表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第四章 異世界の星
79/205

73話 看病と異変

お久しぶりです。久しぶりの投稿ですね。本日から第四章の始まりです。最初は何も進展ありませんがご了承ください…ではでは

「で、元王様がいなくなったから王候補がこんなに寄って集って来たと?」


 屋敷内、日本の中の大阪生まれ大阪育ちの葉月透は自分を取り囲む幼女達に問うた。周りの状況は幾分か理解出来ているが、全てというわけではない。一緒に異世界召喚されてしまった妹、薫の為にも、せめて自分が冷静に事を判断することが大切なのだ。


 彼らの周りには、この帝都の四方八方から寄って集まった、奇抜の化身のような四人の男達が立っていた。彼らは、お互いが争うべき相手だと知っていながらも、その表情はのほほんそのものだ。この中から本当に次期王が選抜されるというのか。


 トオルが問うた質問に答えたのは、銀髪の幼女だった。確か、ララと言ったか。

 彼女はあくまで冷静な様子で、王候補の四人を冷淡な目付きで睨んだ。


「はい。その総数、実に四人。皆、その権限だけを求めてやって来ているのです。全く……クズみたいな人達です。あと一ヶ月もすればレー様は戻ってくるというのに」


 冷静で、感情を表さなかった今までとは違い、感情を露わにした。俯き、目を伏せた。拳を握り締め、そしてそれを開いてじっと眺めた。幼女とは思えない佇まいだが、こうして感情を思わず表情に出してしまう所はそれらしいと思える。


「あー……例のあれか? あの〜、呪術師」


「魔術師で〜すよ」


 赤髪の幼女、ルルが語尾を伸ばしながらそう言った。彼女はつい最近までちゃらんぽらんな性格だったらしいが、レヴィとアリシアが亡くなってからは考えを改めた。その所為か、以前よりも性格が暗くなり、幾分か口数も減ったらしい。

 それでも言葉の間を伸ばすのは、癖、もしくは天性のものか。


「あ、そうそう、魔術師だ。……でも、そいつが本当にそのレヴィ? ってやつを生き返らせてくれるかどうかは分からないんだろ? 希望を抱くなとは言わないけど、期待しすぎじゃ――」


 言いかけた瞬間、トオルの首元を五本の刃が掠めた。短剣や太刀が交差し、浮き出た血管に刃を押し付けられ、身動きが出来なくなる。トオルは素直に両手を上げ、降参の意を表明した。勝てる訳がない。


 別にレヴィのことを侮辱した訳ではない。ただ、本当に魔術師がレヴィを取り戻せるのかと疑念を抱いただけだ。


「――……すみません」


 取り敢えず、とトオルは一呼吸置いて言った。

 まず、彼女らが彼に拘る理由。そして彼が必ず戻ってくると信じ込んでいる理由が分からない。


 たとえ好きな相手だったとしても、死んだ相手にそこまでの執着心が湧くことはないだろう。これも、『異世界』ならではの考え方なのだろうか。


 五姉妹が各々剣を下ろし、降参の意を評したトオルから目を背ける。そして各々がまた喋り合い始めると、ララがトオルに向かって言った。


「分かればいいんです。レー様は必ず戻ってくるんですから。それなのにリー様は……」


「あぁ、あいつな。カオルが世話してるけど、相変わらず体調は悪いみたいだ」


 レヴィが死に、その後五姉妹の看病を受け続けていたというリリィ。今は彼女らの仕事を引き継ぎ、トオルと彼の妹であるカオルがそれを担っている。まぁ、それをしているのはほぼカオルで、トオルは情報収集の為に日々奮闘している。


 だからといって、トオルがずっとほっつき歩いている訳ではない。彼だってたまにはリリィの世話はするし、それよりも大事なのはスティラという女性の存在だ。レヴィの命。即ちあの世とこの世を繋げているのは彼女と言っても過言ではない。だから、彼女だけは死なせてはならないのだ。


 トオルとカオルの二人で日々看病をしている二人だが、彼女らの容態は一向に悪化するばかりである。スティラも、リイラがいなくなったショックとは別に、レヴィがいなくなったことを間に受けてしまっているらしい。

 それでも、リリィの方が心的ダメージは大きいのだろう。彼女の方が状態は酷い。彼女の状態で最も害悪なのは、戻してしまうことだ。まぁ、そうなってしまうのも仕方がない。何せ――。


「そりゃそうですよ。自分が寝こけている間に戦いが終わって、しかも好きな人と、そのパートナーが死んでしまっているんですから」


「それをどうにか原動力に出来ねぇもんかなって俺は思うんだがな」


 トオルが言ったのは、失ったからこそ彼らを取り戻そうと奮起出来ないのか、という意味だった。だが、今の彼女にそれは難しい。芯が硬い人間は、それが折れてしまうとなかなか元には戻らない。リリィが芯の硬い人間かどうかは分からないが。


「それは難しいてすね。あの方はレー様命ですから」


「そこまで……どんだけイケメンなんだ」


 まだ姿形を見たことがないレヴィに、ヤキモチを焼くトオル。イケメンがモテるのは外見もそうだが、中身も良く出来ているからだと聞いたことがある。だがそれは極めて低確率で、イケメンな奴に限って性根が腐っているやつなんかもそこらじゅうにいる。


「まぁ、ルックスだけでなく性格もいい人だし、相当モテると思われますよ。一般的な顔付き、性格の貴方とは違って」


「酷い言われようだな」


 言われるがままにされるトオルだが、実際その通りである。何方かと言えば中の上辺りの顔立ち、そして何となく心を開いてしまう物言い、性格、何を取っても標準か、それを少し上回るくらいでしかない。

 心が純粋な幼女から見れば、彼は一般的そのものだという結論に至るだろう。


「いえ、レレはまともな言われようだと思うわ」


「ロロもよ」


 辛辣な幼女二人。否、五人か。彼女達の目は、レヴィやアリシアがいた時に比べると随分陰っている。ルルだけでなく、元々口数が少なく他人に興味が無いようなリリでさえ、彼がいなくなる前と後では絶大な差がある。まだ会ったこともないその彼が、どれだけ重要な役割を担っていたのかが垣間見える。


「おいおいチビ達、あんま異世界からの召喚者を舐めてると痛い目にあうぞ?」


「例えば〜?」


「そうだな……魔力の暴発とか……?」


 内心とは裏腹に適当なことを言って退けるが、その口から出た適当な文言はいかにも魔法が使えない人間と同じだ。

 魔力の暴発、それは稀に起きる不祥事だが、そうそう頻繁に起きるものではない。もし仮に、トオルの体の性質がそれを引き起こすものだとすれば、彼は即刻処分だ。


「……ダメじゃないですか……」


「うるせぇよ。まぁ、なんだ。そのレヴィを取り戻せば一件落着なんだろ? その後は安泰だと?」


「安泰かどうかは分かりませんが、取り敢えず一件落着ではありますね」


 ならば話は早い。レヴィを取り戻し、彼に何とか胡麻を擂ってこの屋敷の一員にしてもらう。さもなければもうお金は無いし、あったとしても頼る人がいないのは辛いことだ。誰かに身を寄せていた方がいいだろう。

 まぁ、何にせよトオルはレヴィとのウィンウィンな関係を築きたいのだ。それにはまず、


「そうか。なら一ヶ月後まで待つ他ねぇな。……早めに行くのはダメなのか?」


「魔術師の規制が解除されるのはその日だけなんです。まぁ、早めに行ってもいいですが、彼女に負担をかけるのはどうも気が引けます」


 早めに魔術師の所を訪問するのは構わないが、もし食料が尽きた場合。魔術師に泊めさせてもらったり、世話をしてもらうのは気が引けるのだ。

 だから、待つべき時まで待つ。それが五姉妹と、今は亡きレヴィ達の考えだ。


「偉い子達だ。分かった。んじゃお前らの言う通りにするよ。俺はここに住まわせてもらってる身だからな、へへっ」


 鼻の下を擦り、軽く笑うトオル。

 ララは、彼を嘲笑うような態度は取らず、ただ彼に向き合って軽く微笑み、


「そうです。貴方は一応客人です」


「一応は余計だ。俺だって一般的な客人を装って、関西弁を封印してるんだからこれくらいの努力は認めろよ」


 大阪生まれ大阪育ちのトオルにとっては、関西弁を制御するのは至難の業だ。今にも飛び出そうになる関西弁を押し込め、アニメで培った標準語を装っているのだが――やはりボロは出る。イントネーションがおかしかったり、標準語に翻訳するまでに時間がかかったりする。五姉妹は心が広いのか、そんな挙動不審なトオルにも、警戒はしながらも心を開いて話を聞く。


 だが、初めて聞いた言葉には疑問の一言に尽きる。ララは小首を傾げ、


「カンサイベン? 何ですかそれは」


「聞いても無駄よ、ララ。どうせ出任せに決まってるわ」


 レレがトオルを嘲笑うように鼻でふんと笑い、呆れたと言わんばかりに手をやれやれと振る。


「んなわけねぇだろ……まぁいいわ。俺はカオルんとこ行ってくるから」


「ごゆっくり」


 五姉妹がそれぞれ違った表情を浮かべ、各々がトオルに向かって一礼する。そんな謙った様子の彼女らに手をひらひらと振り、トオルは無気力感丸出しの声で言った。


「あいよ」


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 重厚な扉だ。過去に何かあったのだろうか。全体的に木で作られている扉の淵が、鉄で囲まれており、扉の中心にも鉄格子が幾つか這っている。


 少し重い扉を押し開けると、ベッドに横たわった、銀髪に一筋の黒髪を持った少女が見える。実に美しい。白雪姫を連想させる彼女に見惚れるが、肝心の妹も忘れてはいけない。黒髪ロング、背が低い、そして美人と言った三竦みを兼ね備えた妹、カオルが、トオルに目をやる。


「カオル」


「お兄ちゃん……」


 不潔でニートだった兄を嫌うことなく、異世界召喚された時は手を繋いだりもした。それすらも嫌がらないとなれば、それは恋か何かか――如何わしい妄想はやめにするとしても、彼女はまさに全国の男子の味方だろう。


 そんな神とも呼べよう彼女が座っているのは、病人であるリリィのベッドの隣だ。流石は王家の屋敷といったところか、当の王様はいなくても、彼の住んでいた屋敷の豪勢さから、王権の素晴らしさが分かる。そりゃあ皆が欲しがる訳だ。


 リリィはまるで魂を抜かれたようにげっそりと痩せ、青白い顔のままで眠っている。


「様子は?」


 そんなこと、見ればすぐに把握出来るのだが、彼が知りたいのは目に見えない部分のことだ。例えば、起きてる間に少しでも食べ物を口にしたか、前向きな気持ちになれただとか――まぁ、今の彼女を見るにそういったことは無いと見えるが。


「熱とか体に支障はないんだけど、なんて言うんだろ……心的外傷? みたいなものかな」


「要するに鬱病?」


「そう。異世界に来てまず一番目の仕事が看病なんて、想像もつかなかったね」


 心の優しい兄妹だからこそ成し得た事象であり、これが冷徹な殺人鬼が異世界召喚されたとなると、話はまた変わってくる。

 看病なんて、生まれ育った地では母親の熱の看病をしたくらいだ。熱ならまだ看病出来るのだが、心に負った傷は、癒すことは他人には難しい。余っ程彼らの心に寄り添えるか、それが焦点となってくる。


「まぁ、そうやって徳を積んでいくんだろ」


「そう? それならよかったけど」


 徳を積む、そうやって彼女に踏ん切りをつけさせようと言った。


「にしてもだ。外の連中はまともな奴はいなさそうだな。あれじゃ戦争になるぞ」


「なんで戦争?」


 トオルは顔を顰めながら言った。

 今でも、がやがやとはしていないもののそれなりに騒がしい大広間の輩。一人一人の声は荒らげたものではなく、静かそのものだが、それを取り囲んで事情聴取に踏み切っている使用人達の声が五月蝿い。


「まずイケメンばっかり。んで、皆武器持ってる。んで王権の奪取が目的と来たもんだ。一層の事全員死ねばいいのに」


「それはレヴィって人を擁護しての物言い?」


 正直、トオルの内心は戦争なんてどうでもいいといった気持ちでいっぱいだった。実際問題、戦争になるなんて事があれば、異世界召喚された主人公が何の特性も持たないなんてことはありえない。故に、戦争なんて屁でもないのだ。


「さぁ、どうだろうな。でも、今この屋敷にいる殆どの人間が、レヴィはいい人だって、優しい人だって言ってんだ。相当すげぇ奴なんだろうよ」


「だから、取り戻すの?」


 カオルの目が、いつもより霞んで見える。幾分か、何か悩みを抱えているような感じだ。


「当たりめぇだろ? それ以外に選択肢あるかよ? こんな……俺よりも年下の女の子が、たかが男一人の所為でこんなふうになってんだ。助けてやらねぇと死んじまうぞ」


 今にも死にそうな程、リリィは悪夢に魘されている。この状況を見て放っておける男なんざ、男ではないと豪語したい気分だ。


 男一人いなくなっただけでこの有様。ここでレヴィを連れ戻さねば、彼女は本当に死んでしまう。異世界召喚後初のイベントが、リリィの葬式なんてことは絶対に避けなければならない。


「まぁそうなんだけど……」


「……さっきからどうした? いつものカオルなら、こういう人助けにはすぐ乗るタイプじゃなかったっけ?」


 カオルは不自然な間を開け、トオルに賛同した。彼女の目は虚ろで、トオルのことを最早見てはいない。

 今までの快活な彼女はどこへ行ったのか。実の兄がそう思う程、彼女の様子はおかしかった。


「いや、別に……」


「そうか。じゃあ、俺はスティラの所行ってくるわ。あいつもなかなかのもんだからな。リリィのこと頼んだぞ。もしレヴィが戻ってこなかったら俺のもんだからな。ははっ」


「何馬鹿なこと言ってんの? この人の気持ちは一択だよ」


 冗談めかした言葉を放ち、鼻を擦るトオル。彼の物言いに、カオルは普段通りの顔色で彼に向き合い、頬をぷーっと膨らませて言った。

 可愛らしい妹の仕草に、多少の安心感を得る。


「わーってるよ。冗談冗談」


「ふーん……行くの?」


 扉のドアノブに手をかけたトオルに、カオルはいつも通りのトーンで。しかしどこか不安げな様子を出しながらも、言った。


「あぁ、俺も仕事しねぇとな」


「そう、行ってらっしゃい」


「おう」


 扉が閉まり、夕闇が訪れる。

 一人――否、たった二人残されたカオルとリリィは、静かに目を閉じた。

 内心、思っていた。


 何故兄がここまでリリィ、そしてスティラの看病に精を出すのか。独占欲が心を支配し始める感覚。それをなんとか振り払い、カオルはリリィの頬を撫ぜた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ