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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第二章 呪いが集う場
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26話 白鴉の憑依

1500PVありがとうございます!これからもよろしくお願いします!出来たらブクマとか感想も…|´-`)チラッ

「............瀕死、だな」


 聞き慣れた自分の声が、自分に対して投げかけられる。三日ぶりだったか、顔もよく似ていて、声も似ている。不器用なのに、内面が優しさに溢れているところも、そして、アリスを大事に思っていることも。


「...ヴェリュルス。ついさっきまで...君のこと、忘れてたよ」


 それもそう、リリィ、レイラ、カルヴィンのことで頭がいっぱいいっぱい。言ってみれば、その状況下で彼のことを考えるのは頭がおかしいだろう。

 最初に出会った頃なら、レヴィが話しただけで頭を踏み躙られ、蹴られ、といったものか。名前を思い出してもらったヴェリュルスは、そんなことはしなくなっていた。ただ、白いベンチに座り、考え込んだ。


「そうか......今、外には仰望師団がいるんだろ?」


「うん、いるよ。それに刺された......ッ!」


 そこまで言いかけて、レヴィは自分がここにいてはいけないのだと理解する。否、最初から分かっていたはずなのだ。現実逃避もそろそろいい加減にしなければいけない。


「大丈夫だよ。外の時間は止まってる」


「...?止まってる?」


 首を傾げ、ヴェリュルスを見つめる。

 すると、彼はゆっくりと伸びをし、レヴィに説明し始めた。


「そうだ。この時間は現実じゃない。これは、レヴィ。お前の思考の中だ。だから、これも一瞬のうちなんだ。それが例え、この世界で何ヶ月暮らしても、だ」


 なるほど、とレヴィは相槌を打つ。先程まで冴えていなかった脳内は、いつの間にか冴えきっている。いや、ここが思考の中だからそう感じるだけなのかもしれない。

 どちらにせよ、早く戻るに越したことはない。


「まぁそんなに焦るなよ。ゆっくり話そうぜ」


 そう言って、座っているベンチの端をちょんちょんと叩く。「ここ座れ」の合図だ。

 ベンチに腰を下ろしたレヴィは考える。彼が仰望師団と戦えない理由、とは。


「...なぁ、何で仰望師団と戦えない?」


「.........覚えて...ないのか?」


 とは言われても、レヴィが覚えていることは彼と会うのが久しぶりだということと、彼の名前がヴェリュルスだということ。それも、意識が浮上すればその名前は忘れてしまう。そんな儚いものだけが、レヴィの中にあった。


「...ごめん、何か、ごめん」


「いや、いいよ。しゃーないことだし...」


 そうは言っても、彼の表情は沈んでいる。流石にまずいことを言ったか、と焦るレヴィに、ヴェリュルスは肩を軽く叩く。


「気にすんな、ゆっくり思い出せ」


「うん......それで、理由を聞いていいか?」


 彼の心情などはお構い無しに、レヴィは無作為に問う。

 彼の力さえあれば、今のカルヴィンを消し去ることが出来る。──思えば、ピンチになる度にこんなことを思っている気がする。


「...恥ずかしい話、怖いんだ」


「怖い...?」


 彼程の力がありながら、何が怖いというのだろうか。さては弱すぎて怖いんじゃ、と考えた自分を殴りたい。


「あぁ。あの時、俺はあいつらに殺された。だから...それだけの理由なんだが、怖いんだよ」


「あの時...」


 思い出される荒野の風景。

 思い出せるような思い出せないような感覚の中、ぼんやりと思い出せる情景。情景だけしか思い出すことが出来ないが、なかなかに酷い状況だ。


「それで...仰望師団と戦えない?」


「そうだ。また負けて死んだら...と思うと、夜も眠れない...まぁ、眠ることはないんだがな」


 ジョークを挟みつつ、なかなか辛い話を盛り込むヴェリュルス。その顔は、何かを失ったような顔で、


「そうか...でも、今の僕じゃあいつを倒せない。なんとか...頼めないかな...」


「とは言ってもなぁ...」


 彼の頭を悩ませる提案。

 彼は本当に頭を抱え、うずくまってしまった。あの時のような威勢の良さ、覇気は感じられない。


「このままじゃ...リリィが死んでしまう。勿論、僕もアリスも」


「......」


 黙りこくっても、レヴィの説得は止まらない。ここで引いてしまえば、彼だけでなく、自身も死に、守りたい仲間さえも失ってしまいかねないのだ。

 なんとかして彼に助けを乞わねば。


「僕が死ねば、君も死んでしまうんだろ?」


「あぁ、仲良くな」


 そう言う彼の目は、怖さによるものなのか、涙が滲んでいる。

 ここまで来てやっと、レヴィは説得を止める。彼をそこまで苦しませる提案だったのか、と。


「...心配すんな。ちょっと怖がってるだけだ」


「君は強そうに見えて、メンタルだけはそんなになんだね」


 ふふっと笑みを零す二人。

 その姿はまるで双子のようで。

 ...双子なら、良かったのにな。


「...お前がそこまで言うなら...仕方なく。...めちゃくちゃ怖いけど、行ってやる」


「......本当か?」


 神がレヴィの味方をしたのだろうか。これ程嬉しいと、心から思ったことはない。

 レヴィが聞き返すと、ヴェリュルスはゆっくりとベンチから立ち上がり、言葉を連ねた。


「あぁ、途中で小便漏らすかもしれんから、後片付けよろしくな」


 アリス並のしょうもないジョーク。否、彼の場合、本当にやりかねない。アリスに見られないようにしなければ。


「うん、頑張って」


 彼はあの時のように、手をふりふりと振って。後ろ姿が遠くなっていく。だんだん、影が薄れていく。自分も、だんだん意識が薄れてくる。


「これが...」


 レヴィの意識は途切れた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 手が、腹を捩じ切る。その痛みに苦痛を露わにしながら、レヴィ元いヴェリュルスはカルヴィンを睨み、言ってみせた。


「よぉ、久しぶりだな」


「......君は...ぶっ!」


 何かを言おうとしたカルヴィンの頬を殴る。カルヴィンの体は、まるで石のように簡単に弾け飛び、アリスの元まで飛んでいく。

 弾け飛んだカルヴィンを見下し、蔑視の目で見つめるアリス。


「何を...!」


「命日」


 彼に何も言わせる言葉はない。そう判断したアリスは、カルヴィンへと手を伸ばす。

 それに対抗しようと、残った左手でアリスを切ろうと振りかざすカルヴィン。しかし、圧倒的なアリスの魔法展開の速さには劣る。


「ぬぁっ!」


 一瞬、カルヴィンの位置がズレたような気がして、アリスはそのズレたカルヴィンに向かって魔法を放つ。

 轟音と共に、爆炎と呼ぶべき大きな炎がカルヴィンを焼き尽くす。滴る液体と、肉が焼ける音。それがアリスの憎悪感を少しずつ収めていく。


「あぁ、愚劣」


「ッ!?」


 言葉のした方向は下。下を向く前に、アリスの腹に刺さったもの。手だ。それも、男のものとは思えない程整って、細い、白魚のような。

 痛みに顔を歪めながら、アリスはなんとか魔法を当てようと努める。


「当たれ当たれ当たれ当たれ!」


「ぎゃははははははははっははっはっは!」


 叫ぶアリスと狂気の笑い声のコントラスト。それが、ヴェリュルスの嫌悪感を掻き立てる。


「貴様ァァァァァァァ!」


「貴方も」


 カルヴィンの手刀が、ヴェリュルスの剣を受け止める。彼の手は、傷一つ付いていない。いや、付いていたとしても、血に塗れすぎて判断出来ない。

 傷こそ付いてはいないものの、中身は相当堪えているようで、彼の手の骨の軋む音が聞こえる。


「はっ!骨折れてんじゃねぇのか!?」


「骨など、いらないのです。僕に必要なのは死神と邪精霊だけなのです!」


 剣を、手を弾き、互いに少し距離を取る。落ち着いた様子のカルヴィンに、ヴェリュルスが語りかける。

 酷く穏やかで、相手を油断させるような声で。


「なぁ、なんで天使だからってリリィを殺そうとする?俺を、俺達を殺そうとする?理由あんのか?」


「......天使については、理由は知らないのです。リビル様からの直々の命令なのですから」


 リビル。その存在は、ヴェリュルスも知っている。

 なぜなら──。


「...リビルのやつ、まだ生きてんのか」


「邪精霊は永遠なのです。憑依した相手が事故や事件で死なない限り、永遠なのです」


 嫌に落ち着いた様子のカルヴィンへ、もう一度だけ問う。今度は邪気を孕んだ声で、嫌悪感丸出しの声で。


「............なら、今日がお前の邪精霊の命日。それと同時にお前の命日だ」


「...そんなことさせないのです。僕の権能が貴方をそうさせない!僕の!邪精霊の!権能は!」


 ゆっくり、たっぷりと吸い込み、踏み出しの準備は出来た。

 カルヴィンは話している途中だが、そんなものは関係ない。今、やらねば。


「──ッ!権能!」


 そう言って、ヴェリュルスの剣を避ける。否、確かにヴェリュルスはカルヴィンを切ったはずなのだ。なのに、この肩を掠める手の持ち主は、


「やっぱりか。お前の権能、見抜いた」


「見抜いた...ですか?」


 何とも心外そうな顔をし、口を曲げるカルヴィンは攻撃を止めない。上、下、右、左斜め上。全ての攻撃を避ける必要がなくなったのだ。


「ッ!痛っ!」


「バカなのですか?攻撃をまともに喰らうなど...」


 言葉を最後まで連ねないカルヴィンは、「もういい」といった様子で、ヴェリュルスの腹を貫く。

 勿論、痛い。だがそれはまやかし。全てが全て、幻覚の域なのだ。だから、


「ぐはっ!.........」


「────ッ!」


 腹を貫かれても、それは痛みだけ。実際に怪我するわけでもなく、また、彼がそこにいるわけでもない。

 彼のいる場所はリリィの元。おおよそ彼女の胸に狙いを定め、手で貫くつもりなのだろう。

 幻覚に惑わされず、自身に目線が降り注いだことに、カルヴィンは言葉を詰まらせる。


「そこに、いるな。じっとしてろ」


「......バレましたか。ここからは本気です」


 そう言うと、今まで目の前で乱舞していたカルヴィンは消え失せる。うっすらと背景が混ざり込み、だんだんと消えていく。

 そして、本物のカルヴィンが目に映る。


「黙ってろ...とは言ってなかったな。黙ってろ」


 そう言って、カルヴィンに踏み込むヴェリュルス。その速さには、自身で勝手に治癒魔法をかけているアリスでさえ、目を見張るものがある。何しろ、魔法展開よりも速い動きなのだから。


「ぐべぁ!」


「んっ......ふっ!」


 律儀に黙って、そして棒立ちになっているカルヴィンの胸に剣を捩じ込む。

 体を支えていた膝ががくりと落ちる。それと同時にヴェリュルスも剣を抜く。


「こんな......ところで...」


 そう言いながら、仰向けに倒れたカルヴィン。もう、息はしていない。心臓を突いていたのか、ほぼ即死に近い状態だった。

 アリスが駆け寄る。腹に空いた穴は塞がっている。


「レヴィ君...貴方、どうしたんですか?」


「ん?」


 もしや、体に憑依していることがバレたのか。そんなことにヒヤヒヤしながら、アリスの言葉を待つ。

 あだが、彼女の発言は予想外なものだった。


「なんで...あんなに動けたんですか?」


 ほっとしたのか、それとももうレヴィにこの場を任せようと、譲ろうと思ったのか、ヴェリュルスの意識は自発的に切り離された。

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