豹変する少年
『その力で人間族とは......試してみる価値はありそうだな』
枯れた木の影に身を潜めた男は、不敵な笑みを浮かべ一人の少年を見ていた。
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俺達はエルヘブンを後にして、クワカル平原から馬車に乗りスタラトに帰還した。
「「「ありがとうございました!」」」
「はいよー、気おつけてな」
俺達は無事ガハラの討伐を終えた。これからギルドに報告に行くわけだが、ギルドのお姉さんどんな顔するかなぁ。もしかしてご褒美が貰えたりしてーうふふ。
「なにを考えているのかは分からないけど、とても本当に凄く気持ちが悪いから止めてもらいたいわ」
「そこまで言わなくても......」
「そうよーソラが可哀想でしょ!」
シャルはやっぱ優しいなぁー。だが実際、疚しいことを考えていたから何も言えないんだけど。今の俺は少し、いや相当浮かれている。だって、念願だった異世界召喚されて、そこで美少女二人に出会って、最強の力だよ?誰だって浮かれるよなぁー。しかも人間が成したことの無いことをやり遂げたんだ。もしかしたら英雄と祟られたりして。
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「なんかこの前より騒がしくないか?」
「うん。なんかあったのかな?」
ギルド内はこの前以上に騒がしかったが、俺達はまずカウンターにクエストの報告に向かった。
「すみません! クエストを消化しましたー」
「あれ? なぜ貴方は生きているのですか?」
「えぇ!? 真顔でそんなこと言わないで下さい!」
「すみません、Bランクのクエストを受けたので、てっきり自殺行為かと......」
「違いますよ! ほら見てください」
ギルドのお姉さんの対応にショックを受けつつ、証拠となるステカを見せた。
「ほ、本当ですね、ちゃんと討伐されています。疑ってしまい誠にすいませんでした」
「いえいえ、それくらい平気ですよ。それよりなんかギルド内が騒がしくありませんか?」
俺は今回の報酬の50万コルを貰い、俺達はちょっとした小金持ちになった。
「実はですね......」
今さっき、"赤の騎士団"という有名なパーティーが帰ってきたらいしのだが、メンバーは一人だけで、他の人達はみな魔人に殺られてしまったらしい。生き残った青年の話によると、他のメンバーは一人の魔人と戦っていて、そこに急に現れた謎の男が魔人を瞬殺しその死体の血をみんなが飲まされて、10分もの間、悶え苦しみ死んでしまったらしい。
「じゃあ魔人を殺したのって誰なんだ?」
「そもそも魔人を瞬殺っておかしいと思わない?」
「うん。魔人より強い種族がいないから、仲間を殺したことになるよね」
「えぇ、でも魔人族は自分が気に入らないことがあったら仲間でも平気に殺すらしいわよ。だから謎の男の力が強大ってことよね」
でもなんで、魔人の血を飲ませたりしたんだろう?血を飲ませて殺さなくても、その男なら力でどうにかなると思うんだけど。
「魔人の血を飲んだ人間は、豹変とかするのか?」
「分からないわ。そんな話は聞いたことないけど」
「でもなにかしら意図がないとそんなことはやらないよな」
「もう分からない事を考えても無駄だから、私達も気をつけるようにしましょう」
ミラの言う通りだな。俺が考えたところで何も分からないし、何も変わらない。
「今日はもう疲れたからチームルームで休もっか」
「えぇ、私も限界だわ」
その後、俺達はチームルームへの帰路を歩いていた。その時、俺の横を通ったフードを深く被った人が俺だけに聞こえる声で囁いた。
『迷いの森に 午前三時』
俺は後ろを振り返ったが、その人の姿はどこにも見当たらなかった。何だったんだろう? でもそんな時間に行くわけないだろ。俺は特に気にすることなくチームルームで就寝した。
『―――迷いの森へ』
『―――迷いの森へ』
なんだよ、こんな時間にまだ二時じゃないか。俺は声の主に説教をしてやろうと思い、辺りを見渡した。あれ?誰もいないな......
『―――迷いの森へ』
なんだ?直接脳に話しかけられているのか?ふと
俺はギルドからの帰り道を思い出した。そういえば、あの人も迷いの森にって言ってたっけ。俺は決心して迷いの森に行くことを決めた。二人には悪いから一人で行くしかないな。俺は部屋着から冒険着に着替えて、チームルームを後にした。
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「ここが迷いの森か」
迷いの森はスタラトから一番近くにある森だが、一度入れば戻ってくるのは困難と言われている為に、ここを通る人は少ない。俺は迷いの森に入り、30分程適当に前へ進んだ。少し広い広場みたいな所に到着したら後ろから声を掛けられた。
「君がソラ君だね?」
「誰だ!?」
「そんな怖い顔しないでよ。僕は魔人族。君は僕のターゲットってわけ。だからここで死んでもらう」
「ターゲット? なんで俺が魔人に狙われているんだよ」
「さぁ? 僕はただ雇われただけだからね。君を殺せってね」
一体誰に?それよりもこの展開は相当まずい!相手が魔法を得意とするのならまだ俺に勝機はあるが、もし武闘系だったら絶対に殺される!
「では行きますね」
......ッ、早い!魔人は一瞬で俺の懐に入り、俺の腹を殴った。いや違う、殴って爆発させたのだ。
ゴォォン!
「ぐぁぁぁ! ゲホッゲホッ」
......ッ!ヤバイ、内蔵が幾つか破裂したぞ。どうする? 俺に勝ち目はない。逃げるしか......
「いやぁぁごめんごめん、痛かったかなぁ? けどもう大丈夫。楽に殺してあげるから」
魔人はそう言い背中から大剣を取り出した。俺が死ぬと確信した時に、頭に浮かんだ人物。それは、出会ってばっかのシャルとミラだった。短い間だったけど、結構楽しかったな。あいつらともっと冒険がしたかった......もっと一緒に笑いたかった......
「それぃ! あ、手が滑ってしっかり殺せなかったわ、悪ぃ」
「ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺は自分の右腕が宙に浮いている光景を見た。本当に死ぬんだな。こんな早く死ぬ異世界召喚なんて最悪すぎるだろ......
「それではソラ君に永遠の眠りを」
『貴方が眠りなさい。神の裁きの鉄槌を』
あれは......あの時の人か、もしかして俺を助けに?いやそれはないか。あいつが俺をここに誘ったのだからな。けどなんて強さだ、さっきの魔人が瞬殺されるなんて......あいつは何をやっているんだ?死んだ魔人の血を集めて......ちょっと待てよこの話聞いたことがあるじゃないか!?確かこの後血を飲まされるんだっけ?じゃあ俺は悶え苦しみ死ぬのか......
『少年よ、君ならこの力を手にすることが可能だろう。生きてまた私の所に来ると願っているよ』
「うっ、ごくっ。ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺は何分この地獄のような痛みに耐えたのかは分からない。早く死にたいと何度願ったか......けど心のどこかでは生きたいと願っていた。まだ死ねない、俺が死ねばあいつらは、また二人だけになってしまう。まぁ、俺が居てもあんまり変わらないと思うけど。それでも俺はあいつらの力になりたい。だから俺はまだ死なない。絶対に生き延びてやるっ!
『......再生が始まったか。ふっふっ、これは楽しみだな』
俺は微かな意識の中、謎の男の声がこだまのように響き、意識を落とした。
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「―――起きてソラ!」
「―――全然起きないわね」
「―――それじゃあ、コボルト」
「うわぁぁ、な、なんだ!?」
「やっと目を覚ましたのね」
あれ、どうして天使が?あ、そうか俺は死んだのか。それにしてもこの天使さん、シャルそっくりだなぁー。
「ここは天国ですか?」
「はぁ? なに言っているの?とうとう頭までおかしくなってしまうなんてら可哀想に」
「俺を可哀想呼ばわりするな!」
「それよりどうしてソラはこんな場所に居たの?それと髪の色も変わっているし」
もしかして生き延びたのか?だとしたら、どうして右腕があるんだ?確かあの時魔人に斬られたのだが。
あと体から溢れ出るようなこの力はなんだ?それと髪の色も白になっているし。俺は二人に今までのことを明かした。
「でもどうして右腕が治ったのかしら」
「さぁ? 全く分からないや」
「ソラのステカを見ればなにか分かるんじゃない?」
俺は生唾を飲み込み、ステカに示された内容を確認した。......これは!?
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神崎 天空 16歳 レベル40 ゲグル
体力1600
MP1500(吸収可能2000)
魔力1500
筋力1300
守り1200
使用可能魔法
ファイアニクス ボルト シャイニング
アイスニクス 鎌鼬 ダークキルヘブン
特殊能力
魔法吸収【強化】 吸収魔法取得 魔法感知 超再生
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-ダークキルヘブン-
闇系 上級魔法。極大の闇の波動で相手を滅ぼす。
消費MP 自身の全てのMP
-魔法吸収【強化】-
右手で相手の使用魔法を無力化する。左手で相手の使用魔法を無力化し、その分のMPを吸収する。
-超再生-
自身が受けた傷を瞬時に回復する。
「......ハーフ? もしかして......うそ、だろ?」
自分のステカを信じたくなかった。なぜか俺のステータスは物凄く上がってるし、人間はMPが少ないはずなのに高いし、そしてなにより特殊能力だ。魔人族しかないはずの再生が付いているのだ。クソ!嘘だろ!?なんで俺が魔人とのハーフなんだよ!?魔人のハーフになった理由は一つしか考えられなかった。あいつが俺に血を飲ませたからだ......俺はもう人間じゃないのか......
「なにしけた面をしているのよ。ソラはただハーフになって、ステータスが上がって、特殊能力が増えて強くなっただけでしょ? 今までと差ほど変わらないじゃない」
「うん。ハーフって私達とお揃いだしね! パーティーみんなハーフって面白ねっ!」
「二人とも......ありがとう」
「ふぇ!? なにするのよ!」
「ソラ!? 人前で恥ずかしいよ〜」
俺は二人の優しさが嬉しくて思いっきり抱きついた。涙を隠す為でもあるが。
「俺は二人と一緒に居ても良いのか?」
「なに当たり前のことを言っているのよ」
「ミラの言う通り! 私達はずーと一緒だよ」
「グスッグスッ......本当にありがとう」
「それはそうといい加減離しなさいよ!」
「いてっ、突き飛ばすことねーだろーが!って、あれーミラ、お顔が真っ赤ですよ?」
「う、うるさいわね!」
「ミラったら照れ屋さんだね~」
「もう! シャルまで酷い!」
俺達はスタラトの門の前で住民に暖かな目で見られていた。うわ!恥ずかしい。それにしても魔人の血が混ざった俺に、今まで通り接してくれるのか......ヤベ、また涙が出ちゃうよ。まぁ今まで通りと言っても、会って三日しか経ってないのか。
「それじゃ私達のお家に帰りましょう」
「えぇ」
「あぁ、帰ろう!」