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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第四章 異世界の星
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77話 後で

「おにぃ……」


「カオルさん、起きましたか」


 甘いのに、それはどことなく悲痛さを感じる弱々しい声。

 声の主はリリィ。

 頭に怪我をしたのが原因か、頭に包帯を巻き、虚ろな目でカオルを見つめている。


 トオルとカオルが看病をして、そこからだいぶ調子は良くなった。それが、先の奇襲によって一気に崩れ去った。そんなことを暗示するような表情。


「すみません、リリィが部屋でぼーっとしてる間に……だから……これだからリリィはっ!」


「ちょ、リリィさん!?」


 鈍い音が鳴る程に、勢いを付けて自分を殴るリリィ。

 彼女の腕を押さえつけ、自傷を抑制すると、リリィは顔をくしゃくしゃにしながら言った。


「リリィが……私が無能で馬鹿な……ばっかりに……ううっ……」


「あなたのせいじゃないです。リリィさんは被害者なんだから……」


 慰めの言葉をかけるも、その涙は止まることなく――むしろ勢いを増していく。

 漸くカオルはリリィの腕を離し、彼女に問う。


「教えて欲しいんです。私達がいない間に何があったのか」


 それは、この空白の何時間かの間に起きた、音もない奇襲の話だ。

 あの時トオルは書庫にいて、カオルは自室で本を読んでいた。

 もし仮に誰かが暗殺されたとしても、彼女らが倒れる音は多少聞こえるだろう。

 書庫も防音ではないし、ましてや一人につき人部屋設けられた自室など、もっと音が聞こえるはずだ。


 この状況下で今、奇襲の事実を知っているのは恐らくリリィだけだ。


「……リリィは……ただ掃除をしていました。不意に目を後ろに向けると、そこには大量の血と、沢山の死体があったんです。それで気が動転して……そこからは覚えていません」


「掃除をしてただけ……?」


 真後ろに危険が迫っているのに、それに気付かないというのは彼女が危機感を持たなすぎたのか、それともあの暗殺者が凄腕なだけなのか――。


「だから何も出来なくて……ううっ……ひっぐ……」


「な、泣かないでください! まだ大丈夫ですから!」


 何が大丈夫なのかと問われれば、それは何とも言えない。

 死んだら取り戻せばいいだけという考えが心に蔓延って仕方ない。


「トオルさんだって……どこかに……」


「……お兄ちゃんは大丈夫ですよ」


 なんの確信もないが、ただひとつ言えるのはそれだけだ。

 いつだって、トオルはカオルのそばから離れなかった。家出をした時だって、カオルには絶対にメールをくれた。

 その些細な積み重ねが、今の信頼に繋がっているのだ。


「お兄ちゃんは絶対に帰ってきます……ちょっと外を見てきてもいいですか?」


「え……あ、はい。どうぞ」


 扉を開く。外の空気がやけに美味しく感じるのは、自室を締め切っていたからだ。

 リリィの前では一丁前に「トオルは帰ってくる」なんて言ったが、確かに彼への信頼は厚い。だが、得体の知れない人に連れていかれたという事象は、今までにないものだ。

 だから、内心はかなり荒れている。


「……」


 さっきまで起きていたことが全て幻想だったのかと考えさせられる程に綺麗に掃除された廊下。

 だがよく見ると、血痕らしき赤茶色の線が所々に引かれている。


 1ヶ月程暮らしたこの屋敷。ここまで惨いことがおきるのが異世界なのだと、改めて思った。

 先の大広間で目に焼き付いた、ガヴェインと仰望師団の戦い。

 あんな、次元を超えるような戦いはトオルの読んでいるラノベにしか出てこないものだとばかり思っていたが、やはりその次元の戦いはそれなりにあるらしい。


「……」


 大広間の軋む扉を開ける。

 天高く聳え立つ塔の半分が、現れた“unknown”によって崩れ去り、バランスを崩しかけている。


 周りのどこに目をやっても、映るのは衝撃で傷んだコンクリート。

 バラバラと、今でも天井から破片が零れ落ちているようだ。


「お兄ちゃんが……いないんだよね……」


 改めて、この屋敷に残ったのが僅か6人ほどである事実を目の当たりにすると、心の底から嗚咽がせり上がる。

 あんな小さな子も、死んでしまうのだと。トオルのような、信頼出来て頼りになる兄でさえも、ここからいなくなってしまうのだと思うと、涙が零れる。


 こうしてはいられないはずなのだ。

 こうやって泣き崩れ、そのままでいいわけがないのもわかっている。

 だが、膝は立つ力を無くし、へなへなとその場に座り込み、手で顔を覆って泣くだけ。

それだけしかできない。


 レヴィを生き返らせなければ。アリシアも。昨日まで生きていたララも。勿論、“unknown”とやらに殺された今までの大量の被害者達も。


 カオルは涙を出し切ると、再び自室に戻った。

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