プロローグ
初めて小説を書きました。つたない文章ですが、最後までお読み頂けると幸いです。また、お手数ですが感想など頂けると嬉しいです。
目が覚めたら突然、会ったことのない美女と美少女が目の前に立っていた経験はないだろうか。
にわかには信じがたいだろうが、今まさにその状態だ。
俺の名前は八坂勇人。自慢じゃないが何の取りえもない引きこもりのニートだ。
歳は成人を迎えたばかりだが、特に何が起こるわけでもなくただ日々を消化していた。
そんな俺の無機質な日々にありえない事が起きた。
昨晩、自室で就寝したはずの俺がジャージ姿のままどこか別の場所に転移していたのだ。
周りを見渡してみると、ここはどうやらどこかの家屋の一室らしい。そして目の前に女性が二人。
本棚に書籍がたくさん収納されている事以外は家具等はあまりないシンプルな部屋だ。
「あの……どちら様ですか?」
お互い初対面だからか絶妙に気まずい空気が一定時間流れたあと、ついに美少女が口火を切った。
まさに俺が言いたかった台詞を先に美少女に言われてしまった形だ。
「あ……あの、俺、勇人って言います。はじめまして」
俺は目の前の二人の女性にどもりながら、精いっぱいの自己紹介をする。
「どうやら失敗のようだな」
俺の自己紹介を無視して美女が残念そうにつぶやいた。
「私は召喚士の修行をしているミーナと言います。実は今まさにその召喚実験をしていたところ勇人さんが召喚されてしまったというわけです……」
美少女ミーナが少し戸惑いを見せながら笑顔でそう答えた。
ミーナは焦げ茶色の長い髪を三つ編みにした可愛らしい少女だ。垢抜けていない素朴な雰囲気がある。
例えて言うなら田舎の学校のクラス一番の美少女という印象だろうか。
身に着けている藍色のローブが良く似合う。
「え?は?召喚された?」
あなたは召喚されましたと言われて、はいそうですかとすんなり納得できる人が果たしているだろうか。
俺は戸惑いを隠せず、ミーナに疑問を投げかける。
召喚と言えばよくRPGなどでモンスター等が召喚されるよくある魔法だ。それが魔物ではなく自分が召喚される日が来ようとは。
「ここはいったいどこなんですか?」
俺は先程笑顔で答えてくれたミーナに聞いた。
「ここはコロの村にある大召喚士レイラ様の館です。こちらにいらっしゃるのが私の師匠のレイラ様です」
ミーナが隣の美女レイラに視線を移し、そう答えた。
ミーナとは対照的にレイラはまさに大人の女性という印象だ。歳は俺よりかなり上だろう。
ミディアムヘアの髪にすらりと伸びた身長。黒のローブを身にまとっている。
召喚というキーワードが出て嫌な予感がしているが、一応二人にこの質問を投げかけてみる。
「ここって、日本ですよね?」
「ニホン?聞いたことがないが、それは地名か?」
俺の質問にレイラが聞き返す。隣のミーナも首をかしげている。ビンゴ。予想は的中した。
おそらくここは本来の世界とは異なる異世界というやつなのだろう。
異世界に召喚されたという夢みたいな話が今目の前で起こっているわけだが、問題は元の世界に戻れるのかという事だ。
なぜなら元の世界に戻れずに異世界で一生を終えたゲームやアニメの主人公を俺は何人も知っているからだ。
「俺は日本という所に住んでるんです。昨夜、自分の部屋で寝床に付いたところまでは覚えてるんですが、その後はついさっき暗闇の中で誰かの声が聞こえて……、気付いたらここにいました」
「挨拶が遅れた、すまない。私は召喚士をしているレイラという者だ。その話、詳しく聞かせてもらえないか」
俺は寝床についてからここに転移するまでの短い時間で起きた事をレイラとミーナに話した。
「まず、真っ暗闇で何もない空間で誰かの声が聞こえたんだ。いや、うまく言えないけど聞こえたというよりは直接脳内に呼びかける感覚だった。聞こえた声は一言だけ。最初は何の言語かわからなかったけどなぜかその意味がわかった。聞こえた言葉は――『覚醒』――。声から性別はわからなかった。その言葉の直後に脳内にある知識が流れ込んできた。その知識とはこうだ。――スキル名『覚醒S』を習得。対象者に最大Sランクまでの潜在スキルを覚醒させる。また、対象者に覚醒させたスキルを自身も習得する事が出来る――」
ここまで説明したところでレイラとミーナの表情が一変した。
「覚醒スキル。しかもSランクとは。これはまた稀に見る希少なスキルだな」
レイラが驚きの表情とともに言った。
「このスキルの発動方法も知識として脳内に流れてきたんだ。そもそもスキルって何だ?」
「どこから説明すればよいかわからないので、最初から説明しよう。人にはそれぞれ必ず一つ潜在スキルというものが備わっている。その潜在スキルが覚醒する事でスキル、つまり能力を使用出来るようになる。備わっているスキルは人によって千差万別だ。例えば私やミーナであれば『召喚』。精霊等を召喚出来るスキルだ。潜在スキルを覚醒する方法は二つ。一つは覚醒スキルを持った覚醒士に覚醒してもらう方法。こちらの方法は覚醒士が希少な為、覚醒士を探す手間がかかり、また覚醒に要する費用が高額となる。もう一つの方法は自力で覚醒する方法。こちらは難易度が非常に高い。というのもそもそも自力で覚醒する法則が発見されていない。大げさな話、覚醒は結果論という事になる。だから覚醒士を探して、対価を支払って潜在スキルを覚醒させる方法が現実的だろう」
レイラの説明を聞き、出てきた疑問を投げかけてみる。
「なるほど。じゃあこの覚醒ってスキルはまだ覚醒していない人のスキルを覚醒させる能力ってことだね。ところで、スキルって絶対一人一つまで?二つ以上スキル持っている人っていないのかな?あと潜在スキル持ってない人っているのかな?」
「まず、誰しも必ず潜在スキルは備わっている。どんな軽微な能力であっても。そして潜在スキルは必ず一人一つだ。例外は過去存在しない。ただ二つ以上のスキルを使用するという話となれば別の話だ。先程勇人殿の話にあったように、例えば覚醒したスキルを自分も習得できるといった、スキルによって後天的に習得したスキルであれば一人の人間が二つ以上のスキルを使用する事は可能だろう。ただ、一人で二つ以上のスキルを使用する人間は希少な為、ほとんど出会う機会はないだろう」
レイラの説明でスキルについて少しずつわかってきた。どうやらこの『覚醒』というスキルはとんでもないチートスキルらしい。
大方の察しはついているがもう一つ気になる点、ランクについて聞いてみた。
「じゃあこのランクSっていうのはどういう意味?」
「スキルには能力の威力がレベルによって分かれている。これがランクというものだ。S、A、B、C、D、Eの6段階に分かれ、最大レベルがSランク。最小レベルがEランクだ」
「師匠は召喚スキルのSランクなんですよ!師匠は世界一の召喚士なんです」
しばらく俺とレイラの話を見守っていたミーナが話に入ってきた。
「じゃあミーナさんは何ランクなんだい?」
「ミーナで良いですよ。私は……Cランクです。師匠には一生かないません」
ランクについて気になる点があったので再度レイラに聞いてみた。
「ランクって昇格できるものなの?」
「スキルのランクは基本的には潜在スキルのランクでほぼ全て決まる。例えば潜在スキルが召喚Eであれば、覚醒しても召喚D以上の能力は使用できない。ただ例外はある。限界突破というものだ。限界突破が発動すれば、例えスキルランクがEであってもD以上に昇格する事が出来る。ただこれも自力覚醒と同じく、発動法則が未知の為、難易度は非常に高い」
なるほど、生まれた時から備わった素質に大きく左右されるというわけか。何か元の世界とリンクするなあ。
話の流れでスキルの話に夢中になってしまったが重要な本題に入る。
「ありがとう、スキルについては良くわかったよ。ところで俺、元の世界には戻れるんだよね?」
俺は期待を込めてレイラの方を見たが、うつむいて何か言葉発する気配が無い。無言。
俺は急に不安になってきた。異世界で一生を終えたRPGの主人公が脳裏をよぎる。
いや、RPGの主人公ならまだ良い。俺は一般人だ。モブだ。舞台裏でひっそりとバッドエンドを迎えていてもおかしくない存在だ。
異世界で野垂れ死にとかまっぴらごめんだ。
「……すまない。今回の召喚はイレギュラーでね。私も未経験ゆえ、元の場所に送還できるかどうかはわからない」
レイラが力なく言った。
「え……。マジですか?」
「とりあえず、ダメ元で通常の送還方法を試してみよう」
そう言ってレイラは俺に手をかざした。
「送還!」
レイラの送還という言葉が室内にこだまする。しかし、しばらく待っても元の世界に戻る気配はない。
「やはり、イレギュラーな為、送還は出来ないようだ。今回のイレギュラーにはその暗闇で聞いたという声に原因があるかもしれないな」
俺の願いも空しく、レイラから俺氏終了のお知らせが告げられた。
ジャージ姿で持ち物何も無し。一人で異世界転移。詰んでる。
一昔前のRPGでも銅の剣くらいは初期装備で持たせてくれそうだけど、装備無し、お金無しでどうしろと。
せめてもの救いはこの『覚醒』スキルとやら。まだ使った事が無いのでこれも実はフェイクというオチも有り得る。
「ええー!マジで戻れないの?お金も持ち物も無しでどうやって生活していけば良いんですか……」
とりあえず今頼れるのは異世界転移後最初に出会った人物、レイラとミーナしかいない為、二人に泣き付いた。
「勇人殿をここに召喚してしまったのは私の落ち度でもある。行く当てが無いのであれば一先ず今晩は宿を貸そう」
「神様、仏様!ありがとうございます!」
一先ずという言葉に引っかかるが、俺はレイラの提案に礼を述べた。
「ただ、勇人殿の言っていることが本当か確かめさせてほしい」
「どうやって確かめるんだい?」
「このコロの村には所持しているスキルを識別できる識別スキルを持ったバナンという男がいる。バナンの所に行って、勇人殿に覚醒したスキルを確認してもらおう」
村人にもスキル持ちがいるのか。どうやら本当にこの世界は一般人でもスキル所持が当たり前なんだな。
「OK、わかった。ただその前にミーナちゃんに覚醒スキルを使ったらどうなるのか試してみたいんだけど?」
レイラは既に召喚スキルSランクだから意味はないだろうが、もしかしたらミーナはBランク以上に昇格出来るかもしれないと考え、レイラに提案した。
「私は潜在スキル自体が元々ランクCなので、覚醒スキルを使用しても変わらないと思いますよ」
まさかの潜在スキルの限界という壁。
それでもダメ元で試してみることにした。
俺はミーナに近付き、手をかざしてこう唱えた。
「覚醒!」
しかし、何も起きない。あの時みたいに新たなスキルを習得したという情報も入ってこない。試しにミーナに聞いてみた。
「ミーナちゃん。何か変化あった?」
「いえ、何も変わりません」
「勇人殿は?召喚Cスキルは習得出来たのか?」
ミーナの回答の後、レイラが俺に質問してきた。
「いや、変化無しだった。やっぱり覚醒した相手のスキルと同じスキルを習得できるっていうのは、相手が既に限界まで覚醒しきってたら効果は無いってことらしい」
意外と万能じゃないんだなこのスキル。とんでもないチートスキルかと思いきや、少々クセのあるスキルだった。
最後までお読み頂きありがとうございました。また、多くの小説の中から本作品をご覧頂き大変ありがとうございました。頼りない主人公ですが、今後の主人公の成長を生暖かい目で見守って頂けると幸いです。