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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第二章 呪いが集う場
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番外編 ツインテールトリプルテール

「レヴィ君、食べないんですか?」


「レー様気分悪い?」


「レヴィ様、リリィがあーんしてあげましょう」


 少しお腹がいっぱいになり、これ以上食べられないからと七面鳥を置けばこの有り様だ。全く、彼女らはレヴィのことを何だと思っているのだろうか。かつて流行ったであろうお掃除ロボットというやつのように、ぐいぐいと吸い込んでいくと思うか。


 アリスの黒髪がレヴィの頬にパサリと当たり、ルルの赤髪が、彼女と共に跳ねている。対して、アリスの髪の毛が当たった反対側の頬にはリリィの銀髪が当たり、レヴィは口を曲げる。


「アリスは絶対分かってるだろ!僕は......少食なんだ......」


「もっとチキン食ったら?美味しいぞ?」


 お腹を擦りながらそう言ったものの、リイラは無限に広がるであろうその胃袋で、七面鳥をバクバクと平らげていく。レヴィにもその食べ方を勧めるが、レヴィはいやいやと首を振る。

 流石に彼女並には食べられない。まず人並みにすら食べられないのだから。


「そのあくまで女の子ってところが実に可愛らしい──ッ!?」


「......レヴィ君?」


 失言──それ以前に、考えもいないことが口から発せられる。

 そしてその言葉に一番に反応したのは、言葉を投げかけられたリイラ本人ではなく、黒髪の魔女だった。


「そ、そんな......お前......会ってそう時間立ってないだろ......!も、もう私にほ、惚れ......」


「違う違う!口が勝手に!」


 勝手に話を先々進めていくリイラは、女の子そのものだ。顔を赤らめて、スカートの裾をギュッと握る。

 まだ、レヴィの前では髪をかき上げてはいない。レイラが惹かれる程だからなかなかな人だろうと思ったから、自分も少しは惹かれるかな。なんて疚しい考え方が根底にはあった。実際会ってみると、なかなかの美男子だ。彼に惚れるのも時間の問題だろう。


 そんな、照れてトマトでキムチなリイラを他所に、レヴィは先程の失言の撤回を試みる。が、それ以前に自分が何故そんなことを言ってしまったのか、という疑問に尽きる。

 結局、結論は数秒で出るはずはなく、アリスが口火を切る。


「心配ご無用。レヴィ君は責任を持って成敗します」


「リリィも手伝いますね」


「ボクだって」


 皆が皆、レヴィの敵だ。唯一、無関係者であるカーマイン達や、当の本人であるリイラならば助けてくれるだろうか。否、彼女らの目も、なかなかどうして悪を見る目だ。

 そう、この場ではレヴィは確実な悪であるのだ。


「やめろぉ!」


 と言いながらも、流石に女の子三人に押し倒されては踠く気も失せる。大の字に寝転がり、その腰の上にはアリス。両腕を掴んで離さないリリィとレイラ。もう八方塞がりだ。


『レヴィ、聞こえてんだろ?無視すんなよ』


 先程と同じ。脳内に響く、自分の声。間違いなく彼だ。何故、意識がある中で彼の声が聞こえているのか分からない。だが、一つだけ言えることがある。──さっきの失言はお前の仕業だろ、と。


「............ヴェリュルス?」


 邪気を含ませながら、怒気を含ませながら、しかし静かに呟くように言った言葉は、思惑通りアリス達には届かない。届いても問題はないが。


「何ぼそぼそ言ってんですか!はい、私見る!」


 「ぐりん」と言わんばかりの勢いで、アリスがレヴィの首を捻じ曲げる。そのあまりの速さに、レヴィが「痛いっ!」と声を上げたのもつかの間。すぐさま両脇の二人の腕が伸び寄る。


「違う!リリィ見て!」


 そう言ってレヴィの顔を左へ。再び、首がもげそうな感覚を覚える。


「ボクだぁ!」


 まだリリィとアリスが大人の扱いだとは気付いていないレヴィは、「またかよ」という気概で、レイラの腕をみすみす顔に伸ばさせた。しかしそれが失態──彼女の腕は、権能で何やら強化したのか、物凄い力でレヴィの首を捻じ曲げる。「いってぇ!」と叫んだレヴィを他所に、レイラ達は冷めた顔で眺めている。


 全く、どれだけ自己中心的なのか。レヴィはもう少しお淑やかな女性が好みだったのに──。肉食系女子が多いこの屋敷では、そんな願望が叶うはずもない。レヴィは諦めて叫んだ。


「ちょっと落ち着けぇ!」


「落ち着けるわけないでしょう?また彼女候補増やす気ですか?正気ですか?馬鹿ですか?そうでしたね馬鹿でしたね!」


 レヴィの要望には答えず、そのまま話を盛り上げて切り上げるアリス。

 全くと言っていい程人の話を聞こうとしないその耳は必要なのか。息でも吹きかけてやろうか。


「勝手に話切り上げんな!」


「レヴィ様......浮気ばっか」


「お前とはキ............し、しただろ!?」


 「キス」と言おうとしたが、周りの女の子達の視線が気になって口がもごもごとなる。さっきカーマイン達に、アリスとキスしたところを見せたのに、リリィにさえ手を出していると知れたら王として生きていけない。


「ボクしてもらってない」


「あぁ〜!取り敢えず起こせ!」


 駄々をこねてレヴィの腕をバシンと叩くレイラもまた、人の話を聞かない。第一、彼女にまで手を出してはもう後戻りは出来ない。もう、既に後戻りなど出来ないのだが。


 跨るアリスのお腹を支え、レイラとリリィが押さえつけていた手を払い除け、叫びながら上体を起こす。

 アリスは「むぅ」と声を上げ、両端の二人はため息をつきながら退散する。


「もう......」


「こっちがもうですよもう!」


 立ち上がりながら、背中についた汚れを払う。そして、ため息混じりにそう言うと、アリスが怒鳴る。──怒鳴りたいのはこっちの方だ。

 だが、そんなことはしない。何せ、可愛い可愛い従者であることには相違ないのだから。


 立ち上がった瞬間、再び勘違いしたままで、スカートの裾を掴んだままのリイラが言った。


「お前......私のこと......?」


「違う違う!もう増やしませんから!」


 これ以上話をややこしくしないでくれと心中で願うが、そんなものが通じるはずもなく、彼女はあからさまに泣きそうな顔になった。

 何故そこまで自分が良いのか。謙虚なレヴィには、全く何も分からなかった。


「そうか......私は除外か......」


「悲しそうな顔をしないでくれよ......」


 あからさまに泣きそうな顔になった後、俯いたリイラ。「お前はそれでも元仰望師団か!」と問いただしたくなる。それ程までに、今のリイラの表情は女らしく、しおらしかった。


 そんな、リイラの気持ちの波が最底辺に沈んでいる時に、アリスが不意に声を発する。


「ざまぁです」


「余計なこと言わない!」


 自分の恋敵が増え、更にその相手が消沈したところで、アリスが「The慢侮」といった表情を浮かべる。レヴィとしては、これ以上関係のない人を悲しませたくない、勘違いさせたくないから、彼女の言葉をどうしても遮りたかった。叶わなかったが。


「で、さっきの失言に関してはどう謝罪するつもりで?」


 すっと気持ちを切り替えたかのような顔付きになったかと思えば、またしても嫉妬の発言だ。──もういい加減にしてくれと、心が叫んでいる。


「あ、あれは......神様の声だ」


「アズリエル?」


 帝都では、「神様」と言えば「アズリエル」という暗黙の了解がある。だが、レヴィが指している神とは、彼女のことではない。だってまず、性別が違うのだから。まず、神様に性別があるのかどうかも分からない。流石のレヴィでも、そこまで神話に長けている人間ではない。


 故に、リリィが回答した「アズリエル」というのは間違っている。それに、レヴィが言った「神様」というのは、単なる比喩であって、決してヴェリュルスが神様というわけではない。


「いや、もっと凄い神様」


「何馬鹿なことに惑わされてるんですか、アズリエルより凄い神なんていませんよ。それに、何で神の声がレヴィ君に乗移るんですか」


 アズリエル信教派のアリスは、そう言い張る。まぁアズリエルを支持する宗教に加わっているわけではないが。

 それにしても、何故アズリエルの逸話が少ないのかなど、気になるところは多々ある。そんな彼女を推す、アリスの心境も読み取れない。


「え、選ばれし者だからだ」


「何それかっけぇ〜!......なんてなりませんからね。しっかり謝って私への愛を誓うなら許してあげます」


 中二臭い発言に、ノリツッコミのようなそうでないような切り返しをしてくるアリス。──愛を誓う。それは先程のキスとはどう違うのか。

 否、キスとはまた違うらしい。何やら不穏な空気がアリスから流れ、レヴィは気後れする。


「え、えぇ......」


「......何でリリィさん達、今回は黙ってるんですか?」


 嫌だという雰囲気を最大限に引き出したレヴィを前に、アリスの気も少し変わったらしく、話をすり替える。

 言われてみれば、リリィもレイラも先程。ついさっきから少し静かだ。


「だって、レヴィ様をそうやって甚振るのはちょっと違うと思って......ね?レイラちゃん?」


「ちゃん付け?まぁ、同意見だけど」


 ちゃん付けに軽い不服を覚えたが、それも流す大人げのあるレイラは、リリィの意見に同調する。


「ずるい!......っていうか、何でずっとリリィさんを見てるんですか!私を......!」


 レヴィの視線がリリィに釘付けになっていることに気付いたアリスは、再び顔を両手で挟んで自分の顔の方向に捻じ曲げる。乱暴な女の子は好ましくない。


「だってツインテールのリリィも可愛いんだもん」


 またしても、自分自身でも予想だにしない発言。絶対、確信、確証を得た。ヴェリュルス。あいつの仕業だ。

 何故、こんなことをするのか。何故、こんな嫌がらせをレヴィに。文句を挙げればキリがないが、それでも申し立てたい不服は数多い。


「浮気者っ!......って、ツインテール?」


 アリスが、顔を挟んだ両手をぐっと寄せる。それと共にぶちゃいくになったレヴィの顔が、彼女の目に映る。


 先程まで全部ヴェリュルスの所為にしていたが、全部が全部彼の所為ではなかった。自分自身で意図した行動を起こしていたのだから。──ツインテールに髪を結わえたリリィを眺めていたのは、自分の意思だ。


「レレ達はトリプルテールよ。ね、ロロ」


 青い髪を三つ。左右、後ろに結わえたその髪型はトリプルテールと呼ぶらしい。

 ツインテールにポニーテールを加えたようなその髪型は、微妙な魅力を醸し出している。ツインテールや、他の髪型のように、パッと見で印象は与えないが、じわじわとくる可愛さがあるのは事実だ。


「そうよ。トリプルテールこそ神よ」


 トリプルテールを推しているだけの姉のレレとは違い、それを神だと崇めるロロの黄色の髪も、同じようにトリプルテールに結えられている。

 ただ、一つだけ違う点が。レレは、後ろの髪を高い場所で結わえているが、ロロの場合は低い場所だ。言ってみれば、少しだけ雰囲気が違う。


「じ、じゃあトリ──」


「ツインテールのままで!」


 レレとロロの言葉に触発されたリリィが、どこからともなく新しいゴムを出す。どうしてもレヴィの気を誘う髪型にしたいらしく、最後の後ろ髪を結わえようとする。

 が、その寸前でレヴィが叫ぶ。もうダメだ。


「......は?」


「あ......失言」


 腐った虫を見るような顔でレヴィを一瞥し、もう一度彼に振り向いて大きな声で言った。


「貴方まさかリリィさんに心変わりを......!」


「違うって!なんでこんなに勝手に口が!?」


 「何で」と疑問形にする必要はもうない。だってもう犯人は──脳内にいる。

 どうにかして彼を懲らしめたいところだが、今は意識を失うことが出来ない。不覚だった。


『悪ぃな、レヴィ』


 「ほら」と言わんばかりの表情をアリス達に向けるが、彼女らの目は全員──事情を分かっていないラリルレロ姉妹と、未だデレデレしているリイラ以外は虫でも見るような目付きでレヴィを見つめている。


「うじゃうじゃ言う必要はありませんよ。私だってツインテールくらい出来ますので」


「?」


 何故ここで怒らず、リリィに張り合おうとするのか。まぁ何にせよ、こういう可愛い性格がレヴィの大の好みである。


 短いながらも、それなりに。女の子なりにはある髪の毛を、上の方で二つに結わえる。ちょこんという擬音が鳴りそうな感じの小さなツインテールが、レヴィの胸を打つ。正直、二度惚れだ。


「か、可愛い......」


 これはヴェリュルスに操られていない、自分の本心。いや、彼もまた彼女のことが好きだから、今だけは同じ気持ちかもしれない。


「ま、前にも見せたでしょう?こ、これで満足ですか?」


「見せたっけ?まぁどっちにせよ......心休まるよ」


 彼女のツインテールを見た覚えはない。──思い返してみても、小さい頃から一度も彼女のツインテールは。それ以前に、彼女が髪型を変えているのを見たことがないのだから当たり前かもしれない。何故頑なに髪を下ろし続けているのか、それは聞いたことがない。


「ボクだってツインテールくらい!」


「おお、似合う」


 レイラは常に片方。右の髪を結わえている為、ツインテールにしても、さほど違和感はない。それよりも普通に可愛いに尽きる。これは本心なのか、ヴェリュルスなのか、見分けが付かない。


「何で皆やるんですか!」


「モテたいからに決まってるでしょう」


 アリスの問いかけに、リリィが冷静に答える。そんなリリィはもはや、トリプルテールではなくフォーステールにまで移行しようとしている。

 左右に二つずつ髪を結ったそれは──少しもさい。ボリュームがあり過ぎるようだ。


「モテないっていうのは認めるんだね」


「むきーっ!」


 予想外のレイラの切り返しに叫ぶリリィだが、フォーステールなど、他の髪型にも挑戦しようとしているものは多々いるようだ。主にアリス、リリィ、レイラの三人が。


 そこから、ツインテール・トリプルテール・フォーステール抗争が始まった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「どうですか?」


「ど、どうって......?」


 アリスのトリプルテール。ツインテールは見たからという理由で、次のフェイズに移行したらしい。

 どうかと言われても、女の子にしては短い髪でトリプルテールなどしたら、何と言うか──貧相な感じが出てしまう。もう少し、肩甲骨くらいまで伸ばしてからの方が良い気がする。


「レヴィ君がしてみてって言ったんでしょう!?」


「あ、あぁ......そうだね......似合ってる」


 何と言うのか、今宵のアリスは気が立っている。キスをした時のあの柔らかい、優しいアリスはどこへ行ったのか。まだいるなら、探しに行きたい気分だ。

 そんなことを考えながら、アリスの言葉を流していると、彼女がその事実に気付く。


「ちゃんと心から言ってますか?」


 バレた、とは言わない。実際、似合ってるのは似合ってるし、可愛いのだから。ここは宥めるに尽くそう。


「な、何で私までツインテールなんか......この屋敷はどーなってんだよ......」


 不満げなリイラは、プンスカと鼻を鳴らして腕を組んでいる。そんな様子の彼女は、フォーステールだ。顔が小さいからか、やはり少々もさくても可愛らしく仕上がっている。


 まぁ、彼女の言い分に間違いはない。晩餐会がある度にこの有様なのだから。ただ騒ぐだけじゃ飽き足らず、何かコンテストのようなものをしなければ気が済まない性格らしい。アリスは。

 その頃はアリスだけを見ていたが、今は違う。大勢の女の子が、揃い踏みで「自分が!」と唱えている。少々血の気が多いようにも感じるが、こんな時がレヴィの至福でもある。


「ごめんね......」


「いやいや!お前が謝る必要は......!」


 組んでいた腕を瞬間的に外し、いやいやと手を振る、女の子らしい仕草。それならもう少し女の子らしく振る舞えばいいのに、なんて思うのはレヴィだけだろうか。


「そうですよ。こんなやつに謝る必要なんてありません。レヴィ様、ボクのトリプルテール見てください」


 ツインテールからトリプルテールに移行。レイラもまた、顔が小さいからかだいぶ似合っている。正直な所を言うと、子供っぽい。


「え?あぁ......うん、可愛いよ」


「うはぁ!」


 レヴィの褒め言葉に顔を赤くしながら飛び跳ねるレイラ。それだけで終われば良かったのだが、ここは肉食系女子の巣窟。それだけで終わるはずが、終われるはずがなかった。


 レイラが退いた後、すぐさまレヴィの元にリリィが走り寄り、彼の唇に付くか否かの寸前で急ブレーキをかけた。──少し唇が当たったような気もしたが、気の所為だろう。


「リリィは!?」


「え?あ、うん......可愛い」


 言うなり、リリィを押し退けてフォーステールのアリスが飛び込む。その様子からして、もう倒れる寸前まで興奮しているらしい。鼻血が出ている。


「レヴィ君っ!」


「うん......可愛いよ」


 全員にそう言い回ったものの、その気持ちは本物だ。それを理解してか、彼女らはすぐに退散して他の女の子達にもツインテール・トリプルテールで結わえて周る。


「何か可愛い尽くしで気持ちが薄れてない?リリはそう思わない?」


 そう不満げに呟くのは、銀髪の天使こと、ララだ。彼女は口を尖らせて、鼻を鳴らし、腕を組む。まさに不満そのものを体現したかのようなその格好で、リリに尋ねる。


「何を言ってるの?レヴィ様はちゃんと心から言っているわ、可愛いって」


 リリもまた、レヴィの本心を理解している。恋をしている人の顔を幾度もなく見てきたから、彼の内心はおおよそ読めている。

 それに気付かないレヴィは、顔を赤らめて彼女らから目を逸らしているところだ。何が恥ずかしいのか、何となく可愛らしく見えるところでもある。


「それに......ララ、貴女までトリプルテールにする必要はなかったのよ?レヴィ様に何か言われたかったの?」


 そう言うリリの目前には、左右だけでなく後ろ髪まで結わえた、ボロが出る姉の姿があった。ララは何かを期待しているような、餌を貰う前の犬のような表情で、レヴィを見つめている。


 だが、リリに真意を突きつけられると、彼女は瞠目し、リリを数秒見つめ、「何故バレたの?」と言わんばかりの表情を浮かべる。その後、「しまった」といった表情で、リリへの弁明をはかる。


「そ!そ、そんなこと!ないよ......?」


「バレバレ」


 ララの唇に指を当て抑え、そう言ったリリ。するとララは、諦めたように俯いた。たぶん、今彼女の顔を覗き込めば、トマトでキムチなのだろう。つまり真っ赤っか。可愛らしいお顔が御開帳というわけだ。


 やっとのことでアリス達の手から逃れられたカーマインとプリル。だが時は既に遅し。彼女らの髪も、既に結えられている。

 はぁ、とため息をつく二人は、互いに見合って、そして互いに辺りを見渡した。


「そこのリイラさん?って人は今日からメイドだから分かるんだけど何で私達まで......」


 そう言う二人の目の前には、レヴィに何かを言われて顔を赤くしているリイラの姿が。もう服以外は全部真っ赤っかだ。彼女は今、フォーステールでは飽き足らず、フィフステールにまで挑戦しようとしているらしい。ここまでくれば、帝都でもその髪型を知るものはいないだろう。


「いいじゃん!王様に褒められるなんて滅多にないよ?今のうちに媚び売っとこう?」


「貴女性格最悪ね。媚び売るの意味違うし」


 そう悪態をつきながら嘆息するプリルは、カーマインの視線に気付く。何やら、凄く見られているようだ。

 「何よ?」と声を発しかけた時、先にカーマインが口を開く。


「にしても、髪が短くてもツインテールは似合うわね〜。あれ?違うか、プリルはトリプルテール?」


 自分では気付かなかったが、確かに触ってみれば後ろ髪も結わえられているらしい。髪が短いものだから、そこまでボリュームは出ない。ちょこんと、付け足しのように跳ねているだけに見える。なのにカーマインはそれを褒めてくれた──親友として一生着いていくことを決めた。


「はぁ......あっという間に、早着替えでもさせられた気分だわ」


 だが、そんな内心を読み取られるわけにはいかず、彼女は話題を逸らさずに続ける。


 体感した人にしかこの感覚は味わえないが、早着替えさせられた感覚は、何やら不思議な感覚だ。例えるなら──パラレルワールドに来たような感覚。違うかもしれない。


「ふーん......似合ってるよ」


「そう、貴女もね」


 そんな二人の会話を聞くものは誰もいない。それどころか、二人の会話すらもお互いに聞き辛い状況にある。何しろアリス、リリィ、レイラがうるさいから。この三強が落ち着かない限り、普通の声のトーンで話をすることは難しいだろう。


 そんなツインテール・トリプルテールだらけの女の子達を見渡し、ご満悦の様子のレヴィは一人呟く。誰に向けてでもなく、ただの独り言。


「ツインテールだらけって何か新鮮で良いな......」


『今回は俺が操って言ったんじゃねえぞ?』


 聞こえたタイミングというものが掴めない。何しろ、声が聞こえるのではなく考えが流れ込んでくるのだから。一秒と経たずに流れ込んできたその声は、紛れもなく今回の件の首謀者、ヴェリュルスだった。


『分かってるよ。さっきから何やってんだよ』


『おおっ!通じたか!いやぁ、同化の練習してたらつい、な』


 同化、その言葉に引っかかりを覚えながらも、レヴィは嘆息する。

 誰の所為でここまで物事が発展してるんだと問いただしたい気分だが、まず彼に言うことは一つだ。


『何がつい、だよ。こっちは半殺しだったんだよ?』


『視界も共有してるからバレバレ。半殺しどころか愛されまくってるじゃねえか。俺の時代はどこ行った?』


 どうやら、嘘は通じないらしい。視界も共有。つまり必然的に聴覚も共有、意識も共有──一心同体もいいところだ。どうやら彼はレヴィ本体の一部になったらしい。


『ヴェリュルスの時代?』


『......いいから楽しめよ。じゃあな』


 「彼の時代」について詳しくは聞けないまま、何か「プツッ」といった音が聞こえたような気がした。これが意識の切り離しというやつか。これが出来るのなら、全てを共有することが出来ない。ピンチの時に、彼にそれを伝えることも出来ない。

 まぁ、勝手に繋がれば話は別問題だが。


「レヴィ様!聞いてますか!?」


「え?あぁ......ごめん、聞いてなかった。で、何?」


 レイラが、ゴムを両手にぴょんぴょんと跳ねる。可愛らしい仕草の奥に、何やら悪意を感じるのは気の所為だろうか。奥の方では、アリスとリリィがニヤニヤと口を抑えている。

 やはり何かある。


「レヴィ様もツインテール!」


「............やだよ」


 男がツインテールなんて。そう思ったのもつかの間、一体どんな風に仕上がるのか、楽しみな自分もいた。


「じゃあ実力行使」


「え──」


 髪が上に引き上げられ、少々の圧迫感のような何かが頭皮に伝う。髪が結えられたことにより、頭皮が少し浮いているのだろうか。何にせよ、すぐさま取り外さねば。


「わぁ!可愛い!......ぷっ」


「笑ってるじゃないか!」


 口を抑えてクスクスと笑いを堪えるレイラに、何やら変な感情を覚える。


「笑うな!もうっ!......は?取れない!?」


 ゴムをぐっと引っ張るが、ゴムが滑って取れることはなく、髪に癒着しているようだ。

 しかも、ゴムがただのゴムではなかった。子供が付けるような、何やら可愛らしい飾りが着いているようで──。

 得体の知れない恐怖に冷や汗を流すレヴィに、レイラが説明する。


「権能ですからね。ボクが解除するか、時間が経つまでずっとそれですよ。じゃあ......メイド達呼んでこようかな」


「おいっ!やめろ!それだけは!」


 体を翻して向こうに歩いて行きかけるレイラを、心の底から止めたいと願う。彼女が少しの間、止まったのが頼みの綱。最後の藁である。

 だが、彼女の交換条件はなかなか手厳しいものだった。


「じゃあちゅーしてくれます?」


「それはダメ」


 即答だ。いかに羞恥がかかっていようとも、中学生レベルの女の子に手を出すわけにはいかない。それをしてはもう、レヴィは犯罪者同然だ。


「メイドさぁ〜ん!」


 レヴィの返答に憤りを覚えたらしいレイラさ、小走りでメイド達の集まりの中に飛び込んでいった。

 ひそひそ話でならまだ許せたが、彼女は大声でレヴィの痴態を晒した。メイドだけでなく、護衛に来ていた衛兵達ですらレヴィの方を振り返り、全員が全員、大声で、腹を抱えて笑っていた。


「いやぁぁぁぁあ!」


 とは叫びながらも、こういった笑いをとって従者達の労いをするのも王の仕事なのかもなと少し諦めたレヴィがいた。

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