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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第二章 呪いが集う場
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34話 枯れゆく

 目の前に繰り広げられる、映画のような光景。花々が踏み躙られ、青い空が曇天に変わり、そして地上では魔法と怪物による殺戮が行われている。

 その中で、最もアリス達に近い場所に佇む五人の人影の中に、見覚えのある人物がいた。ミア・トラディーラが。


「なんで...貴女がここに...?」


「見て分からないんですか?罠ですよわーな。貴女をここまで連れ込む為の罠だったわけです」


 仰望師団にしては狂気に欠けるものの、その圧倒的な演技力に騙されたのも事実。彼女の権能がそれである可能性は高い。

 ミアは周りに佇む四人の人影に声をかけた。内緒話をするように、皆が集まって円を描いて。

 暫くアリスが黙ると、その話し合いは終わったらしく、四人の人影は爛々とした目付きで後方を向く。


「一つ...尋ねても?」


「何なりと」


 アリスの質問要望に、全く臆せず言うミア。

 ミアがそれを言う以前に四人の人影はもう飛び出しており、アリスの視界の奥で怯える住民を次々に踏破していく。

 その中で唯一冷めた顔のアリスは問う。


「何故、私なんですか?」


 この中で、一番の脅威と言えば確かにアリスであることは彼女自身も自負している。だが、その脅威の一部であるラリルレロのことは──。

 アリスを、アリスだけを狙う理由が何かあるはずだ。


「何故......とは言われても...」


「理由がないと?」


 そんなことがあって堪るだろうか。理由も無しに命を狙われる。この世で一番の不服を申し立てたい気分だ。

 ミア自身もその答えには迷ったようで、顎に手を当てて一生懸命体を揺さぶっている。


「なら、貴女達をここで罰することも、理由なんか無くていいですよね?」


「罰する?」


 彼女らが今までしてきたことへの償いをさせること。それが彼女らを罰するということだ。

 だが、ミアはそんなことをされる覚えが無いといった様子で首を傾げる。


「だってそうでしょう?貴女達は今...ううん、ずっと前から人を殺しまくってる。その償いを...罰を付けるべきです」


「......まぁ、確かに。殺害人数は仰望師団でトップ。だからと言って司令に変わっても相違ない素質...あれ?私天才なんじゃ?」


 厳格なアリスの言い分に、否定はせず。しかし肯定もせずに。

 自分を褒めるばかりのミアに腹立たしい感情を覚えたアリスは剣を抜く。白刀がミアの顔を反射し、その刀身にそれを描き出す。


「何ですか?やるんですか?」


「やりますよ。貴女のやり方が大っ嫌いなのでね」


 そう言うと、抜き出した剣が薄氷を纏い出す。薄氷、氷、そして元の1.2倍程に長くなった剣を見てミアが怖気付く。

 わなわなと口に手を入れ、顎を外したいのか、その様な仕草をする。訂正、彼女は狂人だ。


「そんっなおっきな剣と私を戦わせるんですか?こんなか弱くて武器も持たない私に?」


「武器ならそこら中に散らばってるでしょう?砂粒が」


「てへっ」


 バレたかと頭に手を当てるミア。アリスにとって、彼女の行動全てがイラつきの原因になってしまう。

 それなのに──いや、それだからこそかもしれない。こうして煽ってアリスの判断能力を低下させることが目的なのだとしたら、話を逸らせば少しは落ち着くだろうか。

 アリスの口は開いていた。


「時に......さっきの私を狙う理由について」


「わぁ、おじいさんみたいな話し方」


 ぷぷっと口に手を当てて笑いを堪える。

 もうアリスは気分転換をし終えた後だ。頭の中をレヴィ一色にすることで、それは実現する。


「...貴女もレヴィ君狙い...とか?」


 アリスは、レイラの時と似た事が起きるのではないかと危惧した。最も、レイラの場合は「今は」味方だが、あの時は執拗にアリスのことを狙ったものだ。

 もし今回も同じようにレヴィ目当てであるのなら、こちら側へ引き込むことも難しいことではない。


「っぶ......ぶははははははは!あはははははははははははははははっ!」


 タガが外れたように高笑いするミア。口を大きく開け、反り返った瞳でアリスを見つめる。否、睨みつける。


「あ〜、そーゆータイプの人?か......ぶっ...あははははははははははははははっ!」


 高笑いを止めずに、しかし睨みつけも止めずに──。

 突如彼女は笑いを止め、背筋を伸ばしてアリスにしっかりと向き合う。何故こうも仰望師団の連中は背筋が良いのか。アリスも見習いたい所存だ。


「何か...おかしなことを言いましたか?仰望師団から抜けて、こちら側の陣営に加わった人物がいるので...貴女もそうかと思っただけなんですけど」


「はぁ〜あ...つまんね。なんでそう真面目に聞くのかな?もっと面白くしてよ。丁度──」


 ミアが踏み込む。一瞬の内に消えたミア。砂埃が舞い、軽い衝撃波が生じる。

 アリスは突然の衝撃に体勢を崩し、膝をついた。それが、アリスの不徳だった。


「こんな風にさ」


「............まだ聞きたいことがあるので死ねません」


 首に手を当てられ、と言うか首を片手に掴まれ、アリスは冷や汗を流す。

 聞きたいことがあるから、忠誠を誓った相手にこのまま目も合わせずに死ねないから。アリスは風の魔法を放った。


「あっそう。聞いてもそれを他人に流す術がないでしょう?」


 風の魔法はミアの腕力に相殺され、新たな衝撃波となって周りを囲む幼女達の頬を撫ぜる。

 太刀打ちどころか身動き一つ出来ない彼女らは、今のところは全く戦力にならないだろう。それは素人の目にも分かる。

 一応、魔法を展開する準備は出来ているのだが、アリスの身を案じてか全く動じない。


「こ...の子達が生きて帰れば、それは伝わります」


「無理だよ。この子達も皆殺しだ」


 薄く伸ばした薄紅色の唇が薄らと開き、残酷な言葉を言い放つ。

 逆に言葉をかけられた──その言葉の対象となった幼女達は、冷や汗をとめどなく流し、足先から手から何から何までが震えている。

 虎視眈々と幼女達を見渡すミアは、


「...まだ聞きたいことがあるんだって?」


「.........死ぬから聞いても無駄なんじゃなかったのか?」


「死ぬんだから、一遍の悔いなしに飛び立ってよ。何でも答えるからさ。制限時間内にだけどね」


 とは言いつつも、首を握る力は先程よりも強く。少女の力とは思えない程の力が、アリスの頚椎に迫る。

 アリスは考えた。今、ここで聞くべき質問を、正確に、必要最低限に。


「......貴女があの人達...ケホッ......の司令ですか?」


「あぁ、ごめん。離すよ。そして話す。そうだよ、私があの子達の司令だ」


 思った通り。だが、これは質問の真髄ではない。ただの、流れに乗る為に作ったそれだ。

 ミアはアリスを掴んでいた手を離し、竜車の奥へ投げやる。


「他は?」


「ぐっ...ぅ.........じゃあ...こっからが本題です」


 竜車の床に落ちたアリスは、後頭部を強くぶつけ、朦朧とした意識の中でミアを視界に入れる。

 彼女の顔は卑劣に歪んでおり、アリスの冷や汗を誘うのにもそう時間はかからなかった。


「何なりと」


「貴女...妹の為を思って私を狙ってるんでしょう?」


 その瞬間に、曇天の空が黒く染まる。踏み躙られていた花々も、安全に身を隠していた花々も、全てが枯れ果てた。挙句の果てには雨が降り始め、雷が鳴り響き、ミアを囲んでいた幼女達が腹を抱えて倒れ込んだ。

 それをしたであろう当の本人、ミアの表情は驚きに満ちている。


「その反応、図星みたいですね。...まさかレイラさんのお姉さんなんて...」


「何で...知ってる...?」


 鬼気迫る状況から一変、泣き出しそうな顔になったミア。バレてはいけないのか。何故なのか。疑問ばかりが募る。


「私...貴女の、貴女達の両親に厄介になってたんです。そこで、娘が二人いたって」


「で、でも...なんで私って...?」


 息遣い、髪の色こそ違えど髪質、色の白さ、そして感情の起伏の激しさ。アリスも人のことを言えないが、それらがアリスに「ミアがレイラの姉である」と断言させる理由だ。


「......雰囲気です」


 その言葉に、アリスの態度のどこに不満を感じたのか、ミアの表情は陰った。

 何故、そんな顔をするのか。


「そう...なら、私の権能はもう分かってるでしょう?」


「...はい、恐らく...」


 彼女が本当にレイラの実姉ならば、権能の大体の予想は付く。もし権能が血筋に関わらないものならば、そうではない可能性は高い。

 だが、彼女が投げた石に殺傷能力があるのだとすれば──考えれば、あるから投げたんだろうが、もしそうならばレイラの権能に似たもの──。


「レイラさんと同じ──」


「私は邪精霊仰望師団、リイラ・ラファティー。今ここで、」


 リイラが腕を振るった。

 血飛沫が彼方此方に飛び散り。

 ゴロンと黒い塊が一つ落ち。


「お前を殺す者だ」


 アリスの首が刎ねられた。

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