初めてのクエスト
「よし! 二人とも分かったか?」
「ずっとこの戦い方で良いんだよね?」
「あぁ、だけどまずは俺の能力について確かめてそれ が可能だった場合、このパターンAでいく」
「分かったわ。もし出来なかったらパターンBで行くのよね?」
「けどパターンBの場合、ミラに負担をかけるが良い のか?」
「えぇ、それくらいなんともないわ」
俺達はクワカル平原に向かう馬車の中で今回のクエストの作戦会議をしていた。パターンAというのはシャルが後衛で回復、俺が相手の魔法を無力化しMPを吸収して使用可能な魔法で攻撃、ミラは相手がMPを使い果たしたら攻撃。だがこの場合、一つ確かめなければならない事がある。それは俺が吸収上限に達して、もうMPを吸収できなくなった時、俺が魔法を使ったら消費した分だけまた吸収出来るか、出来ないかだ。もし出来なかったら最初は後衛で待機して、ガハラとの戦いの時だけ戦うというパターンBだ。だがそれだとずっとミラが戦わなければならない。しかも相手は魔法を使える状況でだ。それは流石にチートのミラでもキツイだろう。
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「お客様、クワカル平原に着きました」
「おおーある意味凄い所だなー」
やべ、あまりにも何も無さすぎて棒読みになってしまった。しかし本当に何も無さすぎだろ......見渡す限りの草原......感想は以上だわ。
「それじゃあエルヘブン地帯に行こっか」
「行き方は知ってるのか?」
「分からないけど、多分あそこらへんでしょ」
「えぇ、確かにあそこそうね」
「あぁ、絶対あそこだな」
シャルが指さした方向の空は、真っ黒に染まっていた。うわーあそこ初めてのクエストじゃなくて、最後のクエストだろ!
「なぁーミラ、そのカッコイイ剣俺も欲しいな」
「これは私専用の剣だからソラには扱えないわよ?今なら少し貸してあげてもいいけど」
「良いのか? ミラにしては素直だな」
「さぁ、抜いて自由に使っていいわよ」
ミラは持っている剣を地面に突き刺し、ニヤリと笑っている。うーんっ!あれ?いくら力を入れてもビクともしないんだけど。
「どうしたのかしら? 早くしなさいよ」
「ダメでしょミラ、意地悪しちゃ」
「意地悪?」
「実はねソラ、この剣は筋力が500以上ないと使えないの」
「お前、騙したな。おかげで腰が抜けるとこだったわ!」
「ふっ! 騙される方が悪いのよ」
俺とミラが喧嘩し、シャルが止めるという動作を三回位した所で、黒い空が次第と大きくなっていた。
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「着いたわね」
「うん。だけどちょっと怖いかも」
「まぁ安心しなシャル。なにかあったら俺が助けて
るから。シャルはな!」
「なんで最後を強調したのかしら!」
「さぁ、なんのことだか」
「あははは、全然緊張感ないね。ここに行った人は誰一人帰って来てないのに......
確かに不気味だな。辺りには紫色の霧がかかってるし枯れた木しかないな。というか魔物一匹の気配すら感じないんだが......
「あれはショック兎じゃない?」
「うん。そうだね、あっちは気づいていないみたいだ けどね」
「あの兎達ってペットに出来ないのか?」
「なに、バカなこと言っているの?冗談は顔だけにし
てよね」
けっ、さり気なく罵倒しやがって......それよりあの兎トリオめっちゃ可愛いんだけど。
「まずは俺の能力を確めにいくぞ、ミラは俺の援護を頼む。シャルは後衛にて待機だ」
二人はこくんと頷き、俺とミラはショック兎の元へ駆けた。こっちに気づいたか......前言撤回!あの兎全然可愛くない。なんだよあの鋭い牙!?
「あの兎はどんな魔法を使ってくるんだ?」
「電気系中級魔法、ボルトのみ。一匹あたりの消費MPは50位よ」
ショック兎達は自分のウサミミを大変器用に使い、俺に向かって放電してきた。俺は両手を前に出し魔法吸収の準備をする。コォーーーと音を鳴らし、みるみる俺の両手に吸収されていく。兎達は状況が掴めていないようで、お互いを見てアイコンタクトを取るかのようにしている。今の俺のMPは元の20と、兎3匹のボルト合わせて150だから全部で170か、それじゃあ試してみるか。
「ファイアニクス!」
「きゅゅゅっ!」
ファイアニクスは兎達を飲み込み、跡形もなく消した。それで吸収可能MPは200と。
「よし! どうやらパターンAで行けそうだぞ」
「それは良かったわ」
それから俺達はガハラ討伐の為先へ進んだ。道中で
は甲羅から光の波動を放つフラッシュタートルに、口から氷の玉を吐くアイスワーム、空中から鎌鼬を放つウィンドフライ。様々な魔物と戦ってきたがパターンAでなんの苦労もなくあっさり倒してきた。
「やっぱり私の難易度Sクエストの方が良かったじゃない、弱すぎてつまらないのだけど」
「ミラったらまだ気を抜くのは早いよ? 少し空気が重くなってきたから、もう近くかもよ」
確かにミラの言う通り、今まで人間がクリア出来たことがないクエストとは思えなかった。だが本番はこれからなのだ。それと沢山の魔物を倒してきたから俺のレベルが一気に上がった。因みにシャルとミラは元々レベルが多少は上がっていたからそこまでの変化は無かった。現在の俺のステカの内容はこうである。
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神崎 天空 16歳 レベル23 人間
体力240
MP40(吸収可能1200)
魔力40
筋力85
守り105
使用可能魔法
ファイアニクス ボルト シャイニング
アイスニクス 鎌鼬
特殊能力
魔法吸収 吸収魔法取得 魔法感知
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-ボルト-
電気系 中級魔法。強力な電気で相手を感電させる
消費MP50~150
-シャイニング-
光系 中級魔法。相手の視界を奪う(魔族、ゴーストにはダメージ追加) 消費MP80
-アイスニクス-
氷系 中級魔法。大きな氷の玉で相手を凍らす
消費MP100~150
-鎌鼬-
風系 中級魔法。激しい風と刃で相手を切り裂く
消費MP100~150
-魔法感知-
相手の使用可能な魔法を感知する。
さらに特殊能力が追加し、使用可能魔法も結構増えてきたな......既に人間とは程遠い存在な気がするのだが......
「なぁ、あれはなんだ?」
「なにか光ってるわね」
「ん〜と魔法陣かなー?」
俺が指さした方には黒く光るなにかがあった。俺達は少しずつ近づき、その正体が明らかになった。
「黒い魔法陣みたいだな」
「でも黒い魔法陣なんて不気味ね」
「うん......初めて見たよ」
俺達が黒の魔法陣の前に着いたら、魔法陣は強く光り輝いた。
「な、なんだ!?」
「なにか来るわよ!」
「パターンAで行くぞ。配置につけ!」
光が収まって黒い魔法陣があった場所には、空中をゆらゆらとし大きく黒いボロボロのローブで身を包み、赤く光る目の魔物がいた。こいつが今回の目的の大魔道ガバラだな!ん?なんだ......ガハラの頭上に何か文字が浮いているぞ?そうかこれが新たな特殊能力の魔法察知か。
「今までとは桁違いのオーラを放つ魔物ね」
「奴は闇系 上級魔法ダークキルヘブンを使ってくるぞ!」
「え、ダークキルヘブン!?」
「あぁだが奴はそれしか使えないらしい」
「ちょっと待って、ダークキルヘブンは自分の全てのMPを使う魔法なのよ!」
「なんだと!?」
......ッ、もし奴の最大MPの方が俺の限界よりも多かったら......俺はどうなるかは分からない。だが奴を倒す方法はそれしかない!
「ミラ下がれ!」
「......シャル!」
「なにしてんだ!?」
ミラは「シャル!」と声をかけ、ガハラの元へ駆けた。な、なにをするつもりなんだ!?ミラの剣はガハラがまるで踊っているかのように避けられていた。俺が無意味だと思って止めようとした瞬間......
「ミラ! 準備OKだよ」
「後は頼んだよシャル!」
なんでシャルはあんなにガハラに近ずいているんだ?シャルは攻撃の手段なんて持っていないはずだろ!?あ、もしかして......
「ドレイン!」
シャルはドレインを唱え、ガハラからMPを吸い取った。やっぱりか、ガハラのMPを減らし少しでも俺が助かるようにしてくれたのか......
「すまねぇミラ! シャル! 後は俺に任せろ」
「任せたわ!」
「うん!」
二人とも俺の為に、危険なことまでしてくれたんだ。絶対倒してやる。
ガハラは俺達三人に魔法が当たる距離に移動し、ダ
ークキルヘブンを放った。それと同時に俺は両手を前に出し、魔法吸収の構えをとる。ガハラが放った魔法は俺の手にゴォォォォと音を鳴らしみるみると吸収されていった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
クソ!まだかよ!もうすぐ限界が来そうだ......
俺が諦めかけた刹那、ガハラの魔法は消えていった。消えると同時に俺はガハラに魔法を放った。
「シャイニング!」
俺はガハラの視界を奪い、さらに魔法を放つ。
「ファイアニクス!」
「アイスニクス!」
「鎌鼬!」
はぁはぁ、これでどうだ......俺が放った魔法が消えてガハラの姿が露わになってきた......なに!?まだ生きているのか!?ガハラは何も無かったかのように空中を揺らいでいる......あれ?様子がおかしいな。ガハラの体が徐々に薄くなっているのだ。そしてガハラは完全に消えていった。
「よっしゃぁぁー勝ったぞ!」
「少しは見直したわ」
「凄いソラ! とーってもカッコよかったよっ!」
こんなに達成感に満たされたことは初めての事かもしれない。仲間で一つの事をやり遂げる。こんなにも気持ちの良いものなのか。
「いいや、二人のおかげだ。ありがとう!」
「なにを言っているの? 当たり前でしょ、私達はパーティーなんだから」
「そうだな!」
かくして俺達の初めてのクエストは幕を閉じた。