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最後の夜明けは最愛のキミと  作者: れる
第五章 アズリエル
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99話 アブソリュートラブ

「……見えてきた。あれが帝国で言うところの帝都……か」


 気を失ったミーナを抱き抱え、天界の草原を宛もなく歩くこと数十分。荒廃した都市が目の先に点として見える。

 赤茶け、まるで遺跡のようになってしまったそれらの建造物は、斜めになったり倒れたり。色々な角度でそこに存在している。


 その荒廃した建物等の丁度真ん中に位置する場所に、小さく建つ家のようなものが。

 それは帝都で見るそれと、見た目は相違ない。古民家、というわけでもなければ、最新型の家でもない。どこにでもあるような、そんな家だ。


「……とりあえず、人がいたら、ミーナを寝かせてもらえるように頼もう。そんなに悪い人ばっかりがいるような場所にも見えないし」


「どうだか。こんだけ荒れてんだ。悪人の一人二人……いや、ここにいる全員が悪人だって、私は驚かない」


 一般的な家々の様子に、安堵の息をついていたレヴィとは違い、アブセルトは未だ緊張感を保っている様子だ。

 言われてみれば、この荒廃が人によるものなら、それはここにいる人たちの性格が野蛮であることを証明するものにもなり得るのだ。


「まぁでも……ここまで近付いて奇襲を仕掛けてこないってんなら、その可能性は低いか……」


 そう呟き、目前の輪っかを鳴らす。

 コンコンと、金属が木製の扉を叩く音が鳴ると、その扉はゆっくりと開き、中から不安げな表情をした中年女性が顔を出した。


「なんの御用でしょうか?」


「少し、聞きたいことがあって。それと、この子を横にさせてあげたいんです。怪しいものじゃないので……」


 レヴィがそう説明すると、女性はなんの疑念も持たずに扉を大きく開き、彼らを歓迎する。普通、帝都ならば少しは疑い、主人に相談するものだが――天界の人は、下の人に比べて優しいのかもしれない。


 中に入ると、そこには普通の部屋が広がる。ソファーがあり、魔石で出来たライトがあり、ベッドがあってテーブルがある。特別、天界にしか存在しないもの、というのはないようで、レヴィも一行も少し期待を裏切られた気分。


「ベッドをお借りしても?」


「ええ。いいですよ」


 ミーナをベッドに寝かせ、掛け布団をかける。終始苦しそうにうなされるミーナの世話役は、最年少のリリが任されることとなった。


「リリ、頼める?」


「はい。任せてください」


 レヴィと一緒に行動できること。そして、彼の役に立てることが余程嬉しいのか、彼女は満面の笑みでそう答える。

 下ではなかなか笑顔を見せず、無口だった彼女だが、レヴィが天界に連れてきてからは少し性格が変わったようだ。


 リリがミーナの額に冷たいタオルを置くのを見守ると、レヴィはゆっくりとベッドルームの扉を閉める。

 セシリアという名前の中年女性。彼女が紅茶をいれたのか、ベッドルームの前にまでその良い香りが漂ってくる。


「……あそこまで準備がいいと、何故か疑ってしまいたくなりますね」


「? リリィがそんなこと言うなんて珍しいね。そんなに胡散臭くは見えないけど」


 セシリアの言動は、全て「優しさ」で筋が通るものであり、紅茶を用意したのもただ、「客人をもてなすため」のはずだ。

 もっとも、人を疑うことは滅多にしないレヴィからすれば、どうしてリリィがそう思うのか、全く理解が出来ない。


「あぁ、皆様。お茶をいれておきました。どうぞ召し上がり下さい」


「ありがとうございます。いただきますね」


 カップを口に運び、啜る。

 何度か、こうしてアリスとお茶を飲んだのを覚えている。まだ使用人業に慣れていなかったアリス。レヴィに何度もぶっかけたものだ。


「……美味しい……これ、結構高いんじゃないですか?」


「あら、素晴らしいですわね。商店街で売っている、一番高い紅茶ですよ」


 「うふふ」と、口に手を当て、嬉しそうに笑うセシリア。

 だが、レヴィ以外の者達はあまり舌が肥えていなかったようで、皆揃って舌を出し、「苦い」を表現している。――まだ皆お子様だ。


「よくこんなにげぇの飲めるな」


「んー、苦いけど、美味しいんだよね」


 「なるほどわからん」と、首を傾げて言うアブセルト。


 皆が紅茶を一口ずつ飲み、ひと段落ついたことを確認すると、セシリアは話を切り出す。


「で、今日はなんのお話を?」


「ボク達、アリスをもう一回作りたいんです」


 突拍子もなく放たれた言葉に、少しの間キョトンとするセシリア。もちろん、そんなことは天界であろうとも一般人が知っているはずもなく。


「作る……? 人をですか?」


「だから――」


「あー……ごめんなさい。順を追って話しますね」


 レイラの口を手で塞ぐ。

 口が滑った、とは思っていないレイラは、彼の手を離そうとしてもがく。が、成人しかけの青年に十代半ばの少女が勝てるはずもない。


 まるで眠り薬を含ませたハンカチを口元に押し当てたように、レイラは大人しくなる。


「まず――」


 そう始めて、レヴィはこれまでの経緯をセシリアに話し始めた。


┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


 全ての話が終わると、もう日は沈み、辺りには闇の帳が落ちていた。

 暖炉がパチパチと小さく音を立てて、レヴィの終わった話に余韻をつけている。


「――……」


「あの……」


 話を全て聞き終わったセシリアは、驚きのあまり、唖然と口を開いてしまっている。

 それもそのはず。こんなこと、なんの事情も知らない一般人が飲み込める話ではないだろうし、増してやこの集団が下界から来たなど、信じるはずもなく。


「そう……ですか。大体の話は分かりました」


「え……?」


 これも、予想外の出来事。

 セシリアがこの話を真実のものとして受け入れるとは思っていなかった。結果、逆に呆けたのはレヴィの方だった。


「あのアズリエル様が、天界から落とされて下界に落ちた……そこで出会ったのが皆さん。そして、何かしらがあって、レヴィさんが死に、あなたの魔力で出来ていたアズリエル様は消えてしまった……そこで、天界に彼女を取り戻す方法を探りに来た。ということですよね?」


 レヴィの説明が上手だったというのも一理あるだろうか。それに加え、セシリアの飲み込みが早かったこと。


 何はともあれ、話が終始円満に終わりそうなのはもっともなことだ。

 レヴィはこくりと頷き、次のステップへと話を進める。


「多分、僕がもう一度彼女を作り出す魔法を使えば、戻ってくるはずなんです。でも、僕は魔法を使えないし、使えたとしても、アリスをもう一度作り出す魔法なんて……」


 リリィは黙って、塞ぎこみかけたレヴィの肩に手を置く。涙を堪えているのか、背中から猛烈な熱が伝わる。


「……魔法が……使えない?」


 そう聞き返すと、レヴィら一行は少し俯き、そしてほぼ同時に頷く。

 リリィはレヴィの背中に手を置き、レイラとアブセルトは彼の手をぎゅっと握る。


 三人の手のひらから伝わる拍動のような何かが、レヴィの速くなった心音をゆっくりにする。


「……まぁでも、レヴィさんたちも分かっているとは思いますが……私たちのような一般人はやっぱり、そういうことは分からないですね……」


 当たり前だ、と、ヴェリュルスは言う。

 「天界だから」と希望を少なからず持っていたレヴィは、期待が大きく外れ、ショックに瞠目する。


「そう……ですよね。……湿っぽい話ですみません! ミーナが目覚めたら、すぐにお邪魔するので」


 気持ちを切り替え、レヴィは軽快にそう言うが、彼の心のしこりには誰もが気付いている。

 笑いながらも悲しそうな感じ。言葉では言い表せられない、複雑な気持ちが混じった表情だ。


「レヴィ様」


「? 何?」


 優しく笑顔。

 だが、リリィたちはしかめっ面だ。


「え? な、何?」


「バカかお前は」

「バカですよ」

「バカっ!」


 三つの「バカ」が、部屋に響いた瞬間だった。

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