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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第三章 戦骸
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67話 選択肢なんて無かった

「――ず……てね」


 彼女の声に、頭がガンガンと響く。


 それはまるで鈍器で頭を殴りつけられているように。

 それはまるで鋭利な刃物でくり抜かれているように。


「やめて……くれ」


「――ず……け……ね」


 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。


「アイラ……俺は……」


「――かな……ね」


 心が痛い。


 壊れそうな程、崩れそうな程――。


「ごめん……あの時、俺が傍にいなかったからお前は……」


 ――俺がいれば。


「必ず、助けてね――」


 ――アイラだけは助かったかもしれないのに。


 ヴェリュルスの意識は途切れた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 目が彼女の腕を追うことはなくなった。感覚が、空中に描かれている線をなぞるだけで、彼女の一撃一撃が相殺される。


 強烈な一撃も、片手で重剣を振り振りしていた故に付いた筋肉で耐えられる。相変わらず、自分の得物はクロウでアリスのそれが木刀であることに、少々不満ではある。


 だが、木刀と本物の剣の差異を無くしたとしても、レヴィに開花した才能は垣間見える。アリスもまた、自惚れるレヴィの前で感嘆を零していた。


「アリス、君が安静にしてろって言ってたんじゃなかったっけ?」


 つい昨日言われた言葉だ。

 安静にしろ。それを全うしようと努めていたレヴィの気持ちを他所に、アリスは彼を外へと連れ出し、模擬戦を申し込んだ。


 昨日とは打って変わり、天候に恵まれた空はレヴィ達を優しく見下ろしている。そんな快晴の空の下、二人は剣を交えた。


「体の疼きが収まらないんです。そういう時はこうやって体を動かすのが一番なんです」


「僕は関係ないでしょ?」


 疼きが収まらない。それは彼女が白髪になったことや、感情の制御をしにくくなった、ということと関連しているのだろうか。


 だが、彼女の剣を振る動きから見ても、彼女に特にといった異変や目立つ点はない。やはりレヴィが気負いすぎなだけなのかもしれない。


「関係ないですね」


「だろ? で、僕が君に追いつけるようになったのには無反応なのかな?」


 レヴィはそう自惚れるが、そうなるのも仕方ない。ここ数日間でみるみるうちに力を付け、アリスと並ぶ程までに成長したのだから。


 しかし、魔女の力は日に日に、少しずつ増していっている為に、レヴィが彼女と「並び続ける」というのはとても難しいことだ。


 毎日魔女の力が増幅していっていることは、この屋敷の人間しかしらないことだ。まず、そんなことが口外されていれば、彼女は既に実験室で解体されている。

 今でさえ、多少は科学者達に目を付けられているというのに。


「いえ、大したものです。まさか魔女に追いつくとは」


「征伐戦の前まではミーナの豚を運べるかどうかでぐちぐち言い合ってたのにこの次元の差はなんだ。成長しすぎだろ。特に僕」


 自惚れが過ぎた。アリスの目がいやらしく歪み、彼女が握った木刀が大きく振りかぶられる。


 それを避けようとしたレヴィ。後ろに即座に後退しようとしたものの、足が絡まり、体勢が崩れた。詳しく言うと、アリスが魔法で生成した氷がレヴィの足を絡め取り、レヴィが尻餅を付いた。


「自惚れるとどうなるか分かりますか?」


 尻餅を付いたレヴィを見下ろした。まるで抵抗など全く出来ない虫や動物を甚振るかのように。だが、レヴィはそれに物怖じしない。第一次征伐戦の前日、あの日なら小便を漏らしていたことだろう。


 だが、今は違う。

 数多の試練を乗り越え、傷付き、大事な人を失い、それによって強い体を得た。心こそは脆いものの、今、アリスに負ける気はしない。


「いいや。君が言わんとしてることは分かるけど」


「はぁっ!」


 言い終わるや否や、アリスが魔法を塗した剣を振り下ろす。それはまるで子供がごっこ遊びをしているかのように適当な振り下ろしだったが、それに伴う突風と圧力は相当なものだ。


 レヴィは落ち着いて状況を判断した。

 今は立てない。体を元の体勢に戻すことすら叶わないこの状況で出来ることは――。


 瞬時にクロウを拾い、ただ目の前に翳した。それだけで、魔法を纏ったアリスの剣はその場に留まる。

 ここまで来たら、もう勝ちだ。


 後は膨大に膨れ上がったアリスの魔法剣の勢いの矛先を、レヴィの足に取り巻く氷の塊に向ける。そうすれば、剣が纏った魔法が勝手に氷を引っペがしてくれるのだ。


 足が離れた瞬間、脅威的な瞬発力でレヴィは地面を踏み締め、アリスの首元にクロウを押し付け、言った。


「……僕の勝ち」


 アリスはしばらくの間、軽く仰け反った体勢で沈黙を貫いていたが、レヴィが一言「アリス?」と言葉を投げかけると、彼女ははっと気が付いたように目を見開き、冷や汗を一粒流しながら小声で言った。


「……お見事です」


「もう一戦いくか?」


 まだまだ体は動く。寧ろ、アリスよりもレヴィの方が暴れ足りないのかもしれない。もしこれが邪精霊や精霊の影響なのだとしたら、それは大きな問題である。


「いえ、もう三勝三敗もすればやる気も失せますよ。互角に戦えるようになった、というのを確認出来ればそれでいいです」


「それを確認してどうするの? また黒鴉に挑むか?」


 トラウマになりかけた出来事だ。仰望師団のレッカに甚振られたことも中々のトラウマだが、黒鴉に達磨にされかけたことも、大概だ。


「こく……あ?あぁ、黒いカラスのことですね。それについても話があるので、一度大広間に集まりますよ」


 黒鴉に関する話なんて言われれば、思い当たるのは一つしかない。

 “unknown”が絡むことで、アリスがこんなに真剣な表情を浮かべるのは、必ず征伐戦や大きな戦いの前触れ。


「はいよ」


 だが、そんな揺れ動く内心を悟られないように平静を保ち、レヴィは屋敷の中に入っていった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 大広間は、大勢の人が入る――と言っては大まか過ぎる為、細かく言うと、人がギュウギュウ詰めに入ったとしたら、その総数約五百人を超えるであろう大きさだ。


 そこにアリスが直々に人を呼び集め、これから行われるであろう「大きな戦闘」への対処法を話そうとしていた。


「第三次“unknown”及び仰望師団征伐戦の概要を説明します」


 主要な人物が全員出揃った。アリス、レヴィ、リリィ、ララ達五姉妹――。

 全員が胡座や正座、お姉さん座りで腰を下ろしたのを確認すると、アリスは厳かな雰囲気を漂わせた。


 眉間に皺が寄り、口をきっちりと噤んで。彼女は元々、「大は小を兼ねる」人間ではない。だから、彼女がそういった態度を表に出すということはつまり、後に行われるであろうその戦闘も、中々激しいものになるものと予想される。


 アリス以外の全員が、彼女の出すオーラに圧倒されて固唾を飲んだ。すると、まるでそれを合図と見たかのように、アリスが話し始めた。


「この征伐戦の主な目的……必ず達成しなければいけない事項は、征伐戦の名にも入ってある通り、“unknown”の黒鴉の征伐。そしてあわよくば、そこに現れるであろう仰望師団の討伐です」


「アリス、質問」


 初っ端からアリスの話を折ったレヴィ。訳があってのことではあるが、少々彼女の気に触ったかもしれない。


 だが、話を折るのにも必要な程、気になる点が一つあった。


「何ですか?」


「何で仰望師団が来るって分かる?」


 簡単な話だ。仰望師団が来ないのなら、目的は“unknown”黒鴉の征伐だけで良い。だが、わざわざ仰望師団の征伐も目的の一つとして入れているのなら、それは仰望師団とちゃんと対峙出来るという確信があるからなのだろう。


 だが、レヴィにはそれについて思い当たる節が無い。結果、言い出しっぺのアリスに尋ねることにしたのだ。


「簡単な話です。今日の街の壊滅度は九割を超えています。そして被害者の量は千人を超えています……もうお分かりでしょう?レヴィ君なら」


「なるほどな。そこまで甚大な被害を出したのは何故か、ってことか」


 壊滅度が九割超え。そして被害者の数も千人以上という惨劇にも関わらず、レヴィはそれを聞いても何とも思わなかった。


 心が腐っているのだろうか、彼の気持ちはびくともしない。自分の陣営にまで被害が及ばなくて良かったと思える程に。陣営のトップであるレヴィが達磨になれば、被害が及ばなかったとは言えないだろうが――。


 レヴィとアリスが、二言だけで会話を成立させているのに対し、全く理解が出来ない様子のリリィや五姉妹の中のルルが声を上げた。


「あの……すみません、全然分からないんですけど」


「ルルも〜」


「仰望師団は“unknown”を操れるだろ? だから今回の街の破壊も、仰望師団が関わっているはずなんだ。もし彼らが“unknown”を操っているのなら、それには必ず目的が付いてくるはずだ。その目的は何か、そこに重きを置くんだ」


 仰望師団が“unknown”を操る力を有している。それはカルヴィンが目の前で実践して見せた。だから、仰望師団が“unknown”を操ることが可能なのはほぼ確定なのだが、もしかしたらそれはカルヴィンに限ったことなのかもしれない。未だ、カルヴィン以外の仰望師団が“unknown”を操っているのは見ていない。


 もし前述が可能なら、仰望師団は何らかの意図を持って、“unknown”を操っているはずだ。

 その意図は、破壊でもなければ、殺戮でもなかった。


「……つまり?」


「つまり、仰望師団は僕達を誘ってる」


 「あれくらいの被害を出しておけば、レヴィ陣営もこちらに来るだろう」と思っているのだろうが、アリスが提案した案はまさにそれを思いついた奴の思う壺であり、何の策略も糞もない。


 そこに何かしらの策略を練り込むことが、今回の征伐戦の鍵になるのだろうが、今の所その鍵に当たる部分が見つからないままでいる。


「……本当、ですか?」


「まだ確信はありません。でも、あそこまでして何がしたいのか、と思うと……それくらいしか思い当たりません。彼らは私達を怒らせ、多分おびき寄せようとしてるんだと思います」


 おびき寄せよう、彼らの意図の裏を読むことは出来ない。表面は、「レヴィ達を誘い込む」ことだが、それ以外に意図があるとすれば、それはレヴィ達には想像にも及ばない、超越した、馬鹿のような理由なのだろう。


 もしかしたら、表面が答えだったという答案も、ありかもしれない。


「何で今なんですか……」


「それも本人達に聞かないと分かりませんね」


 何もかもが不鮮明。流石の秀才レヴィも、今回ばかりは頭を抱えて降参だ。


「分からないことだらけなんですね」


「ええ。それで話を戻しますけど、人員はこのメンバー……から、ララさん達を除いて編成します」


 アリスの目線が、ララ達五姉妹、そしてレヴィに向く。それが何を示しているのか、それは分からない。


 リリィが、怖々とアリスに声をかける。


「……正気ですか? 昼のあのカラスに三人で挑もうと?」


「過去の過ちを繰り返すつもりがないだけです。嫌なら貴女も抜けて構いません」


 過去の過ち――ミーナのことだ。

 あの時は仕方がなかった。あの魔女のアリスでさえ、突然の急襲に反応し切れなかったのだから。あの時、レヴィが今程力を持っていれば――、何度考えたことだろう。


 そんなことを考えても、過去は戻ってこない。戻ってくるのは、未来にいるミーナだ。彼女を何とかして生き返らせる為に、レヴィにはしなくてはいけないことがある。


 強気な言葉でリリィに吹っかけると、彼女はまるで怯えた子犬のように縮こまった。

 今までの会話を顧み、そこに自分が問おうとしている言葉をはめ込む。


「嫌じゃ……ないですけど、勝算はあるんですか?」


「ないですよ? その時その時、最善を尽くすだけです」


 適当だ。あまりにも浅はかな考え方だ。黒鴉には、多少遅れを取っても勝てる可能性は少なくともないことは無い。だが、相手に仰望師団が混じっていたらと考えると、それはもう悪夢でも何でもなく、「死」そのものを意味する。


 脅威の底知れない仰望師団。そのルーツが何なのかは知り及ばないが、彼らの邪精霊によって、強さが半減。もしくは増幅することは言うまでもない。シリルのように防御一択の邪精霊もいれば、どんなことでも可能にし、どんな物でも壊すことが出来る、レイラのような力を持つ邪精霊もいるのだ。相手がそれのどちらかなんて、想像も出来ない。

 もし仮に仰望師団が沢山いて、彼ら全員が攻撃的な邪精霊の持ち主だったとしたら、先も言ったように死への道を歩まされるだけである。


「そんなので大丈夫なの? アー様?」


 流石に子供でもこの作戦――作戦とも呼べない強行突破に、不満を覚えるようだった。口を膨らませて、「ぶーっ」と空気を吐き出した。


「浅はかかもしれませんが、まず相手と対峙出来るという確信が無いので仕方ありませんよ」


「どこなの?」


 ルルが尋ねる。

 のんびりとした口調とは相反し、もしかしたら彼女も頭がキレるのかもしれない。


「対峙出来る場所ですか?」


「うん、それを見つけないとどうしようもないでしょ?」


 「当たり前じゃないですか〜」と付け足し、ルルは言う。それにはレヴィだけでなく、五姉妹の内ルル以外の四人も同じように頷き、皆でアリスの顔を眺めた。


 アリスは冷淡な顔付きで彼らを一瞥すると、最後にレヴィにだけはニコッと笑顔を見せた。その反応には五姉妹全員が頬を膨らませ、また「ぶーっ」と空気を吐いた。


「目星を付けているのは……シーガの塩湖か、この帝都の周辺、それくらいですかね」


 シーガと呼ばれる地域には、大きな塩湖がある。それはまるで水平線にでもなりそうな程広大で、端が見えない。それに加え、水面が鏡のように上空を映し出している。故に、知る人ぞ知る絶景ポイントとなっている。


 帝都の周辺には目立った建造物や自然は無く、これと言って特筆すべき点は無い。唯一あるとすれば、帝都で二番目に高い場所に建てられたこの屋敷と、現帝王レヴィが所有することになった王城くらいだろうか。

 周辺状況も、特に変わったことは無く、一見すると少し賑やかな城下町と言ったところだろうか。


「なんでシーガの塩湖に? 他には無いの?」


「……今朝、シーガの塩湖周辺からの救援要請があったんです。それも沢山」


 なるほど、浅はかだ。


「ってことは……」


「つまり、征伐戦を無しにしても結局は行かなくちゃいけないんです」


「じゃあ……そこに賭けるか」


 塩湖の周辺で大量の“unknown”が発生。もしかしたら一体の“unknown”を沢山の人が見ただけかもしれないが、それにしたって、一体だけで行動する“unknown”なんて、ヤバすぎるに決まってる。恐らく、黒鴉かそれ以上か。

 何にせよ、結局出向かなくてはいけないのなら行かない選択肢は無い。だが、注視すべきは「沢山の人が救援要請を出した」というところである。要するに、何かしらの怪我人が出たとか、そういった意味ではないのだ。


 ――だって何しろ、シーガ周辺には人がいない。


 数年前に、元々シーガの中心にあった湖が大雨で氾濫した。その被害は尋常なものではなく、シーガ全体を飲み込むような恐ろしいものだったらしい。その後、何かしらの自然能力で塩湖になった、というのが諸説だ。

 氾濫が起きて以来、シーガ周辺には住む人はいなくなった。というよりも、住むことが不可能になった、というのが近いかもしれない。何せ、シーガという地域は塩湖に飲まれてしまっていたからだ。


「また浅はかですぅ〜」


 浅はか、なんて言葉では片付けられない。

 ――仰望師団だ。リビル・レレモードという人間の存在が、第一次征伐戦から明らかになった。第一次征伐戦。あの時、彼は虚偽の報告書を帝国に提出し、国民全体を混乱させるに至った。


 恐らく、今回もそれと似た手口――否、同じ手口を使っている。


「……それなら二手に別れよう。ララ達は安全と思われる帝都周辺。ここには傭兵も配置しよう。多分、勘だけど塩湖の方は悪い予感がする。だから塩湖には僕らが――」


 それしかない。そうすれば、塩湖にいるであろうリビルと対峙するのはレヴィとアリスとリリィだけになり、幼い五姉妹の命だけは助かるだろう。


 そんな考えを元に、言葉を並べていると、不意にアリスがレヴィの言葉を掻き消す。


「ちょっと待ってください。レヴィ君は安静ですよ?」


「……はぁ!?」


 ――冗談じゃない。まさかアリスだけで接近戦を? 馬鹿言うな。そんなの勝てる訳がないだろ!


 レヴィが思い浮かべる通りに物事が進む可能性は非常に高い。

 アリスが負け、レヴィがいつまでも彼女の帰りを待つ姿が想像出来る。想像、否、ほぼ現実と相違ない。


「征伐戦は私一人で、援護はリリィさんのみでいくって……言いませんでしたっけ?」


「言ってないよ……っていうか、そんなの許可出来る訳ないじゃないか。君一人で接近戦なんて……」


 接近戦だから傷を追う――つまり、死に至るのはほぼ確定だ。いくらアリスが死なない体を持っていたとしても、それに対抗する手段は仰望師団にはいくらでもある。それを見込んでのお誘いだ。


 それに加え、アリスが死ぬ――死まではいかなくても、戦闘不能状態に陥れば、次に狙われるのは間違いなくリリィだ。


 それに、敵は仰望師団だけではない。“unknown”もまた、そこにいるのだ。いくら“帝国の魔女”でも、強大な二つ以上の敵を穿つのは厳しいだろう。


 ――それなのに、何で君はそんな顔で僕を見つめるんだ……。


「貴方は絶対に屋敷から出てはいけません。貴方が死んだら、私が折角生きて帰ってきてもショック死しちゃいます」


「か、軽口言ってる場合じゃないよ! 僕がいれば……今の僕なら、君が二人になったのと同じくらいの戦力だ! 僕が、僕がいた方が勝算は上がるはずだろ!?」


 アリスと同格になった。つまり、レヴィを連れて行けばアリスが二人になったのとほぼ変わらない。アリス二人分の力は、敵としても想定外の出来事になるはずなのだ。


 しかしアリスは眉根を寄せ、しかし口角を上げてレヴィに言った。


「自分の体を顧みてください。さっきまで腕は千切れてて、お腹にはぽっかり穴が空いた。そんな怪我が治ったばかりの人を連れて行けると思いますか?」


「でも治ったんだ! お願いだから連れてってよ! 君が死ぬのだけはごめんなんだ!」


 治った。治った。歪に歪んだ体にはなった。それでも治ったのだ。歩けない体ではないし、戦闘出来ない体でもない。それなのに何故――。


「……ダメです。冗談でなく、今は貴方を失う訳にはいかない。それは私にとって大事なことで、ここにいる全員。スティラさんや屋敷のメイド達にとっても大事なことなんです」


 それは恐らく、「王」としてのレヴィを見ての言葉だ。一個人として彼を見ていれば――それでもアリスはレヴィを連れて行くことを断念するだろう。


 だが、レヴィにも心はある。気持ちがある。感情がある。愛情がある――。

 失いたくない気持ちが、アリスだけは亡くしてはダメだと、責任感のような、運命のような、そんな感覚がレヴィを取り巻く。


「……でも……僕は……もう、大事な人を失いたくない。それは君と同じ気持ちで――」


「あぁもう! 分かりましたよ! 連れてけばいいんでしょ連れてけば! しつこい男の人は嫌いですよ!」


 レヴィの言葉の骨を折り、アリスがそう叫ぶ。

 あまりの嬉しさに、声が発せない。


「ほ、本当に?」


「本当です。しつこいのは大っ嫌いです。レヴィ君を除いて」


「そ、そっちか……」


 確かに、顧みてみればアリスはしつこい男が。いや、しつこい人間が嫌いだったような気もする。

 あまりにしつこいと、玉蹴りなんてことをしていた時もあった。――あの時は荒れていた。


 ――何にせよ、僕はもうアリスを救える。もう、失わなくて済む。


 アリスが徐に立ち上がり、全員に目線を向けて、大きくため息を付いてから言った。


「じゃあ、決行は明後日の夜。それまで各々準備を。傭兵には私から声掛けしておきます。レヴィ君、話が」


「……うん」




 この時、レヴィは勘違いをしていた。


 また、自惚れていた。


 また、ヴェリュルスの気持ちを無視した。


 それに気付かず。


 また、同じ過ちを繰り返さない。


 そう、決めたのに。


 彼は同じ過ちを繰り返す。


 その一途を、今辿っていた。

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