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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第四章 異世界の星
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84話 明日はまた

 白――。白だ。白だった。


 久しぶりに来た感覚。


 懐かしい。


 ただ、懐かしい。


「よぉ、レヴィよ。一ヶ月ぶりか」


 白髪の青年が、剣を肩に担いでやってきた。


「ヴェリュルス。変わらないね。君も僕も」


 一ヶ月ぶりの。そして、生と死を超えた先の再会だった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「うっせぇな……寝てるレヴィが起きちまうだろうが!」


「あー、そんなの気にしちゃ負け負け〜! もっと戦いを楽しまないと!」


 大きな咆哮。それがマングローブ全体に響き渡ると、ミーナはそう言った。

 きちんと対峙するのはこれが初めて。得体の知れない化け物に、トオルは震えた。


 “unknown”だなんて、そうそう対峙するものではないと、甘い考えを持っていた過去の自分を殴り飛ばしたい気分だ。

 かっこいい見た目に相反し、その素性は荒々しくて獰猛なものらしい。化け物の唸り声で全てを感じ取った。


「トオル、ここは私がいくわ。あなたたちはレヴィくんを連れて逃げなさい」


「おお!? ここでいきなり死亡フラグ立てんなよクソッ! あぁでも一応言っとくぜ! 屋敷で待ってるからさっさと帰ってこいよこの馬鹿リルムッ!」


 どこかで聞いた。

 この手の死亡フラグの後に、「生きて帰ってこい」などと付け加えると、生存率が少し上がると――そんなまやかしのようなものに縋るしかないが、それでもトオルは藁に縋った。


 リルムが“unknown”の注意を引いている間に、トオルはレヴィを背中に背負い、即座に退散。少し気がかりだが、リルムを横目に一言、「頼むから勝てよ!」と叫び、その場を後にした。

 復活してから間もないレイラ、リイラ、ララもまた、リリに手を引かれて、そのおぼつかない足取りでリルムの元を後にした。


 残るはハークとカオル、リリィだ。

 彼女らも即座に退散しようと、足を一歩踏み出した瞬間――。


「うふふ、ミーナちゃん頑張ってるわね。私も参戦しちゃうわ」


 目の前に、凶星が降り注いだ。

 その風貌は、暴力的な美しさで満ち溢れていた。綺麗な艶を持った黒髪と、白い肌のコントラストがまた素晴らしい、と、賛美の感想を送れるほどだ。


 背の低い彼女は、平凡に可愛らしいカオルと違い、表情に色気がある。

 そして、誰かに似ているような感覚。――そんな鑑賞タイムも、彼女の一蹴によって直ちに掻き消される。


「あなたも永遠に美しくなりなさい」


 「永遠」を司る女。仰望師団の長が、戦場へと躍り出た。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「あなたは……」


「名乗るほどの者じゃないわ。まぁでも、キャラが被っちゃうから先に言うけど、アルストロメリアと呼びなさい。そこのお嬢ちゃん、私の真似はやめなさい」


 アルストロメリア。そう名乗った低身長、黒いドレス、黒髪の女――まさしくゴスロリと呼ぶべき彼女は、可愛らしくも色気のあるその声で言った。


 リルムは彼女の目をしっかりと見つめ、言い返す。


「お嬢ちゃん扱いしてくれて嬉しいわ。実年齢より歳上に見られるから、この顔あんまり好きじゃなかったんだけど、そう呼んでくれるなら好きになれそう」


「あら、あなたとは仲良くなれそうね。ミーナ、私のものにしなさい」


 「私のものにする」。意味のわからないその呼びかけに、さっきまで饒舌で、狂気に満ちていたミーナが、まるで操り人形のように瞳の生の気を失くした。

 瞳は暗くなり、生き生きとしていた彼女はまるで――。


「承知……」


 死んだ死神のように。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 防戦一方だ。反撃しようとするも、その暇がない。

 トオルはちゃんと逃げられただろうか。そんなことばかり、脳内で反響する。


 アルストロメリア本人は、何も危害を加えなかった。ただ、ミーナの無自覚に溢れ出した憎悪と、忠誠心。それらが彼女の心を無にし、壊し、操っている。


 とめどない斬撃と魔法の衝撃に、リルムの障壁が悲鳴を上げる。キュルキュルと、攻撃を受け止める障壁が掠れた声を出すのは限界の証だ。

 それを聞き取ったミーナ。目に宿る赤が更に濃くなり、最後の猛襲を繰り広げる。


「――ッ! ああっ!」


 右左、と、左右にブレて切ったかと思えば、今度はありえない角度からの切り上げ。

 そこまで剣同士の戦闘に慣れていないリルムは、障壁をありとあらゆる所に張り、それが破られたらまた張り直す。その繰り返しでカオルたちを守ることしか出来ない。


「ォソイ……」


 ミーナが、溢れんばかりの魔力を両手に集中させ、剣でリルムの障壁を貫いた。

 破れた障壁は空中に霧散し、ミーナが勢いを付けて突いたその剣はリルムの左目を穿った。


「くっ……ぁ……」


 左目にしか刺さっていないはずなのに、視界は両方共に最悪だ。正直、何も見えない。

 こういった怪我に慣れていれば、痛みにも耐えられたのだろうが、生憎リルムにはその経験があまりなかった。


「リルムさん!」


「よくやったわね、ミーナ。残りの女の子もやってしまって」


 何が目的で、何の恨みがあってこんなことをするのか。そんなことを問う時間も暇もなく、ミーナはゆらりと動いた。

 構え、貫く体勢。予備動作も十分にあった。だが、あのリルムが負けたことで、自信という概念が、リリィにはなかった。障壁を張る隙も、逆にこちら側からも何か攻撃が出来たはずだ。ただ、両腕をしっかりと掴む二人の少女、彼女らだけは命に替えても守り抜いてみせると、そう誓った。


 ミーナの無機質な感情を乗せた剣が今、リリィの脳天を――。


「――…………ぇ」


 リリィの頭蓋を貫くはずだったその剣が、綺麗な弧を描いてアルストロメリアの足元に刺さった。


「やめてくれ、ミーナ、母さん」


 黒髪の青年。レヴィが、リリィの前に立っていた。

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