表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【短編集】あなたシリーズ

あなたが怖れるグレムリン無双

作者: A-T

「今日も敵役、お疲れ様でした。乾杯!」

「乾杯!」


 居酒屋でモンスターたちがジョッキをぶつけ合う。

 面子は幹事のグレムリンに、オーク、ドラゴン、スケルトン。みんな、モンスター学校の同級生だ。


「最近、どうっすか?」


 幹事のグレムリンが、ざっくりとした話題を振る。


「オラは好景気だ。ここ数年は、女騎士バブルでガッポガッポよ」


 ご機嫌な顔でオークが腹を叩く。


「我は相変わらず忙しい」


 渋い顔で飲むのはドラゴンだった。彼を入れる為に幾つかの席を片付け、特別にスペースを確保している。


「ドラゴンさんは人気ですからねぇ~。よっ、キング・オブ・モンスター」

「ホント、羨ましい限りでやんす」


 おだてるグレムリンと、妬むスケルトンだった。


「よしてくれ、忙しいのはブラックな仕事が増えたからだ」

「と、言いますと?」


 グレムリンが問うと、ドラゴンはビールを一口で飲んで語り始める。


「ソシャゲーが増えたことで、レイドボスの仕事が増えてな。あれが中々にキツい」

「どんなところがっすか?」

「ボスとして出るのはいい。だが、場合によっては攻撃されることなく放置される。それが辛い。放置されようとも、登場したからには、出現時間は守らなくてはいけない。人の気配が無くとも待ち続け、時間が来たら撤収。これほど、やり甲斐のない仕事は無い」


 ボス経験が少ない他のモンスターは唸るしかなかった。


「そういう仕事は、時給なんでやんすか?」

「いや、ダメージ給だ。受けたダメージと与えたダメージに応じて支払われる歩合制になる。だから割に合わない」


 スケルトンに訊かれ、ドラゴンは更に渋い顔になる。


「生、おかわり!」

「はい、少々お待ちを」


 店員にジョッキを渡し、ドラゴンがゲップをする。


「スケルトンさんは、どうっすか?」

「オイラは落ち目でやんす。出番があるのも、RPGやカードゲームくらいなんでやんすが、その数がめっきり減っちまって……。同じアンデッドでも、ゾンビの野郎はガンシューティングじゃ花形モンスター、映画にも出るほどの活躍ぶりでやんす。それに比べて、オイラは……」

「まぁまぁ、僕に比べたらいいじゃないっすか。もうゲームは、すっかりご無沙汰っすよ。映画が公開されてた頃が懐かしい……」


 グレムリンは、ふぅ~と溜め息をついた。


「どうしてこうなった?」

「聴いてくださいよ、オークさん。僕はモンスターとしての歴史が浅いんっす。その上、機械に悪戯をするなんて設定があるもんだから、純粋なファンタジーじゃ、お呼びがかからなくて……」

「待ちの姿勢は、いかん。自分から営業を仕掛けるべきだ」


 注文した生を受け取り、すぐに飲み干したドラゴンが言う。


「生、おかわり!」

「はい、少々お待ちを」


 店員にジョッキを渡し、ドラゴンがゲップをする。


「営業っすか……」

「そうだ。我も似たようなのが多くいるからな、競争に負けぬよう、技術の習得を続けている」

「技術と言うと?」

「まずはポリゴンになれるかどうかだ。それが無理でも、Live2Dは狙ってもいいのではないか? 体の色替えで稼げる時代は終わっているんだからな」

「なんか、大変そうっすね」


 グレムリンは他人事のように笑った。


「我らは、まだいい方だ。人間の方がよっぽど辛かろう。見よ、あちらで飲んでる美女を」


 ドラゴンが顎で指した方を見ると、着物姿の美女たちが酒を酌み交わしていた。見た目は若いのに、胡坐をかいて豪快に飲んでいる。


「彼女達が大変なんっすか? 一体、どの辺が……」

「ああ見えて、元は男なのだ」

「え~っ!?」

「一番奥にいる派手な着物の女子、あれは織田信長だ。シミュレーションゲームの雄も、美少女化という時代の流れには逆らえん。ああして、女になってまで仕事を得ておる。あれに比べれば、我々など……。まぁ、一部の者は擬人化され、美少女化もしているがな」


 何という時代になったのだと、グレムリンはすっかり取り残された気持ちになった。同時に、もっとアグレッシブに攻めていなかいとダメだなと痛感する。





 数日後、グレムリンはソーシャルゲームのオーディション会場にいた。

 採用されるモンスターは一匹。一緒に審査されるのは、コボルトとサラマンダーになる。


「中にお入りください」


 面接官に呼ばれて中に入ると、私服の男性が三人、並んで座っていた。面接官の特徴を一言で言うと、眼鏡、メタボ、ガリガリになる。


「失礼するっす」


 断りを入れて中に入る。

 三匹が椅子の後ろに立つと、メタボ面接官が座るように手で指示した。三匹が座るのを待って、眼鏡の面接官が口を開く。


「志望動機を。コボルトさんから」

「お金が欲しいとです」

「サラマンダーさんは?」

「御社の理念に共感し、自分もその一翼を担いたいと……」

「そういうの、いいですから。じゃ、グレムリンさん」

「何でも、チャレンジしないとダメだと思ったんっす」

「あぁ、そう……。君ら、モンスターでよかったね。人間だったら、まず受からないよ。そんな答えじゃ」


 眼鏡の面接官は嘲笑し、質問を続けた。


「キャリアビジョンを。コボルトさんから」

「いっぱい、お金が欲しいとです」

「サラマンダーさんは?」

「五年後には、四大精霊で一番人気になり、火属性は勢いだけというイメージを……」

「そうですか。次、グレムリンさん」

「グレムリン無双っすね」

「ちなみに、その将来の展望に対して、どのような努力をされていますか?」


 室内がシーンと静まり返る。モンスターたちが何も言えないでいると、ガリガリの面接官が手を挙げて問う。


「この中で、ポリゴンになれる人は?」

「はい」


 返事をしたのはサラマンダーだけだった。


「なるほど、サラマンダーさんだけと。私の方は以上です」


 ガリガリの面接官の視線は、眼鏡の面接官に向けられる。他の質問をどうぞ、そう顔に書いているかのようだ。


「では皆さんに訊きます。今まで仕事してきた中で、一番辛いと感じたことは何でしょう? コボルトさんから」

「ゴブリンがおるんで、要らないって言われたとです。それが一番堪えたとです」

「サラマンダーさんは?」

「サラマンダーより、ずっと速いって、ヒロインに言われた時ですかね……」

「グレムリンさんは?」

「仕事が無いのが、一番辛いっす」


 軽く頷いたかと思うと、眼鏡の面接官はダメ出しを始めた。


「こういう質問はね、どんなことを大変だと感じているか以上に、それをどうやって乗り越えたのかを聴きたいんですよ。仕事に困難はつきもの。故に、その困難の乗り越え方が問われる訳ですが……。まぁ、モンスターに言っても仕方ないですね」

「オホン」


 メタボの面接官が咳払いをする。眼鏡の面接官は喋るのをやめ、メタボの面接官を見て軽く頭を下げた。


「え~、質問はありますか?」


 メタボの面接官が問いかける。


「あの、メンテナンス中は休めるんっすか?」

「グレムリンさん、ソシャゲーに休みはありません。メンテ中もスタッフがアクセスし、動作チェックを行っています。弊社の場合、サーバーも開発環境、テスト環境、本番環境で用意していますので、その何処かで出番があるでしょう」

「サーバーは、どちらを……」

「サラマンダーさん。それを貴方が訊いても仕方ないでしょうが、AWSを使っているとだけ答えておきましょうか。あとはまぁ、OS的な都合で大文字と小文字が区別されるので、名前の表記は小文字で統一願いますよ」

「は、はい……」

「他には?」


 モンスターたちは黙ってしまった。


「では、これで面接は終了とします。本日は、弊社のオーディションを受けて頂き、誠にありがとうございました。合否に関しては、一両日中にお伝え致します」


 面接官たちが立ちあがったので、モンスターたちも真似をする。メタボの面接官が入り口に手を向け、退室を促した。


「失礼したっす」


 頭を下げてモンスターたちが出て行く。


「あっ、グレムリンさんだけ、隣の部屋に入ってください」

「はい……」


 ガリガリの面接官に言われて、隣の部屋に入り直す。何も無い部屋でまごついていると、ガリガリの面接官が入って来た。


「あの、何かヤバいこと、言ったっすか?」

「いや、何も……。モンスターとしては普通でしたよ」

「それじゃ、何で……」


 不安げなグレムリンを見て、面接官は優しく肩を叩いた。


「グレムリンさんには、違う仕事を頼みたいからですよ。ちなみに、我々がもっとも恐れているモンスターは、ご存知ですか?」

「……ドラゴンさんっすか?」

「いえ、虫ですよ」


 踏みつぶせば誰でも殺せる虫が怖いとは、変な人間もいたものだとグレムリンは思った。だが、虫の類にはデカいのもいると思い直す。


「虫っていうのは、ワームみたいな大型の奴っすか?」

「そうですね。ワームも怖いですが、私が恐れているのはバグですよ。アイツらの精神攻撃のお陰で、私たちはデスマーチを強いられることもあるんですからね」

「アイツら、そんなに厄介だったんっすね……」

「ええ、でもグレムリンさんには、バグ以上の恐怖をもたらすことが可能なハズ……。何せ、機械に悪戯するのが得意だとか……」


 ガリガリの面接官は不気味な笑みを見せてくる。


「その能力を誰に使えって言うんっすか?」

「私たちのライバル会社にですよ。彼らのオフィスに侵入して、妨害する仕事を引き受けてくれませんかね。さぁ、貴方が願った“グレムリン無双”を始めましょう。フフッ、アハハハハ!」


 狂ったように笑う面接官を見て、人間ほど恐ろしいモンスターはいないと思うグレムリンだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ