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第一章 その五 召喚精霊達

レイラが召喚を発動するため、再び三人は書斎に集まった。

やはりここは召喚をする場でもあるらしい。

「それではこれより精霊の召喚を始める」

レイラがその言葉と共に部屋の中央の床に手をかざし、スキル名を唱えた。

「召喚!ザナドール」

召喚の方法は俺のイメージしていたものと違った。

俺が本来イメージしていた召喚は魔法陣があって、場合によっては召喚に必要な物を用意して召喚する形式だ。

しかし、魔法陣も無ければ捧げものや召喚に必要な器具等も一切ない。

レイラが手をかざしたのは本当に何もない只の床だ。

召喚という能力は何か特別なものではなく、他のスキルと同様に一つのスキルという位置付けなのだろうか。

レイラの掛け声と共に間もなく部屋の中央に何かが出現した。

化け物でも出てくるかと思ったが、予想とは違い小柄な精霊だった。

身長は百五十センチくらいだろうか。風貌や姿形は人間のそれに近い。

ただ大きな違いと言えば背中に黒い羽根が生えている事、そして瞳が赤い事だ。

「やあ、レイラ。今日は何の用だい?」

その小柄な精霊が言った。

精霊も普通に会話が出来るらしい。しかも思いの他フレンドリーで意外だった。

「実は聞きたいことがあるんだ。召喚にイレギュラーが発生して精霊ではなく、ここにいる勇人いう人間を召喚してしまったんだ」

「人間を召喚?聞いたことないなあ。確かにイレギュラーだ」

レイラが質問内容を説明し、精霊がその言葉に反応した。

「送還も試してみたんだが、効果がなかった。元の世界に戻したいのだが、何か方法を知っていたら教えてくれないか?」

「なるほどなるほど。それってこの世界の違う場所じゃなくて?本当に異世界?」

精霊が質問をすると、レイラが俺の方に視線を送った。俺から話た方が話が早いという事だろう。

「俺の元いた世界ではスキルも精霊も存在しないんだ」

「へえ~、精霊もスキルも存在しない世界か。それは面白い世界だな。確かにそんな世界聞いたことが無い」

俺の答えに精霊は興味深々に返答した。

「元の世界に戻す方法だけど、ごめん、今回は力になれそうにないなあ。オレも初めて聞く話だし。テールゲンの爺さんなら結構長生きしてるから知ってるかもね」

「ありがとう、ザナドール。それではテールゲンに聞いて見よう」

「おう、また何かあったら呼んでくれよ」

レイラが精霊にお礼を告げ、精霊は別れを告げた後、目の前から消えた。

精霊を帰す時はまた送還と唱えるのかと思っていたが、そのザナドールという精霊は自分から帰ったように見えた。

「送還する時ってレイラさんが唱えて送還するものと思ってたけど違うんだね」

「基本的には精霊は自分で帰る事が出来る。送還は強制的にこちらから送り返す時に使用するものだ」

「そうなんだ。さっきの精霊すごくフレンドリーだったけど、精霊ってみんなあんな感じなの?

俺のイメージだと、何か捧げものとかして依頼を聞いてもらうイメージだったんだけど」

「もちろん精霊にも人間と同じく色々な性格の精霊がいる。勇人殿の言うように精霊に何かを依頼する時は対価を支払うのが原則だ。精霊と人間は対等の関係だからな。精霊が欲しいものを提供し、こちらも精霊の力を借りる。先程のザナドールは例外だな。ザナドール自身人間に抵抗が無いのと、何と言っても私との付き合いが相当長いからな。利害関係というよりは友人関係に近い。精霊との関係も人間との関係と同じ。利害関係にしても友人関係にしても信頼関係で成り立っている。どれだけ多くの精霊と信頼関係を築くか。そこが召喚士の腕の見せ所だな」

俺の二つの質問に対し、レイラは答えた。

やはり対価が必要という点は当たっていたらしい。そんなに都合の良い話は無いという事だ。

「はい、私も師匠のようにたくさんの精霊達と関係を築けるように頑張ります」

レイラの言葉にミーナが反応した。

「ミーナはまだ若いからな。これから徐々に増やしていけば良い」

「はい、師匠!」

レイラの激励に対し、ミーナが答えた。

「さっき、人間の召喚はイレギュラーって言ってたけど、召喚って基本的には精霊だけ?」

俺は召喚といえば化け物が出てくるイメージがあった為、レイラに聞いてみた。

「召喚は基本的には精霊か魔獣の二択になる。先程言ったように人間の召喚はイレギュラーだ。ただ魔獣は扱いが難しく、身に危険が及ぶ可能性がある為、私は召喚は精霊のみに限定している」

「私も、召喚は精霊だけです」

レイラの回答に続き、ミーナも答えた。

この世界に来て魔獣という言葉が初めて出てきた。

やはり魔獣がいるのか。精霊がいるとすればもちろんモンスターもいるんだろうなあという認識はあったが、はっきり言われるとショックだ。

下手をすると魔獣に喰われて終わりというバッドエンドもこの世界では大いにあり得るわけだ。

「話が少し反れたが本題に戻そう。先程ザナドールが言ったように、次はテールゲンに聞いて見よう」

レイラが言った。

テールゲンという聞きなれない名前が出てきたがこれも精霊だろうか。

そして、再びレイラが部屋の中央に手をかざし、唱えた。

「召喚!テールゲン」

レイラの言葉と共に新たな精霊が出現した。

その精霊は先程の小柄な精霊と違い、横にも縦にも大きな体をしていた。

そしてそれは人間の形ではない。同じ精霊でここまで違うものかと、ザナドールとの大きなギャップを感じた。

テールゲンという精霊は一言でいえば樹木の塊だ。大量のツタで覆われており、どこに目があってどこに口があるのか、もはやわからない。

「レイラか。何用だ」

テールゲンが言った。

「一つ聞きたいことがある。他の精霊に聞いて見たがわからなかった為、テールゲンなら知っていると思い召喚させてもらった」

「そうか。わしの知っていることであれば答えよう」

テールゲンの承諾を確認した後、レイラは先程ザナドールに話した質問を投げかけた。

「ほほう。人間が異世界から転移して来たとな。これはまた珍しい事例だな。ただ、過去その様な事が無いわけではない」

さすがこの爺さん、ザナドールが推薦するだけある。俺と同じような事例を知っているらしい。

「そうか。それはどんな状況だったのだ?そしてその転移してきた人間は元の世界に戻れたのか?」

レイラは俺の聞きたかったことをそのままテールゲンに聞いた。

「すまない。私が知っているのは、こことは異なる世界から転移して来た人間がいるという事だけだ。

実際にその者にわしが召喚をされたわけではなく、あまり接点もなかったのでその者とは多くを語っておらん。従ってその者が元の世界に戻れたかどうかはわからん」

「その転移して来た人ってどんな人だった?」

俺はテールゲンに聞いて見た。

「若い人間の男だった。常に脇に剣を帯刀していたな。剣の腕が立つとは聞いていたが、それ以上に詳しい情報はわからん」

脇に剣を帯刀。仮に俺と同じ世界だとしたら、日本なら武士。西洋なら騎士だろうか。そもそもどの時代の人かもわからないが。

「力になれなくて済まないな、レイラ。本来なら対価を頂くところだが、今回は何も残せていない故、対価は不要だ」

「いや、この情報だけで十分だ。ありがとうテールゲン」

テールゲンは申し訳なさそうにレイラに伝え、レイラもそれに応え、礼を述べた。

そしてテールゲンとの質問タイムも終わり、テールゲンは帰っていった。

「勇人殿。有益な情報が得られず申し訳ない」

レイラが俺に言った。

何か手掛かりがあるかもしれないと期待を胸に膨らませていたが、結局精霊に聞いても元の世界に戻る方法はわからなかった。

「いえ、レイラさん。俺なんかの為に色々してくれてありがとうございます」

俺は笑顔でレイラに答えた。

現時点で残された手掛かりは大神殿しかない。

「やはり大神殿に行ってみるしかなさそうかな……」

俺はレイラとミーナに言った。

やはり、このままこの館に住まわせてもらっても何も進展はなさそうだ。何よりも見ず知らずの俺を住まわせてもらうのは気が引ける。

俺の初期装備とも言えるこの『覚醒』スキル一つで何とかやっていくしかないのかもしれない。

そんな事を考えながらも、レイラとミーナの前で不安が表情に漏れてしまっていた。

「確かに何も手掛かりがない以上、まずは勇人殿は大神殿に行くのが良いだろう。大神殿はかなり遠方にある為、長い旅になる。勇人殿も不安だろう。ミーナ、せめてこの近くの街まで勇人殿を案内してあげてくれないか」

「はい、師匠。喜んでご案内させて頂きます」

レイラが俺を気遣い、そしてミーナは笑顔で快く引き受けてくれた。

「レイラさん、ミーナちゃん、本当見ず知らず俺にここまでしてくれてありがとう。いつか恩返しさせて下さい」

本音を言うと、大神殿まで二人に付いて来て欲しかったがさすがにそうもいかないだろう。

どこの者ともわからない俺を一晩泊めてくれて、街まで案内してくれるなんて奇跡に近い。

もし俺を召喚した召喚士がここまでお人好しじゃなかったら初日に館を放り出されていただろう。

俺は一先ず、ミーナと一緒にこのコロの村から一番近い街を目指す事になった。

最後までお読み頂きありがとうございました。拙い文章ですが感想など頂けると幸いです。

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