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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第四章 異世界の星
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86話 灰髪

 ぽかんと、空を見上げていた。

 見上げる――というよりかは、見ていた。

 体を楽にし、仰向けに寝転んだ状態で空を見ていた。


 体に力は入らない。入る余地すらない。

 何故なら、四肢は千切れ、どこかへ飛んでいってしまっているから。

 思考も乱れ、正常な考え方は出来そうにない。

 何故なら、頭が割れて変な味がするから。


「……」


 だが、今回の窮地で、走馬灯を見たり、「死ぬ」と確信はしない。出来ない。

 だってまだ、生き返ったばかりだ。

 リリィや他の人たちの手によって、レヴィはこの世へと舞い戻った。それをこの短時間で無駄にするなど、考えられるはずもない。


 ただ、彼女らにしてやれたことは、ここで死なせないこと。

 戦っている間に彼女らを逃せることが出来たのは、不幸中の幸いだろう。


 これ以上にないくらいの穏やかな気持ち、それと、これ以上にないくらいの激痛が千切れた四肢を抉り、ふたつが相まって異常なくらいの心地良さを、レヴィの心の中に作り出している。


「ミーナ、強くなったね。いや、元々強……」


 ミーナの剣さばきには、素直に賞賛の言葉を零す。

 だがその時、理性を失った様子のミーナは、レヴィの上に跨り、剣を――ü:レーベンを逆手に持ち、レヴィの胸に剣先を押し当てた。


 鋭利な刃先が、胸の皮膚を抉った時、言葉は詰まり、彼は心に覚悟の一文字を浮かべる。


「オマエの……所イで……」


「……ごめん。あの時は――」


「うるさい。さっさと死ね」


 弁明をしようとするが、ミーナはそれを許さない。許してくれない。

 瞳に宿った無機質な殺意が、レヴィの据えた瞳を射抜く。


 恐怖に駆られるよりも先に、自分を生き返らせてくれたリリィたちへの申し訳なさ。そして、あの時――第一次征伐戦で、ミーナを守ることが出来なかった自分への不徳。それらが一気に押し寄せる。


「イルマさんは、いいの?」


「……は?」


 唐突に名前を出した。

 「彼」か「彼女」かは知らないが、その人の名を出せば、必ずミーナは動揺するはずだと、そう確信したから。

 レヴィが知るはずもない名前に、彼女は戸惑い、呆けた声を零した。


 その一瞬だけは、母、アルストロメリアに操られ、押し殺していた感情が垣間見えた。

 温かいような、寂しいような、渦巻く感情を瞳に映した。


「はっ」


 だが、それは刹那の出来事。

 全てを吹っ切ったかのように、ミーナは瞳に無機質な殺意を宿し、再びレヴィの胸にレーベンを押し当てた。

 先程よりも力のこもった柄の握り方に、刃が震える。


「イルマ? そんなやつ知らない。ミーナは、お前を殺せればそれでいい」


「ミーナ、正気に戻って」


 レヴィの呼びかけにも応じず、逆に残虐な笑みを彼に向ける。


「正気だって? あの時、お前たちに声をかけられなければ、ミーナは死ななかった。あんな怖い思いもしなくて済んだ。それを……お前はどうでもよかった事だって、そう言うのか?」


「違う。あれはどう考えても僕の所為。そんなのは分かってる。でも、それをグチグチ言い合ったって仕方ないから。……だから、あの時のことは謝る。でも、だからって僕は死ねない」


 言い終わるや否や、レヴィの四肢は再生を始めた。

 仰望師団の邪精霊の力は、死に、戻ってきたことによってリセットされているはずだ。

 ならばこの力は天性のものなのか。


 ミーナを押し退け、復活した二本の足で立ち上がるレヴィ。


「僕は、ここで君を止める。ずっと黙って見てるだけの母さんも、絶対に連れ戻す」


「よし、俺たちも加勢だ」


 レヴィが心の内を全て曝け出すと、灰髪の男が、どこからともなく現れた。

 それはまるで白狼のような、そんな印象を醸し出す男。

 片手には秘剣を持ち、後ろには――。


「……騎士団か」


 兵士が後に続いていた。


 強く押し退けられたミーナは、それに抗うこともなく後退し、無い勝ち筋を見出そうとした。だが、騎士団の兵士は皆が皆、全員が全員、十人で敵城を攻め込んで陥落させることが出来るほどの手練。

 それに加え、灰髪の男の手に握られた秘剣。それを使いこなすには、余程の力が無いといけないとまで言われる、まさに「秘剣」だ。


 正直、加勢に来た灰髪とレヴィが仲間割れをしない限り、ミーナは勝てない。

 レヴィだって、満身創痍になりながらやっと勝てた相手だ。プラスアルファすると、レヴィの再生能力。これがどれほど、ミーナ側にとって悪影響になるか分からない。


 二十を超える兵士と秘剣使いの灰髪騎士、再生能力の馬鹿げた国王。もし、兵士の中に治癒魔法を使うことが出来る者がいるとするなら――そこで目を抑えて痛みを耐えているリルムを回復させることが出来たとするなら。勝ち目など、皆無だ。


「降参してくれるなら、こっちも悪いようにはしねぇよ?」


「降参……降参……降参? はっ、ミーナが倒されても、アルストロメリア様には勝てないよ? 逆にそっちこそどうする? 降参する?」


 あくまで反抗的な態度に、短気な灰髪は青筋を立てて兵士たちに言った。


「お前らは黙って見てろ。仰望師団には返しても返しきれねぇ程の恨みがあるからな……」


「あ? やる気なの? それな――!?」


 ミーナもまさか、とは思っただろう。

 こんな負け方をするとは――と。


 灰髪が指を差した。

 その方向は、勿論ミーナの方向だ。

 見えない何か――ではなく、まさに超常現象とでも言えようか、ミーナは膝から崩れ落ちた。


「かっ……はっ……」


「どうよ? 俺の……魔法っつーんかな? 麻痺っぽいやつ。まぁいいや。どうする? 降参か?」


 為す術もなく、倒れ伏すミーナに、秘剣を翳して脅す灰髪。

 ミーナは見開いた双眸で、何かを訴えかけようとするが、声は出ない。

 勿論、体を動かす事も出来ないから、ジェスチャーで思いを口に出すことも出来ない。


「騎士くん」


「んー? あ、お、王様! すみません! 俺! じゃなくて……私は……えーっと……えーっと!」


 さっきまでの威勢の良さはどこへ行ったのか、灰髪は冷静さを失って、レヴィの前に跪く。

 その様子に、レヴィは彼の手を取り、立たせると、宥めるように灰髪の騎士に言った。


「この子は僕の友達なんだ。取り敢えず、捉えといて。扱いは丁寧に、優しくしてくれると嬉しい」


「……あ、え……? あ、はい、分かりました……」


 それだけ言うと、レヴィはアルストロメリアの前へと歩み寄った。

 彼女の目には、懐かしい我が子を見れた嬉しさと、仰望師団の長として、対処しなければいけないという思いが渦巻く。


 後者ならば、後続の軍がいる故、楽しくて楽な戦闘にならないことは目に見えている。

 だから今は――。


「またね、レヴィ」


「うん、ばいばい、母さん」

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