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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第二章 呪いが集う場
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23話 行方

 レヴィの剣が風を切る。風を切り、空を掻いたその先。鮮血の中に佇む男の首が目的地だ。レヴィは振りかぶった。


「おっや。おーさまってのはこんなの短期だったのですかぁ?」


 一瞬のうちに剣を鞘から抜き出し、レヴィの剣を止める。その力の吸収具合はアリスのものによく似ていて、


「ぐはっ!」


 刀身を握り、剣の柄でレヴィの腹を突く男。軽く突いたように見えたその攻撃は、思った以上に大ダメージだったようで、レヴィは地面にもんどりうっている。

 逆さに持った剣の根本。彼が手を握っている所からは、絶え間なく血が流れ出している。


「シリル。何のつもりだ」


 そう言って彼に手を広げるレイラ。彼女の目は、主人を傷付けられたことに対しての怒りに満ち溢れている。

 それはアリスも同じで、彼女もまた手を伸ばし、炎を燻らせる。


「ヒッヒッ......フハハヒヘハハッ!」


 シリルと呼ばれた男は、天井を仰ぎ、笑った。狂気の笑み。それは、彼がどんな人間なのか。一体誰なのかを煩く説明していた。

 レイラと知り合い。それにこの狂気。確実に仰望師団の人間だ。


「何を笑っている?ボクの主人に傷を付けたんだ。いくら旧友と言えど...殺すぞ」


「こぉろぉすぅ?......お前に俺は殺せない」


 邪気を孕んだレイラの声に、シリルは全く動じない。逆に落ち着いた呼吸だ。

 乱れだらけの黒ずくめの服装はボロボロで、髪の毛もボサボサ。口元に滴る血は──。


「ぁ......」


「その...血は誰のだ」


 何か言いたげなレヴィの言葉を代弁して、アリスが問う。この血はリリィのものではないのか。それだけが心配で。

 シリルは吹き出しそうに頬を膨らませ、遂には笑い出した。


「ぶっ!ぶははははははははははっ!おもれぇ!超おもしれぇよお前ら!血は誰のかって?そんなの決まりきってるだろ。ここにいた女のだよ」


 レヴィは青筋を立て、眉間にシワを寄せ、噤んだ口をやっとのことで開く。痛みより、苦しみより、彼女への弔いを──。


「なぁに?まだ俺に楯突こうとするの?...おーさまだからって気取ってんじゃねえぞ!」


 まだしっかりと軸を立てきれていないレヴィに、シリルの剣閃が炸裂する。

 その瞬間、何かの光がレヴィを包み、剣閃を弾いた。


「くっ............権能か」


 そう言ってたじたじと後ろに引き下がるシリルに、追い討ちが降り注ぐ。

 アリスが放った爆炎が、シリルを包み込んで離さない。轟音と共に何かの焦げる音がする。爆炎の下からは、滴る白と黄色と黒の汁。人が燃え尽きた際に出てくる何かなのだろうか。

 レヴィは笑っていた。


「そろそろいいんじゃないですか?」


「ですかね」


 レイラの声かけに応じ、アリスは爆炎の球を崩壊させる。崩壊というよりかは自然消滅に近いそれは、辺りに火の粉を散らしながら拡散した。

 そして滴った汁の上に立つ男の姿。


「え」


「ったく...何でいきなりそんな物騒なことするかなぁ。屋敷ごと燃えちまうぞ。とにかく話聞け」


「何で...」


 そう言って自身に降りかかる火の粉を手で払い、二回程咳払いをする。部屋の奥、外窓の丁度下にある机に腰を下ろし、彼は話し始めた。


「レン、お前からだ。...一つ聞きたいことがある」


「...何だ」


 シリルの言葉に返答するレイラの顔は固い。その口から何が聞こえるのか、何を言われるのか、おおよそ予想は付いていた。

 だが、彼女はそれを悟られないように素知らぬふりをする。


「ったく......なんで師団抜けやがった?」


「......やっぱりか」


 この時一番目を見開いていたのはアリス。理由は簡単。本当にレイラが仰望師団を抜けているとは信じていなかったからだ。

 予想外の展開に、アリスはついつい言葉を挟む。


「え、ちょっと待ってください。本当に抜けたんですか?」


「...本当も何も、最初から本気ですけど」


 彼女の心は本物だった。それが知れただけなのに、アリスは命乞いをした後のような安堵感に襲われる。

 会話に口を挟まれたのがよっぽど気に入らなかったのか、シリルは激昂した。


「お前ら何なの?いきなり剣振ってくるわ、話に口突っ込むわ...ちょっと黙ってろ」


「──ッ!」


 傍から見れば、何も起こってはいない。が、レヴィとアリスだけにかけられた魔法は本物だ。

 レヴィの予想は、閉口の魔法。口を噤ませ、一切の言葉を放つことが出来なくなる魔法だ。魔法というよりかは呪いだ。


「さぁーーて、もう誰も喋らねぇし、レン。話つけんぞ」


 そう言われたレイラは、冷や汗を垂らしながらゆっくりと首肯する。

 それを見たシリルは、再び机に重くのしかかり、話を続けた。


「何で師団抜けた?何か不満でもあったのか?」


「......」


 言葉を発さず、ただ首を振るレイラ。その首だけの反応は、彼の怒りを誘う。

 鞘に直していた剣を再び抜き、刀身を掴む。再び鮮血が流れ出すと、彼はレイラに攻撃を仕掛ける。


「無駄だよ。今日一回目の権能はこの三人全員が無傷でいることに使ったからね」


「甘が。俺の権能忘れたのか」


 そう言い、一旦引き下がるシリル。そして手を広げ、天井を仰ぎ、言った。


「俺の権能はプラスとマイナスだ。死神から授かったこの力!貴様の為に!」


 プラスとマイナス。想像出来る範囲の権能でないことは分かった。

 その言葉を聞き、互いに顔を見合わせるレヴィとアリス。目の動きと口パクだけで、「知ってるか?」「知らないです」とコンタクトを取る。

 ただ本人以外の一人はその権能の能力を知っていたようで、


「覚えてるよ。人の能力をコピーし、その代わりに自身の記憶を相手に付け加える権能だ。そんな気持ちの悪い権能、ボクが忘れるわけないじゃないか。本当に気持ち悪いよ。キミの色んな記憶が入ってくるんだよ。これ、消す方法ないの?」


 いつもの彼女の饒舌はシリルに怒り以外の感情を生まなかった。

 座っている机をドンと叩き、机から床に降り立つ。

 ぴちゃぴちゃと鮮血を蹴飛ばしながら、彼は負けるまいと言葉を連ねる。


「消す方法なんてねぇよ!俺だって付け加えたくて付け加えてんじゃねぇんだよ!しかもコピー出来る能力は自身防衛の為にしか働かねえしさ...何だよ!俺が嫌になってきたじゃねぇか!ハッ!もういいっ!まずはレン、お前からだ」


 手に握る剣を更にぐっと強く握り、彼は柄での攻撃を開始する。

 だが、それはレイラには届かない。見えない防衛線が、彼女の全身を包み、彼の柄での攻撃を無いものにしている。


「クソったれっ!何で届かねぇ!」


「だから防衛線張ってるって言ってるじゃん」


 あくまで冷静沈着に会話を続けようとするレイラと、無駄に激昂を重ねるシリルとの攻防は、一目瞭然でレイラが有利だ。

 恐らく、コピー出来る能力。それも防衛の為だけに働くものということは、レイラが攻撃してもそれもまた届かないということなのだろう。

 レイラが四散させようとしても、彼女がイメージした能力は「傷付けない能力」だ。四散どころか擦り傷一つ付けられない。


「くそっ!クソッ!クソったれ!」


「ねぇ、もう止めない?お互いに傷付けることは不可能なんだからさ、一旦落ち着こうよ。師団としての威厳がなくなるよ?」


 彼が敬虔な師団だからこそ、彼女の言葉はシリルを冷静にさせた。やっとだ。

 そしてレイラは、話の内容を本題に切り替える。


「この部屋にいたリリィって子。銀髪に一筋の黒髪が混じった女の子はどこ?死んだの?死んだのならキミを殺す」


 流石は仰望師団を抜けてまでレヴィに仕えようと思った身であろう。忠誠心が半端なものではない。


「...殺せねぇだろ。防衛線張ってるんだから」


「ボク、今日は一つしか権能使ってないから。やろうと思えば今の防衛線を破壊することも可能なんだよ?追撃としてキミの能力を消しちゃうことも」


 確かに、言われてみれば彼を討伐することは、レイラがいれば叶う。

 勿論、主人であるレヴィの意思を尊重しなければいけないが。


「そ...れだけは止めてくれ。仰望師団が俺を殺しにかかってくるかもしれんからな。何しろあいつらは──」


「簡潔に。リリィさんは死んだのか、生きてるのか。答えろ」


 厳格な雰囲気が、シリルの汗を誘う。彼女から放たれるのは、どちらかと言えば冷気なのだが、それに勝る彼女の覇気が彼を襲う。

 それはレヴィとアリスも同じで、彼らもまた息を呑む状況だ。


「...死んではいねぇよ。ただ、監禁されてる。俺はそいつが流した血を啜りに来ただけだ」


「そういえばお前、血が食料なんだっけ。馬鹿馬鹿しい」


 そう言って、わけの分からないといった様子で首を振るレイラに、シリルの堪忍袋の尾が切れた。

 ドンと足踏みを鳴らし、血飛沫を飛ばす。それを被らなかったレイラ。彼女の服装に、一点のくすみもない。


「血を啜らなきゃ死んじまうんだよ」


 なんとか、やっとのことで彼は怒りを自制することが出来たらしい。震える拳の中に収まっている剣を握りしめる。レイラへの恐怖と怒りが入り混じった心境は、さぞかし辛いものだろう。


「まぁ、キミの生死には何の興味もないけどね。それに値する人間じゃないから。とりあえず、レヴィ様とアリシアさんの閉口の呪い、解いてください」


「ペラペラと...」


 何か続けたげな言葉を遮ったのは、否、喋るのを止めさせたのは、レイラの放つ覇気だ。

 これ以上話せば殺す。という目付きの彼女に、シリルだけでなくレヴィも体を震わせる。


「わーったよ...ほらよ」


 彼が言い終わると、レヴィとアリスの口は解放された。自由に動く口。発音できる舌。全てが新鮮に感じる。

 だが、そんな余韻に浸っていてはダメだ。リリィの心配をしなければ。


「リリィは...どこだ」


「どこも何も...地下だよ」


 地下。その言葉にレヴィは激怒する。何が地下だ。何でそれだけの言葉で済ませられる。レイラがいるこの状況で。

 零れ落ちそうな怒りを拾いながら、レヴィは静かにもう一度問う。


「どこだ」


「だーかーら!地下だって!」


「だからどこの!」


 レヴィの剣幕に怯えたのか、それとも傍で自身を睨むレイラの目に怯えたのか、彼はたじたじと後退した。


「だから!ここの地下だって!」


「ここ...屋敷のか?」


 屋敷の地下。そんなもの、次のこの屋敷の所有者になるレヴィですら、聞き及んだことはない。むしろ地下があると知って、自身の住んでいる場所の優越感に浸るところだった。


「そうだよ。そこに師団の連中が連れて行った」


 師団の連中。それがうじゃうじゃと屋敷の下にいるというのか。レヴィ自身の憎悪感よりも、隣で歯ぎしりをしているアリスのほうがよっぽど怒りに満ち溢れているだろう。

 一方レイラは落ち着いた様子で、「またか」という感情を醸し出している。


「レヴィ君、行きますか?」


「行くだろ。大切な元許嫁だ。もう離れさせない」


 そう言って部屋を飛び出したレヴィの顔をじっと睨む──。見つめるアリスの目は、様々な感情を映し出していた。

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