117話 死神は慈悲を欲す
削除祭りからの帰還です!
最初の方はあまり改変がありませんが、中盤から後半にかけては大きく変わってます!
アンと名乗った死神の少女は、笑顔を作ると、レヴィに言った。
その言葉が、アリスの良く使う「冗談」なのか、それともそんな気はさらさらないのか、今のレヴィには汲むことが出来なかった。
「どういう意味……?」
「どういうって、そのままだよ。君の真の姿」
言っていることの噛み合わせが上手くいっていないようだ。
「こほん」と空咳をし、レヴィはアンに向き直って言う。
「死神の王が? 僕とは無関係そうだけど」
「そんなことないよ。ボクらを束ねる王様、それこそが君なんだよって話」
そうは言われても、生憎中二病というものになったことはないし、なっていたとしてもそこまで大口が叩けるほどレヴィは肝が据わっていない。
「人間違いなんじゃないかな? 僕はそう呼ばれたことはないし、そもそも『二つの王』を兼業出来るほど僕は器用じゃない」
「あはは! 君やっぱり面白い! 確かに君の言う通りかもしれないけどさ、君は王。それは間違いないし、逃れられない事実だよ」
「どうして?」
その言葉がレヴィの口から発せられるのを待っていたかのように、アンは笑みを浮かべ、レヴィの唇に指を押し当てた。
「親は君なんだもん。子が王なら、親はもっと偉い央でしょ? そういうものだと思うんだよ」
片目を瞑り、レヴィの唇にあてがっていた指を自分の唇に押し当てるアン。
その行動に動揺の「ど」の字も見せないレヴィに、アンは不貞腐れたように頬を膨らませて言った。
「ちぇー、面白いのかつまんないのか分からないね、君は。でも、ボクの言うことを少しは信じても、悪いことは起きないと思うよ」
「悪いことが起きないって断言できないなら信用なんてしないよ」
「あー!! 断言しますっ! ボクが悪かったよお!!」
レヴィの不意打ちの言葉に、アンは困り顔でレヴィに擦り寄る。――本当に、この顔だけ見ていれば、彼女が死神だなんて想像することすら難しいような気もする。
と、逸れた気持ちは置いておき、ここで信用するかどうかのシンキングタイムだ。
「……ボクがそんなに信じられないかな〜。ボク、これでも仲間からは信用される方なんだけど……」
「可愛いからってすぐに信用しちゃダメっていうのは帝国の辞典に載ってるの。そもそも、なんで僕にそんなに信用されたいのさ」
死神ならば、もっとなんかこう、「欲」とかで上手くやりそうなものだが。
というのはかなり、死神を買い被りすぎているようで、思っていることが表情に出たレヴィの頬をつねったアンは、
「だって……信じてもらえないのって凄い寂しいから……」
「え、個人的な欲求だったの」
「わ、悪い!?」
素で出た反応に、頬をつねる指に更に力を加えるアン。――正直痛くないというのは放っておいて、こうして私利私欲のために死神が行動しているとは、レヴィにも考え難い事案だった。
「いや……でも、それはそれで謎が深まるから信用しにくいんだよな……」
「なんで!? もういいじゃん! 話が前に進まないよお!」
地団駄を踏んで喚くアンは、さながら子ども。これをどう見て死神なのか、そして最初の堂々たる振る舞いとは打って変わった態度に、レヴィは頭に浮かぶ疑問が絶えない。
「わかったわかった! 信用するからほっぺた取らないで!?」
「ぐにぃー!!」
最初のアンとは別人なのかと思うほど変わってしまった彼女を前にして、レヴィはあることに気が付いた。
「……?」
――アンの立っている足元。そこから、広がるように花々が枯れていっていることに。
「花畑が……どんどん枯れていく……?」
「…………」
「こんな嫌な力を持ってしまった」と、苦笑するアン。やはり、死神は死神。想像していた力とは相違ないものだったが、相違点はあった。
一粒、黒い涙が頬を伝う。
「……アン?」
「ボクだって……ぅ、ボクだって、こんな力欲しくないよ……でも、ぼ、ボクじゃなきゃ……ダメだったんだ……」
人の涙とは違い、黒く染まって流れるそれは、やはりアンが、人間とは程遠い化け物であることを指し示していた。
そして、その心が誰よりも、「死」を疎んでいる、当たり前の人間の心を持っていることも示していて。
「ボクは……こんな力、持ちたく、っ! なかったんだよ! ボクだって! 皆を救ったり! 人を助けたりして! 優しい人になりたいんだよ! なんで……こんな力……触れるだけでなんて……!」
振り返り、思い出す。
祠に触れた直後から、自分の周りに咲いていたであろう花々が枯れていったのを見ていた。
生気に溢れる花々が、見るも無残に生を吸い取られ、誰の糧にもならずに死んでいくのを。
レヴィとニヒェスの歩いている向こう側で、アンが泣きながらレヴィを待っていたことを。
「……」
「ボクは……なんで死神なんだ……! なんで王は、ボクにこれを受け取れって言ったの……? なんで……なんでなんでなんで……!」
何も考えずに抱きしめた。
不意に触れば自分も死ぬかもしれない、なんて、この場でそんなことが考えられるはずもなく、ただ単に「泣いている子を宥めたい」。それだけで。その一心で、抱きしめ、頭を撫でた。
出会って数分の少女に、「大丈夫だよ」と。
死神などという畏怖すべき存在を、しかしか弱い一人の少女という存在を、ギュッと、抱きしめた。
「……ぅ……ああっ……!」
「泣いていいよ。君は何も悪くない。何が起こってるのか、僕には何もわからないけど、大丈夫。大丈夫、大丈夫」
母に、いつかこういう風にあやされたのを途切れ途切れに覚えている。いつも、彼女は言ってくれていた。「大丈夫、大丈夫」、その言葉を、今度は自分が誰かに。
「うわぁぁぁあん!! うっ……うぅ…………ぐ、ぐるじぃっ!」
背中をバンバンと叩き、「もう大丈夫。降参」を伝えようとするも、レヴィはそれに気付かずに言い続けた。
「大丈夫、大丈夫……」
「大丈夫じゃないからぁっ!! 痛い痛い! ぼ、ボクが死ぬ!!」
それから数分、アンのギブアップの声が響き続けたが、レヴィはそれに気付くことなく、ずっと抱きしめ続けていた。それ故に、彼女が気を失ってから更に目覚めるまでには、数十分の時間がかかってしまった。
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「――全く、ボクはか弱い女の子なんだよ? そんなに強く抱きしめなくたっていいじゃないか」
ふんすと鼻息を荒くして、しかし顔を赤らめながら腕を組むアンは、まんざらでもなく嬉しそうだ。
生憎その気持ちを理解することはレヴィには出来なかったが、アンの態度がそれなりに元に戻っているので良しとした。
「ごめんごめん、つい、ね」
「ついっていうレベルじゃなかったけどね!?」
先程の絞め殺しのような抱きしめを思い出し、アンはゾッとした背筋をぶるぶると振るわせる。そして、「ともかく」とレヴィに向き直ると、本題に入ろうと話を切り出した。
「ボクが死神だっていうことは多分……今ので分かったでしょ?」
「……うん」
出来れば目を覆って知らないふりをしてやりたいが、彼女の質問に無視することになるのでそれは出来ない。
立った所から花が枯れていく。どうして抱きついたレヴィが死んでいないのか、というのはさておき、彼女が死神であることを証明するのには花の死で十分すぎた。
「なら、本題に入ろっか。まず何を聞きたいの?」
「あれかなこれかな」と、指折り数えていくアンを、レヴィは静かに見つめる。
「――どうしたの?」
「……聞きたい質問はいっぱいあったんだけど、それよりも気になって」
目的語がないことに疑問し、首を傾げるアン。そして、その目的語が何かも、到底思いつかないらしい。
「え? え?」と、何を聞かれるのか分からないワクワク感と不安で、顔がごちゃ混ぜの表情になっている。
「こ、怖い怖い! なんでそんなに深刻そうな顔してるの!」
「……アンの、過去を聞きたい」
その瞬間だ。
刹那、一瞬と言うべきか、どの言葉が一番お似合いなのかは分からないがそういうニュアンスで、
「っ……?」
アンがレヴィに抱きついていた。




