0歳になりました。2
少々遅れたのは両親の会話部分を変換するのを忘れていた為です……凡ミスですね、気をつけます。
と言うわけで3話目です、よろしくお願いします。
「あ~」
「やー!」
「う? うー」
今日も今日とて天上を見上げながら視界端から伸ばされてきた指を反射で握ったら、きゃっきゃっと笑う声がした。そちらに視線を向けると、ベッドに体を乗り出して、僕の事を覗き込んでいる子供――兄ことリュミエール(最近漸く分かるようになった)が、僕に掴まれた指を見て心底楽しそうに笑っていた。
中身青年の僕からすれば何が楽しいのだろう? と思わなくはないけど、赤ん坊というのは簡単なもので他人の笑顔でも楽しい気分になってくるのだから不思議なものだ。現に、僕の表情筋は兄の笑顔を見てからゆるっゆるである。兄が僕が指を差し出される度に掴むのが面白いのか掴まれる度にきゃらきゃらと笑い、僕も何が、と言われると分からないとしか答えようがないけれどその様子に楽しくなって笑う。赤ん坊って単純だなぁ、とこの体になって生まれ直してから良く思うようになったけれど、実は人はそれほど難しく考えなくても笑顔になれるんだなと再確認していたりする。
主に、
「aーnaoabdiefeqekehahbgabfec! hdnegb! kdibbmdhdkebhafciabid!」
「cu-gc……glccibbffabjaadmcneqafamakechlehheehbhcbhamaqec……?」
「iaibncbcneqabMe-mbd! kabibhbadiabneqale!? geiercnebggleibbmdmcpbfanejafeqekehahbibgabhahhdkeneqabiabplaiabfa!」
「……nahagb、cu-gcoaglecmab『nehagbiekcgcfejanahagane!』nclemcneplaiabfahebkafamajcaneiaieqafdqe……」
まだ意味が分からないにせよ、ハイテンションで僕と兄の様子に思いっきり悶えている父が居るからである。
【0歳になりました・2】
最近体の発達にエネルギーを回さなくて良くなったのか、日中寝落ちたり知恵熱を出したりすることなく丸1日起きていられるようになった生後7ヶ月の僕です、こんにちは。相変わらず家の外に出る事は少ないけれど、最近漸く間取りを完全に把握したレンガ造りの家の中からお送りします。
最近、兄――リュミエールが僕と戯れても大丈夫だろうと判断したのか、母親が見ているタイミングに限って兄と一緒に遊ぶ……遊ぶ? 事が増えました。母親はまだ僕が言葉を理解できていないと思っている(実際まだ言語が違う所為で分からないのはそうなんだけど)から、ベビーベッドから落ちないように見張り付きだけど、ベビーベッドの一部の柵を外して足場に乗った兄が僕にちょっかいを出せるようにしてくれるようになったんだ。僕もエネルギーをちゃんと移動とかに舞わせるようになったからちゃんと寝返りをうってハイハイぐらいならできるようになったので、兄が伸ばしてきたり誘うように右左される手を追いかけたりして遊んでいる。イメージとしては猫だね、猫が猫じゃらしにじゃれてる感じ。
勿論遊びではあるけれど、今の僕からすれば体を動かす訓練も兼ねている。どうも、赤ん坊にしては僕は力が強すぎるみたいで……一度兄の伸ばされた手を軽い気持ちで握ってみたら、兄が叫ぶほどに泣き出してしまったことがあって……その後母親に治癒魔法をかけられていたけれど、それ以降どれぐらいなら大丈夫なんだろう、とちょっと怖くなってしまったんだよね。兄は喋れるとはいえまだ2歳3歳程度(何歳差なのか知らない)だから母親にちゃんと伝えられなかったし、母親も重大事のように捉えてはいなかったからここでも〈平凡化の祝福(仮名)〉は働いているんだなとは思ったんだけど、それとこれとは話が別だ。僕は兄を傷つけたい訳では勿論ないから、以来兄とのスキンシップはその力加減を図るための場になっている。お蔭で、最近は気にせずとも丁度良いぐらいの力加減で握れるようになったけれどね。その関係か兄と過ごす時間が増えて、前世でこうして兄弟と過ごす時間は殆ど無かったに等しかったから、反動でか兄の事を微笑ましく思ってしまったらしく最近じゃ暇すると兄に構ってもらう時間の方が長くなってしまっているけれど。
兄との事を語るとそれこそ時間が大量に必要になるので、ここら辺にするとして。それよりも、なんだけど……やっぱり神様が「ハイスペックな体にしなきゃいけない」と言っていた関係からか、母親はかなりハイスペックな人だって事が、これまた最近分かったんだ。主に、魔法――御伽噺や小説でしか無いような、摩訶不思議な現象を起こす方法に関して。
僕があの哺乳瓶に風のようなものが纏わりついている所を目にして興味を示してから、母親(多分「ローリエ」って名前だと思う)は僕の目の前でも大っぴらに使うようになって――というか僕が意識するようになったからかもしれないけど、魔法を使うタイミングが圧倒的に増えた。僕が退屈しているとみると赤ん坊用の玩具を魔法で操ってみたりとか、ちょっと遠い場所にある物を取るのに魔法を使ったりとか、手が離せないタイミングで空中に浮かせて別の作業をしたりとか……先程兄に怪我をさせてしまったタイミングでの治癒魔法もそうだし、なんなら家を訪ねてきた人に何かしているのを見たこともあった。凄いなぁ、と僕が感心して見ているのに気づけば、水を空中に浮かせてハートマークを作ってみたりとか、ね。
魔法に関して、前世では無かった……あったにしても僕は見たことが無かった事だから、完全に素人目でしかないけれど。それでも、丸一日それらの魔法を行使し続けても全く疲れた様子がないのは、その分十分な実力を持っていると証明されたようなものじゃないかな、と勝手に思っている。何故なら、魔法を使う度、母親の体からキラキラしたものが溢れ出て、魔法をかけたものにふわりとそのキラキラが纏わり付いているのが見えるから。そして、そのキラキラが、丸一日使っていても十分余るほどに母親の体に溜め込まれているのが、何となく分かるから。恐らく、これが魔力、とかって呼ばれる物なんじゃないかな、と思っている。
初め、魔法とかの知識はあの有名な稲妻の痣の英雄の話ぐらいしか知らなかった僕は、そのキラキラが何か分かっていなかった。でも早々に母親が魔法を使えば、そのキラキラが使われる事は分かったから、時間さえあればその魔法を観察することにしていたんだ。幸い、母親は初めてその魔法を見てから、僕の前で魔法を行使してくれることが増えたから、観察するには困らなかった。ちょっと集中して母親を見れば、母親の体中を巡るようにそのキラキラが回っているのが見えたし、慣れてくれば兄にも同じ物が見えた。週に1回しか帰ってこないけれど、父親に会えた時も見てみたら、母親よりも少なかったけれど、同じ物が見えて、ああ魔力なんだなぁ、とストンと納得できたんだよね。
そうなると気になるのは僕の場合だけど、自分の体を集中して見てみたら――母親や兄に比べて馬鹿にならないほど多いキラキラが、体を回っているのが見えてしまって絶句したよね。量が多いだけでなく、濃度が濃いというか、キラキラがギラギラになるほどと称した方がいいぐらいな事にえっ、とは思ったんだけど、同時にそのキラキラが殆ど右のこめかみあたり――ああ、最近漸く鏡を目にする機会があって、その時に確認したんだ――に集まった後、体の表面を覆っている事に気づいて、これがあの〈祝福〉なのかなぁ? とも思ったんだけどね。だって、ぱっと見体の表面をくまなく覆っているからギラギラして見えるけど、その表面を除いて更に内側は、3人の中で一番キラキラが少ない父親よりも薄かったから。このキラキラのお蔭で、ハイスペックな所が表に出ないようになってるんじゃないか、って神様の話を踏まえて思ったよね。というかそうであってほしいと思ったけど……だって、母親があれだけ色々できるのに、母親より明らかキラキラが多い僕の体を覆うキラキラ――というか魔力がその為に使われていなかったら色々と困るだろう? まぁ、そんな事を考えながら体を動かしていたからか、キラキラ――んん、魔力をある程度動かせるようになった時は嬉しくなっちゃったけどね。だって僕だって男の子だし、そういうのに憧れないわけじゃないから……平凡で良いんだけど、ちょっとぐらい魔法が使えないかなぁ、と思わないわけじゃないしね。
そんな感じで今日も僕は、母親と兄に囲まれながらすくすくと成長しています。
◆◇◆◇
「Mbiamcqe、sa-sa、jema、sa-sahhdbhhdkbhe!」
「keccu-gc、kcmbibbnagdmciejaqecfaheekecnale?」
「b-la、afanerecja7~8faodhcocmabqdjaiagcfeqahhdbmc! jaiagdiafchdke、feclahhdhcidibjaiagbfafdmcfeheoaplcclecianeqa!」
「qdkeanekambfleclecgcmchejaiagaiafciamchhdjaiagbkefbfcnale? anekambjaiagbfafdgcobhdfbmanamdhdkegbmaiabnale?」
「ge、geneiata~……Mbiamcqe、geneiafeheiableid!? id!?」
僕に向かって話しかけてきていたと思っていたら、突然僕を抱き上げて頬ずりしてくる父親にいきなりすぎて怖くなり腕の中で暴れる。慌てたように降ろしてくれた所で、兄が伸ばしてくる手を掴んで落ち着いた。父親はその様子に愕然としていて、話は分からないにせよちょっと酷いことしたかなぁ、とちょっと不安になった。でもいきなり抱え上げられるのは怖い。
「mb……Mbiamcqeibflejbgamdha……」
「bfbiambfafadaodmcfamale……Mlckbd-mchebggleib、mapciamdhdhdkemachefemefamajapbkdhajecoabbnale。cu-gc、Mbiamcqefamagcmdrahegbembgcmcepbganeocmabieibnegbfbqdglecgb」
「c、ge、geciaiefaia……」
今度は恐る恐ると手を伸ばしてくるので、躊躇いつつもその手をキュッと握り、父親の顔を見上げる。最近座った状態をキープできるようになったので、見上げるのも楽になった。握った途端破顔する様子にあ、大丈夫だなと判断する。
1週間に1回しか顔を見ない父親は、どうもどこかに出稼ぎに出ているというよりは、出張に出ている、といったイメージの方が近いらしい。1ヶ月に1週間ほどだが、家にずっと居て家から仕事に出かけていく様子を見たこともあった。何の仕事をしているのだろう……と思うのは、母親が父親が帰ってくる度に鞄から取り出して洗濯している服が、大抵赤黒いからだろう。乾いているのか臭いは僕が日中過ごすベビーベッド付近まで漂ってこないけれど、あれって血液じゃないよね……? とちょっと不審に思っていたりする。家だと完全に子煩悩な父親なんだけどね……まぁどうであれ犯罪を犯していなければ別に気にしはしないんだけど、と手を伸ばしてゆっくりと抱え上げてくる父親を見上げれば、へにゃりと表情を崩して頬やら頭やらを撫でられるので甘んじて受け入れる。中身大人からすればちょっと羞恥心がないわけじゃないけど、これも親孝行親孝行と思うようにしている。
「リ~ナぁ」
「う?」
「hcfakc!」
ベッドによじよじと上ってきたリュミエールが手を突き出してくるので、手と彼の顔を往復してから握る。こちらも破顔するので、赤ん坊ってこれほど祝福されるんだなぁと今更ながらにそう思った。前世でも確かに子は宝だとか、そういう事はよく聞いたけれど……僕からすれば弟妹は庇護対象でありこそすれ、愛情を注ぐ対象じゃなかった。父親母親から愛情を注がれていたかもしれないけれど僕は全くそんなことなくて、今思えばかなりの薄情者だったかもしれない。今更思った所でとうしようもないけれど、この兄にはもっと今から構っておこうと、握るだけでなくそのままぐいっと父親の腕の中にまで引っ張ってみた。そのまま近くなった頬をむにーっと引っ張ってみる。うん、赤ん坊の僕が言うのもなんだけど子供だけあって良く伸びる。
「むぃ~」
「mbthc、Mbiamcqeoa! Mbiamcqeoafanabbfehegbhdmc!!」
「jcjc、jemaMbiamcqe、anekamblamcheeibbhlaneoafamabgecle」
「う~」
頭の上で悶え始めた父親と、それに苦笑しながらやんわり僕の手を兄の頬から外した母親を、見上げる。今なら言えるかなぁ、と(意思と動くかは別な)口をもにょもにょと動かして、どうにか望みの単語を口にした。
「? qecgbhaie、Mbiamcqe?」
「……マ」
「ne~?」
「まー、っま」
「ama」
目を丸くする母親に、よし言えた! とちょっと達成感を感じながら、そのままくるっと振り返る。そうして、キョトンと見返してきた父親に、今度はスムーズに口を開いた。
「ぱーぱ」
「thcthcthc!! sa、sasahhdbhha……!? bkabhhaleid!?」
「ddbhhana! aa! ianeqdmefcoagbhdiafahhaiefagbma……!」
「mb、Mbiamcqe、kecbffabbdmc……?」
途端飛び上がらんばかりに喜んだ2人がふと僕の顔を覗き込んでくるので、理由は分からないにせよ何となく期待されているのは感じ取ったので、もう1度口を開く。
「まーま、ぱーぱぁ」
「……thc、kahboabiafc、bhha、pe……!」
「lahhanaidcu-gc! cu-gcieibffaoakcfcnamdhaiele!」
「legbflecjaebnabqa! lahhaiaMe-mbd……!」
今度こそ満面の笑みを浮かべた両親に、喜んで貰えて良かった、と内心胸をなで下ろす。別にこれまでも言えなかった訳ではないのだが、色々とタイミングが無かったのと単純に赤ん坊の口を動かすのは少々難しかったのもあって今まで言えていなかったのだ。普通の赤ん坊からすれば随分と早いけれど、いつも色々やってくれる両親に大分早い恩返しになったかな、と大喜びの両親につられて笑みを浮かべた。
その後興奮冷めやらぬ父親に高い高いされて、慌てて支えてくれる手にしがみつく事になるのだけれど、その後はとても楽しい時間を過ごしたのだった。
【0歳になりました。3】に続く
お読みくださりありがとうございました。
誤字脱字ありましたら、コメントなどでお教えくださると嬉しいです。
次話は年明けすぐの土曜日、1/5の予定です。




