表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(異)世界は掌の上で  作者: 倫理観
~創造神(仮)の研修期~
21/23

20 / 俺TUEEEE ?!

 

「なんだこれ。マズイ状況になっちまった」


 世界を円状に囲むペアードウルフたちが、唾を散らしながら絶えず吠える。

 その奥から、ペアードウルフたちに似た一回り大きなモンスターが現れた。


 長く荒れた灰色の体毛から、黄色い眼がのぞく。


[生物情報 簡易版]

 ――――――――――――――――――

 総合評価A+

 名前 ウルフベアード

 種族 群狼

 形態 第一形態

 Lv 63/10000

 ――――――――――――――――――


 こいつらのボスっぽい感じはするけど。

 ……でもなんか、100レベル越えてるの見た後だと、上限10000だし、大して強そうに感じないな。


「おい、人間」


「あい……なに!?」


 なんだ喋れるのか、驚かせんなよ。


「この者が呼んだのだが、危害を加えたのだな?」


 先程ティッシュを投げつけたペアードウルフが、ウルフベアードに近づく。

 顔を合わせているところを見ると、相手の眼を見てコミュニケーションを取っているのだろう。


「いや、違うかな。てかお前ら何しに来たんだよ。ここ住処なの?」


 ネクタイを直してピンと伸ばす。

 ウルフベアードは向き直って言った。


「いや嘘だな、この者が嘘をつくとは思えん。」


「え、まあ確かに俺たち初対面だけど、だからと言ってそいつの言い分を盲信するのは辞めてくれよ。フガフガされても何言ってっかよく分かんねーから、普通の言語で喋らせてくれ。相手に分かるように話すのはビジネスの基本だろ」


 自分の言葉に自分で首を傾げた。

 鼻がムズ痒い。


「ん?そもそもこれビジネスの現場でも何でもないな……異世界だし、対人外だし、それによってコミュニケーションが違うから……でもこれまでのモンスターは言語使えてたし、何かおかしいな、話が脱線してしまってる」


「ああ。私も何かおかしいと思っていたところだ。人間どもを襲う為にここに来たのに、いつの間にか人間の言い訳を聞いているのだ。許しを乞おうが命乞いしようが皆殺しには変わりない。大人しく経験値になれば苦痛を伴う殺戮はしない」





 鼻に指を突っ込んで、痒いところを掻いた。


「よく聞こえなかった。すまんがもう一回頼む」


「殺す」


 ウルフベアードがそう言って視線を送ると、ペアードウルフたちは一斉に世界にむかって吠え始めた。


 うるさいな……てかこいつら俺がぶっ飛ばしていいんだっけ?

 歴史を変えかねない局面ってどこの事を言うのか分からないな。


「きみ、逃げなさい!」


 2匹のペアードウルフが切り伏せられて、そこから大柄な男が姿を現した。

 ウルフベアードもそれを見て睨んだ。


「出たぞ。皆の者、奴を殺せ。同胞たちを殺した者だ!」


 世界には目もくれず、モンスターたちは一斉に男に飛びかかる。


「あれ、何か俺置いてかれて……」


「何やってる、早く逃げるんだ!ここは彼に任せておけ!」


 ボロボロの衣服を着た男に連れていかれる。


「ケイさん、戻られたのですね!その人は?」


「ああ、採集地まで行ったのに、やけにモンスターに出くわさないからな。もしやと思ったんだ。クレイが戦っているうちに、さあ、イルミもレミも早く家へ入るんだ!この人は……知らない」


 女性3人が家へ入っていく中、世界は戦っているクレイに目を向ける。

 襲いかかる多勢のモンスターに対し、上手く立ち回って捕まらないようにしているが……


「あいつ苦戦してるけど、何で俺たちは戦わなくて言いみたいなことを言うんだ?」


「戦わなくていいからさ!君は君で別のことが出来る、今はとにかく安全な場所へ行くんだ」


 名も知らない、偶然通りかかった人間までが戦いで無駄に命を落とす必要は無い……。

 しかし、クレイが苦戦しているのもまた事実だ。


「くっ……!クレイ、俺も加わる!」


 そう言うと、ケイは短剣を構えて突撃して行った。


 んー、なんだかなあ。

 ま、変に介入するのもな。




「どうした、同胞たちを大勢殺したと聞いたからもっと期待していたが、こんなものか?」


 クレイは大剣でウルフベアードの攻撃を防ぐのがやっとだった。

 ケイと背中合わせになり、身構える。

 ケイの額には傷が入っていた。


「無理はしなくていいんだぞ!」


「いいや今は無理する時だ。モンスターとまともに戦えるのなんて、お前と俺くらいだからよ……!みんなを守ってやらねえと!」


 ウルフベアードは毛を逆立てると身を引いて、ペアードウルフたちに視線を送る。


「守りたいものというのは、あの家に入って行った人間たちか?」


「まさか、やめろ!」


 クレイが慌てて大剣を振りかぶるが、横からペアードウルフからの突進を受ける。


「うぐ……くそ!マーたちが!」




「外で戦っているんだよね?大丈夫かな……」


 手を震わせるレミの手を、イルミの手が優しく包み込む。


「大丈夫、きっと……」


 途端に家が揺れた。

 3人は何事かと寄り集まる。

 木造の壁からミシミシと音が鳴り、いとも簡単に破壊された。

 ウルフベアードがゆっくりと中へ入ってくる。


「大丈夫?まさか、全滅だよお前たちも。私に勝てるわけがなかろう」


 鋭利な歯を剥き出しにて、3人を威嚇する。

 3人はわなわなと手を震わせているだけだ。


「お邪魔しますっと……ちょっとくつろいでいってもいいか?」


 世界は丁寧にお辞儀して、革靴を綺麗に揃えて中に上がった。

 混沌とした空気に、思わず真顔になる。


「……そんな所にも入口あるのか。なんつーか斬新……な造りだけど、これも異世界の人間の芸術ってやつかね?それと土足オケな感じ?」


 ………………


「あ、さっきの犬っころじゃん。どした?」


 反応の無いウルフベアードに近づいて、目の前で手を振ってみる。

 特に反応は無い。


 こんな所に剥製は流石にセンスを疑うな。

 よく出来てるけど。


 その場に足を組んで座ると、上から液体が落ちてきた。

 指につけると、粘性のもので糸を引いて伸びた。


「汚っ」


「とことん馬鹿にしてくれる!貪ってやるわ!」


 ウルフベアードが口を大きく開ける。


「スーツに付いて汚れ取れなくなったらどーすんだよ!クリーニング代出せよ!?」


 ウルフベアードが瞬きした刹那には、世界の拳が目の前まで迫っていていた。



 ドッゴオォン



 生まれて初めて聴く大音量に、半径500メートル以内に居た全ての人間とモンスターは、訳も分からず失神した。


 唯一クレイを除いては。


 ウルフベアードの頭部だけが綺麗に無くなっており、家の中に大量の血が飛び散っていた。

 スーツにもびっしりと返り血がついている。


「え……お!?やっべえこれ返り血が!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ