第一章 その一 初めてのスキル覚醒
俺のスキルを証明する為、早速バナンという村人の家に三人で行く事になった。
異世界転移後初めて来た書斎の様な質素な部屋を出るとそこは二階建ての大きな館の中だった。
部屋は複数あり、この広い館にレイラとミーナの二人で住んでいるという。
館は西洋風のつくりになっていて、ファンタジーもので馴染のあるレトロな雰囲気が漂っている。
俺はレイラとミーナに館の入り口まで案内され、館の外へ出た。
館の外の景色は見渡す限り草原や山々があり、一言でいえば田舎の風景だ。さすが村の中にあるというだけある。
レイラとミーナに案内されるまま小道を歩くこと十五分。農作業をしている男性が遠くから見えた。そして畑の近くに民家も見える。
「今あそこで農作業をしているのがバナンだ」
レイラが農作業の男を指して言った。バナンの家は意外と館の近所にあった。
バナンの職業は農家らしい。『識別』というスキルを持ちながら職業は農家。
『識別』というスキルで何か商売は出来なかったのだろうかという疑問が湧いて来る。
近くまで歩いてきたところでバナンの方もこちらの三人に気付いた。
「やあバナン、作業中すまない。後で少し時間をもらえないか?」
「おう、レイラ。今ちょうどきりの良い所だから大丈夫だぜ。何の用だ?」
レイラが先にバナンに声をかけ、バナンがそれに答えた。
「実は彼のスキルを識別してもらいたいんだ」
レイラは俺の方を横目で見ながらバナンに依頼の説明をした。
「勇人と言います。よろしくお願いします」
俺はバナンに挨拶をした。
「こちらこそよろしくな。よし、わかった。じゃあとりあえず家に移動しよう」
バナンの案内で三人は先程遠くから見えた民家、バナンの家に移動した。
「あらレイラさんにミーナちゃん、いらっしゃい」
家の入り口で女性が出迎えていた。
「こんにちは、モラさん」
ミーナがモラという女性に挨拶をした。
「女房のモラだ」
バナンがモラを指し、俺に紹介した。
挨拶もそこそこに家の中へ移動し、早速バナンに俺のスキルを見てもらうことになった。
「それじゃあいくぜ。識別!」
バナンが俺の目の前で手をかざし、そう唱えた。
「スキル名は『覚醒』。ランクはD以上。能力は、最大Dランクまでの対象者の潜在スキルを覚醒させる事ができる。俺の『識別』スキルがDランクだから、確認出来るのはここまでだ」
どうやら識別スキルもランクによって出来る事と出来ない事があるらしい。
「あれ?対象者に覚醒させたスキルを自身も習得する事が出来るっていう能力もあるはずなんだけど?」
「ああ、俺が確認できるのはあくまでDランクだった場合のスキル内容だけなんだ。おそらくその能力はCランク以上にならないと使用出来ないんだろうな。ちなみに俺は『識別D』だが、もっとランクが上がれば、まだ覚醒していない人の潜在スキルまで識別する事が出来るようになるんだぜ」
俺はバナンに疑問を投げかけ、バナンがそれに答えた。
スキルと言っても単純ではないらしい。同じスキルでもランクによって使用できる能力が違ってくるわけか。
「これで勇人殿のスキルが証明されたな。バナン、ありがとう」
レイラがバナンに礼を述べた。
「いや、良いってことよ。レイラにはいつも世話になってるからな」
俺のスキルが証明されて少しほっとしたが、ちょっと待ってほしい。俺はこのスキルをまだ一度も発動させていない。
「え?ちょっと待って。でも俺、このスキルまだ使用して成功したことないんだけど?」
「誰かスキルがまだ覚醒していない人で試すしかないですねえ」
ミーナが言った。
「なら、モラで良いんじゃないか?モラはまだスキルが覚醒されてないからな」
「私?私で良ければ」
バナンの提案にモラが承諾をした。
「それではお言葉に甘えさせて頂きます」
俺は初のスキル覚醒をモラで試すこととなった。
ミーナに試した時と同じようにモラに向けて手をかざし、こう唱えた。
「覚醒!」
直後に脳内に知識が流れ込んでくる。――スキル名『烈風E』を習得。風を呼び起こす。――
「今、多分スキルが覚醒したわ。試してみてもいいかしら」
「どんなスキルだ?」
モラが確認を取り、バナンがスキルについて質問をした。
「覚醒したスキルは『烈風E』ですよね?風を呼び起こす事が出来るっていう。俺も今習得しました」
俺はバナンの質問に対して代わりに答え、モラに同意を求めた。
「じゃあ一緒に試しましょうか。風ですから、あそこのカーテンで試してみましょう」
初めてのスキル試しが人体実験だとさすがにまずいと判断したのだろう。俺とモラはカーテンに向けてスキルを発動させた。
「烈風!」
カーテンが揺れた。だがその程度だ。威力としては扇風機のちょうど真ん中の出力くらい。
人体には影響はないどころか、虫も倒せない貧弱スキルである。
初めて習得したスキルとして烈風というスキル名に期待を感じていたが、俺の期待は見事に打ち砕かれた。
圧倒的に戦闘向きのスキルではない。これなら絶対素手で殴った方が早い。
「おお、すげえスキルだな兄ちゃん。その覚醒ってスキルは。本当に覚醒させたスキルを自分も使えるんだな」
バナンが驚きの表情とともに言った。
「これで少なくとも覚醒スキルのランクはC以上という事が証明されたな」
レイラが言った。
「兄ちゃんモラのスキルを覚醒させてくれてありがとうな。夏日の農作業中にきっと役に立つだろうよ」
「いえいえ、こちらこそ。俺も習得出来たし。お互いさまってことで」
俺達はバナンとモラに別れを告げ、レイラの館に戻って来た。
最後までお読み頂きありがとうございました。拙い文章ですが感想など頂けると幸いです。