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コツコツ、真面目に。  作者: 衣笠境
2/6

0歳になりました。1

前回投稿時に書き忘れていましたが、基本的に土曜日の9~10時辺りを目がけて更新していこうかと思っています。時刻がキリの良くない時刻の場合、書き上がっていなかったんだなと思ってくださいな。

非常にゆっくりな更新となりますが、どうぞ宜しくお願いします。

 ユラユラと、何かが揺れているような感覚がする。


 視界が真っ暗で何も見えないけれど、何となく自分が水中にいるのだなぁ、という事は分かったし、この水が羊水であろう事も分かった。ああ、異世界でも人は母の腹から生まれるんだなぁ、なんて思いながら揺られていると、急に押し出されるような感覚を覚える。普通の乳児にはこんなに思考できるほど脳がまだ出来上がっていなかった筈のように思うけれど、そこはハイスペックな肉体であるが故か。あの人?は何もかも1から学んでみたいと言った“僕”に、この世に生まれる所から体験させてくれているらしい。貴重だなぁ、なんて窮屈さを感じながら外に出たら、いきなり空気が入ってきて体が勝手に泣き叫び始める。


「……、……!」

「……kd……gc!」


 耳が音を拾い始める。ああ、生まれたんだなぁ、と感慨深くなっていたら、羊水を拭き取られ布らしきものに包まれた。まだ目はぼんやりとしか見えないけれど、頭を撫でられた感触で生まれてきた事を祝福されていることだけは、感じた。


「……、Nahagbie、afahlane……!」


 言葉はまだ聞き取れないけれど、とりあえず自分からその手にすり寄った。




 誕生日おめでとう、僕。











【0歳になりました。1】











 赤ん坊になり、目もしっかりと見えるようになってきた生後3ヶ月の僕です、こんにちは。どこかの国(家の外にも連れ出されることはあるけどあんまり見ていられず眠ってしまうから実質ここがどこら辺なのかは分からない)の西洋風……と言えばいいのかな? レンガ造りの家の中からお届けします。


 今の僕? 赤ん坊らしく、ベビーベッドに横になって天上をぼんやりと見上げています。どうも生まれ変わってから、思考速度が落ちたみたいなんだよね。だからゆっくりした語り口調になるけど、勘弁して欲しいな。今こうやって天上を見上げたまま考える、それだけでもこの体は疲れてしまうらしくてね。ゆっくりゆっくり語っていくよ。とはいえそんなに多くはないんだけどね。


 赤ん坊になって、そうだなぁ……一番驚いた事は、全く退屈しない事だったよ。やっぱり成人男性が赤ん坊になるわけだから、動けなくてストレスとか、退屈だとか、そういう気持ちを感じるのかなと思っていたんだ。生前の“僕”はせかせかしてる方だったし、生まれ変わって子宮内に居ると分かった時点でちょっとは覚悟してたんだよ? だけれどそんな事、全く無かったんだ。理由としては、そもそも生まれてから、見る物全てが初めて見る物ばかりだったから、かな。


 あの――人? ……うん、えーと、もう神様で良いかな。神様が、転生前に言っていたこの世界についての事。生前の世界からすれば異世界になるこの世界では、同じ事をするにしても格段に様々な所が違う。うーん、分かりやすい例を挙げるなら、服装かな。生前なら、上に着るシャツと下に履く服とで体を上下から挟み込む? この言い方合ってるのかな……まぁそんな感じで分かれてる事が多かった。でもこの世界の服(もしくはここら一帯の服)は、基本的にワンピースみたいな感じかな。上から被って、腰辺りでベルトのような物で締め付ける形。女性も男性も変わりなくそう着込んで、人によってはベルトにポーチが付いているぐらい、かな。あ、勿論下着は着ていたよ? でもそうだね、民族衣装的な感じで、異文化の所に着たようなものだから、服1つとっても物珍しいんだ。それを見ているだけで、気づけば時間が経ってるんだよね。言葉はまだ理解できていないから、とりあえず今は視覚情報を取り込むので忙しい、とも言えるかな。


 まぁその観察日課には、色々と問題があってあまり進んでいないんだけどね。最たる物と言えば、母親が買い物で連れ出してくれる以外は基本的に家だから、家の外の事を知る機会がかなり少ない事と――体が異様に疲れやすくて、すぐに眠ってしまうんだ。赤ん坊なのだから、寝るのが仕事とは言われそうなんだけど、それでも説明できないほどに眠気が酷くて日の大半を寝て過ごしているような程なんだ。


 最初、不具合か何かなのかな、とちょっと不安だったんだけど、単純にエネルギーが足りていないって事を、母親から与えられる食事が物足りず哺乳瓶を無意識にずっとしゃぶっていた事で気づいたんだけどね。ただ気づいたのが1ヶ月過ぎてからだったから、それまでずっとこのまま眠り続けるんじゃ無いかと疑心暗鬼で眠れなくて夜泣きしてしまったんだけど……あれはちょっと、後から思い返すと恥ずかしかったなぁ。実際の赤ん坊も、色々怖くて泣いてるのかなと思えたって事で誤魔化したけどね。


 それで、エネルギーが足りない理由は――3ヶ月の現時点で、既に体自体をある程度思うように動かせた、という事で何となく分かるんじゃないかな。体を動かせるほど肉体がちゃんとできている、つまり動かす為に必要なエネルギーが、本来の生後3ヶ月の赤ん坊が必要とするエネルギー量と段違いに違いすぎて、ガス欠を起こしているんだよ。今の僕。神様の言っていたように、この体は赤ん坊ながらハイスペックらしいんだ。


 どれぐらいか、と言うと――普通の赤ん坊が1人で歩き出すのが1歳過ぎてからだとしたら、今の僕はちゃんと腹が膨れた状態なら自力で寝返りがうてたし、首はとっくに座っているので、途中で力尽きるからまだ確認できていないけれど、ハイハイどころか多分つかまり立ちもできる。明らかに、生育が速すぎるんだ。母親から与えられるエネルギーだけでは体の成長にばかりエネルギーが使われてしまうらしくて、動ける程のエネルギーが残らない。お蔭で母親が離れ戻ってくる数分でベッドの上を動き回り、そして力尽き仰向け状態に直される、と言うのが日々の日課状態になっていたりする。赤ん坊がうつ伏せでそのまま居ると窒息するらしいから、戻してくれるのは嬉しいのだけど、お蔭で両親は僕を早くも寝返りを覚えた赤ん坊ぐらいの認識だ。つかまり立ちの練習をしているところを母親に見られればとんでもない赤ん坊だと分かるのだけれど一度も見られた事が無いので、神様の祝福とやらはちゃんと働いているらしいと気づけた。まだ断言できないのは、死因が死因だけあって、少し疑り深くなってしまっているからだと思っている。


 そんな状態だから、1日なんてあっという間に過ぎるし、考え事をし過ぎるとオーバーヒートでも起こしているのか頭が痛くなってくるんだよね。そうして頭痛を引き起こして熱を出し、うつらうつらしていれば1週間なんて軽く飛んでしまうんだ。赤ん坊って凄いよね。ただでさえ子供体温でポカポカしたまま食事をすれば腹が膨れて眠くなるし、両親の声を聞いて言葉を覚えようとして気づけば日が沈む時刻になっていたりと、意外に退屈している時間は無いものだった。よく熱を出すからか、母親が僕にかかりきりになってしまって、駄々をこねる4歳ぐらいの子供を時折見かけた。時折なのは僕が赤ん坊だからだろう。兄なのかなぁ、とか思いながら同じ部屋にやってきた時は観察させてもらっていたりする。兄で今の僕が成長したらこんな感じかな、というのの指標にさせてもらっている。何分、まだ鏡で自分の顔を見た事がないんだ。


 そんな感じで、僕はめいいっぱい、赤ん坊としての生活を満喫していたりする。




 ◆◇◆◇◆




Mbiamcqe(リナルド)! aa~Mbiamcqe(リナルド)~sd-mdqale~!!」

「cu-gc……ehbhcbhd。Mbiamcqe(リナルド)、fekathchkacna」

「Me-mbd! qdkejbgahbrcmbieMbiamcqe(リナルド)ianeqale!?」

「jabjab。Mbiamcqe(リナルド)ibblaoamamdiablecibgbiagabe」

「geneiafeheiableia~Mbiamcqe(リナルド)~?」


 母親と言葉を交わしながら僕を満面の笑みで覗き込んでくるのは、生まれた時以来見ていなかった男性だった。多分父親なんだろうなぁ、と思いながら、差し出される指をキュッと反射で握ると更にその顔がデレッデレに崩れる。赤ん坊、しかも自分の子供が反応してくれるのは、嬉しいことなのだろう。服装が前世でのツナギみたいに上下が一体化下服なのはもはやそういう文化なのかなぁ、と思いながら、意外と若い風貌なのに生えている髭をツンツンと引っ張ってみたり、頭を撫でてくる手に触れてみたりと色々やってみる。


 ちなみに、父親の容姿は地球で言う所の北方系の、ロシアとかそこら辺に居そうな顔立ちに色素の薄い縮れた短髪、緑色の瞳。母親は逆に日本人と言っても違和感が無いような黄色人種の若さが強調された顔立ちに黒のストレートの長髪を大抵後ろでくくっていて、瞳の色は青。兄(であろう子供)は色素が薄いながらに直毛の髪に母親寄りの顔立ち、瞳の色は青だった。僕はまだ鏡を見れていないから分からないけれど、きっと両親からそれぞれどこかは受け継いでいるんだろう。


 しかし……聞き取れない。何度となく呼びかけられるから、Mbiamcqe――リナルドって言うのが僕の名前なんだろうけど……発音が違いすぎて、話せるようになるには随分かかりそうだ。これは父さん母さんと呼べるようになるまで頑張らないとなぁ。両親からすれば、一番最初に言った言葉っていうのは気になることだろう。かなり愛情を注がれているというのは分かるので、かなり早い親孝行だ。ただ父さんよりも母さんと先に呼ぶつもりなのは接している時間の量の差と言う事で。


 ……前世じゃ、そんな事した事なかったからなぁ、とふと思った。父さんは大企業の社長、母親もその秘書として共働きだったから幼少期はそんな事できなかったし、成長してからは下に生まれた弟や妹達の面倒を見なければならなかった。その分弟妹達は休日になると十分遊んでもらっていたようだが、僕はその時点で成人していたから仕事が被らないと2週間近く顔すら合わせないという事もザラにあった。今思えば遺してきた貯蓄が恩返しになると言う事になってしまう。かなりの親不孝者だ。


 Mbiamcqe(リナルド)? と自分の名前が呼ばれたのが分かる。上から覗き込んでくる新しい父親の伸ばされる指を掴んだ上で、反射的に口にしてしまった。お腹が空いてしまって、空腹を紛らわそうとしてしまっている。慌てて離そうと思ったものの、見上げた父親が更に顔を蕩けさせているのを目にして続行する事にした。とても嬉しそうだ。僕には子供なんて居なかったから分からないけれど、これは親なら誰でも思うのかなと思っていたら、近づいてきた母親に抱き上げられる。手には哺乳瓶、食事らしい。これ幸いと父親の指を離すと、名残惜しそうな顔をされた。しかしそろそろ空腹感が酷くて早速口にしようとした所で、その寸前で母親があ、と呟いて僕の口から離してしまう。


「hlethchehckdhabnaid。【ahahafaiafapdle、naoakadibfbhambhd、ahahakdle】」


 暫く哺乳瓶を揺らして何かを確認していたらしい母親が、そうそっと呟いた。直後。


 フワッ


 と哺乳瓶周辺に風がいきなり巻き起こって、そのまま哺乳瓶を包むようにクルクルと回り出すのが分かる。風なんて本来見えない筈なのに、何故か僕の目にはキラキラ光る小さな光の粒が風に乗って哺乳瓶の周りを回っているのが見えた。突然起こった事に僕が固まったのが分かったのか、片手で僕を抱き上げている母親がん? と僕の方を向いた。


Mbiamcqe(リナルド)?」


 答えられずに哺乳瓶を凝視する僕に、母親は何を思ったか右へ左へと哺乳瓶を動かす。当然釘付けの僕の視線も右往左往する。それを見た母親が破顔した。


「cu-gc! Mbiamcqe(リナルド)oafamafcscaibfleckbncgbkdgbhanale! lassambnahagbiefeid!」

「Mlckbd-mciehefbkegecbhhafdqe!Mbiamcqe(リナルド)ja! refcibqdahhdjegbbie! menemckefahambadmckcgcfeibiahhdjegbbie!!」

「a-ma、nafamaiabnale~、hembadpc『Je-fc』oaqdmckaqdjaeapcfdid」

「gecqaid。aa~jalafcjaiagdmclecibiahhdfcmdle~Mbiamcqe(リナルド)ー!」


 両親がカラカラと何かを言いながら笑っているのが聞こえるが、僕の目は未だに哺乳瓶に釘付けだった。暫くして消えた可視化された風に、あれが何だったのだろうと興味を刺激されながら、とりあえず僕は腹を満たす為に口元に近づいてきた哺乳瓶の吸口にかぶりついた。




【0歳になりました。2】に続く

お読みくださりありがとうございました。

誤字脱字ありましたら、コメントなどでお教えくださると嬉しいです。

次話は来週の土曜日、12/29の予定です。

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