表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
(異)世界は掌の上で  作者: 倫理観
~創造神(仮)の研修期~
12/23

11 / 俺TUEEEE ?


 審判が握りあった手を見て、腕を振り上げる。


「スタートォォ!!」


 手に力がこもり、二の腕が盛り上がる。

 2体のオークの手はピクリとも動かないが、当の本人たちの顔は真っ赤になっている。

 あまりに拮抗する試合にアジト内はワッと歓声があがるが、一向に終わる気配がない。


 どうやらモンスターたちはステータスという概念があることをよく分かってないらしい。


 例えば今の状況である。

 通常、種族が同じでも個体によりステータスは違うのだが……

 不思議なことに、試合前に2体のオークのステータスを見てみたが、何から何まで同じだった。

 つまり、どういうことかと言うと……


「不毛な試合だな」


「ステータスが同じだったって事ですか?」


 世界は深く頷き、試合に視線を戻した。

 ステータスが同じ、まではいいのだ。

 気力とか性格とかである程度差は出るはずだが、どうやら何から何まで一緒らしい。

 この2体のオークの試合は永遠に終わらない、それこそ誰かが中止させない限りは。

 試合は盛り上がっているが、実際は地獄の時間だ。


「すげぇマジでピクリとも動かねーぞ!」


「奇跡だ!」


 そう、ただの奇跡だ。


 終わらないことを知らない2体のオークは苦悶の表情を浮かべる。


「てめ…ふざけんなよ俺に合わせてんのか?」


「ぜ…全力だよ…クソ野郎!」


 片方が押され始める。

 見かねたテルが細い棒で椅子を少しずつ動かしているからだ。


「く…くっそお…ジリジリと!」


「どうしたぁ?状況が、変わってきたなあ!」


 変わったのは椅子の位置だ。

 そのままジリジリと追い込まれ、勝敗が決した。



「次は俺だな」


 椅子に座り首を回す。


「よお人間。お前の対戦相手は俺だぜ。」


 と、言われても代わり映えのしないオークなので誰が誰なのか見分けがつかない。


 ぼーっと見ていると、顔を指さして言った。


「俺だよ、見張りの!」


「あ、うん」


 見分けられねえよ。


「両者、準備はいいか!」


 場が静まり返る。


「スタートゥゥ!!」


 開始直後にオークの手の甲がテーブルについた。


「わぁ」


 どっと笑いが起こる。


「おいおい弱いなあ!」


「そんなので見張りやってたのかよ!」


「頼りねーぜ!」



 その後もトーナメントは続き……


「決勝戦、我らがオークキング様、対するは…人間!」


 オークたちみんなほとんど強さ変わらなかったぞ。


「おお人間よ、よく勝ち上がってきたな。俺様の部下にしてやってもいいぞ」


「それは絶対に断る」


 俺が大のオーク好きなら有り得たな。

 テーブルの下からテルがスーツを引っ張っている。


「どうした」


「いや、この試合負けたらどうするんですか!」


 世界はしばらく考えて、何か思いついたようにピースした。


「創造神モードに切り替えて逃げるから大丈夫だ」


「あ、確かにその手がありました」


 手を構え待っているオークキングに手を伸ばすが、またもや止められる。


「なんだよ、忙しいんだぞ」


「それ助かるの世界さんだけなんですけど!」


「そうだな……その時は、頑張れ」


 ガッツポーズして向き直った。

 まだ下で何か言っているが、無視して準備した。

 なーに、テルが勝てない相手じゃない。

 なんならここで俺の手が逝く可能性もあるのか。

 オークキングの手を握ると、脊髄反射ですぐに離した。


「何やってるのぉ手くらい拭いときなさいバカが!汗が気持ち悪くてかなわなっ、フッフッ」


 手のひらに息を吹きかけて、臭いを飛ばそうとした。


「あーあ臭いがとれないや」


「え………なんか、ごめんなさい」


 オークキングは勢いに負けたのか申し訳なさそうに手を拭いている。


 もちろんただの嫌がらせだ。


「行くぞ人間!」


 先程までの態度とは一転、鬼気迫る表情でこちらを見ている。


「よろしく」


「両者、準備はよ…ろし…いですか?」


 オークキングの威嚇で震えて声が出ないらしい。

 審判に意識が向いた瞬間だった。


「おい、しっかりし……」


「スタァァァトォォォ!!」


 えっ。


「引っかかったな人間。どのみちお前は逃がさん!下にいる坊ちゃんもな!」


 世界の手の甲があと一寸でテーブルにつくところで、ピタリと止まった。


「ん」


 オークキングは目を丸めて世界の手を押すが、全く動かない。


「あれ、何これ、固まっちゃってる」


 世界は真顔で見つめ、ゆっくと話し始めた。


「お前、卑怯な手を使ったな?」


 オークキングは世界の手を振り払おうとするが、世界は手をしっかりと掴んだまま動かせないようにしている。


「取れない、なんだこれは!?」


「どう頑張っても取れないって……」


 腕を振り上げて、オークキングを持ち上げる。

 床に思い切り叩きつけた。

 衝撃でアジト内が大きく揺れる。


「おまっ、オークキング様に何を!」


 壁がきしみ、ヒビが入り始めた。


「俺ん家の油汚れみたいだな」


 いや、待てよ。

 それだと俺が油になっちまうな。

 とするとこれは悪い例えだ。

 ヒビ割れた所から光が差し込み、アジトが音を立てて崩れ始める。

 テルはテーブルの下から様子を見ていた。


「なんで、何が起こってるんです!?」


「分からない。腕相撲大会で優勝したらよく分からんが崩れはじめた」


「何ですかそれ!ラスボス倒したら城が崩れるやつをスケール小さくしたみたいな!」


「詳しいな」


「出ましょう、危険です!」


 テルに引っ張られてアジトから抜け出すと、後方で残骸が山積みになっていた。


[生物情報 簡易版]

 ――――――――――――――――――

 総合評価A

 名前 テル

 種族 人類

 形態 子供

 Lv 76/10000

 ―――――――――――――――――――


「テル、お前レベルが2上がってるぞ」


「ボクは何もしてませんよ」


 残骸を見ていた2人だったが、すぐに振り返って歩き始めた。


「俺も、何もしてない」


「それはないでしょ」


 自分自身のステータスを確認することは出来なかった。

 自分の強さに無自覚な主人公や、謙虚すぎる主人公はいるが、どうやら俺はそのどちらにも当てはまらないらしい。


 求めている強さでは無かったが、俺はいつの間にか、強くなっていた。


 太陽が眩しい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ