6 / 創造神に助手とか要ります?①
無限に続く緑を下に、頭を捻っていた。
この辺でいいだろう。
木々の生えていないスペースに降り立ち、メニュー画面を表示した。
「えー……人間を創ると」
人間100人を創造する前に、確認の行程で手が止まった。
待て、人間がいきなり無から創造されて、その人間たちはどんな状態なんだ?
服とかあるわけないし、文明をつくるための知識も何もないんじゃないか。
知性の高い人間だろうと、知識のない状態からのスタートだと猿みたいなもんだろ。
言語も使えなくね?
いや、それだとカルヴェリオンはなんで俺と話せたのってことになるし……。
異世界が創られたと同時にそこでの言語が俺の使う日本語と合わせられたのか。
まずは最初の村的な立場の場所が欲しいよなあ。
世界樹から約1.5キロメートル、異世界転生者に最初に辿り着いてもらって、ここで武器やら防具やらを揃えてほしい。
お、なんかゲームの世界っぽくなってきた。
ま、ゲームのNPCのように俺の思い通りに動いてくれる必要なんて無いから、自由に生きてもらえればそれでいいか。
右手を前に出す。
汚れてシワのついたスーツが視界に映った。
折角の俺の向こうの世界からの唯一の持ち物だからな、後で綺麗にしておいとかないと。
出した右手を上に振り上げると、簡素な家々や畑などが現れた。
家が建つと同時に、建築音が多所で鳴る。
ハンマーで木の板や丸太を打ち付けたような音だ。
山や木々を創造したときとは全く違う……。
加工品を創造する際に必要だったはずの作業が音として聞こえるのか?
しばらくはうるさい状態が続いていたが、それもすぐにおさまった。
一本の大きな道から幾つかの道に分かれ、木造建築が空間にゆとりをもって並ぶ。
誰が作ったかも分からない、最初からあった何かに、これから現れる人間たちは住むことになるが……
神である俺からのお言葉でも送ってあげますか!
上がりっぱなしの口角を無理やりねじ込んだ。
「ちょっと」
後ろから背中をつつかれて、振り返った。
「なんですか〜」
引き気味の女神シロノが、長い杖を持って立っていた。
「え、なんすか!俺まだ何も悪いことしてないっすよ」
「これから悪いことするみたいな言い方やめてもらっていいですか。それと、その何とも言えない気持ちの悪い顔もやめてください」
頬をひっぱたいて、真顔にした。
痛え、自分から自分への攻撃はくらうのか。
女神シロノはため息をついて、周囲を見ながら言った。
「なるほど、これから人間を創造するところですね。創造もある程度上手くいっているようでよかったです」
「まだそんなに時間経ってませんが、何か用件が?」
世界を見て、杖を構えた。
「あなたが何かしでかすのではないか、と心配でですね。助言役と言うのも何ですが、助手のようなものをつけて差し上げましょうかと。ある程度の知識はあるので、足でまといにはなりませんよ」
じょ、助手?
まーた面倒な事になりそうだな。
「いえ、せっかく来てもらって悪いんですけど…」
待て。
世界は体を宙に浮かせ、頬杖をついた。
助手ってことは、基本的に俺の言うことには従ってはくれるんだよな?
………雑用を押しつけられるな。
「助手、欲しいです!」
元気よくはきはきと返事をした世界に対して、女神シロノは目を細めた。
絶対不純な動機で承諾したわね……。
自我のある子なので、そう思い通りにはいかないと思いますけどね。
「では、少し下がってください。ここに呼び出します」
言われるがままに後ろに下がった。
女神シロノはそれを確認すると、正三角形を描くように杖の先端を動かした。
杖の先端に埋め込まれている黄色の石が光を纏い始める。
纏った光を天高く飛ばした。
光は空の彼方へと消えてゆく。
しばらくすると、空へ消えていった光が大きくなって落ちてきた。
地面に着地するや否や、光が辺りに四散する。
「綺麗だなあ」
そう呟いて見ていると、光の中に人の形がくっきりと現れた。
「随分暇なのでしょう?寝てばかりいないで異世界創造の手伝いをしなさい」
紫色の魔法使いが被りそうな帽子を被り、銀の瞳をした少女が出てきた。
「え、子供?」
「子供じゃないです。ボクは子供扱いされるのが一番嫌なの!」
端正な顔立ちで、肩まで髪を伸ばした少女は、表情を変えずに声色だけ怒っているようだ。
身長は110センチメートルに届いているか微妙なところだ。
この状況でボクっ娘がきたかあ…。
これ普通ならおいしい展開だとは思うんだけど、子供のお世話はなあ……。
女神シロノは少女の肩に手を置いて言った。
「この子はテル、9歳の男の子よ」
「いや、子供じゃねーか」
少し不満気な顔をしているテルを二度見した。
「男!?」