5 / 経験値スポットがあるって?
太陽がその姿を現して、空は橙色の水彩絵の具で軽く撫でたような色合いになっていた。
この世界に、初めての朝が訪れたのだ。
隙間風と風に揺られる葉の音の上に、軽快なリズムで太鼓が打ち鳴らされる。
「ドン!ドンドン!ドドンのドン!」
撤回しよう、これは太鼓の音ではない。
声である。
カルヴェリオンは眠い目を閉じたまま、顔を上げた。
「やかましい」
「まあ、目覚ましみたいなものだから」
目を開けてみると、煤や埃だらけの世界のスーツは、その苦労を言わずとも語っている。
「いや〜夜通し作業すんのもなかなかなもんだな。サラリーマンやってた時よりは全然良いけど」
「聞くが創造神よ、何故私の元へ来た?」
「ん、そうだな……」
いきなり本題に入らせるか。
カルヴェリオンのレベルが何故か上がっている。
3しか上がってはいないが、レベルが上がる要素なんてあったか。
カルヴェリオンの重厚で鎧のような体を舐めまわすように見た。
ひっかけばまず対象を無事では済ませないであろう鉤爪が、黒光りする。
「気になるか。私も気になっていたところだ」
レベルって創造神である俺だけがゲーム感覚で見ることが出来るものだと思っていたけど、どうやら違うらしい。
「レベル、上がってるな」
得意気に自身の翼を広げて、煙を吐いた。
高さ13メートルほどという総合評価SSSのドラゴンとしては小柄とも思える体躯だが、翼を広げると視界に収まりきらないほどになった。
世界はそれを腕を組みつつ満足そうに見ていた。
「なあカルヴェリオン、これから、この世界に人間やらモンスターやらが無数に現れることになる。そこでお前に頼みがある。」
「……言ってみよ」
天を突き抜けるかと思わせる世界樹は、自らの幹からシャボン玉のような水色の泡を宙に飛ばしている。
飛び出した泡は、世界樹の葉と世界樹を囲う遺跡の間から差す僅かな光に反射して、宝石のような輝きを放つ。
「ここは、この世界の始まり、聖域だ。誰のどんな事情でも、決して荒らさせないように守り続けてくれないか」
「ここを私の住処にしろという事だな?」
カルヴェリオンの問いに、周囲を見渡してから答えた。
「その通りだが、どこへ飛んでいってもらっても構わない。ここを気にかけてくれれば、それでいいんだ」
聖域を守るドラゴンとかカッコよすぎるだろ。
「いいだろう。ここを守ることにしよう。幸い、ここにいるだけでレベルが上がることが分かった。何故そうなるのかまでは私の理解の外にあるがな。外に出た瞬間、経験値の増加が停止した。ここに居れば勝手にレベルが上がるのであれば都合が良い。この世界樹は何か特別な力を持っているのか?」
御明答、死者が姿を現すことの出来る霊力のようなものを持っている。
だが、それと自動レベルアップになんの関係があるんだ?
妙な所が思い通りにいかないな。
いるだけでレベルアップとかどこかの小説にもそんな設定あったなあ。
プチ流行してたから少し読み漁った思い出。
「それは俺にもよく分からないな。勝手にレベルが上がっていくことが不満か?」
こいつこのままだと引き篭もってるだけでレベル100突破するんじゃないのか。
にしてもレベル上限10000ってなんだよ…そいつ一体で世界が滅亡するんじゃないのか。
「不満ではない。寧ろ私だけレベルが他の者より先に上がってよいのかと疑問に思っているのだ」
なんだその謎の気遣い、知力系ってそういう事なのか?
「まあレベル低いうちって必要経験値も低いからさ、大した差じゃないって」
卵から孵ったのを即座に第二形態に進化させた時点で百歩くらい先にいるからな、微量の経験値なんて差は無いようなものさ。
俺の頼みは聞いてくれそうだから、人間とモンスターの創造にとりかかるとしますか。
「じゃ、俺もう行くんで」
「………」
直立の姿勢で後ろ向きに飛んでいく世界に、かける言葉も無く無言で見ていた。