100話 協力者ミーナ
遂に100話到達しました。
あまりそこまで書いたっていう実感がないんですが、改めて見返すとよく書いたなって思います。
これからもよろしくお願いします。
「それじゃあ、ありがとうございました。また何かあったら、お邪魔するかもしれません」
そう言うと、セシリア宅の玄関で一斉に頭を下げるレヴィたち。ひとりだけ頭を下げなかったミーナの頭を押し込み、お辞儀をさせる。
その様子に微笑むセシリアは、「お手柔らかに」と言うと、真面目な顔に戻り、言った。
「困ったことがあれば、またいらしてください。茶葉を買いに行っておきますので」
「ありがたいです。それじゃあ……」
一行は踵を返し、村とは反対方向――遠くに聳え立つ巨大な白城へと向かおうとする。
昨晩は、暗くて見えなかったようだが、見えないというのがおかしいというほど大きな城である。
その城を見つめ、立ちすくむレヴィたちに、後ろから声がかかる。
「レヴィさん」
「何ですか?」
振り返ると、セシリアが胸に手を当て、不安そうな顔色で彼らに問う。
「行く宛はあるんですか?」
「……とりあえず、あの城に向かおうかと」
正直、行く宛はそれしかなかった。
その白城の中に何があるかも、誰がいるかも知らないし、もしかするとそこで捕えられる可能性だって否めない。
――最初からセシリアに相談しておけばよかった。
「あの城は……やめておいた方がいいです」
「……? 何故ですか?」
レヴィの問に、少し口ごもるセシリア。
彼女の態度から察するに、先程のレヴィの勘繰りが当たっているようでもある。
「……あそこは今、邪精霊の溜まり場です。今城に行けば、間違いなく捕えられ、拷問、終いには虐殺も……」
「別に、そいつらが統治してるわけじゃないんでしょ?」
邪精霊の溜まり場と聞き、少したじろぐレヴィと、それに臆しないレイラとアブセルト。やはり、自らが元は仰望師団――邪精霊を宿した身であるからなのか、表情は軽い。
そしてミーナも。
「……統治……というか、支配、ですね」
「あぁそう。なら任せてよ」
薄い胸をドンと叩き、十歳半ばのレイラは声高らかに宣言する。
「そいつらみんな更生させてあげるよ」
「レイラ……それは……」
「大丈夫ですよレヴィ様。何も策が無いわけじゃないんですから」
それだけ言うと、再びセシリアに向き直るレイラ。レヴィには、レイラが何を考えているのか検討すらつかない。
が、彼女の自信満々の表情から見るに、彼女は信じられる。
「そう……ですか。でも、そんなことが本当に?」
セシリアが不安そうに呟くが、その心配にも、レイラは高らかに言い張る。
「大丈夫だって。っていうか、邪精霊が統治してるなんてクソみたいな世界だし、まずレヴィ様はそんな世界、許さないと思うんだ。ね? レヴィ様?」
「僕!? ……ええと、まぁそうだね。きっと元通りの天界に……戻します……はい」
急に前振りもなくセリフを回されたような気分の中、レヴィは言葉足らずで口を動かす。
何を言ってるかわけのわからない状況。
それに笑いを堪えられないレヴィの仲間の女子たちとは違い、セシリアはひとり、涙を流す。
「ありがとう……ございます……」
久しぶりに聞いた、心のこもった「ありがとう」に、心が潤っていくのがよく分かる。
セシリアの涙をハンカチで拭い、その後親指を立てて「任せてよ!」と言うレイラは、城に到着するまでの間、ずっと笑顔だった。
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レイラが彼女に親指を立て、任せろと豪語した後、セシリアは彼女らに言った。
「もし、アリシアさんのことを聞いて回りたいのなら、ミカエル様やガブリエル様の祀ってある祠に行ってみてはどうでしょう」、と。
彼女の言い分によると、その祠とやらは白城の麓の森の中にあるらしい。そこまで行くことは簡単だが、そこを取り仕切っている仰望師団の兵たちが中々の手練らしい。
それ故、祠へ辿り着いてミカエルらのお告げを聞こうとするものがいたとしても、彼らは祠寸前で帰されてしまうらしい。
なんでも、祠の周りには少しばかり巧妙な罠が仕掛けてあるらしく、祠へ近付くと、そこらを徘徊していた兵らが一斉に集まってしまう。
何故そこまでして祠に触れてはいけないのか、そこまでの説明はセシリアからは無かった。自ずと知ることになるのか、それとも知ってはいけないのか。
レヴィらがその祠の近くにたどり着いたのは、セシリアと別れてから数十分後。
歩いてみると意外と近かったその森では、一切の敵と出会さずに祠へ辿り着けた。
「遠いぃ〜……」
「もう少しのはずだから、頑張って。それとも、おんぶする?」
「おんぶするっ!」
相も変わらずはしゃぎまくりなレイラと、それを羨ましそうに眺めるリリィとアブセルト。そして、子供らしさ全開な彼女らを、冷徹な目で見つめるミーナ。
途中で足をくじいたり、前を見てなくて倒れた巨木に頭をぶつけたりした彼女ら。
やっとのことで、全員が無事に祠の前まで辿り着くと、ミーナはレヴィにかがむように要求する。
「何?」
「いいからかがんで」
背の小さいミーナは、かがまないとひそひそ話が出来ないほどのレヴィとの身長差だ。
彼女の言いなり――要求を飲み、レヴィはかがむ。周りのリリィたちは、祠に興味津々で、レヴィにミーナが耳打ちしていることには全く気付かなかった。
「近くにいる。それも十人ちょっとじゃない」
「……仰望師団?」
こくりと頷くミーナは、再びレヴィの耳に手を当て、続けて言った。
「祠の仕組みは分かったよ。それも簡単」
「仕組み? どうなってるの?」
「あー……知らないかもしれないけど、邪精霊を宿したやつは仲間を攻撃したくないっていう本能が働くんだ。よっぽど怒り狂ったりしない限りはね」
そう言われて、レヴィはふと思い出す。
リリィが地下に囚われた時、レイラがシリルを殺した時だ。
彼女は邪精霊を宿した身でありながら、シリルを攻撃した。――これでは、合点がいく。
「……で? それと祠がどう関係あるの?」
「まぁ待ちなよ。んで、邪精霊を宿したやつってのは、仲間を見分ける能力があるんだ。邪精霊を身に宿したもの同士。つまり、仰望師団と、それ以外を見分けることが出来る……もう分かるでしょ?」
「……うん」
つまり彼女が言いたいことは、何らかの仕組みによって、祠に仰望師団以外の人間が触れると、例えばだが警報のようなものが鳴り、兵たちが集まるという仕組みらしい。
何とも簡単で、すぐに見破れそうな罠なのだが――。
レヴィがミーナの伝えたかったことを理解した素振りを見せると、ミーナはかがんでいたレヴィの尻をポンと蹴り、「立っていいよ」と合図する。
「多分、村の皆がこれを見破れなかったのは、仰望師団が全員城側についてるから。仰望師団がいないんじゃ、この謎は解けないしね」
なるほどとレヴィは相槌を打つ。
だが、一つ疑問が残る。それはトオルがおかしくなってしまった時からある疑問だ。
――……何故。
「なんで……」
「ん?」
「なんで、君はそこまで協力してくれるの?」
艇から落ちた時も、糸で助けてくれた。
恐らくだが、彼女が一時期気を失ったのも何か理由があったから。
そしてこうやって今、レヴィに祠のヒントをくれた――。
何故、何故、何故。
呆けた面をしたレヴィに、ミーナはクスッと微笑み、口を開いた。
「そりゃあだって――」
「レヴィ様っ!」
ミーナの小さな声を遮る叫び声と、瞬間的にレヴィとミーナに結界を張るリリィ。
結界が彼らを包み込むとほぼ同時、黒い矢のようなものがレヴィ目掛けて飛んでくる。
そして、矢が結界で弾かれて地に落ちると、低い男の声と一緒に声の主が現れる。
「んだぁ? てめぇら。なかなかつえぇ結界持ってんじゃねぇか」
その声を掛け声にしたように、レヴィらを取り囲む大量の兵たち。
身を甲冑で覆い、手には各々が武器を手にしている。ひとりは剣、ひとりは斧、もうひとりは弓。それぞれが違う武器を持っている故に、ひとりひとりが放つ圧迫感は凄まじい。
甲冑で身を覆った兵たちの中でも一際大きく、頭の甲冑だけを外している男。リーダーであろう彼は、その体に余るほどの巨大な大剣を手に握る。
「お前は……? リーダー?」
「あぁそうだぜ。一応名乗っとかねぇとな。俺はデルバ。十七部隊のリーダーやってんだ」
自己紹介するデルバは、手に握った大剣に力を込めて続ける。
「……で? お前らはここで何を……って、大体分かっちゃいるけどな」
「分かってんなら聞こうとすんなよ。いいからさっさと退けよ」
アブセルトがしっしと手で払い除けると、デルバは眉間にしわを寄せ、祠の前に出ようとしたアブセルトの片丘を掴む。
「…………なななななな何やってんだよお前ぇっ!?」
「ふんっ、所詮はその程度か? 乳揉まれたくれぇでそんな反応かよ。雑魚が」
アブセルトとデルバが起こした一連の流れに、レヴィ陣営の目の色が変わる。
大切な姉を侮辱された怒りで、レイラはアブセルトの前に躍り出て、叫ぶ。
「どうだ!? ボクならないよ!? 触るだけ触りなよ!? あぁ!? なんで胸無いんだァ!?」
「なんか自虐になってるよ!?」
山も谷もない薄っぺらい胸を自ら揉みながら、涙を目に溜めて叫ぶ。
盛大なレヴィのツッコミも、虚しく森の奥へと消える。
「ふん、おめぇらがさっさと消えろよ。邪魔なんだよ」
「――邪魔? あっそう。誰がお前らみたいな師団の言うこと聞くと思う? むしろ反抗するんだけど」
瞬時にレヴィとヴェリュルスの意識が切り替わり、ヴェリュルスはデルバに好戦的な態度に出る。
だが、デルバは彼の登場を待ってましたとばかりに恍惚な表情を浮かべ、ニタっと笑う。
「ヴェリュルス……久しぶりだな」
「おう、久しぶり。じゃ、早速死ね」
そう言い切る寸前、ヴェリュルスは剣を鞘から抜き、地面にそれを擦りつけながらデルバの元へと駆けていく。
ガガガガと、クロウが地を割く音が鳴り響き、それが止んだ時。ヴェリュルスは剣を振り上げる。
「うぉ!?」
「はっ、避けるか」
デルバが渾身の一撃を避けると、それを合図に、レヴィ陣営の一斉攻撃が始まる。
剣を振り上げ、出来たヴェリュルスの隙を、リリィとリリが魔法で補佐。炎と氷が合体し、氷が炎のように弾ける。
だが、それすらも躱したデルバは、彼の手に握った大剣を天高く突き上げる。
「デカすぎんだろ? ……防ぐぞ!」
「はいっ!」
ヴェリュルスの掛け声に反応したリリィたちは、それぞれが持ち場につく。
リリィはアブセルト、レイラ、ヴェリュルスに結界を張り、リリは彼らに強化魔法をかけ、それが終わると、リリィと同じように強力な強化魔法をかける。
「さぁ、来いよくそデカブツ!」
「あぁ、行くぜぇ」
デルバが一瞬のうちに大剣を振り下ろすが、アブセルト、レイラ、ヴェリュルスが剣を交えて防ぐ方が若干速かった。
――ギシギシと、物凄い負荷がかかる中、ヴェリュルスたちは大剣をどうにか弾き返そうと試みる。だが。
「ぐあああっ!!!」
「ヴェリュルス! これ強すぎんぞ!」
そう叫びながらも、圧倒的な力の前に、防ぐことしか出来ずに耐え続けるヴェリュルスたち。最早剣だけではなく、それを掴んでいる手や腕すらもミシミシと音を立て始めていた。
だがそこへ――。
「ッ!?」
ひとつの閃光が眩く光り、背を向けていなかった仰望師団たちの視界を奪った。
デルバは閃光に目を瞑り、その威力を半減させたが、それが最後――。
ヴェリュルスらの息の合った渾身の弾き返しで、デルバは体勢を大きく崩す。
そしてその瞬間――。
「はぁぁぁぁあっ!」
アブセルトが、弾かれて大きく空いた右脇を。
「とりゃあっ!」
右脇に怯む時間もないほどのコンマの時間の差で、レイラが左脇を。
「ぐへあっ!」
そして――。
「死ね」
両腕に力が入らず、だらんと垂らした腕諸共、ヴェリュルスはデルバを裂いた。
無惨に響く、デルバの死への嘆き声。
勝ち目がないと分かったのか、兵たちはリーダーの亡骸を置いたまま逃げていく。
「……」
「レヴィ……様?」
血の滴ったクロウを地面に突き刺し、ヴェリュルスから意識を明け渡されたレヴィは小さく呟いた。
「……人は、殺さないって……決めてたのにな……」
小さく呟いたそれは、近くで聞いていたリリィの耳にも届かず、ただ掠れた泣き声のようになって、デルバの亡骸へと吸い込まれていった。




