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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第二章 呪いが集う場
30/205

28話 ラリルレロ姉妹

昨日投稿予定だったのですが、不具合により火曜日に投稿させていただきます。

先週の投稿もなく、申し訳ありませんでした。

「ルルは心外なのですぅ〜」


「何を言ってるのルル、ロロも、レヴィ様にくっつかない!」


「えぇ〜!だって〜!ララだって手握ってるじゃん!」


「これは!...一種の療法なの!」


「二人共、煩い。ロロとレレはレヴィ様にご執心なの」


「そうよ。レレ達はご執心なの」


「煩いのはあんた達よ。一番静かにしてるリリの太鼓判」


 口々に声を揃えて言うのは、色とりどりの髪色を持った女の子達。強いて言うなら幼女達だ。


 一番初めに声を上げたのがルル。赤髪で、だからなのか、なかなか活発そうに見える。実際活発なのだろう。

 二番目がララ。長女らしく、皆をしっかり纏めようとしているものの、ボロが出ているのが少々可愛らしい。髪色は白。

 次に声を重ねたのはレレとロロ。お互いに互いを慕っており、更に仲が良い為、いつも一緒の行動をとっている。レレが青、ロロが黄色だ。

 最後に声を上げたのは、最も寡黙な幼女。その中に、何となく可愛らしさを感じるが、その表情は無表情に近い。髪色は黒。


 彼女らの権力の差はあまりないが、強いて言うなら生まれた順だ。単純な話、彼女らの出生順はあいうえおの順なのだ。つまり、ララ、リリ、ルル、レレ、ロロの順だ。

 その順番に関わらず、リリが一番落ち着いているのは、彼女らが五つ子であることに由来する。


「...ルルは何が心外なのかな...?」


「だってぇ〜、今日から仕えることになるご主人様が、記憶を少し失っているなんてぇ〜...心外ですぅ」


 それもそう、彼女らは今日からレヴィに仕える身。その主人が記憶喪失──とは言っても軽いものだが、そんな状態なら、ルルが不満がるのも無理はない。


 今、ヴェリュルスは嘯いている。自分が軽度の記憶喪失で、アリシア以外のことを忘却していると彼女らには伝えてある。故に、幼女達に囲まれ、手を繋がれ、脇にはアリシアが立っている状況に置かれているのだ。


「そう...だよな、すまない。すぐに思い出すように努力するよ」


「それがいいです。でも──!」


 幼女達の手を解き、ベッドから降りようとしたヴェリュルスを、アリシアは抑える。

 ヴェリュルスはどうしても動かなくてはならない体質らしく、こうして体がじっとしていると何とも言えない感覚に襲われる。


「...どうしてもダメか?」


 そうされても尚、アリシアの手を振りほどこうとするヴェリュルスに、彼女は怒鳴る。


「まだ傷が治りきっていないんです!じってしていないと、また傷口がパカって開きますよ!」


「怒鳴るなよ...頭痛い...」


 頭を抱え、ベッドに潜ると、即座に飛び込んでくる幼女達。その中には、先程まで大人しかったリリの姿も。やはり彼女もまた子供なのだ。

 ベッドに乗り込み、ヴェリュルスの傍に潜り込み、


「えへへぇ〜あったか〜い!」


「ルル、そこ退いて。リリが入る」


「ほんとだ!あったか〜い!」


「ララは何をしているの?さっきまでは手しか繋いでなかったのに」


「そうよ、レレの言う通り。そこはレレとロロの場所よ」


「ちびっ子達、そこは私の場所です」


 どさくさに紛れて唯一大人びた声が。その声の持ち主は、勿論アリシアだ。

 その声に、幼女だけでなくヴェリュルスさえも凍り付いた。鶴の一声というやつだろうか。

 少しの時間が経過し、気付いたアリシアは赤面する。が、時は既に遅し。


「どうぞ〜!」


 さっきまでは喧騒に騒ぎ立てていた幼女達のバラバラな声が、ピッタリ符合する。

 力が弱いはずの幼女達に押されるがままにされるアリシアは、ベッドの端に辿り着く。


「せーの!」


 もう符合どころではない。合唱のように合わさった声と同時に十本の手が、アリシアの背中を押す。


「わっ!」


「え?」


 押し出された華奢な体と、それに付け加えたような大きな双丘。丘のレベルではないから、山なのかもしれない。それが、ヴェリュルスがアリシアを支えようとした手にすっぽりと収まる。収まりきらないが、収まってしまった。


「ッ!」


 お互いに息を呑み、周りの幼女達もその行方を見守る。

 恐らく、いや、十中八九半殺しにされるであろうその状況。見ていられなくなったのと、自分達のレヴィにしてしまった罪に耐えきれなくなったララとルルは、一礼をして部屋から退室した。


「もう、したいならしたいで言ってくれればいいじゃないですか〜」


 予想外にも好感触であった。だが、その反応もいつもの冗談だ。


「え?いいのか?」


 だが、ヴェリュルスはそれに気付かない。むしろ、そんなことを言ってアリシアを困らせる立場にいる。無駄に勇ましいヴェリュルスは、あの頃からそうだった。


「え?いや、そういうことじゃ...」


 もじもじと、自身の行いを悔いる。だがおかしい。いつものレヴィなら、「何言ってるんだ」でこの会話は成立するはずなのだ。なぜ今、この男はやる気になっているのだろうか。


「アリシア様とレヴィ様はこれから何をなさるんですか?」


 二つの声が重なった。レレとロロだ。青髪と金髪が交互に揺れる。

 同じように、二人が何をしようと話をしているのか全く分からないリリも、同じように、体を揺らし、ふりふりしている。


「言えるわけあるか!ロリっ子どもめ!はい!退室!」


「わぁ〜!」


 胸を鷲掴みにしたままのヴェリュルスの怒号と共に、散り散りに去っていき、ちゃんと扉の前でスカートの端を摘み、一礼してから退室する。ここまで律儀に礼をされると、主人であるレヴィも大変だな、とどこか他人事のようなヴェリュルス。

 彼の手は未だアリシアの胸にくっついており、


「そ、そろそろ離して貰えませんか...あひゃ!」


「......」


 大きいくせに無駄に感度が良いらしい。何度か揉み揉みと堪能した後、ヴェリュルスは手を惜しげもなく離した。


「そうやって惜しげもなく離されると乙女の体の神秘が...ひゃん!」


 ごちゃごちゃと乙女の神秘を語り始めるアリシアに、制裁を下す。胸を揉む。いやらしいが、それだけで、彼女は大抵話を止めることが分かった。

 いつもの動向からはありえない程可愛らしい声を上げるアリシアに、ヴェリュルスはニヤつきながら言う。


「ごちゃごちゃ煩い!どっちだ!触ってほしいのか離してほしいのか!」


「は、離してぇ!」


 即答かよ、とツッコミを入れたいが叶わない。

 男の尊厳をだいぶ傷付けられたところで、ヴェリュルスはゆっくりと双丘から手を離す。


「ふぅ〜......本当に記憶喪失らしいですね...」


「そりゃあどういう意味で?」


 分からない。レヴィはこんなことをしないのか?という疑念しか湧かないのだから、この後の彼女の言葉を予想することなど出来っこない。


「普段のレヴィ君ならこんなことはしません」


「......そんなことか」


 「そんなこと」と言われて、自分のしたことがどれほど軽率な行動であったかが、身に染みて分かる。

 それにしても、レヴィという男はどれほど女々しいのだろうか。


「それに、リリィさんのことを名前以外全部忘れるなんて...レイラさんなんて特に」


 リリィに関して知っていることなど、名前以外は皆無だ。まず関わりあいがない故に、その素性を知ることも不可能。ただ、彼女に抱いた感情は一つだけ──。

 アリシアの言った通り、レイラのことは面識も知識も、微塵もない。ただ、彼女もまたレヴィにとって大切な人だということは唯一分かる。


「あれは......ちょっとな」


 そう言うと、アリシアは悲しそうに目をレヴィから逸らし、伏せると、これまた悲しそうな物言いで、


「今はレヴィ君の体に全て構ってはいられないんです......問題が多すぎます」


「問題?何かあったのか?」


 すると、彼女はころりと顔を変え、笑顔を我慢したような顔で、一生懸命堪えながら言った。


「はい、まず子供が出来ました」


「...まじで?」


「はぁ......私達はそんな関係じゃないでしょう?ちゃんと忘れちゃってるんですね」


 忘却。そうではない。ただ嘘をついているだけなのだ。アリシアに対しては、頭の中を埋め尽くす程の罪悪感でいっぱいだ。押し潰されそうになる瞬間に自身を救ってくれるのは、自分のどうしようもないいい加減な性格だ。

 それのおかげで、今はその責任感から逃れられることが出来る。逃げて、逃げて、逃げまくったその先は──。


「お、覚えてねぇし!」


「まぁ、何にせよさっきのは嘘です。本当はもっと深刻...深刻過ぎて...」


 再び目を逸らし、伏せ、今度は心の底から笑顔が消えたように、ベッドに腰掛けた。

 彼女は少しふらふらと足を揺らし、気を紛らわせているようだ。


「...何があった?」


 何があっても、もうレヴィに意識を返すことは出来ない。

 結果、ヴェリュルス自身が全ての責任、全ての任務をこなさなければいけない。例えそれが、レヴィの体を壊すことになったとしても。


「まず、イヴァン様が失踪しました」


「............誰?」


 聞き覚えのない男の名前に、ヴェリュルスは首を傾げる。

 そんなどうしようもない彼に、アリシアは肩を掴み、揺らし、大声で怒鳴る。


「貴方の父上ですよ!それも忘れちゃったんですか!?」


「あ、あぁ、ちょっとな...」


 耳がキンキンと痛む中、ヴェリュルスには反論の余地は残されていない。何せ嘘をついているのだから。


「名前まで忘れるなんて正気の沙汰じゃないですよ...とにかく、イヴァン様が失踪。行方は分かりません」


 レヴィの父親の失踪、そして行方は不明。魔法でも使えば彼を追うことは可能なんじゃないかと頭を過ぎったが、アリシアがそれをしていないということは、つまり不可能だということを意味する。

 依然、自分とは関係のない事実を前にしたヴェリュルスは、冷めた顔で次の問題に手をつける。


「そうか......二つ目は?」


「二つ目...レイラさんが目覚めません」


 ヴェリュルスがレヴィに憑依した時には既に銀髪の彼女はうつ伏せに倒れていた。

 最終的に、ヴェリュルスがリリィを抱いて上階へ連れて行き、アリシアはレイラを抱いて連れ帰った。

 その後、息を吹き返すように大きく深呼吸したレイラという少女は、それ以来目を覚ましていない。


「あの銀髪の子か...魔力が足りていないのか?」


「そうです。枯渇しすぎて...それも根こそぎ権能に持っていかれてしまっています」


 権能。忌々しい記憶がヴェリュルスを蝕む。

 権能に魔力が用いられるという事実は、レヴィもアリシアも、ヴェリュルスでさえ知り及ばない事実だった。

 権能に魔力が用いられる。つまり、ヴェリュルスがカルヴィンを討伐出来たのは、彼の魔力が尽きたことが大きな要因なのだろう。勿論、ヴェリュルスの五感が研ぎ澄まされ過ぎていることも要因の一つではあるのだが。


「そうか...治癒魔法は?」


 ならばと、またしてもアリシアの魔法に頼ろうとするヴェリュルス。


「かけましたが、効果は見られません。骨折り損です」


 悲しみに泥を塗られたような顔をし、アリシアが嘆息する。

 それに釣られ、ヴェリュルスもまた唸りながら腕を組む。今ここで打開策を練ろうとしても、体力が限界を迎えている為に頭さえ容易には回らない状態だ。


「...分かった。それだけか?」


 今のところ、最も懸念すべきは──とは言っても、どちらが最悪かと言われればそれは選べない。何しろどちらも、ヴェリュルスにはほぼ関係のないことなのだから。

 そして、最後の問題に手を伸ばす。


「三つ目。“unknown”の解剖が完了したそうです」


「本当か?結果は?」


 結果次第では、ヴェリュルスが、誰もが戦わなくても。命を賭さなくても彼らを抹殺することが出来るかもしれない。

 だが、彼女の返答は最悪の一部でしかなかった。


「結果は......フレイ君の持っていた書籍が間違っていないことだけしか分かりませんでした...」


 最悪とは言っても、これで被害者が増えるわけでも減るわけでもないから、結局のところプラマイゼロということになる。


「フレイ......」


「...とにかく、貴方に構いたいのは山々ですが、イヴァン様の残した雑務がまだ残っているんです。貴方は安静にしておいてください」


 フレイのことも覚えていないことを感じ取ったアリシアは、「もういい」といった様子で彼に言い放った。

 その真意は、少しでもレヴィに元に戻ってほしいという気持ちに満ち溢れていた。


「......分かった」


 アリシアが音を立てないように静かに扉を閉める。

 ベッドに顔を埋め、枕を両手でぶん殴る。その表情は、微かに涙に濡れていた。

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