43話 禁断の書
オーカー色の髪をした少女が、手紙を選別している。オーカーは、金には満たないが茶色でもない色。黄土色のオシャレ版、洋風版と言ったところだ。
そんなオーカー色の髪色を持つ彼女の名は、その髪色に反してカーマイン。カーマイン・トリオンだ。
「.........」
黙々と作業に没頭するその姿は、見るものを惚れさせる力さえ持つ。全く揺れない上半身の背筋の良さと、それとは対照的に忙しなく動く両腕が、コントラストを生んでまた素晴らしい芸術を仕立て上げる。
彼女が没頭して作業しているのは、手紙を選別し、これがこの街へ行く。それがあの街へといったものを筆記するものだった。
昔は、こういうのも機械でやりくり出来たらしいが、科学が衰退した世界では、手作業に頼る他ない。故に、こういった仕事をこなすのは、彼女のような集中力に長けた人でないといけないのだ。何せ、この単調な作業を一日九時間も繰り返す。尋常な性格ではこなせない。
「.........」
「カーマイン、ここに新しいの置いておくわよ」
そんな彼女が今、手を止めたのは、今この瞬間だけ。入室した女の声に肩をピクリと動かすも、一度止まった手の動き。女の所為で生じたタイムロスを、すぐさま取り返さなければいけない。腕は先程よりもずっと、激しく動き始めた。
そんな彼女の頑なな性格に、女が呆れ顔で言い放つ。
「はぁ......止まったのなら手伝って上げるから。話を聞いてちょうだい?」
「.........」
女の話を無視し、単調な作業を繰り返すカーマイン。実際、こうして話しかけられると耳がそっちに行ってしまい、集中力が少し途切れるのだ。だから、最初の入室の際からずっと、耳を塞いでいる。物理的にではなく、心理的に。
女は再びため息をつき、頑なに自分の話を聞かないカーマインに近付く。
歩み寄り、それでも尚動きを止めないカーマインを彼女は揺さぶった。
「.........ぅ......っ......」
所々、小さな声が漏れるも、彼女自身は全くそんなこと気にせずに、手紙を捌き続ける。だが、女の揺さぶりは強くなるばかりで、彼女は遂に声を発した。
「.........何?」
「やっと喋ってくれた!...手伝ってあげるから、少し話を聞いてと言ってるのよ」
その提案が、この仕事の効率にどれ程影響を及ぼすのか、仕事の手を止めたことのないカーマインは知り得ない。
その所為か、少し黙りこくるカーマイン。静かなそれは、再び女の話を無視しようとしているようにしか感じられない。
「ちょっと?カーマイン?」
「............何?」
「貴女ってば...話を聞いてるの?」
彼女は、暫くの間を空けてから話す癖がある。故に、先程のような齟齬が生じるのだ。でもまぁ、結局のところ、カーマインは普段人の話を聞かない。いつもそうだから、今も目の前に佇む女の気を惑わせるのだ。
「.........聞いてるよ。」
「なら返事してよ...分からないじゃない」
聞いていると言う割には、黙っている時間が長い。大抵は言葉の前に黙りこくるが、このプリルという女は、その感覚の長さで聞いているか聞いていないかを判断することが出来る。
だから、今回はその制限時間が迫り、通過した直後に話しかけたのだ。
「.........」
「またぁ!?」
再び黙りこくり、頑なにプリルの話を耳にしないカーマイン。その無愛想な様子からは想像できない程、頭の中はこんがらがっている。
「.........聞いてるってば。で、何?手紙だけなら別に言わなくてもいいじゃん」
「いきなりよく喋るわね...」
再び口を開いたかと思えば、饒舌とまではいかなくてもなかなか喋るようになった。そのギャップに驚きを隠せない。
元々、カーマインはよく喋る性格だったのだ。こうして静かになったのは、この仕事を始めてから。黙々と、黙って作業を繰り返す楽しみに触れた所為で、彼女は人形のように成り果てた。
「.........」
「聞いてるならいいわ。実はね、手紙の内容がね」
今回の間は聞いている間。間と言っても、黙っているだけだから間などないではないか、という質問は受け付ける。
彼女の特有の、声にならない声のような──モスキートーンのような音がなり止んだ時、それが間の終わりとなるのだ。
「.........手紙、勝手に見ちゃダメだよ、プリル」
「...手紙を出した人にもよるでしょう?」
「.........でも、基本的にはダメ」
そう、手紙は個人情報の塊であるから、勝手に破って中身を拝見することは感心しない。むしろこの職業を退かなければいけない程に、してはいけないことだ。
だがしかし、それが例外に当たる場合もある。それが、この場合。
「頑なね......差出人が偉い人なのよ。それに、私達に宛てての手紙よ」
例外も何もないと思うが、自分達宛ての手紙を読んではいけない、と言われれば、自分達が何の仕事をしているか分からなくなる。
受け取った手紙は、素直に読むべきだ。そう、プリルは暗示した。
「.........傭兵?」
「もっともっと」
まだまだ、もっと偉い人だ。
「.........統員?」
「近いけど」
惜しい。もう少し偉い人。
「.........もういい」
「なんでそこで諦めるのよ!?近いわよ!?」
何となく、こうやって当てずっぽうにやっていくのに飽きたのか、カーマインは静かに俯く。そして手紙の選別を再開する。
そして、全くこちらの話には興味が無いといった様子でプリルの顔を全く見ない。
「.........」
「...めんどくさくなっちゃったのね...この帝国のトップ様からよ」
「え?イヴァン様?」
その言葉に、カーマインは驚きを隠しきれずに手を跳ね上がる。
上に巻き上げ、散らばる手紙がまるで桜のように舞い降りる。そのあまりに落ち着きのない様子を見たプリルは、ため息をつきながら言葉を連ねる。
「の息子のレヴィ様ね。まぁ、正確にはその従者のアリシア様からなんだけど...って、間は空けないのね...」
「.........知らない」
アリシアという始めて聞く名前に、正直に知らないと言い張るカーマイン。だが、その女は、帝都の民衆ならば誰もが聞いたことのある異名を持つ。
聞くだけで、悍ましい力を有していると判断出来るその異名。それは──。
「なら言い方を変えるわ。帝都の魔女様よ」
「魔女!?.........あぁ、そう」
そう、魔女。その名を聞けば、誰かれ構わず肩を震わせる。何せ、あの亜人戦争を一日で終わらせた功労者の一人。巷では、功労者の一人などではなく、戦争を終わらせたのは彼女ただ一人だという噂も流れている。
そんな魔女の名を聞けば、流石に黙ったままではいられないのが帝都の人間だ。
「隠しきれてないわよ。驚くなら驚けばいいのに」
「.........で、その魔女様がなんて?」
落ち着きを取り戻したカーマインは、肩にこびり付いたプリルの手を引き離す。するとプリルは、「外すのね」と一言だけ言い、カーマインを眺めて言った。
「...貴女、呪術の解除、得意だったわよね?」
「.........それしか取得ないからね」
とは言いつつも、彼女の特技は他にもある。今こうして手紙の選別をしているのは、何も彼女が望んだからではない。彼女がこの仕事に一番適材だったからだ。故に、こうして仕事をこなしているうちに手先が器用になり、このスピードで仕事が出来るようになった。
他にも、礼儀の正しさでは一目を置かれ、その寡黙と冷涼さから、帝都で一番愛の告白をされた人とも呼ばれている。だが、そんな誇れる過去を持ちながらもそれを喜ばしいことだと思わない彼女。
一体彼女の本心はどこにあるのか。
「謙遜しないでもいいのに。もっと良い所はあるわよ?まぁ、取り敢えずその呪術にレヴィ様一向がかかったそうなの」
もっと良い所はある。それを理解していたプリルは彼女の頭に手を置く。すると、再びカーマインがその手を引き剥がそうとし、同時に言った。
「.........期限は?」
「明日の朝だって」
明日の朝にでもなれば、帝都のトップに位置するほとんどの人が寝たきりになってしまう。そう書いてあった手紙から読み取れるのは、一刻も早く来て欲しいという願い。
特に、解呪の加護の付いたカーマインに。
「.........今すぐ出発?」
「その方がいいわね。手紙の選別は他の人に任せちゃいなさい。貴女はいつも頑張り過ぎてるから」
カーマインは、この十年間休んだことがない。強いて休んだと言えるのは、先程プリルが話しかけた時のように一瞬行動が止まる時。その一瞬も、すぐさま埋めてしまうのだから、実質彼女は年中無休で働いている。
それで皆勤賞を狙いたいのか、それとも仕事をしたいのか、どちらかの理由を胸に、彼女は言った。
「.........プリルが行けば?プリルも解呪、出来るでしょ?」
カーマインに全てを押し付けているように見えるプリルもまた、解呪の達人だ。カーマインにこそは劣るが、それでも帝都トップレベルには位置する。
そんなプリルに屋敷に向かわせ、自分はせっせと仕事をしたいと言うのか。なんて勤勉な女性か。
だが、プリルはそんなひたむきな彼女の思いを捻じ曲げて、説得しようとする。
「あのね...王様からのご指名なのよ?こんな機会、滅多にないわよ?いいの?」
カーマインの欲に訴えかけたのだ。この功績が世に知れ渡れば、彼女はもっと有名になる。まさに名声欲だ。
だが、過去の自分の功績に囚われない彼女の意思は硬い。全くその言葉に動じることはなく、しかし王やその従者の命の安全を思って、言った。
「.........王様助けなかったらどうなる?王位選抜戦でも始まる?」
「そうね、この辺りが火の海に」
王位選抜戦。過去に幾度となく行われてきた恒例行事とも呼べるだろう。だが、その規模は恒例行事と呼べる範囲では収まらない。
肉を断ち、滴る血を舐め、晒した首を炉に放り込む。そんなこと、歩くのと同然とばかりに行うその行事。まさに狂気そのものだ。仰望師団が大量に増えたかのようなその光景は、悪夢だ。
それは流石に人間の良心が許さないだろうという思いを持ったのか、カーマインは立ち上がった。
「.........じゃあ行く」
ゆらりと幽霊のように立ち上がるも、その背筋の良さは騎士のよう。
プリルを目の前に、彼女は真剣な表情を決め込んだ。
「早いわね...決まり。さぁ、準備して」
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数時間前──。
「書庫......初めて来た」
「そうでしょうね。まだこちらに来て一週間経ってませんもんね」
レイラがこの屋敷に越して来てから、まだ五日しか経っていない。ということは、この屋敷の全貌を知っているはずもなく、トイレでさえたまに間違えることもある。
そんな彼女がアリスに連れられやって来たのは、屋敷の最奥地。“書庫”と呼ばれる部屋だ。
「そうだよ......色々起こりすぎなんだよ。もっと普通はもてなしてくれるんじゃないの?」
と、当たり前のように不満を口にするレイラ。そんな彼女の様子に、何も不満を返すことなくアリスは反応する。
「......それは仕方ありませんね。王ともあれば......それも仰望師団と事を構えた直後。何に巻き込まれるか分かったものではありません」
王だから、という理由を抜きにしても、レヴィだという理由だけで女には狙われる。何にしても、なかなか男前なのは変わらないからだ。
と、そんな邪念は振り払っても、やはり命を狙われたりするのは仕方ない。王になりたいと願う人は、子供ではないが沢山いるし、その為なら手段を選ばない。という人も──。
「そうだよね。ボクの権能でどうにか......出来るかも?」
「それも全部、ここの書庫の本に書いてありますよ」
「権能のことも?それはちょっとこの書庫のことを買い被り過ぎなんじゃないかな?」
書庫を買い被り過ぎ。その意見が正当なのは間違いではない。だが、アリスの言い分も聞く必要はある。何せ、ここの書庫の“あの本”の力は、想像を絶する正確さだ。
「いえ、そうではありませんよ。この世界の全てが書かれた......今も書き続けている本があります。それに書かれてあるんです」
「......にわかには信じ難いね」
全て。そう言えば何事の解決方法も書いてあるんだろう、と睨む人もいるのはいるだろう。その通り、その本は、全てが書かれている。望めば、アリスの正体でさえ掴めるかもしれない。
だが、彼女の脳内にはそんなこと微塵もない。彼女の脳内を占めているのは、レヴィやその周りの仲間の安否だけ。自分のことなど、考えている余裕はない。
「そうでしょう?私もイヴァン様に教えられるまでは知り得ませんでした。でも、その後は何かあれば必ず頼るようにしています」
それならば、イヴァンの行方も──と言いたいところだが、先程と同じで眼中にはない。
「そんなに凄いやつなんだね。じゃあそれを探せばいいんじゃないの?」
「それが簡単じゃないんですよね......」
「......?」
アリスの意味深そうな顔に、不思議なものだと首を傾げるレイラ。傍から見れば、美少女が二人、眺めあっているという神秘的な光景だが、実際そんな柔なものではない。
書庫にあるその本を探すことが、とても難しいという事実。その事実に、もう一度レイラは反対側に首を傾げる。
「ここの書庫は、一日に一回、形を変えているんです」
「と言うと?」
書庫の形が変わる。そんなに信じ難い事実があってたまるものか。再び理解することを止めたレイラは、アリスに尋ねる。
「毎回、書庫の形が変わるので、本の位置も変わるんですよ」
「......そりゃあ参ったな」
何故、書庫はそんなことをするのか疑問に思うが、そんなこと彼女に聞いても、答えは「知りません」の一択に尽きるだろう。
何かしら、理由があるはず。──もしや、その本が人の手に渡ってはいけないからでは。だが、それは憶測に過ぎない。
「それに、その本は......“禁断の書”は、その形が変わる書庫の一番奥にあるんです」
“禁断の書”。その内訳は、世界の全てを記した書、という説明に尽きる。それ以外に何か特別な力があるとすれば、それは知能というものを軽く超越した、まさに神に等しいものなのだろう。
知るだけでも世界の神秘に一歩近付くのだから、そりゃあ勿論書庫の奥底にあるはずだ。そうでもしなければ、誰でもその書を掴み取れてしまう。そんなことをさせない為の奥底だろうか。
「つまり、毎回その一番奥っていう場所が変わるから、見つけにくいってこと?」
「まぁ、簡潔に言うとそうなりますね」
まさにそうだと言わんばかりにこくりと頷くアリス。それに何か、良い案を思い付いたらしいレイラは、ポツリと呟く。
「......これこそ権能の使い道じゃないかな?」
「その権能を解呪に使ってくれたらいいんですけどね......」
「それは......やったことないね。やってみようか?」
アリスは考えた。権能の内訳が、本当に望みを叶えるだけのものなのかどうか。実際、レイラは権能を使い過ぎた所為で魔力を使い果たし、今朝まで眠っていた。そういう代償が、自分だけに向くのなら結構。だが、権能を使った相手にまでその代償が及べば、それはもう仰望師団に逆戻りだ。
結果、アリスの考えは一つに纏まった。
「いえ、やったことがないのなら、そんな危険を冒す必要はありません。確実な方法を......とは言っても、禁断の書を探すのには使った方がいいでしょうね」
「でしょ?なら......」
手を上に上げ、禁断の書がこちらに来るようにイメージする。こちらへ飛んでくるように、そうイメージした。すっぽりと、本棚から抜け出してこちらに来るように、と。
だが、
「............そんなにさ、歩くように来るものなの?」
「さぁ......見たことないですね」
半開きになった禁断の書が、その両端の角を支えにして歩いてくる。その奇妙な光景に、美少女二人が息を呑んだ。
禁断の書は、彼女らの目の前で止まり、死んだかのようにパタッと倒れた。権能の使用期限が切れたのだろうか。
「ま、取り敢えず調べないと。と......?」
倒れたはいいが、まさにこのページを見てくれと言わんばかりに開かれた禁断の書。
奇妙に奇妙を重ねたようなその光景。
その開かれたページを眺めながら、アリスは呟く。
「なんで勝手に開いたんですか?」
「さぁ......?亜人戦争?あの一日で終わった戦争のこと?」
開かれたページは、彼の“亜人戦争”についてのものだった。書かれている文章は、まるでコーヒーを零したかのようにシミに塗れている。だが、文字は読める程度にはそれが薄くなっていた。
本の紙質からしてだいぶ古そうなのに、開かれたページには全く虫食いなどはない。紙の風化とシミを除けば、その書の状態は完璧に近い。
「あぁ......そうっぽいですね」
「そう言えばさ、あれ、一人で終わらせたのって本当なの?貴女参加者なんでしょ?知らない?」
巷で聞いた噂話。亜人戦争は、一日で終わったと。それについてはほとんどの人が事実だと頑なに信じ込んでいる。実際はどうなのかなど知らない。
それに対して、今さっきレイラが言ったような、「一人で亜人戦争を終わらせた」という、同じように根拠のない噂が蔓延っている理由は、嘘偽りがほとんどだろう。まさに噂そのものだ。
その真偽を確かめられるのは、その功労者、参加者であるアリスがいるこの場でしかない。故に、レイラは口を開いた。
「......私ですけど」
「だよね......って......へ?」
不意を突かれた声を上げるレイラ。
そんな彼女の心中など、全く察する気はないと言った様子で、アリスは続ける。
「私が亜人戦争を終結させたんです」
「......冗談が多いってレヴィ様も言ってたけど、流石にこんな真顔でねぇ......」
レヴィに忠告された。三度も。「アリスは冗談が多いから気を付けてよ?」と。それが、こんな状況で、こんな時間に明言されるとは。
「いえ?冗談ではないですけど」
目で分かる。「冗談じゃないです」という、真剣そのものの意思。
沢山の人の死に際を眺めてきたレイラにとって、それが嘘か真実かを見極めるのは簡単だ。結果、アリスは嘘を付いてはいない。
「......まじか」
「まぁ、その話は後程。それよりも、解呪の効率良い方法を」
嘆息混じりにそう言ったレイラを他所に、その話を切り上げるアリス。レイラとしては、もっとこの話を聞いていたかったのだが。
共に暮らしていた亜人と何か関係があるんじゃないかと思っていたから──。
「さらっと流すね......」
「あ、ありました」
亜人戦争のページから数十ページ後ろに捲ったそのページに、それはしっかりと明記されていた。書かれていたのは、プリルとカーマインという女の素性について。
この時彼女らについて書かれた理由は他でもない。解呪が関わっている。
文章だけでなく、写真のような似顔絵のようなそれも挟まっていた。オーカー色の髪の女と、濃い紺色の髪をした女の写真を見て、レイラは呟く。
「......知らない人だ」
それもそう、彼女らが帝都に貢献したのは、もう十年も前のこと。彼女らが十代の時であり、丁度レイラが産まれるか否かの時期だ。
だが、そんな彼女らの写真を見つめるアリスの目はそれとは違った。
「私......この人と面識ありますよ」
「知り合い多いねぇ〜」
まぁ、亜人戦争に駆り出されたり、色々戦場を駆け回っていた人間が知り合いが少ないわけがない。対して仰望師団でずっと身を隠していたレイラは、知り合いなど皆無に近い。勿論、仰望師団を除いて。
「プリル......どこで会ったっけ?」
「......」
その目は、憂いのような、何とも言えない感情に満ちている。
レイラは何も言えずに彼女の顔色を伺う。
アリスは次のページを捲り、カーマインという女について書かれた文を読む。
「それにその親友、カーマイン......」
同じく何か、不鮮明な感情を抱いた様子の目付き。
その状況の静かさに耐えられなくなったレイラは、この状況を打破しようと声を上げる。
「この人達が解呪を?」
「......そう、みたいですね。手紙でも送りましょうか......」
目だけはしっかりと写真に釘付けになりながらも、レイラの言葉にしっかりと反応するアリス。その様子から、凄く彼女らに心を囚われているわけではなさそうだ。
彼女が夢中になれば、物凄い集中力で相手がへばるまで粘り続けるからだ。
それに比べて、今の彼女はどこか執着心に欠けている。
手紙を送ろうと言いながらも、その書を離さずに、立たずに座り込んでいるアリスを眺めながら、レイラは立ち上がった。
「......?」
涙を流したアリスを見て、レイラは首を傾げた。




