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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第四章 異世界の星
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85話 会いたかった

 不完全に崩れ、不完全に再生した白い世界――「白い箱」で、ひとつの対話があった。


 何の物音もせず、彼は現れた。いつの間にかこの場所に立っていたレヴィと同じくして、彼もまた、どうして、どうやってここまで来たのかを覚えていない。


 少しの距離を空けて立ち竦む彼らは目線を合わせ、申し訳なさそうに目を逸らすと、再び目を合わせ、笑った。

 死んだのかと、二度と会えないのかと、お互いそう思っていたから。


「よぉ、久しぶりだな。レヴィよ。変わってねぇな。俺もお前も……この白い場所も」


「そうだね。君のその、無駄に強がる所、嫌いじゃなかった」


 涙を堪え、目頭に力を入れていたヴェリュルスだが、彼の温かい言葉に負けたのか、涙腺という結界が崩壊する。

 とめどなく涙が溢れ、それとともにくしゃくしゃに崩れる表情を元に戻せない。


「うっ……レヴィぃ……レヴィ……」


「泣きたいのはこっちの方だよ。君も随分泣き虫になっちゃったね……」


 守れなかった。ふたりの力を持ってしても、レヴィとアリスのふたりともを救うなんて、正味難しい話だ。

 だが、レヴィは彼を許し、咎めない。むしろ、咎める必要も、意味も、そうしたいとすら思わない。彼のおかげで、最初の征伐戦の死者が最小限に抑えられたのだから。


 これでもかというほど涙を流しても、ヴェリュルスの涙は止まることを知らなかった。

 彼に膝をつかせ、同じように自分も屈み、彼を抱きしめた。


「ありがとう、本当に、僕の代わり……って言っちゃダメだけど、アリスを守ってくれたんだ」


「そりゃ……うぐっ……お前もアリスも、大事な人……うっ……だから!」


 心底思う。なんて優しいやつなんだろう、と。自分の身が傷付くことも厭わず、心が壊れても顧みず、ただ大事な人のためだけに奮闘する。人間の――いや、やはり神の鑑だ。


「そうだね、うん……そうだ」


「なんで……俺が慰められてんだ……ぅ……」


 本来なら、これはアリスやリリィのすべきことなのだ。だが、それなりに長く、一緒に戦ってきた盟友の言葉もまた、彼の心を温めるのには十分だった。


 密着した体を押し返され、レヴィは立ち上がる。ヴェリュルスも心に余裕が出来た様子で、涙を袖で拭いて、心機一転といった表情で言った。


「で……なんでまた」


「多分……恥ずかしいけど、気を失ったみたい」


 そんなレヴィの言葉に、ヴェリュルスは吹き出し、またかというように腹を抱えて笑った。

 不敬な態度のヴェリュルスに頬を膨らませるレヴィだが、ヴェリュルスはそれにも気付かないくらいに笑い転げた。


 ――泣いたり笑ったり、呑気なやつだ。


「な! あはははっ! 笑えるよ! なんでまた!? はははっ!」


「わ、笑うなよ! き、君がいなくて寂しかったんだ……あと、アリスと」


 彼の真摯で、しかしどこか憂いを見せる表情に、ヴェリュルスは笑いを止めた。

 大事な人を失った時の衝撃と、それに対する心の葛藤の辛さというものは、ヴェリュルスが一番よくわかっているつもりだ。

 それはさっき、彼が涙した理由でもあるから。


「まぁ、気持ちは分からんでもないな。でも、解決策は……っていうか、俺の件は解決してる。だから、そう気を揉むな。簡単に考えろ……んで、泣くな」


「ぇ……」


 気付けば、レヴィは涙を流していた。

 ヴェリュルスを慰めていた立場にも関わらず、彼以上に涙を流す。


 これでもかというほどの涙の量に、視界に滲みが入った。だがそんなことはどうでもよくて――。


「……抱きしめてやろうか? ほれ」


「ぃ……や、いいよ……えぐっ……」


 嗚咽し、涙を流し、からかってくるヴェリュルスを押しのける。

 こんな、退屈にも思える十分間が、生き返ったばかりのレヴィにとってはかけがえなく楽しく、そして有意義な時間だった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 涙を流しきり、澄ました顔で見つめ合うふたりの静寂を、片方が破った。


「さぁて、涙を流しきったところで本題? お前の希望? を聞いていこうか」


「希望って……そりゃ、今、外で何が起きてるのか……」


 すぐに他人のことばかり気になって、自分のことを後回しにしてしまうのは彼の悪いところだ。ヴェリュルスもまたそうだが、レヴィほどではない。

 ヴェリュルスは、彼のそんなところを素晴らしく良い点だと評価していたが、今回ばかりはそうはいかない。


 一度死に、世の中の理を超越し、他の誰にも変えられる命をこの世に戻した。

 それは誰が言うまでもなく自己中心的で、その考えの結果の権化だ。それが本人が望んだことでなくとも、だ。

 ある人から見れば、レヴィよりも、地位の低かった不細工な傭兵を生き返らせたかったのかもしれない。

 だが、それは終わった話。そこから前の歩み方など、どうでも良いのだ。


「お人好しか! もっとこう……自分のことだけ考えて言ってみろよ」


「自分のことだけ? うーん……あ、過去……」


 「ソレダッ!」と、ヴェリュルスは片言で叫んだ。


 過去――死ぬ前まで、レヴィがどうしても知りたがっていたヴェリュルスとアイラの秘密だ。

 記憶を取り戻すという手段も、過去を知り得る架け橋のひとつになるが、生憎欠けた記憶はなかなか戻らない。ならば、体験した本人から聞くまで。


「まぁでも……どーしよっかなー!」


「勿体ぶらないでよ……僕だって、何処の馬の骨かもわからない男の子と運命共同体になんかなりたくないよ」


「辛辣!? まぁ……でもそうだよな」


 なかなか辛口なコメントを残すものだ。もしやアリスの毒舌が乗り移ったのか――なんて茶番も思いつくが、ここでの披露はやめておこう。まず笑わないだろう。


 ヴェリュルスは大きく息を吸い込み、吐き出すと、そわそわと話出すのを待っているレヴィに言った。


「まぁそんな急がなくてもいいだろ。座ったら」


 彼の言葉に反応したかのように、何も無かった白い床から、ベンチが生えた。

 いつか見たように蔓で出来たような形のベンチは、あの時の懐かしい感覚を思い出させる。じんわりと生の温かさを感じられる、そんな感覚。


「で、欠けた記憶の全部を教えてくれるの?」


「いや、全部じゃねぇけど。俺だってひた隠しにしたいことなんか山ほどある。だからそこは踏み込まないでくれ」


 あの純なヴェリュルスが隠し事など、滅多にあることではない。

 自然とため息が出るのを隠さず、レヴィはヴェリュルスから視線を背けた。


「……行かないと」


「……は?」


 唐突に放たれたその言葉は、過去を曝け出そうとしたヴェリュルスの心をぐらつかせる。まぁ、それだけで喧嘩になったりするほど、彼らは犬猿の仲ではない。

 レヴィは徐に立ち上がると、ふらつく足取りで白い箱の外へと向かった。


「助けないと」


「……俺は、必要ないか?」


 ひとりで十分やれるだけ強くなった、とは自負しているし、ヴェリュルスも認めている。だが、ふたりの力を合わせてやっと倒せる――なんて相手もなかなかどうして沢山いるものだ。

 ここでヴェリュルスが懸念するのは、自分が出ていかなかったばかりに――自分の力不足で、再びレヴィを失うこと。それが、体を芯から凍らせるほどに怖い。


「僕も、怖がりなんだ」


「?」


「だから、見てて。ひとりでおつかいにいく子供を見る親みたいな感覚で、見ててほしい」


 ヴェリュルスの言葉は詰まった。

 ずっと、ひとりで出来ないことなら、誰をどう使ってもやり遂げるという性格だったレヴィが、自分でやり遂げようとするようになったのだ。自分と出会って変わったのだ。

 それがいいことなのかは、わからない。だが、それでもヴェリュルスは嬉しくて――。


「あぁ! 行ってこい! 俺がちゃんと見といてやる!」


「……うん」


 レヴィはトンと軽くジャンプすると、白い箱から飛び降りた。


 自立――そんな言葉が頭の中に飛び交う。

 嬉しくも、少し寂しくも思えるその「自立」は、親からすれば、子供の成長の第一歩。

 レヴィに言われた通り、子供を見守る親のような目で、ヴェリュルスはレヴィを見守っていた。

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