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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第二章 呪いが集う場
24/205

22話 赤

めでたく二章の始まりです!

そして1000PVありがとうございます!これからも頑張りますので、よろしくお願いします!

 右、左、右上からの薙ぎ払い。下からの顎を狙った一撃。

 頻りに目が追っている。上、振りかぶった木刀。振り下ろされた木刀の刀身が、レヴィの頭にぶつかり共鳴する。


「あたっ!」


「......だいぶ良くなってますが、まだまだ動きが硬いです。ちゃんと柔軟してますか?」


 尻餅をついて頭を擦るレヴィ。彼に手を伸ばす一人の少女。アリス、彼女の剣戟には目を見張るものがある。魔法だけじゃ飽き足らず、剣まで極めた。まさに人間兵器と言えよう彼女は、手を握ったレヴィを引っ張って起こす。


「してるよ。なんで勝てないんだ...」


「ヒントは上です」


 人差し指を上に向ける。そして、その指を左、右、上、下へと向ける。

 相変わらず彼女の心理を読み取れないレヴィは、落とした木刀を拾い上げる。


「分からないよ。上を注意すべし!ってことか?」


「正解です。目が剣を追いすぎなんです。もっと腕を、肩を、体全体の動きから目の動きまで見てください」


 適当に、当てるつもりなんてなく放った言葉がぴったりはまり、レヴィは口を綻ばせる。

 そして、アリスの言葉になるほどと頷き、素振りをしてみせた。だが、その動きは素人丸出しだったようで、


「違います。もっと流れるように...コロシアムに行ったことありますか?」


 コロシアム。騎士と騎士が木刀で模擬戦を行う、広大な場。アリスの目論見通り、レヴィはそこに何度も行ったことがある。それを真似て振ったのが、先程の剣なのだが──。


「あるよ、真似たよ?」


「......適応能力どうなってるんですか」


 悪態をつくアリスと、それに首を傾げるレヴィ。元々、彼は運動神経だけはとてつもなく悪く、だがしかし足だけは速いのが取得、否、特徴だ。

 そんな彼に、剣の手ほどきを三日したところで早々運動神経の悪さが良くなるわけでもなく、


「最初に模擬戦?みたいなのやった時は体が勝手に動いたんだけどなぁ...」


 手をにぎにぎし、あの時の。征伐戦の前日のことを思い出す。しかしそれと共に連想されるのは、死体の山に埋もれた桃髪の少女の頭蓋。


「うっ.........」


 思わず口に手をつき、吐き気を歯を食いしばって堪える。

 そんな様子に、彼らの模擬戦を遠くから見ていたレイラは駆け寄った。


「だ、大丈夫ですか!」


 焦りを感じる口調とは裏腹に、レヴィの背中を擦るレイラの手は落ち着いている。

 その違和感に、嗚咽感を流し込みながら。


「大丈夫。少し...ね」


 顔を上げ、目がレイラの顔を映し出す。至って普通だ。違和感の正体は掴めないまま、レヴィは立ち上がる。

 そしてアリスに木刀の先を向け、宣戦布告だ。


「今度は取るぞ」


「やれるもんならやってみてください」


 そう言うと、レヴィはこの三日で鍛え上げた瞬発力で、一気にアリスとの距離を詰める。流石のアリスも、ここまでレヴィが瞬発力に長けた人間だとは思っていなかったのか、咄嗟に木刀での構えをとる。


「ッ!」


 斜め右から片手で振りかぶったそれの勢いは、いとも容易くアリスの木刀に吸収される。一体どんな受け止め方をすればここまでこちらにも衝撃がこないのか。


「ふっ...なかなか速いじゃないですか。」


 そう言って、またも容易くレヴィの剣を弾き返す。

 だが、今回はレヴィはめげない。目の前に対峙する人を守る為に、


「強くならなきゃいけないから」


「?」


 アリスが小首をかしげる。それが合図だ。

体勢を上半身に体重を乗せるように走りながら、今度は下からの薙ぎ。その流れが読まれ、アリスが簡単にそれを防ぐのは承知。だから──。


「ハッ!」


 アリスの防ぎの構えの弱点。剣を縦か斜めに構えている彼女の弱点は、突きだ。上からや斜めから、横からの振りに対応出来るその構えは、唯一突きには弱い。

 そりゃあ勿論、剣の達人ともなればそれをも防ぎ、逆転されかねないが、アリスがそこまで考えているとは考えにくい。

 何故なら、魔法に頼れるからだ。咄嗟に防げなくても、自動的に発動する魔法がある。それが彼女の強みだ。

 だから、もうレヴィはお構い無しに、本気で突っ込む。彼女の魔法が弾いてくれるから。


「きゃっ!」


 当たりだ。彼女は、否、彼女の体から自動的に発せられた風の魔法。それが、レヴィの本気の剣を弾き飛ばし、地面へと落下させる。

 当の本人は、その風の魔法に吹き飛ばされ、数メートル先で尻餅をついている。


「出来たぞ、アリス」


 悔しそうな目をして立ち上がるアリス。彼女の執念深さが垣間見える。

 一方、傍で見ているレイラも立ち上がり、彼女は笑顔で拍手を贈り、「レヴィ様かっけぇ!」と何度も叫んでいる。

 それを聞きつけた、バカンスから帰ってきたばかりの大量のメイド達。アリスとレヴィ、レイラの三人を取り囲む。


「──ッ!.........なんだよ」


 先程のレヴィと同じように、瞬発力を生かして飛び込んでくるアリス。彼女の手には木刀が握られているが、レヴィは今は丸腰だ。圧倒的模擬戦での不利。何をするというのか。


「分からないんですか?あのメイド達に紛れてまでレヴィ君を追ってくるのがあのリリィさんですよ?なのに全く姿が見えません」


 そう、耳元に口を近付けて言う。

 確かに、彼女の姿は見受けられない。だが、そんなのは重々知っている事実だ。彼がリリィの心のアフターケアをしようと何度も部屋を訪れても、一向に返事は返ってこない。それどころか、この三日間で出会したことすらないのだ。

 その事実をアリスに伝えると、


「トイレどうしてるんでしょうか」


「気にするのそこじゃないでしょ」


 相変わらず顔が近い。近い上に冗談をかます。


“...あぁ、なんだか......元のアリスだ”


「...思い切って新しいライバルであるレイラさんを連れて行ったら案外扉開いてくれるかもしれませんよ?」


「それ逆効果だと思う。傷口に塩塗ってるよ」


 そんなこと、あのアリスが気にするはずもなく、彼女はレイラに淡々と趣旨を話す。

 レイラもレイラだ。何度か頷き、それを承諾したときたもんだ。


「ったく...」


 そうボヤくレヴィ。早々と彼との距離を離していく彼女らに、嬉々とした声は流石にかけられなかった。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


「リリィさん」


 そんな声で扉の向こうまで聞こえるのかと聞きたくなるほど小さな、囁くような声でアリスは言った。

 その様子に、レイラはレヴィに耳打ちする。


「リリィさんって、凄く耳のいい方なんですか?」


「え、いや...違うけど」


 そういう発想があったものか。耳が良すぎるから、声が大きく響くから、小さな囁きで構わない。という考えだ。

 普通は寝てるとかそんなんじゃないのか。という鋭いツッコミを飲み込みながら、レヴィはアリスの肩を掴む。


「ノックでいいよ」


「え、あ、はい」


 何故か挙動不審なアリスは、躊躇うことなく大きなノック音を立てた。恋敵への嫌がらせか何かだろうか。


「............」


 大きなノック音だったはずたが、一向に部屋からの応答はない。嫌に静かだ。それはアリスも同意見なようで、


「レヴィ君、何か...静か過ぎます。もしかして...いないんじゃ...」


 その言葉に、レヴィは震え上がった。再び、彼女を失う恐怖を体感的に感じ取ったからだ。否、本能と呼ぶべきか。体を駆け上がる悪寒が止まらない。自分が死ぬんじゃないかと思える程、動悸が激しくなり、冷や汗が垂れ、瞠目した。

 もう、彼女を失うことだけは。


「アリス、魔法で扉を...」


「......はい」


 こじ開けろ。その命令に、アリスは躊躇うことなく風の魔法をぶっぱなした。

 風の威力に、しなり切った扉が轟音を立てて崩壊する。部屋に入った風の反動がこちらにも跳ね返り、何かが頬に着く。


「......ぇ、は?......血?」


 やけに静かな部屋の正体。それは、血に塗れた内装で。

 血で濡れた絨毯、壁、掛けた絵。机からベッドまで、十分過ぎる程溢れた鮮血。血が体外に漏れだしてそう時間は経っていないように見える。まだ血が固まっておらず、ぴちゃぴちゃと音を立てている。


「おや?」


 鮮血の中で声がした。誰もいないはずなのに。否、それは。その人間は最初からそこにいた。気付くまでに時間がかかっただけで、彼はそこにいた。

 赤を基調とした服装に、赤い鮮血を被った男。彼の口がニチャと音を立てて開く。


「おぅやぁ?これは......レヴィ次期帝王。そ、れ、に......レン。久しぶりじゃないか」


 真っ赤な男に、憎悪以外は見いだせない。レヴィは飛び出していた。

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