12 / ダンジョンマスター①
―異世界創造記2日目 6h13M―
「テル。」
「はい、何でしょう?」
「そろそろ、アレを創りたくないか」
「アレって……!」
「そう、ダンジョンだ!」
「やったーーー!」
テルは涙目になりながら、世界の胸に飛び込んだ。
「カットだ」
カメラマンに親指を突き立てて見せた。
「カット入りましたー!」
白色のスライムのような生き物が甲高い声でそう言うと、カメラを止めた。
「いや、何ですかコレは」
世界は満足気に答える。
「撮影だ」
「撮影だ、じゃないですよ。カメラとカメラマンまで用意して何の為にやってるんです?」
「いや何か……残しておくって言うのも、一つの楽しみになるんじゃないかと」
だからといってさっきのシーンは要らない。
「ダンジョンは創るんですね?」
「もちろんだ」
ダンジョンとは?
現実では、地下牢を意味し、城などの地下に造られた牢獄や地下室などの事を言うが、ここは異世界。
俺が創りたいのは、RPGの世界に出てくるような迷路状のモンスターの巣窟だ。
そこにはウヨウヨとモンスターが生息し、足を踏み入れる者に襲いかかる!
ゲームでは、トラップやちょっとしたギミックなんかも設置して、攻略者を飽きさせない造りが成されていた。
この世界においては完全に現実なので、あまりに鬼畜な造りにすると死者が多発する、なので……。
ひとまず最初のダンジョンは、簡単なものにすることにした。
もちろん、この先強いモンスターが出現するダンジョンも創りたいが、まずはここからだ。
「最初の村からかなり近いところにしましたね」
最初の村、名前では”はじまりの村”となっている所から約350メートルにある、大きめの岩をダンジョンの出入口にすることにした。
ここに来る途中に道も創っておいたので、冒険者は自然と足を運ぶこととなるだろう。
えーと、どれだっけ。
特殊エリアの生成……これか。
テルに教えてもらったとおりに、岩の面に触れて生成をタップした。
すると、宇宙空間のようなものが目の前に広がった。
「お、できましたね。早速ゲートに入ってみましょう」
そう言われて足を恐る恐る出してみると、触れた瞬間吸い込まれるように空間に飲み込まれた。
「おお!?」
すっげえゲームみたいにぐわんって感じの謎の感覚がある。
真っ暗だな……。
それと対照的に、ゲートが白く光っている。
俺が異世界を創造する前の無の世界とは真逆だな。
テルが横に並んだ。
「お気付きのようですね。そう、この世界も、一から作るのですよ」
「自由に広さも変えられるってことか」
「はい。まあ、ダンジョンを創る際にも必要なので、何部屋と創るだろうという想定で規模は小さめになっていますが、ダンジョンを例にあげるなら、ほぼ無限回廊並に巨大なものが創れますよ」
「なるほどなぁ…しっかし良く出来てんな、異世界。俺が突然願い事にしたのに、どうしてだろうな?」
テルと目が合わせると、照れくさそうに視線を逸らされた。
「どうしてでしょうねえ……」
「まっいいか。それじゃ、創るぞ」
「もうイメージ出来上がってるんですか?」
人差し指をこめかみに当てる。
「あったりまえだ。なんなら次のダンジョンの雰囲気も既に考えてあるぞ!?」
「それは頼もしいです」
イメージを映し出す。
やはりこの瞬間の楽しさだけは、他の何であろうと勝ることは出来ないな。
サイコーの趣味であり、仕事だ。
少しずつ、何も無かった空間に形成されてゆく。
「これは……洞窟ですか?」
「そうだ。やっぱり、これがダンジョンの王道な気がしてな。どうしても最初にやりたかったんだ」
ここを、後に大勢の人々が通ることになるわけだ。
「あー楽しみだなぁー!」
[メニュー]
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進捗状況 経過時間:6h23M
2日目
歴史情報 1MP「スライム 24Lv」
0MP「ゴーレム 26Lvが倒されました」
27SP「龍真 69Lv」
生物情報 9999件以上の生物反応
天地創造 タップすると詳細を開くことができます
生物創造 タップすると詳細を開くことができます
オプション タップするとオプション画面に移ります
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ゲートの光で若干の光量が差し込んではいるが、少し奥に行けば真っ暗で何も見えない闇の世界に引きずり込まれそうだ。
上から雫が落ちてきていて、その音がよく聴こえる。
外の温暖さとは一転して、洞窟の中は肌寒い。
「寒いですね……」
「そうか?……寒いのか」
口元を両手で覆ってゆっくり息を吐いているテルとは違い、世界は腕を組んで奥を覗き込んでいた。
松明を創造して、辺りを照らす。
もう片方の手にさらに創造して、テルに渡した。
「あ、どうもです」
テルは寒がっているのか知らないが、俺は何ともない。
そういえば異世界創造始めてから暑いとか寒いとか一切感じてないな。
人間モードの俺自身かなり強い感じったし、ステータスも見えなかったけど、「創造神だから」の一言で片付けられる事なんだろうか。
「暗すぎるな。光源でも散らばせておこう」
光るキノコとかありがちだよな。
地面や壁に生やすと、薄暗いくらいの丁度良い明るさになった。
「モンスター、創造します?」
「そうだな。あーでもその前に……」
一応創造と言っても、本当に何でも創れてしまうが、俺のこのメニュー画面の共有くらい出来ないものか。
俺が見ているメニュー画面をそのまま創造してもいいが、これ物質的なものじゃないから、永遠にその場に表示され続ける可能性だってあるわけだ。
創造神の権限が云々ってシロノさん言ってたな……。
権限の共有とか出来れば楽なんだがな〜。
オプションを開いて……。
オプションの所からさらに、その他設定という項目が見えるのだが、これまでは特に気にせずスルーしてきた。
ちょっと見てみるか。
『loading』
ん?
目の前に緑色の文字が大量に現れた。
「うお」
前後左右、どこを見ても文字ばかり……。
”編集”
”新たなスキル追加”
”連動設定”
”歴史改変”
これ、全部設定の項目か!
無数の項目がある…どうなってんだコレ。
細かい設定も多くあるのだろう、数百とありそうだ。
上部に目をやると、現れた文字が高速で流れては消えていっているのが見える。
瞬きをするより早く消えてゆく文字を幾つも追いかける。
読み取っていくうちに理解した。
「これ全部……お知らせか」
出身:名前がありません、と表示された後に続いてモンスターの名前であろうという文字、そしてその後には種族、系統、固有スキル、そしてステータス…何から何まで情報化されているんだ。
レベルアップの詳細もこと細かく情報として流れていく。
目に見えた情報を瞬時に脳に記憶し、それらを繋げてスロー再生をするかのように、目の前の光景をもう一度頭の中でゆっくりと流すことで正確な文字の読み取りを可能に出来る。
という俺の能力は、一生のうちに役立ったことがほとんどない。
でも、テスト前公式の暗記をする時にこれやったら、勉強ほとんどしなくても高得点がバカみたいに取れたって事はあったな。
短期記憶にしかならないから意味は無いが。
無数にあった項目のうち、”情報の共有”をタップした。
「うわっ何!?」
テルが鳩のように周りを見ている。
「どうだ、メニュー画面、見えるか?」
メニュー画面に戻した。
「あ…見えます。何か大量の文字が出てきたのでビックリしちゃいました。これ作ったのもボクです」
「お前暇すぎないか。ところで上に流れてるやつ読めてるのか?」
そう言うと、テルは手を振って呆れた表情になった。
「ああ、これは読めると思って作ったものではありませんよ。プログラムって感じの雰囲気が出るじゃないですか。完全に読むことが出来れば、この世界で起こる全ての出来事を知ることが出来ますが……」
………………雰囲気?
真面目に読んだのがバカみたいだな。
「お…そうか。ところで、項目の中に”エリアランク”って言うのがあるんだが、これってスポーンするモンスターのレベルに影響するのか?」
「”エリアランク”…どこにあるか分かんないですけど、だいたいあってますよ。指定したエリア内のモンスターのスポーン時における平均レベル、あと、そこを開いてもらえば分かると思いますが、上位種族や下位種族などの割合もエリアごとに決められるんです」
「つまり、これを応用すれば、迷路のようなダンジョンだけでなく、階数を増す毎に敵が強くなるダンジョンが創れるわけか」
テルはガッツポーズをして松明を振り回した。
「そうなんです!これはダンジョンだけでなく、外の世界でも様々なエリアをランク分けして、世界をより奥深くすることが出来るんです!」
平均レベル3桁に達するような場所もいずれは創りたいなあ……。
このダンジョンは、とりあえず平均レベル5にしておこう。




