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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第四章 異世界の星
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78話 作戦開始の鐘

 涙はもうない。

 流し切った。

 トオルへの執着心も、今は塞ぎ込んで。


「リリィさん、準備は出来ました?」


「ええ……本当に6人だけでいけるんでしょうか?」


 元の世界ではこんな緊張する場面などなかった。高校の生徒会長に立候補した時だって、ここまで緊張はしていない。

 やはり、人の命に関わることは、無意識に体が反応を起こしてしまうものなのだ。


「大丈夫です。だって、リリィさんはレヴィ君? のことを凄く思ってるんですから」


「気持ちだけで解決出来たらそれで終わりなんですけどね……」


 皮肉混じりの言葉を残し、リリィは部屋から出た。

 リリィの心の暗さを払拭するくらいに明るい月の光が、廊下の窓から射し込む。


 リリィの言う通り、気持ちだけで解決出来るものならどれほどよかったか、救われたか。

 カオルだって、兄であるトオルのことをどれほど深く思っているか。もし、気持ちだけで全てが叶うのなら――今頃彼女の隣にはトオルがいて、自分のことをこれほどまでに思ってくれている妹の頭を撫で、出来れば平穏な日々を送るだろう。


「……時間もまだありますし、どこか歩いて回りますか?」


 カオルが言うと、リリィは首をゆっくり縦に振り、カオルの歩く一歩前に踏み出した。

 彼女はそこで立ち止まり、手を前に伸ばす。


「……リリィさん?」


「――あ、いえ。大丈夫です。最近、レヴィ様が近くにいるんじゃないかと思うとこうなることが多くて……」


 何かの前駆症状なのか。

 何やら不穏な予感がするが、リリィは何とも思っていない様子だ。彼女の心持ちに便乗して、ここは大人しくするべきなのだろう。


「そうなんですか。気分は悪くないですか?」


「気分は大丈夫ですよ。むしろ昂るばかりですね」


 それもそうかもしれない。

 レヴィをこれから救いに行くのだから、逆に気分が高まってくれていないと困る。

 絶対に取り戻す。そういう信念があれば、必ず彼は戻ってくるはずだ。


 暫く歩き、何となく階段を上った。

 何となくの繰り返しのうち、いつの間にか着いた場所は五姉妹――今は四姉妹の部屋だ。


 部屋の扉は半開き。

 扉の前には、少し細くなったルルが立つ。


「リー様……」


「ルルさん、準備は――」


「ルル達は残ります」


 予想だにしない発言に、言葉が詰まった。

 この刹那、様々な憶測がリリィとカオルの脳内に飛び交う。


 たった2人だけで、魔術師の所まで辿り着けるのか。たった2人で、そこに待ち構えているかもしれない苦難を乗り越えることが出来るのか。

 ましてやカオルは魔法が使えないはずだ。

 彼女を先頭に立てることは出来ない。リリィが指揮を執らなければならないが、生憎彼女にそういった経験もなく――。


「――え……」


「ただ、リリだけは行くそうです。ルルとレレ、ロロは心身共に衰弱し切っていて……申し訳ありません」


「あ……い、いや、大丈夫ですよ。リリさんだけでも来てくれたら、まず大丈夫でしょうし」


 彼女らが衰弱するのも無理はない。

 何せ彼女らは今年まだ十歳ほど。思いもよらない奇襲によって、最愛の長女を亡くし、挙句の果てにはその遺体さえどこかに消えてしまっていた。そんな出来事に柔軟に対応出来るはずもない。


 ただ、次女であるリリの目付きは少し印象が違う。

 まるで、ララの死を悲しんでいないような――むしろ、だからこそレヴィと一緒に取り返してやろうと、そういった気持ちが垣間見える表情だ。


「リリは……絶対にみんなを取り返す」


「……リリ、あまり期待しない方がいいわよ。魔術師って言ったって……一流じゃないかもしれないし……」


 レレの懸念も分からなくはない。

 見ず知らずの人の魔術の腕など分かるはずもない。更には、魔術師の禁忌が開放される日にち。丁度明後日だ。その日までに辿り着ける保証も、無いに等しい。


 どちらかといえば、この死者蘇生案件は失敗に終わる可能性の方が高いのだ。

 それに、魔術師が一気に死者を蘇らせることが出来るのかどうかも、定かではない。

 今蘇らせるべき人間が、流石に多すぎる。


「大丈夫よ。リリは信じてる。ララも、レー様もアー様もみんな、帰ってくるって」


「その意気ですよリリさん。……そろそろ時間ですね。行きますか」


 念の為に、カオルは剣や魔法の訓練は、ここ一ヶ月欠かさずに行った。奇襲の日――昨日を除いて。

 一ヶ月鍛錬した結果、剣の腕前は人並みにはなった。が、魔法だけはどうしても使えない。

 ララ曰く、魔力線が閉じていることが原因らしい。


 よって、死者奪還の手順はかなり戦闘に頼らないものになりそうだ。

 辛うじて戦闘に赴くことが出来るリリィとリリでさえ、そういった魔法を使うことはあまり無い。制御が出来ない可能性もある為、基本敵や“unknown”に遭遇した時は逃げるが得策だ。


 逃げきれなかった時にどうするかは、またその時考えればいいだろう。


「じゃあ……行ってきますね。必ず、取り戻してみせます」


「はい……頼みました」


 幼子一人と少女が二人。

 死者の奪還作戦が、今開始された。

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