではなくお水がなみなみと注がれている。それを横目に、母親は湯船の傍に置かれているつるんとした石に手を翳した。
「【熱き炎よ、我が前に来たりて、熱せよ】」
そう言い切ると同時、つるんとした石が途端に真っ赤になる。見るからに熱そうなそれを母親は次いで唱えた浮遊の魔法で移動させ、水の中に放り込んだ。すぐさまお湯に変わった湯船に、これを見れるから相殺されているようなものだよね……と隠れて溜め息。
母親が口にした文言、あれは魔法の詠唱だったりする。まぁ何となく意味は普通に分かるのだけど、あの文言を母親が口にした瞬間、母親の体からしっかりばっちり魔力が動くのが見れた。服を着ているときは服で遮られてしまうけれど、お風呂の時はそれもないので魔力の動きがくっきりと見る事ができる。そして毎回、これを見る度に母親は凄いんだなぁと思うのだ。
一応父親とお風呂に入る時もあって、その時に父親も魔法が使えるとは分かっているのだが、母親のそれと比べれば大分効率が悪い。父親が文言を詠唱して体内で動かす魔力の量と、母親が動かす魔力では3倍近くの差がある。つまりそれだけ、母親は少ない量で同じ事ができる、と言う事だ。更に言うなら母親は文言すら唱えずに魔法を使うことがあって、その時は流石に文言を詠唱しないときよりも魔力の消費量は多いけれど、それでも父親が詠唱して魔法を使う時よりも少ない……となれば母親が凄い事は一目瞭然だ。今までこの母親から生まれた事は僕の体を丈夫にする為なのだとしか思っていなかったのだけど、やっぱりとんでもない存在じゃないのかな……と最近は特に思うようになった。だって僕が同じ事しようとしても、流石に期間が短すぎるというのは分かっているんだけど父親に遙かに及ばないからね。
……そんな事を思っている内に現実の僕は母親に隅から隅まで体を洗われて、あっつあつの湯船につかっているのだけど。やっぱり他の人に体を洗われるって慣れないなぁ……と思いながら、母親が僕を退屈させないようにと(ある一定は湯に浸かっていた方が良いからだと思う)魔法でお湯を操っているのを見上げていたら、釘付けな僕の様子にクスクスと笑った母親は僕の頭を撫でながらこう言ってきた。
「やっぱり、リナルドは魔法が好きなのかしら? リュミエールよりも、ずっと釘付けだものね」
「あい」
「ふふ、まぁ貴方が魔法を使えないと分かったとしても、どちらにせよ魔法についての知識は教え込むつもりだけどね。本当に……早く『星』が判別できるぐらいにまで大きくなってほしいわ、あの人も言っていたけれど、私だって楽しみなんだから」
……『ホーク』? と母親の言葉に首を傾げる。言葉を理解できるようになったとしても、意味が理解できるかどうかは別である。判別できるほど大きく、と言う事は成長するにつれて出てくるようなものなのだろうが、それは母親にもあるものなのだろうか? とか考えていたら、母親に額を合わせられグリグリとされる。
「慌てて大きくならなくて良いわ。何も私を超えるような存在になって、と言う気もない。でも、賢い子になってね。リナルド」
「……あい」
『ホーク』が何かは気になるけれど、まぁ後々分かるようになるだろうと、とりあえず今の僕はその言葉に頷いた。
……それよりも、溺れないようにってする為だろうけどもうちょっと離してくれないかなぁ、と直に感じる女体の柔らかさとお湯の熱さに上せかける僕なのだった。
【1歳になりました。2】に続く
お読みくださりありがとうございました。
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次話は来週の土曜日、1/19の予定です。