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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第四章 異世界の星
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76話 いつかきっと出会うはずだったんだ

長い間空いちゃいました!

またよろしくお願いします。

 突如、トオルが一番聞きたくない音が地面を伝って彼に届く。

 重厚な扉を開ける音。

 そこから顔を出したのは、何を隠そうトオルの妹、カオルだった。


「お兄ちゃんっ!」


「か――……」


 カオルの名前を叫ぼうとするが、それよりも先にリルムが手を打っておいたようで――。


 再び、体を束縛された感覚に陥る。

 今回のは先程のものよりかは多少動かせるが、それでも指先、瞳くらいだ。

 辛うじて動く口で、カオルに『逃げろ』と伝えるが、彼女は涙目で彼を見て逃げない。


「子猫ちゃんが入り込んだようね。トオル、あの子猫はあなたの妹?」


「そ……う、だよ……俺の……妹……だ」


 途切れ途切れに口から漏れ出す言葉を繋ぎ、リルムはふむふむと頷いた。

 それが何を意味しているのか、トオルには分からず仕舞いだ。


「子猫ちゃんもこっちにおいで。」


 『ダメだ』と口パクで必死に伝えようとするも、カオルの表情は緩むことなく涙で覆い尽くされていた。

 とめどなく溢れる涙が、兄の心を引き留めようとする。


 何のために『行こう』としたのか。

 何のために『守ろうと』思ったのか、再び考えさせられるような、そんな泣き顔だった。


「来ないの? なら殺るけど?」


「や――」


「やめておけ、リルム」


 トオルの叫びの前に、リルムにストップの声をかけたのは、彼女の隣に佇む黒装束の女、リーフェンスだ。

 その淡々とした言葉の並びに耳を傾けたリルムは、深く首を傾げて尋ねた。


「どうして? あんなに可愛い娘の腸なんて、想像しただけで涎が垂れちゃうわ……」


 じゅるりと溢れる涎を袖で拭うリルム。

 リーフェンスはそんな彼女の様子に、呆れ返ったように悪態をつく。


「考えてもみろ。トオルが崩れるぞ」


「あら、素直に育てるまでは壊れちゃあ困るわね。今も十分素直なんだけど……あ、それが妹のためってこと?」


「分かってるなら聞くな。連れて帰るなら力尽くでも連れていけ」


 リルムの長々とした、ゆったりとした喋り方に嫌気が差したのか、リーフェンスは早口で捲し立てた。


「……カオル……」


 妹の名前を呼ぶ。

 それに反応したカオルは、顔をぐしゃぐしゃにしながら泣き、泣き、泣いた。


 隣には敵対すべき相手。

 目の前数メートル先には守るべき仲間。

 どちらを選ぶかなんて、誰が聞くまでもない。


 麻痺したように動かない体を、引きずるように無理やり動かした。

 それでも動くのは肘や膝が限界だ。

 バランスを取れずに、前のめりに崩れ落ちる。


 トオルの目論見に勘づいたリルムは、温かかったその双眸を再び冷淡なものに切り替え、トオルへとそれを向けた。


「あら、まだ素直じゃなかったようね。少し教育が必要かしら?」


「い……らねぇよ……俺は……お前らを絶対に許さねぇから……今ここで、殺してやる」


 体から毒気が抜けていく感覚。

 視界が、怒りからか少し赤みがかって見える。


 ここで髪色が白髪にでも変われば、それはアニメの世界なのだが、現実ではそんなに上手くいくはずもなく、髪色は黒いまま。

 それに追い討ちをかけるように、湧いてくる力さえ、今はない。


 ただ瞳だけは――。


「穢れた血が何を言ってるのかしら。そんな――」


「ちょいお邪魔ぁ〜っ!」


 突如、黒い何かが、大広間の天井をぶち破った。

 可愛らしく幼い声と共に、その黒いものはズカズカとトオルらの前に躍り出た。


「ぅ……」


「えぇ〜、こんなのがミーナの新しい仲間になるの〜? やだよこんな汚いの〜!」


 衝撃に倒れ伏し、呻くトオルの前に流麗に着地した少女。

 長いスカートを引き摺りながら、うつ伏せで倒れているトオルの前まで歩くと、言った。


「でもまぁいいや。早くおいでよ、師団に!」


 桃色の髪が揺れる。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 黒いものは、次第にその闇を自ら晴らしていった。

 金色の双眸、禍々しく曲がった巨大な爪、広げると数メートルはあるだろうか翼。

 どこからどう見ても、トオルの世界でいつか夢見た『ドラゴン』に間違いなかった。


「勝手に人のものを取ろうとするなんて、よっぽど躾がなっていないようね、おチビちゃん」


「おチビちゃんですって!? これでも二十歳よ二十歳っ!」


「あら、ごめんなさい。私と違って胸が貧相だし、背も小さいから気が付かなかったわ、うふふ」


 言葉だけを並べたとしたら、その会話はたわいもない、楽しいものだっただろう。

 しかし彼女らの目付きを見れば、その観念は一気に反転してしまう。


 見るからに犬猿の仲。

 実際は、彼女らの瞳に宿るその感情の冷たさは犬や猿とは比べ物にならないくらいだ。


「……カオル……」


 ドラゴンの降ってきた衝撃で吹き飛ばされたのはトオルだけではなかったようだ。

 カオルやリリ、ルルまで吹き飛ばされ、姉妹は無事だが辛うじて気を保っている状態だ。

 しかしカオルは、彼女の背後の重厚な扉に体を打ち付けられ、気を失っているようだ。


「トオル、動かない方がいいわよ。死ぬから」


「は……」


「あれま、動いちゃった! ほ〜れいくぞぉ〜!」


 瞬きなど、している暇もなかった。

 その間、人間が数えられる単位では計れないほどの俊敏さ。――マッハなど優に超えているようなスピードだった。


 少女が手から放ったその衝撃波が、空気を破壊するように押し進んでいった。

 衝撃波がトオルにぶつかる寸前、リルムが彼の前に出、その衝撃波を相殺した。


 トオルはそのことを把握しきれずに、再び衝撃波に流されて地面に叩きつけられた。

 目の前が眩む程の衝撃。

 体の節々を打撲し、激痛が身体中を駆け巡る中、彼は見た。

 互いに笑顔で対峙し合う、龍と虎を。


「かなりの速度ね。でも……これじゃあダメよね。トオルには塵一つ付けさせないわよ。まぁ、衝撃でだいぶやられちゃってるみたいだけど……私も同罪ね」


「かなり饒舌になるねぇ〜。いいよ、その狂気……堪んないっ!」


 口の周りを舐め回し、桃髪の少女――ミーナはその赤い双眸を見開く。


 対するリルムは目を細め、照準を定めると、左手を振るった。

 世界の秩序、均衡、それらが一気に崩れ去るかのように、再び瞬間の出来事は起こった。


 衝撃波――というよりも、爆風がトオルの頬を撫ぜる。

 チリチリと焼けて痛む皮膚を軽く擦り、トオルはカオルの倒れている場所まで駆け寄ろうとした。が――。


「あら、トオル? どこへ行くのかしら?」


「ぐああっ! あっ――あっ――あっ!」


 形も何もない『何か』がトオルの体を締め付け、離さない。

 締め付ける力は次第に強くなっていき、段々と下から肋が折れていく音が鳴る。


 さっきまで『塵一つ付けさせない』なんて豪語していたのに、リルムはトオルを適当に扱い過ぎだ。


「逃がさないわよ」


「ひぅっ! ああああっ! ……俺は……カオルを……」


「流石にやり過ぎじゃないのぉ〜? ミーナの所に来たら、体だけは大事に扱うよ〜?」


 『体だけは』という、聞き捨てならないセリフを横目に流しながらも、トオルは脇腹の痛みに目を細め、喘ぐ。


 この状況で、得体の知れないグループに助けを求めるなど、正気の沙汰ではない。

 だが、ミーナはその言葉を信用させてトオルを引きずり込むことが出来るくらいの、満面の笑みで彼を見つめる。


 だが忘れてはならないのは、亡きララから聞いたあの言葉。

 『仰望師団と名乗る者が現れれば、その時は必ず逃げてください。魂まで屠られます』


「お前ら……どんだけ俺たちを苦しめたら……」


「苦しめる? あらごめんなさい。ついつい力が入りすぎちゃったようね」


 そう言うと、リルムは何かを詠唱した。

 徐々に体から解かれていく『何か』。

 力なく、操り人形のようになったトオルは、脇腹を抱えて倒れた。


 丁度その時、衝撃で気を失っていたカオルが瞼を開いた。

 視界に入った、倒れたトオル。

 彼を見るなり、カオルは呟いた。


「お兄……ちゃ……ん」


 カオルは再び、その場に倒れ伏した。

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