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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第三章 戦骸
73/205

69話 最後の夜明けは最愛のキミと

 第三次“unknown”及び仰望師団征伐戦当日――目が覚めた理由は悪夢だった。

 思い返せば、昨日の朝も悪夢に苛まれ、魘されている所をアリスに起こされた。


「朝、か」


 いつもよりかは少し薄暗い部屋で、一人言を呟いた。


 伸びをして、朝日を沢山浴びた空気を吸い込む。

 こうして深呼吸すると、肺の中が浄化されたような気分になるのだ。


 朝の支度はいつも通り。唯一違うのは――なんてことは言わない。何故ならここ半年間はずっとクロウを身に付けているからだ。


 あの時商人から手渡されたクロウ。それは鞘から抜くと、任せとけと言わんばかりに輝きを増す。それは第一次と変わらない。

 気味が悪いのはまだ継続中。


 二階の自室を出る。勿論、ここ数年は忘れ物の無いように二周は部屋を回っている。もうライフワークのように。

 階段を下り、大扉が静かに軋んでゆっくりと開く。

 扉を開け、目に映ったのは――。


「アリス」


 黒髪の美しい少女だ。

 対“unknown”用人間兵器。もう最近ではすっかり聞かなくなった。それもこれも、第一次征伐戦でレヴィ達がボロ負けしたのが原因だ。彼女との共闘で勝利こそ掴んだものの、それに伴った犠牲が大きすぎた。

 それからというもの、アリスの評判もダダ下がりである。巷では、「王の屋敷にいる奴は皆口だけで、象徴だけの王だ」なんてことを言う奴も出て来た。失敬な。


 そんな罵声を浴びても尚、アリスは気高く美しかった。そんな罵声など、最初からなかったかのように。


 ――あの時とは違う。僕は必ずアリスを救うし、僕も生きて帰る。ほら、君も笑ってる。


 あの時とは違う。第一次征伐戦では真顔で言った言葉を、アリスは笑顔で言って見せた。


「誰ですか?」


 「魔女」とここまで親しく話せているのが自分だけで、それに加えて自分のことを好きだなんて、想像するだけで気分が高揚する。

 アリスはいつも通り、いや、あの時と同じような反応を期待していたのか、ニマニマと顔を近付けて来る。


「な、何?」


「ノリが悪くなりましたね」


 そんなこと言われたって、こっちもだいぶ心が揺れているのだ。どうにかしようとしても、どうにも出来ないこの気持ちが。


「ごめんって。気持ちの整理が出来てないんだよ」


「生理?」


 懐かしい。あの時のアリスが蘇ったようなこの感覚。身体中の細胞が一気に沸騰したかのように、体が熱くなる。こもり熱が背中や袖の中で蒸れまくって、レヴィの蒸し焼きが出来そうな程に。


 服をパタパタと手で仰ぎ、空気を服の中に通す。そんな行為にも、アリスは満面の笑みで笑って見せた。まるで、異常者のように。まるで、もう会えない人に笑うように。


「整理、うん。多分君が考えてるのと違うせいり」


「それでこそいつものレヴィ君ですよ」


 沸騰していた細胞達が暴動を止め、急に静かになる。心の中の動揺を悟られないように「いつも通り」の演技で振る舞う。アリスはそれを見抜くことなく、まんまと引っかかり、レヴィにそう言った。

 その表情もまた笑顔で――。


「そういえば竜車も……半年でこんなに減ってしまうとはね」


 彼らの目に入るのは、第一次では五十台を超えていたはずの紫龍の竜車である。あの時は、“unknown”の脅威が底知れずだからといって、無意味なくらい竜車を引き連れた傭兵達がこの庭に集まっていた。ただ、彼らもまた第一次征伐戦で命を落とした者達だ。笑い事には出来まい。


「もう必要……ないですからね」


 目線を伏せて、アリスがそう言う。

 まだ第一次のことを引きずっているのはレヴィも同じだが、ここまで背負い込まれては周りにいる者の士気も下がる。


「深刻そうに言うなよ。ただ、僕らの力が強くなっただけだろ? それで犠牲が減るんだったらいいことじゃないか」


 あの時はレヴィは無力で、アリスも今程戦闘に長けていなかった――というのが彼の持論だ。しかし、実際はレヴィもそれなりに運動神経が良いし、アリスだって戦闘無経験者ではない。何しろ兵器と呼ばれていたのだから。


「……負け戦みたいに言わないでくださいよ、不謹慎です」


「負け戦にはならないよ。きっと。だって僕らには力強い味方がいる」


 脳裏に思い浮かべる銀髪の長髪の少女。リリィだ。彼女は接近戦には長けていないものの、援護や後方支援には特化している。信頼出来る味方だ。


「味方? リリィさんのことですか?」


「あぁ、あの子がいれば、僕らの力は二倍増しだ」


 実際、援護魔法の力は強大だ。自身で自身にかける身体強化魔法よりも幾分か強く、しかし魔石を使った魔法使い程は力を倍増させることは出来ない。長所は、強化具合をコントロール出来るところだ。魔石なら魔力が爆発してしまうような力でも、援護魔法は微妙な力の差を付けることが出来る。

 つまり、アリスにリリィが援護魔法をかけると、アリスの魔法の強さを最大限まで引き出すことが可能になるわけだ。


 そんな素晴らしい援護者がいるのにも関わらず、アリスは口を尖らせて、


「二倍増し……そこまでいきますかね」


「お世辞でも言ってやれ」


 アリスの言う通り、二倍増しは少し言い過ぎなのかもしれない。だが、少なくとも五割増にはなる。


「それにしても、たった半年で色々ありましたね……今までの一年間の積み重ねは、ほぼ何も無かったのに」


「そうやって回想するのも不謹慎だと思うけどね。まぁ、確かに色々あったのは否めないね。ほぼ僕が悪いけど……」


 内心では、どうしようもなかったと分かっている。全部が全部、自分の所為な訳ではないと、分かっている。にも関わらず、こうやって自分を卑下する癖が治らないのは病気か何かか。


 アリスの言葉で改心出来た。

 彼女がそうじゃない。と言うからそうじゃないんだと理解出来た。でも、彼女の言う通りに心の向きを向ければ、何も出来なかった自分への怒りの矛先はどこへ向ければいいんだという疑問が湧いてくる。


 アリスは目を閉じ、大きく息を吸い込んでからレヴィの顔を覗き込んだ。


「またそうやって自分を責める……前向きに生きようって言ったのは誰ですか?」


「……そうだったね。気を付けるよ。っと、リリィが来たよ」


 これ以上うじうじしていてもしょうがない。それは何度も言葉に出した。だから、今度は心の中で唱えるのだ。自分だけの所為じゃない、と。


 屋敷の大門が開き、銀髪の少女が顔をひょっこりと出した。可愛らしい仕草。レヴィやアリスの姿を確認すると、彼女は清楚な歩き方でこちらに歩み寄る。


「おはようございます」


「おはようございます。よく眠れましたか?」


 レヴィのような悪夢体質が、彼だけでないとなると、それはもう少し懸念すべき事態だ。夢というものは以外に現実と繋がっており、特に悪夢を見た翌日はあまりそれと似通った行動をしない方がいい。というのが、この帝都での習わしだ。


 そんな心配を他所に、リリィは大きな伸びをし、欠伸をし、ダラダラ全開で言った。


「えぇ、それはもうぐっすりを超えて永眠しちゃう程に」


「永眠はしちゃあダメだよ……」


 こういったツッコミも久しぶりだ。ここ最近はアリスが真面目になっただけでなく、こういった面白い会話をしたことすら無かったから。


 レヴィのツッコミをさらりと流したリリィは、一度大きな深呼吸をした後、急に真面目な顔をして言った。


「……二人にお話があります」


「話?」


「はい……二人に」


 目を伏せ、しかし時たまちらりとレヴィやアリスを見るリリィ。知っている。彼女がそれをする時は、約束をして欲しい時だ。

 過去にも、結婚の約束を正式にした時も、彼女は同じ仕草をしていた。


「何ですか?」


「……一つ、約束をして欲しいんです」


 大当たりだった。

 リリィが言いにくそうに再び目を伏せる。


「約束? 全然いいよ」


 リリィの仕草から読み取れる次の言葉を読んだのを悟られないように平静を保ちながら、レヴィは彼女の言葉を待った。


「生きて……帰ってください」


 ――リリィの真剣で、しかし涙を零しそうな笑顔。

 いつか見た、別れの瞬間のような笑顔。

 アリスが好きだと言った時の悲しそうな表情。

 全てが混じりあった表情が、そこにあった。


「――はい」


 アリスは暫し言葉を詰まらせた後、迷わずに言った。

 勿論、死んで帰る訳にはいかない。どうにか生きて、手足をもがれても、首がもげても、命があるのなら這いずり回って帰ってこよう。

 その決意を頭の片隅に起き、彼が言ったのはまたしても軽口。

 ――緊張した時に軽口が出るのは、アリスとレヴィ、共通の癖らしい。


「ここだけ抜粋して聞くとリリィは行かないみたいに聞こえるな……」


「勿論、二人が怪我の一つもしないように最善は尽くしますけど……リリィは馬鹿で無力なので……」


 また卑下。

 自分を蔑み、自分を貶める。

 どうしようもなく、救いようのない自分がいることは分かる。最も、レヴィがその内の一人だから。だけど、こういう時、どうすれば心が休まるのか、レヴィは知っている。どうすれば、その気持ちが逆さになるのか、知っている。


「リリィ、おいで」


「ふぇ!?」


 大きく手を横に広げたレヴィに、アリスが驚愕の一文字を顔に映し出す。そうだ、彼女はリリィとレヴィの関係を知らない。肉体関係こそ無いものの、それなりに進展した仲だということを。


「……はい」


「な! な! なにやってんですかぁッ!」


 何の躊躇いも無くレヴィに擦り寄るリリィに、アリスが再び叫喚する。

 レヴィはそれに物怖じず、軽々と言って見せた。


「アリス、僕も一つ言っておく」


「へ?」


 レヴィは大きく息を吸い込み、まるで告白でもするかのように――否、ほぼ告白だった。その言葉を、吐き出した。


「征伐戦、生きて帰ったら……僕は……二人を絶対幸せにしてみせる」


「――う、う、嬉しいですけど! でもなんで二股宣言しながらなんですか! うわぁん!」


 言われてみれば二股宣言。でもそんなもの関係無い。レヴィからすれば、というよりも、彼が帝国の法であり、彼自身の行いでいくらでも法律なんか改変出来る。それならば、いつか誰かが言ったように「ハーレムを築く」ことだって出来るはずなのだ。――反論が少なければ、の話。


「でも、おいで」


「ふげ!?」


 アリスを抱き寄せ、ぎゅっと抱き締める。


「君が一番好きだ」


「あぁ……耳が妊娠しました……」


 ただ抱き締めて、その距離感故に耳元で囁いただけなのに、アリスはまるで絶頂するかのように体をぶるぶると震わせてそう言った。片手にアリス。もう片手にリリィを抱き締め、もうどうとでもなれ状態のレヴィにリリィが追い打ちをかける。


「リリィは!?」


「ここは耐えてもらわないとアリスが鬼神化するからややこしくしないでくれ……」


 独占欲の元々強いアリスと、最近何となく所有物に関しては厳しくなってきている様子のリリィ。二人はまさに、「混ぜるな危険」状態。


「元はと言うと、レヴィ君がたらしだからいけないんですよ」


「ハーレムを築こうとするなんて鬼畜です」


「耳が痛い耳が痛い」


 二人揃って失敬なことを言うものだ。

 僕は王だぞ!?的な感じで叫びたくなる気持ちも分かってほしい。


「ぶぅ」


「でも、こうやって希望を持てば征伐戦で必ず生きて帰ろうって思うだろ?」


 頬を膨らませる二人に、優しく語りかける。本当は、今すぐにでも挙式をしたいのだが、それはどうしても叶わない。どうか、再び自分がフラグクラッシャーであることを願う他ない。


「……はい」


 アリスとリリィが揃って返事をした。

 その時、


「レー様ぁ! アー様ぁ! リー!」


「なんでリリィだけ様無しなんですか!?」


 お笑いに、かつてこんな強烈なツッコミを入れた者がいるだろうか。叩いたりはしないものの、唾を飛ばしまくってもう女性失格だ。


「絶対、絶対、帰ってきて下さいね?」


「無視!?」


「リリもそう願うわ」


「まぁ、気にしなくても帰ってくると思うのです〜」


「ロロもそう思ってるわ、ねぇ? ロロ?」


「えぇ、レレの言う通りよ。貴方達の帰りを待っているわ」


 五姉妹全員が、それぞれに伝えたいことを言う。昔の文献にあった「ショートクタイシ」じゃあないんだから、それを全て聞き取るのは至難の業である。

 途中、またリリィのツッコミが聞こえたのは言うまでもない。


「ここまで来たらフラグも糞もないな……どうか、フラグクラッシャーでありますように」


「何をブツブツ言ってるんですか、私のレヴィ君」


「さっさと出発準備をしますよ、リリィのレヴィ様」


「ここで腕が千切れると、後の戦闘に支障が……」


 二人が各々、右手を引っ張り左手を引っ張り、更には二人ともが負けじと強化魔法をかけたり――酷い日だ。それでも、今日みたいな日が続くのは、征伐戦が終わった瞬間に確定する。それを望んで――。


 二人の手を振りほどき、竜車に乗り込む。紫龍は第一次で死んだものと、見分けがつかない程に良く似た紫龍だった。

 少々高い荷車に足を踏み入れ、荷物確認をアリスが行う。


「剣は各々持ちましたか?」


「勿論」


 クロウはきちんと腰に付けてある。


「魔石はちゃんと付けましたか?」


「それはリリィにだけ確認するべきだと思う」


 魔石など、魔法の使えない者にとっては無用の長物。レヴィが持っていたって、力が作用するのは他でもない二人だけだ。もし、仰望師団が魔法と織り交ぜて権能を使ってくるとしたら、魔石は使ってはいけない。


「あぁ、私のレヴィ君は魔法が使えないんでしたね。ぷぷっ」


 アリスは最初、あの時の目覚めた時のように、にこやかな笑顔でレヴィを揶揄った。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「そろそろ止まりましょうか」


 かなりのスピードで進んでいた竜車が、段々と速度を落として止まる。紫龍は息をぜぇぜぇと、苦しそうに喘いでいる。その様子を見れば、紫龍が疲れているから一旦休みましょう、という意味だというのはすぐに分かるが、敢えてレヴィは聞いた。


「そのままは行かないのか?」


 アリスが紫龍を座らせ、紫龍を操る場所から振り返ってレヴィに言った。


「少し休憩を挟んでから、万全の状態で彼らを迎え撃ちましょう」


「そうか」


 万全の状態で彼らを迎え撃つ。確かにその方が勝算があるだろう。にしても、あまり長く座りすぎていても体に悪いし、少し体を動かした方がいいのではないか。例えば軽く模擬戦をするだとか。

 アリスに提案しようとするも、彼女は既に竜車から降りており、地面に座って紫龍にもたれかかっていた。


 レヴィは提案を諦めると、後ろを振り返って、爆睡しているリリィの肩に手を当て揺さぶる。


「リリィ、起きて。そろそろ綺麗な朝焼けが見られるよ」


 そう、アリスが止まった理由はもう一つ。ここはもう既にシーガの塩湖の端であり、ここではいつか父イヴァンと見たあの朝焼けが見られるのだ。


 リリィは暫くむにゃむにゃと寝言を言った。なかなか起きない彼女に、レヴィが頬を軽くつねった時、事態は起きた。


「ふがぅ!」


「女の子らしくしてくれよ頼むから」


 あまりにも女性らしくない反応。もう少し、「ん?」とか、そういった普通の反応を期待していたレヴィは、地に叩き落とされた鳥のような気分だ。


「う……もう朝ですかぁ? 眠り足りまはぁあああ」


「欠伸も手で抑えるのが常識だよ。いつからこんなにだらしなくなった?」


 大きな欠伸をし、しかし目は開かない。まぁ夜中は夜中だから、眠たいのはあるだろうけど流石に気を抜きすぎなのではないか。これから征伐戦だというのに、眠りこけていては――死んだ者達に示しがつかない。


「……レヴィ君、見てください。そろそろ朝焼けが」


 アリスが手を振り振り、こちらへ来いと呼んでいる。その言葉に釣られてリリィも降りてくるかと思いきや、


「リリィもうちょっと眠る……」


「子供か……」


 彼女は微動だにせず、睡眠を続けた。毛布をかけてやっても、ありがとうの一言も無い。別に、それに嫌気がさしたりはしないのだが、ある程度お嬢様としての自覚を持って欲しい。


 竜車から飛び降り、スタっと着地する。それはまるで、昔の映画のような、どこか憧れていた着地方法でもあり、彼は自分の行動に目をキラキラとさせた。


 アリスが座っている紫龍の腹の中、レヴィも三角座りで夜明けを待った。

 ふと、静かな時が流れ、不意にアリスの方を向いた時、彼女は膝に口を埋め、寒そうに目を伏せた。

 レヴィが声をかけようとしたその時、アリスは喋り始めた。


「私、いつも思ってたんです。私がどこから来て、どこに消えていくのか。そして、何の為に生きてきたのか」


「……うん」


 重い話題。いつもレヴィがしているものよりかは一割増で重い。しかし、レヴィの話をいつも聞いてくれ、それに毎回勇気づけられた彼からすれば、アリスの重い話など屁でもない。


「まだ前者二つの答えは見つかっていませんが、三つ目の答えはもう見つかりました」


「何の為に……生きてきたのか?」


 何の為に、生きてきたのか。レヴィは考えた。それは多分、自分の為。レヴィからすれば、それが答えだった。恐らく、大多数の人間はそう答えるだろう。何せ、人間という生き物は――否、生き物は皆、自分以外のことなど、ほぼどうでもいいと考えているからだ。


 アリスは言った。


「はい。それは生き物の性である、子孫を残すことや、悦楽に負けて食べ物を貪ることじゃない……」


「じゃあ、何?」


 もし、その悦楽に負けたり、子孫を残すことが理由で生きてきたなら、その人はかなりの野生本能野郎だろう。レヴィはそうじゃない。そうとは、言いきれないが、そうでないことを願った。


 アリスは言った。


「私は、貴方の為に生きてきました」


「――」


 ――負けだ。

 彼女の心の清廉さ、潔白さに負けたのだ。賭けに勝った、賭けに負けたではない。人間として、一個人として、負けた。


「貴方の命を守る為。貴方の心を支える為。貴方の味方になる為。貴方の、貴方の全てを守る、支える為に私は……生きてきたんです」


「……そうか」


 一度は疎遠に、殺しかけた。彼女を。

 その彼女が、これ程までに綺麗で、清純で、素晴らしい心を持っていたなんて、思いもしなかった。


「臭いとは思いますけど、少なくとも私はそう思ってます。……それで、一つ聞いてもいいですか?」


「……うん」


 アリスの心の綺麗さに、もう「うん」。その一言しか出てこない。彼女は紛れもなくレヴィの第二の育ての親で、彼女のような関係で、主従関係でもある。これ程恵まれた環境があって堪るだろうか。


 爽やかな風が吹き、アリスとレヴィの頬を、髪を撫ぜ、たなびく。


「私は、貴方の救いになりましたか?」


「――ッ!」


 我慢なんてするものか。

 もう、彼女がいなくては生きていけない。

 そう、思ってしまった。

 こっちこそ、臭いとは思うが、そんな気分だ。


 抱き締める。ぎゅっと。心を鷲掴みにするように、体全体で、心全体で彼女自体を包むように。

 アリスは突然のレヴィの行動に驚き、軽く仰け反る。そんな姿も愛おしい。これ程までに愛しい気持ちは、ヴェリュルスの所為てはない。間違いなく、レヴィ本人の気持ち。


「ちょ!? ……レヴィ君?」


 情けなく、男らしくない。

 啜り泣き、アリスの肩を涙で濡らす。


「何……言ってんだよ。……救いにしか、なってないよ。何で……君は……そうやって僕を……」


 惑わし、振り回し、挙句の果てにこんなところまで来てしまった。本当は――本来なら、ずっと屋敷で、皆で、ゆっくりしていたかった。自分が王という権限を持ってさえいなければ。


「救いになれたのなら、幸いです……レヴィ君、そろそろ陽が昇りますよ」


「……うん」


 涙が急に止まった。もうまるでアリスがレヴィの体を制御しているようだ。

 夜の帳が、開ける。


「僕、ずっと前に父さんとここに来たことあるんだ」


「へぇ〜、綺麗でしたか?」


「それはもうね、とても。その時、思ったんだ」


 死を連想させる、なんて言ったら、彼女も流石に驚いてしまう。だから、敢えて流した。

 アリスがこちらを向き、軽く微笑む。


「?」


 あの夜明けを見た時から、アリスと出会った時から、何故か、ロマンチストでもないのにこう思った。


 ――僕は、


「最後の夜明けは最愛の君と――そう、決めてたんだ」


 最後の夜明けが、二人を包んでゆく。

ここまで読んでくれてありがとうございます。

やっとこさ、この作品、「最後の夜明けは最愛のキミと」の折り返し地点となりました。やっとですやっと……。

ここから先、三章で終わらせてしまうのか、それともそれ以降の章を作るのか。とても悩んでる状態です。もし希望だったりアドバイス、それについての感想などがあれば感想お待ちしております!勿論、アドバイス以外の感想も大歓迎ですので!ではでは。

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