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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第一章 帝覚
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幕間 ある偶然

 傭兵達が到着し、彼らが見えない縄に拘束されている蟷螂型の“unknown”に見とれている間に、レヴィ達はこれからのことについての話を進める。


「レヴィ様。これからどうなさるつもりで?」


 アリスとレイラの口論に、聞き疲れて耳に何か。タコと言うには意味が違う気がするが、そんなものが出来そうな感覚だ。

 そんなレヴィに、レイラは話しかける。


「どうって...レイラが屋敷で暮らすことになるんでしょ?」


「え?」


 驚愕に言葉を隠せないアリス。

 それもそう、憎むべき恋敵が、屋敷に。それも二人も住むことになるなんて、アリスにとっては悪夢以外の何物でもない。

 だが、レヴィの発言はそれを考慮してのことだった。


「アリス、落ち着いて聞いてくれ。レイラ、家は、住む場所はあるか?」


「ない...です。仰望師団の塒ならあります。脱退したので寝ている間に襲われるかもしれませんけど」


 彼女の邪精霊の権能で障壁でも築けば狙われても安全なのでは?という疑問は頭の片隅に移動させる。

 やはり、レヴィが睨んだ通り。彼女が帰る場所はなかった。


「なら屋敷に招くしか...」


「権能で眠らないように想像したらいいんじゃないんですか?」


 リリィとは同じ屋根の下で寝られても、レイラだけは許容出来ないのだろうか。どうにかして割り切ってほしい。その思いだけが募る。


「あ、権能は一日三回までしか使えないんです」


「...もう三回も使ったんですか?」


 権能は一日三回まで。その縛りがあれば、権能なんて大したことないんじゃないかと思えてくる。が、彼女の力は、使いようによってはなよなよしく、強大なものであるのには間違いなかった。

 想像次第ではこの世界を葬り去ることすら叶うのだから。


「使いましたよ。まず昼のお化粧。二つ目はカルヴィンとボクを瞬間移動させる為に。そして最後はカルヴィンだけを飛ばす為に使いました。だからもう今日は屋敷にお泊まりするしか...」


 そう言って再びレヴィの腕に抱きつく彼女の胸はペタンコと言える程、まな板で。

 その行為自体に苛立ち、攻撃を仕掛けようとしたアリスも、その事実に。彼女が勝っている部分に気が付くと、いつものようにニマニマと笑顔を浮かべ、


「お胸、小さいんですね」


 嘲笑混じりに発したその言葉は、予想以上にレイラの心を抉ったようで、彼女は目尻に涙を浮かべ、レヴィの胸に抱き着く。


「胸が小さくても、レヴィ様は気にしませんよね!小さくても!まな板でも!幼女体型でも!気にしませんよね!胸にばかり栄養がいっている牛とは違うんですから!心に栄養がいってるんですから!レヴィ様も何か言ってやってください!」


 相当胸の小ささを気にしているらしく、そうやってレヴィに泣きつく。

 だが、レヴィは異変に気付く。最初は自分を慰めて欲しいと饒舌をかましているのに対し、後半はアリスに何か口撃している。そんな可愛げのある言葉に唾を飲み込みながら、


「ま、まぁまぁ......僕は胸の大きさは気にしないよ」


 この言葉を、レイラへの慰めだと感じ取ったアリスは笑みを。自身を認めてくれたと感じ取ったレイラも笑みを浮かべた。

 実はそのどちらも違く、この場を収める為に言った、無機質な言葉に過ぎないのだが。


「ですってよ、レイラさん。貧乳はステータスなんかじゃない。慰めの対象なんですよ」


「何を言ってるんですか。ちゃんと聞いてましたか?レヴィ様はまな板を受け入れてくれたんです。つまり好きと言うことです。つまりつまりボクのことも好きというわけなんです」


 「いや、どっちも違うよ」と言う前に、お互いがドヤァとドヤ顔を披露したから、彼は何も言い出せなかった。

 ふと、彼は我に帰る。何故こんな話に逸れてしまっているのだと。


「話を戻そうか。で、今日は権能はもう使えないんだな?」


「ええ...なんで話戻すんですか、貧乳の素晴らしさを今から語ろうと──」


「女の子がそんな言葉を言っちゃダメだ!」


 嘴を挟むべきタイミングであったと、自負する。そして、彼女らを否定することは間違っていないと思い込んだ。最も、間違ってはいないのだが。


「とにかく、権能はもう使えないんだな?」


「む、むん」


「むんじゃ分からないよ」


 予想外の反応を示すレイラに、少し吹き出しそうになったのは秘密だ。

権能が使えないのならば、屋敷に招くしかない。


「正気ですかレヴィ君?」


「正気も何も、まだレイラは十二歳だよ?」


 そう、レヴィが六歳の時に拾ったゼロ歳児。それから十二年が過ぎ、顔立ちも大人っぽくはなった。が、その性格、言葉遣いはまだ大人になり切れていない感覚が残る。

 彼女はまだ子供なのだ。


「十二歳...で、でも元仰望師団で...」


「仰望師団の件は仕方ない。たぶん、そうならざるを得ない人生...運命だったんだろ?」


 そう、彼女をあの老夫婦に手渡した時点で、彼女の運命は決定付られることとなったのだ。

 全てはレヴィ、彼の責任だ。


「ボク、運命なんか信じないようしてるんです。レヴィ様が拾ってくれたのも偶然。ボクはその偶然にとても感謝しています。仰望師団に入ったのは邪精霊がボクに宿ったから。それも偶然。邪精霊が宿ったのに恐怖心以外の感情が残存したのも偶然。全て偶然なんです」


 全て偶然で、運命を信じないように生きる。それは酷く辛い生き方だろう。全てが偶然だと思い込めば、自分の命が拾われたことですら偶然の産物になってしまうのだから。自分の命が、偶然という簡単なものになってしまうのだから。

 彼女は気付かないふりをしているが、その言葉にはそれ以外の意味も含まれていた。レヴィが自責の念に苛まれていることを感じ取り、その必要はないんだと、貴方の所為じゃないと説いていた。


「そうか...君は偶然に沢山救われているんだな」


「そうです、偶然の化身です!」


 笑顔で言う彼女は、アリスに向き直り、言葉を連ねた。


「ボクは、今日。偶然にも仰望師団から脱退しました。もう、キミとは争いたくない。レヴィ様の件についても、沼地の件についても。沼地の件はボクは関わってないけど、それでも仰望師団がしたことに変わりはない。それに、仰望師団が今までしてきたことは、決して許されることではない。それも理解してる。だから、代わりに頭を下げる。ごめんなさい」


 彼女にもまたプライドというものはないのだろうか。それとも、頭を下げる程悩み抜いた結果だったのか。

 アリスは、思ってもみないレイラの態度に狼狽える。どう、言葉をかけていいのか。どう、彼女を許そうか。


「あ、争いたくないっていうのは無理な話です。レヴィ君を狙い続ける限り、私は容赦しません。......でも、沼地の件、今まで仰望師団がしてきたことへの償いを貴女がするのは間違ってると思います」


「......なんで?」


 仰望師団という組織に入っていたのだからそういったことをして当然だろうと、レヴィは思い込んでいた。そういう固定観念があった。


「だって貴女人を殺したことも、街を壊滅させたこともないでしょう?」


 彼女が思ったよりも頭の切れる、人の目を見て本心を読み取れる性格なのか。どちらかは分からないが、レイラの見開いた目を見る限り、その言葉に間違いはなかったようだ。


「ハッ.........よく分かったね」


「分かりますよ。人殺しの目じゃないです」


 見抜かれたレイラの目は、言われてみれば確かに温厚そうな目をしている。とても人殺しをするような人間には見えない。逆に言えば慈善者の様だ。


「なら......仰望師団では何もしていないのか?」


 レヴィの素朴で、今後に大きく関わる質問に彼女は首を横に振った。

 それが意味することは。人殺しはしていないが、それを企てたりはした、ということなのだろう。それを理解したアリスとレヴィは、お互いに声を発さずに黙り込む。


「レヴィ様!アリシア様!そろそろ出発しましょうか!」


 威勢のいいおっちゃん元い傭兵が声をかける。

 無駄によく張ったその声は、アリスとレヴィにしか向けられていないものだった。勿論、レイラのことなど知るはずもなく。


「ん?そこの嬢ちゃんは?」


 不意に「そこの嬢ちゃん」に向けられた声は、怪しみを表してはいなかった。

 ただ、本当にただの疑問として。


「レヴィ様の従者の一人でございます」


 そう、自身で明言した。

 それはアリスただ一人を震撼させた。

 「レヴィ君の従者を名乗った...?」という表情を浮かべてレイラを睨めつける。が、当の本人は素知らぬ顔で傭兵を見つめている。


「そうかい!これからよろしく!じゃあ、行きましょうか!」


 特にアリスの表情を気に留めることはなく、傭兵は紫龍に乗る。

 ここは元“unknown”のいる場所から十キロ程離れた場所。帝都の中心までは約三時間だ。


「あ、傭兵さん!私やりますよ!」


 レイラへの嫉妬心から気持ちをすぐさま切り替えたアリスは、傭兵に語りかける。紫龍は自分が操ると言うのだ。

 魔法を何度かぶっぱなして、魔力も体力もそこそこ減っているだろうというのに、なんて健気な女の子なんだとレヴィは感心する。

 勿論、傭兵もそんな彼女の容態を確認していたようで、


「いいですよアリシア様!私がやります!貴女はレヴィ様といちゃいちゃでもしといてください!」


 皮肉ではない、心からそれを望んでいるような言い草に、アリスは赤面する。レヴィをゆっくりと振り返り、


「いいですか......?」


「...はぁ......いいけど、いちゃいちゃって──」


 言い終わる前に、もうお分かり。何遍もこの状況に遭遇してきた。全く。いきなり飛び込んできたら痛いって。

 それに今は右腕にレイラがしがみついている状態だ。上手くアリスを抱えることが出来るはずなく、


「いってっ!」


「あ......ごめんなさい」


 アリスの頭がレヴィの顎へ。更にレヴィは口を開けていたので、舌を噛んだのだ。

 流血こそしないものの──


「デジャブだな」


 しかし前回と違う点。今回は舌を噛んでもしっかり話せていること。

 そんな様子に、前回の事態を知っているアリスは感心し、この状況を見たことのないレイラは狼狽え、傭兵は「大丈夫ですかぁっ!」と叫び。

 賑やかで騒がしい竜車は帝都へ引き返して行った。

これにて一章完結です。何とも曖昧な締め方ですが、どうかご了承を.....

書き溜めはまだまだあるのですが、追いつかれるのが怖いので、二章からは毎週月曜投稿にします。


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