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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第二章 呪いが集う場
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30話 偽りのレヴィ

「魔法適正ですかぁ〜?」


「どうだったっけ?」


「何を言ってるの?アリシア様、ララ、リリ、ルルは魔法適正は魔女に匹敵すると言われました」


 ヴェリュルスの寝ている部屋で、幼女達は声を揃えて言う。常人なら聞き取ることの出来ない重なった声でも、アリシアなら容易く理解することが出来る。彼女はふむふむと頷き、一つの疑問を掴み取る。


「レレとロロは?」


 そう、ララ、リリ、ルルの三人が強大な魔法適正、最高戦力の一部になることは理解した。ならばその妹達の能力とは。


「回復と支援特化です」


 これはこれはとアリシアは頷いた。

 最強戦力の塊と、二人の支援魔法。これ程までに恵まれた、優位に進められる戦いがあっただろうか。

 小さくガッツポーズをしたアリシアに、起き上がったヴェリュルスが声をかける。


「...また征伐戦か?」


「あぁ、レヴィ君。起きていらしたんですね。もっと安静にしないと...」


「おお...」


 そう言って、はだけた毛布を掴み、ヴェリュルスにかけるアリシア。今回は大人しく言うことを聞いたヴェリュルスは、再び枕に頭を置く。ふんわりとした感触が、後頭部から首筋にかけて流れる。

 それをまじまじと見つめたアリシアは、


「今日は胸は揉まないんですね」


「当たり前だ。そう毎日揉んでると乳腺が切れて垂れる」


「なんっ...」


 大きく実った果実を揉みすぎると腐る。いきがった言い方をすればそういうことになるが、これは医学的にも証明されている事実の一つなのだ。だが、それを知り得ないアリシアは胸を抱き、ヴェリュルスに言い放った。


「あなっ!貴方の所為で私の胸が!」


「まだ一回だけだろ」


 そう言いながらも、指をいやらしく順番に曲げていっては伸ばす仕草は、アリシアの寒気を誘った。

 細かい物言いに、何の興味も示さないおチビ達は、口々に喋り出す。


「やっと征伐戦に出れるんですわね」


「そうですね、レレもロロも感激なのです」


「ちょっと!?死ぬかもしれないのよ!?正気なの!?」


「とか言って、ララは一番魔法適正凄かった癖にぃ...ルルは三番目ぇ...」


「征伐戦...そう、征伐戦ね」


 どうやら話の題は既に征伐戦のことに戻って行ったようで。

 幼女達は盛り上がっているのか盛り下がっているのか、口々に感想を言い合っている。

 全員の、小さなツインテールがふりふりと揺れる。


「...あれちょっと可愛いな」


「ッ!」


 それを聞き取ったアリシアは、何を思い付いたか突然、唐突に部屋をダッシュで抜け出し、どこかに行ってしまった。


「なんだ...?」


「レヴィ様ぁ!レヴィ様は征伐戦行かないのぉ?」


「何を言ってるの?レヴィ様は風穴が開いてるのよ?立つことすらままならないのに、そんな軽率にそういうこと、言うものじゃないわ」


「レレの言う通りよ。ロロも同意するわ」


「あ、あはは...」


 そう、風穴が原因で彼は征伐戦に出られない。出たいわけではないが、風穴が塞がればそれに出陣する機会も増えるだろう。

 アリシアの話によれば、今回の征伐戦はなかなか大変で大掛かりなものになるようだ。ただ、詳細は聞かされていないため、それは彼女に直接聞く必要がある。


「レヴィ君っ!ただいま戻りましたぁ!」


 勢いよく──扉が弾け飛ぶんじゃないかと思う程勢いよく開かれた。そこにはアリシアの姿が。それも黒髪を左右に結わえた、所謂ツインテールという髪型で。

 幼女達に対抗心を燃やし、彼女らに勝ったと思ったのか、腰に手を当て仁王立ちするアリシアの姿は、


「淑女の振る舞いを習いなおせ」


「酷っ!」


 可愛い以前に、その独占欲と対抗心の熱さをどうにかして欲しいところだ。

 だが、そんな願望を蔑ろにする程可愛らしい。可愛い。


「けどまぁ...可愛い...」


「えへへ...」


 頭を掻き、子供のように体を捩る彼女の姿はまるで、いや、子供そのものだ。

 ベッドに両膝を乗せ、四つん這いでヴェリュルスに近付く。またヴェリュルスに襲われることを恐れてはいない──むしろ望んでいるのか。という雑念を払いながら、ヴェリュルスは心の波を落ち着かせる。


「ルル達と一緒だぁ〜」


「ホントだ!ツインテール!」


「レレとロロはトリプルテールだけどね」


「そうよ、トリプルテール」


それを聞いたヴェリュルスは、体を少し横に傾けて彼女らの後頭部を見つめる。そして気付いた。


「ほんとだ...トリプルテール...初耳だな」


「じゃあ私も...」


 自分もと対抗心を燃やし、ポケットからもう一つゴムを取り出し、トリプルテールに仕上げようとするアリシア。それを何とかやめさせようと声を上げ、説得する。


「お前はツインテールのままでいい!」


「えぇ...でも...」


 「でも...」と反論しようとしたアリシアに、ヴェリュルスが言い放つ。


「俺は......ツインテールのままがいいと...思う」


 レヴィに何も言えない程、チキンなところは似ているようだ。

 そんなキザな言葉を聞いたアリシアは、頬を高潮させ、反論の代わりに彼に言った。


「ここまで照れて、恥ずかしい気持ちは初めてなんですが、どう責任を取ってくれるんですか?」


「責任って...」


 何とも言えない空気だ。責任、その言葉がヴェリュルスの胸を高鳴らせる。

 とその時、ルルが声を発する。


「お二人共熱いですねぇ〜」


「ルルは余計なこと言わなくていいの。でも、この状況は見てる方も恥ずかしくなるからやめて欲しいですね」


「あ、あぁ、ごめん」


 ヴェリュルスが、自分の発言を悔いた後、レレが彼のフォローに入る。


「レレは、謝らなくていいと思うわ」


「ロロもそう思うわ」


「ん、んん?」


 この状況をこのまま継続させるか、それとも空気を遮断して切り替えるべきなのか、ヴェリュルスは悩んだ。


「まぁ、どちらにせよ、話の題は変えるべきだと思います」


 そう言ったのは、この中で一番冷静に話を聞いていたリリだ。相変わらず冷めた顔で、何を考えているか分からない彼女に、ヴェリュルスは話しかける。


「あぁ、そうだな...にしても、なんでこの中でお前だけが冷静なんだ?」


「お前じゃないですリリです」


「...ごめん」


 なぜ、こうもこの屋敷には「お前」と呼ばれることが嫌いな人間が出入りするのだろうか。レヴィやヴェリュルスが世間知らずなだけなのだろうか。それとも女の子の扱いを知らないだけなのだろうか。

 どちらにせよ、冷たい表情が更に冷たくなった彼女の言うことを聞かないのは、賢明ではないと感じた。だから呼び方を変える。


「リリは──」


「リリがいつも冷静なのは、周りの人達が喧しすぎることが原因です。実際、リリは笑うこともあるし、泣くこともあります...が、それが比較的少ないだけです」


 思い返してみれば、こうやって言葉を遮られることも日常茶飯事。これもまた、そういう星に産まれたからなのだろうか。


 彼女の話ぶりからすると、感情の起伏が穏やかなのではなく、それを表に出す。つまり表現することが苦手なのだろう。

 珍しく、ヴェリュルスにも、レヴィにも出来そうなことが増えた。彼女の感情の表現を助けること。休息中の楽しみになりそうだ。


「そうか」


「そうです」


 とは思ってみたものの、あまりの無表情さに、流石のヴェリュルスも怖気付く。この感情をどうにか出来ないものだろうか。

 ベッドから降り、隣で静かに佇むアリシアに目で助けを求める。


「私には無理です」


「だよな...」


 まぁ、こうして急いでどうにかしなければいけない案件ではない為、ゆっくりと考えていけばいいだろうという結論に至った。


「ところで、今回の征伐戦の敵は分かっているんですかぁ〜?」


「......言ってませんでしたね」


 それはヴェリュルスも知らされていない、敵の脅威の詳細。

 全員が固唾を呑んで、彼女の言葉の行く先を見つめた。


「敵は...無尽蔵に生産された“unknown”の集団。そして仰望師団が五人......到底適う相手ではないとは思いますが......やるしかありません」


 その言葉に何かしらの危機を感じ取ったヴェリュルスは、おもむろに叫んでいた。


「馬鹿か!?やめとけ!死ぬだけだぞ!」


「それでも...」


「ダメだ!俺が!お前の主人が許可しない!」


 勢いに任せて、感情に任せて叫んでいた。

こういうことを言いたいとは思わなかったが、もう一度彼女を失うことがあれば、と考えれば、結局は叫ぶ道を選んでいた。

 どうにかして、何とかして彼女を止めなければ。


「俺は!もう泣きたくないんだよ!もう失くしたくないんだ!頼むから!頼むから!......行かないでくれ...」


 我を忘れたように、狂ったように言葉を繋げるヴェリュルスに、ベッドの周りの幼女達は顔を引きつらせている。肩を震わせ、今にも泣き出しそうに。

 だが、そんなことに構っている暇はない。彼女を失うことへの恐怖が勝った。


「それでも......この国を治める貴方の代わりとして、行かなくてはいけないんです」


 彼女はヴェリュルスの望みに応えられなかった。応えなかった。

 ヴェリュルスは俯き、言葉を失った。同様に、アリシアも彼に何を思ったのか、「すみません」と一礼した。


「...私達は明日にでも、ガルフードへ向かいます。貴方は絶対安静です。もし何か......不安が生じたら、お腹の包帯は取らずにリリィさんか、レイラさんの所に行ってください。ほんの気休め程度に」


 そんなことが何になる。と言いたい気持ちを抑えて、彼はアリシアの言う通りに体を横にした。

 アリシアはもう一度一礼し、扉の方向へ向かっていった。


 これが、最後の別れになるんじゃないかと感じたヴェリュルスは、上体を起こし、もう一度だけ彼女に声をかける。


「分かったから...分かったから、今日だけは隣にいてくれ」


 もう失いたくない。もう別れたくない。その気持ちだけが、ヴェリュルスの勇気を振り絞らせ、心の奥底からの言葉を放たせる。

 その言葉に少し同情を感じたのか、アリシアは振り返る。が、その顔は氷のように冷たく、血色が失せていた。


「アリ...シア?」


「貴方はレヴィ君じゃない。そんなこと、ずっと前から分かっています。気丈に振る舞ってみましたが、どう見てもレヴィ君じゃない。貴方が誰か、そんなこと全く興味ありませんが、そうやってレヴィ君のフリをするのはやめてもらえませんか?気持ち悪いです」


 相当な言われよう。毒舌に、ヴェリュルスは胸を抑える。心臓が──心の奥底がどうしようもない程痛い。

 彼の、レヴィの言う通りだった。アリシアが好きになったのは自分なんかじゃない。彼自身だった。そんなこと、最初から、彼が言い出した時から分かっていたはずなのに。

 彼はレヴィの意識を殺してしまった。もう戻らない意識の持ち主を妬んだ。その事実が、更に彼を痛めつける。


「俺を......本当に覚えてないんだな...」


「貴方なんて知りません。誰ですか」


 自分は覚えられていない。忘れ去られた存在なのだ。それを自覚、再確認した時、吐き気が身体中を駆け回る。


「うっ......っ!」


 何とか手で口を抑え、その嘔吐感を収める。

 アリシアはそんな容態にも、なんの興味も示さない。


「もういいですか?私は行きます」


「待っ──」


 彼が言い終わる前に、扉は大きな音を立てて閉じられた。その反動で、軋んでいた扉の縁が少しだけボロボロと崩れた。

 二人のやり取りを涙目で見ていた五人姉妹は、何も声を発することなく、全員が一斉に一礼をするだけで。

 五人がぞろぞろと扉の向こうに流れゆくのを見送りながら、ヴェリュルスは再び枕に頭を置く。寝返りを打ち、顔を枕に埋め、


「レヴィ......戻ってきてくれよ...」


 彼の意識は、暗い暗い闇の中に吸い込まれていった。

 そこに倒れ伏した、男の影。それを見るなり、ヴェリュルスは涙を流した。

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