prologue
落ちて落ちて落ちて落ちて。
赤い夕陽を背景に、白いものは落ちていく。
――辛かった。ただ単に、辛かった。耐え切れなくなって自らで体を投げ落としたのなら、この悲しみも幾分かマシだったのだろう。
ちょっと待ってよと叫んでも、心に焼き付いていた筈のそれはいとも簡単に剥がれて消えていく。
それが消える恐怖が二、三秒に一度来て、その度に白いものは身震いをし、心に溜まった膿のようなものを吐き出す。
だが、それをいくら吐き出したところで、彼女の気持ちは晴れない。
大量の。というより大きな薄い雲を抜け、白い少女は落ちていった。呆然と体を風になるがままにし、彼女は目を瞑った。
ただ自分という存在が消えるというだけのことが、これ程までに怖いものなのか。
絶望にも似た感情に、彼女は落ちながらも嗚咽感を催す。沢山の仲間達。“彼”。何もかもを失った気分はいかがですか、ともう一人の自分は囁く。
――最悪。これ以上はないですね。
自問自答。それを繰り返すが、それをしたところで何かが解決する訳では無い。
彼女は全てを諦めた。
思えば、短い人生だった。生み出され、その意味すら見い出せずに死んでいく。それが自分の運命なのだと気付き。
風に体を任せた。
手を風の靡くままに放り投げ、足も同様に放り投げる。
たなびく髪が時折目に入るので、目を瞑った。
いつまで経っても、体を打ち付けるような衝撃がやってこない。もしかしたらもう死んでいるのかもしれない。
待ちきれなくなって目を開けた時、壁はもう目の前にあって――。
「もうす――」
ここまで読んでいただいてありがとうございます。次話から本編が始まりますので、よろしくお願いします。