11 / 俺TUEEEE ?
審判が握りあった手を見て、腕を振り上げる。
「スタートォォ!!」
手に力がこもり、二の腕が盛り上がる。
2体のオークの手はピクリとも動かないが、当の本人たちの顔は真っ赤になっている。
あまりに拮抗する試合にアジト内はワッと歓声があがるが、一向に終わる気配がない。
どうやらモンスターたちはステータスという概念があることをよく分かってないらしい。
例えば今の状況である。
通常、種族が同じでも個体によりステータスは違うのだが……
不思議なことに、試合前に2体のオークのステータスを見てみたが、何から何まで同じだった。
つまり、どういうことかと言うと……
「不毛な試合だな」
「ステータスが同じだったって事ですか?」
世界は深く頷き、試合に視線を戻した。
ステータスが同じ、まではいいのだ。
気力とか性格とかである程度差は出るはずだが、どうやら何から何まで一緒らしい。
この2体のオークの試合は永遠に終わらない、それこそ誰かが中止させない限りは。
試合は盛り上がっているが、実際は地獄の時間だ。
「すげぇマジでピクリとも動かねーぞ!」
「奇跡だ!」
そう、ただの奇跡だ。
終わらないことを知らない2体のオークは苦悶の表情を浮かべる。
「てめ…ふざけんなよ俺に合わせてんのか?」
「ぜ…全力だよ…クソ野郎!」
片方が押され始める。
見かねたテルが細い棒で椅子を少しずつ動かしているからだ。
「く…くっそお…ジリジリと!」
「どうしたぁ?状況が、変わってきたなあ!」
変わったのは椅子の位置だ。
そのままジリジリと追い込まれ、勝敗が決した。
「次は俺だな」
椅子に座り首を回す。
「よお人間。お前の対戦相手は俺だぜ。」
と、言われても代わり映えのしないオークなので誰が誰なのか見分けがつかない。
ぼーっと見ていると、顔を指さして言った。
「俺だよ、見張りの!」
「あ、うん」
見分けられねえよ。
「両者、準備はいいか!」
場が静まり返る。
「スタートゥゥ!!」
開始直後にオークの手の甲がテーブルについた。
「わぁ」
どっと笑いが起こる。
「おいおい弱いなあ!」
「そんなので見張りやってたのかよ!」
「頼りねーぜ!」
その後もトーナメントは続き……
「決勝戦、我らがオークキング様、対するは…人間!」
オークたちみんなほとんど強さ変わらなかったぞ。
「おお人間よ、よく勝ち上がってきたな。俺様の部下にしてやってもいいぞ」
「それは絶対に断る」
俺が大のオーク好きなら有り得たな。
テーブルの下からテルがスーツを引っ張っている。
「どうした」
「いや、この試合負けたらどうするんですか!」
世界はしばらく考えて、何か思いついたようにピースした。
「創造神モードに切り替えて逃げるから大丈夫だ」
「あ、確かにその手がありました」
手を構え待っているオークキングに手を伸ばすが、またもや止められる。
「なんだよ、忙しいんだぞ」
「それ助かるの世界さんだけなんですけど!」
「そうだな……その時は、頑張れ」
ガッツポーズして向き直った。
まだ下で何か言っているが、無視して準備した。
なーに、テルが勝てない相手じゃない。
なんならここで俺の手が逝く可能性もあるのか。
オークキングの手を握ると、脊髄反射ですぐに離した。
「何やってるのぉ手くらい拭いときなさいバカが!汗が気持ち悪くてかなわなっ、フッフッ」
手のひらに息を吹きかけて、臭いを飛ばそうとした。
「あーあ臭いがとれないや」
「え………なんか、ごめんなさい」
オークキングは勢いに負けたのか申し訳なさそうに手を拭いている。
もちろんただの嫌がらせだ。
「行くぞ人間!」
先程までの態度とは一転、鬼気迫る表情でこちらを見ている。
「よろしく」
「両者、準備はよ…ろし…いですか?」
オークキングの威嚇で震えて声が出ないらしい。
審判に意識が向いた瞬間だった。
「おい、しっかりし……」
「スタァァァトォォォ!!」
えっ。
「引っかかったな人間。どのみちお前は逃がさん!下にいる坊ちゃんもな!」
世界の手の甲があと一寸でテーブルにつくところで、ピタリと止まった。
「ん」
オークキングは目を丸めて世界の手を押すが、全く動かない。
「あれ、何これ、固まっちゃってる」
世界は真顔で見つめ、ゆっくと話し始めた。
「お前、卑怯な手を使ったな?」
オークキングは世界の手を振り払おうとするが、世界は手をしっかりと掴んだまま動かせないようにしている。
「取れない、なんだこれは!?」
「どう頑張っても取れないって……」
腕を振り上げて、オークキングを持ち上げる。
床に思い切り叩きつけた。
衝撃でアジト内が大きく揺れる。
「おまっ、オークキング様に何を!」
壁がきしみ、ヒビが入り始めた。
「俺ん家の油汚れみたいだな」
いや、待てよ。
それだと俺が油になっちまうな。
とするとこれは悪い例えだ。
ヒビ割れた所から光が差し込み、アジトが音を立てて崩れ始める。
テルはテーブルの下から様子を見ていた。
「なんで、何が起こってるんです!?」
「分からない。腕相撲大会で優勝したらよく分からんが崩れはじめた」
「何ですかそれ!ラスボス倒したら城が崩れるやつをスケール小さくしたみたいな!」
「詳しいな」
「出ましょう、危険です!」
テルに引っ張られてアジトから抜け出すと、後方で残骸が山積みになっていた。
[生物情報 簡易版]
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総合評価A
名前 テル
種族 人類
形態 子供
Lv 76/10000
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「テル、お前レベルが2上がってるぞ」
「ボクは何もしてませんよ」
残骸を見ていた2人だったが、すぐに振り返って歩き始めた。
「俺も、何もしてない」
「それはないでしょ」
自分自身のステータスを確認することは出来なかった。
自分の強さに無自覚な主人公や、謙虚すぎる主人公はいるが、どうやら俺はそのどちらにも当てはまらないらしい。
求めている強さでは無かったが、俺はいつの間にか、強くなっていた。
太陽が眩しい。




