一日戦争
初めての小説なので多々至らないことがあるでしょうが、最後まで読んでくれるとうれしいです。
1
日が昇ろうとしている。
俺は、一人平原を歩いていた。
背中は血で汚れ、背負っている人はもう冷たい。
ケン・マリア・ジョニー・ジャック、そしてサラ。
みんなのおかげで俺は分かった。
みんなのことを無駄にする気はない。
目に染みる日の出を見ながら、俺はポツリと言った。
「全ての決着をつけよう。」
これは、舞台の裏で活躍する英雄誕生の物語。
2
「というわけで、お前たち5人で小隊を組んで任務をやってもらいます。」
「は?」
ここは、街にある軍の施設だ、で、前にいる変なこと言った偉そうな奴は、自分で「鈴木大佐」と名乗った。大佐ってのはとても階級が高いとケンが言ってたが、ケンみたいな軍オタでもない俺にはどうでもいいことだった。だが、この部屋が学校の校長室とにていたので、校長ぐらい偉い奴なんだと認識していた。
なんで学生の俺らが軍のお偉いさんにあっているのかといえば、呼び出しを食らったからだ。まぁ、学校を早退できると聞いて喜んできたのだが。
そしたら、会って早々、変なことを言われた。
「どういうかとですか?」俺は聞き間違いだと思い聞き返した。
「そのままの意味でとってくれて構わないよ。」
めっちゃにこやかに返されちまった。
つまりあれか、俺ら五人が小隊を組んで軍隊として戦えと。
…馬鹿じゃねえの
「どうして私たちなんですか?」と聞いたのはサラだ。
「簡単に言えば人手が足りない。今は戦争中なんだから、人手はいくらあっても足りないからね。」
俺らの住んでいる国は今、陸続きで接している国と戦争している。きっかけは些細なことらしいが、今となってはひどく泥沼な戦いらしい。らしいというのも、いつの国でもそうだが、国民にはあまり知らされていないので憶測だ。だが、もう何年も続いているのだからそういうことだろう。人手も足りなくなって、猫の手も借りたいのだろう。しかし、それだったら…
「なぜ女のわたしたちまで?必要なのは男のほうじゃないんですか?」
サラの後ろでマリアが強く首を振っている。サラみたいな下手な男よりも運動できる奴ならともかく、マリアみたいなか弱い女の子まで必要だとは思わない。
そんな疑問に鈴木大佐はあるたとえを出してきた。
「サラさん、あなたは、二人と三人が戦ったら、どっちが勝つと思いますか?」
「それは三人のほうだと思いますが…」
「では、烏合の衆の五人とチームワークがある五人だったら?」
こいつの言いたいことは分かった。確かに俺ら五人は小学校の頃からずっと一緒だった。全員との仲もいいし、なんでも知ってるといっても過言ではない。
「君たちのことは、こっちでも調べている。君たちの経歴から家族構成までね。」
「で、でも」とケンが反論を始める。得意の軍隊知識でもつかうのだろうか。
「いくらなんでも前線に出すわけじゃないんですよね?俺たち銃の使い方なんてわかんないですよ。後方での待機とかですよね。」
「そうしたいのはやまやまなんだがな…残念ながら今の時代、サルでも使えるといっても過言ではないくらい銃は簡単な作りになっているんだ」
おいケン、お前の知識古いぞ
「それにこんな便利なものもあるんだ。」
そういって机から取り出したのは、タブレット端末だった。
「これは…?」
「名前は特にない。端末と呼んでくれ。これにはなんだって書いてある。分かんないことがあったら、それを見てもらえばいい」
俺はどうしても聞きたいことがあった。
「一ついいか?」
「なんだ?」
「拒否権は…?」
すると鈴木大佐は微笑み
「命が惜しいか?」
つまりないってことだ。だが…
「俺は抜けさせてもらう」
横でずっと手を組んで黙っていたジャックだ。
「俺は命が惜しい。人を殺すってんならなおさらだ。」
「ジャック…」
「お前たちどうすんだ。お前たちはこんなやつに脅されて、それで戦場に行かされて、納得がいくか?」
確かに抗えるなら抗いたい。なんもしないよりはそっちのほうがいい。しかし、そんな考えも鈴木大佐の言葉で打ち砕かれる。
「そうそう、今君たちのご家族がこの基地に招待したんだ。」
ジャックが殴りかかろうとするのを俺とサラで必死に止める。
「ジェーンに何かしてみろ。ぶっ殺してやる!」
「ご両親が死んで、たった一人のご家族だったね。彼女にはまだなんもしてないし、君が変なことをしなきゃ何かする気もない」
「…分かったよ。やりゃいいんだろ!その代り今回だけだからな。」
「分かった、そうしよう」
そのあともサラとマリアが文句を言ったが鈴木大佐の一言で黙ってしまった。
「軍隊ってのは、数万の命を救うためだったら、どんなひどいことでもやるもんだ。」
そしてこう続けた
「キム君、君はこの部隊の隊長が向いている。やってくれるよな。」
…なぜに?
3
『あとは、その端末の指示に従ってくれ。あぁ、家族には何にも伝えてないし害も与えていない。気にせず任務を遂行してくれ。任務の内容はおって連絡する。』
部屋をでた後、俺らは更衣室に入れられた。ロッカーには軍服やら銃やらが一式そろっている。
着替えているときの空気はとても悪かった。ジャックは怒ってるし、ケンはそれを怖がっているし、俺は突然の隊長任命で考え込んでいるし。
着替え終わった後、ベンチに座ってしばらくすると女性陣も合流した。で今後のことで話し合った。
「どうする?」
「どうするって…」と言ったのはケンだろうか。その言葉を涙目のマリアが引き継ぐ。
「どうしようもないよ。だって私たちが逃げたらパパもママもひどい目にあっちゃうんだよ。そんなのできないよ!」
「でもそしたら」珍しくケンが大声を上げる。
「死ぬかもしれないんだよ!僕は死にたくないよ!」
そんなの誰だって同じだ。だから俺らの思ってたこと言ったケンに反論する奴はいなかった。
いや、一人いた。ジャックだ。ジャックはケンの胸倉を掴んで言い放つ。
「じゃあお前は、家族を見放せっていうのかよ!俺にジェーンを見放せってか⁉」
「それは…」
「俺だって死にたくねえよ。だけどな家族を失うのはもっと嫌だ。だからもうこうなっちまったことを受け入れて、どっちも助かる方法を考えればいいんじゃないか⁉」
「そんな方法があんの⁉」
ケンも負けじと怒鳴り返す
「そんな簡単なことの訳ないじゃないか!戦場に出てみんなが生きて帰るなんて、そんなのできっこないよ!」
「やるんだよ!俺ら五人が揃ってるんだ、きっとみんなでかえってこれるはずだ。」
「そうよ」俺の横で声があがる、見るとサラが自信に満ち溢れた顔で言う。
「私たちならきっとできるわ。ちゃちゃっと任務を終わらして学校のみんなにでもしちゃいましょ。」
「わ、わたしも」マリアも声を上げる。
「わたしも、足手まといになるかもしれないけど、が、頑張るから…」
ジャックが俺の方を見る。ぶっちゃけ俺は行く気でいた。だって隊長だし、みんなをまとめる者として一早く抜けるわけにもいかないし。俺は無言のまま首を縦に振り同意を示す。
ジャックがケンに向きなおって聞く。
「お前はどうする?」
「…わかったよ!俺も行くよ。」
こんな感じで俺らの方針は決まった。一応、隊長の俺がまとめる。なんかジャックに役を取られたけど、今は気にしないことにする。
「俺らの第一目標は、生きて帰ってくること。任務はその次だ。そして大事なのは、俺らは助け合ってこの局面を乗り越えるってことだ。」
みんなからは、「あたりまえよ!」「やってやるぜ」「妹の為にも死ねねえしな」「が、頑張ります」と言う声があがる。そして誰からともなく右手を前に出し、それを重ねた。
「がんばるぞー!」
『おー!』
こうして、みんなの心が一つになり、隊が結成された。
4
円陣の直後だった。
全員の端末に着信があった。掛けてきたのは、もちろんあの鈴木大佐だ。
電話はテレビ会議モードだったので画面を見ると全員の顔が映っていた。って言うか、一人の端末で話した方が効率が良くないか?
『青春劇は終わったか?』
初っ端から喧嘩を売ってきやがった。
「待っててくれて、ありがとうございます。」
思いっきり厭味ったらしく返答しといた。その返事に、普通に返してくるところにベテランの風格が感じれる。
『任務の内容を説明する。今回の任務は囮作戦だ。お前らが囮な。』
息をのむ音が聞こえる。俺も内心焦っていた。囮となると死ぬ危険性はとてつもなく高くなる。そんなことは、赤ん坊でも分かる簡単なことだ。
端末には地図が表示される。敵地の中に味方がポツンと表示されている。
『お前たちには、この敵地に残された味方が脱出しやすいように敵を引き付けてもらう。この残された一千の味方は南に逃げる。だから、お前たちはこの味方より北で囮となるんだ。』
「ま、待ってくれ、一千の兵士を逃がすための作戦にさっきまで学生だった五人しか当てないのか?それはさすがに…」
『自惚れんなガキども。お前らだけの訳ないだろ。ちゃんとベテラン兵士もいる。』
「じゃ、じゃあ、俺らいらないんじゃ…」
『猫の手も借りたいご時世なんだ。それに囮作戦は銃を撃つだけの簡単なことだし、うまくいけば明日には帰ってこれるぞ。』
「ああ、その分死ぬ確率が極めて高いがな!」
『俺だって好きでこんな指示出してる訳じゃないんだ。それにお前らには最新装備を渡してるんだしな』
彼はそう言ったあと、付け加えた。
『必ず生きて帰ってきてくれ』
声のトーンが少し下がったのを不思議に感じたが、俺以外の他の奴は気になんなかったらしく作戦についての質問していた。
「どうやって行けばいい?」
『行は戦闘機に乗ってもらう、で目標地点に着いたら。パラシュートと降下だ。』
「僕、パラシュート使ったことないいんだけど…」
『今の時代、使ったことのある学生の方が少ないんじゃないか?大丈夫その時になったら何とかなるさ。』
「人を殺すの…?」
『そんなあざとい顔しても無駄だからな。ま、暗闇でなんも見えないから暗視スコープつけなきゃなんも見なくて済むんじゃないか。まぁ、呻き声が聞こえるのは我慢しろ』
不思議なことにジャックが何も言わなかった。でも俺ら四人には分かっていた。通信が終わったあとに怒りを爆発させるのを…
『もういいか。ならさっさと飛行機に乗って戦場に行け。あぁ、聞かれなかったからいい忘れていたけど、帰りは各隊で国境まで来ること。じゃ。』
ブチッと音をたて通信が切れる。
ていうかあいつ最後何て言った?
5
ここから事件が発生するまでは平和だった。
簡単に説明すると、まず機内でジャックが怒りをまき散らしていた。「捨て駒じゃねえか!」と叫びながらだ。
しかし、そんな彼もすぐに黙り込んでしまった。飛行機がアクロバティックな動きをして飛び出したのだ。これは別にジャックがうるさくてしたわけではない…と思う。
そもそも、俺たちが乗せられた飛行機は輸送機ではなく戦闘機だった。何でも敵地の上空を飛ぶならこっちの方がいいらしい。しかし戦闘機だから狭い、しかもジャックが怒っているスペースで二人分くらい使っているのだ。だから俺ら四人は縮こまって座ることになる。
ケンの奴はサラと密着していた。どうもあの二人は付き合っているという噂があったが、真意は不明だ。そのことを絡めて茶化そうと思ったが、その時の俺にはそんな権利は無かった。俺は俺でサラと密着していたのだ。いくら幼馴染だからと言っても、一人の女の子として見ることだってある。サラは普通に可愛いしな。しかも密着している時は顔を赤くしているんだ。それが可愛いのなんのって。思わずこっちも意識しちまうよ。
話がそれた。それで飛行機のアクロバティック飛行の話だ。これは言ってしまえば、敵地の哨戒機との戦闘である。俺らを乗せた状態でだ!それはどっちが上でどっちが下か分からなくなるくらい激しかった。そんな飛行機の中ではジャックも黙るしかなかった。
戦闘は結構長い時間かかっていた。そりゃ怖かったが、落ちるとは思っていなかった。乗る前の機長の言葉が信用できたからだ。
「俺はお前らを絶対に送り届けてやる。たとえ、この命が尽きてしまってもだ。」
だから、俺らも全面的に彼を信じた。それに哨戒機を落とさなかった場合、俺らの生存率が下がってしまう。できるならつぶしておきたかったのだ。
結果として敵地上空に上がっていた哨戒機は全部落としたらしい。まあ気休め程度だが有難いことだ。礼を言うと
「いいよ礼なんて、俺はまた最多撃墜数を増やしただけだからな。礼を言うなら、あの大佐に言っときな。この国で一番のパイロットを用意してくれたんだからな。」
そう言って彼は笑っていた。あいつに礼を言う気はないが。
そして、目的地まで降下する。いや、投げ出されたの方が正しいか。パラシュートを背負った次の瞬間、飛行機の底が開き真っ逆さまに落とされたのだ。あの機長は最後まで笑っていた。ああいう豪胆な奴が一番長生きするんだ。
パラシュートは自動に開いたので俺らはそれを操縦しながら目的地に向かった。操縦方法は端末に書いてあった。至れり尽くせりだ。
もっと怖いものかと思っていたが、夜の空が暗すぎて何も見えず、あまり怖くなかった。そうして端末の情報を頼りに俺らは目的地に向かった。
で囮としての仕事をした。つまり敵の後方から銃弾を浴びさせ、敵がそれに乗ったら北に逃げる、そして撃つ、逃げる、の繰り返しだ。そうやって俺らが敵を引き付けている間に敵地に残されている味方が南に撤退する。一見完璧な作戦に見えるが、これは不親切なほど囮部隊の事を考えていない。ジャックが「捨て駒」と言うのも無理はない。
銃を撃っている時、みんな黙っていた。俺は正直心を空っぽにしていたといっても過言ではないと思う。
でも、聞こえてくるのだ。銃声の合間に聞こえる敵の呻き声、怒号、叫び…それが嫌でたまらなかったから俺らは早々に引き上げた。ありがたいことに、俺らのほかにも銃声が聞こえる。多分、あいつが言っていたベテラン兵士の方々だろう。だから俺らはさっさと集合地点に行ってしまった。
ここまでは良かったのだ、この時点では正直言って楽勝だと感じていた。だってあと帰るだけだぜ?今のところ誰一人としてけがもないし、味方が無事撤退したことを確認したら俺らも撤収だ。しかも今度はベテラン兵士も一緒に帰れるんだ。
でも俺たちは戦争を甘く見ていた。そんな簡単に行くわけがない。
何が起こったのか。すべての始まりは集合
地点で保護した一人の少女だった。
6
「名前はなんていうの」「お母さんはどこ?」と女二人が少女を質問攻めにする。
「おい、困っているだろ。少し落ち着け。」とジャックが言うが、
「あんたもこうしたいんでしょ、このロリコン!」とサラに罵倒される始末
「俺にはジェーンがいるから…」とか言っていたが知ったこっちゃない。
その少女は布一枚を羽織っている感じのみすぼらしい恰好だった。そして何より無口だ。二人の質問にも「う…」「あ…」としか言わず容量を得ない。
「おい二人とも。自分の母性本能を押さえて、この子をどうするか考えてくれないか。」
「キムとの…」「ケンとの…」
「なんか言ったか?」
『何でもない!』
二人が何を言っていたのかとてつもなく気になったが、今はそんなことより大事なことがある。
「で、どうする?」
「今から聞いてみればいいじゃないか」
横からケンが意見を述べる。
「もういろんな人が集まっているんだし話し合いもするんでしょ。その時にでも聞けばいいんじゃないか。」
集合地点には、味方の囮部隊が揃っていた。そしてみんなが少女のことを興味深そうに見ている。みんなロリコンなのか?
「みんなもケンの意見で賛成か?」
全員がそれぞれ同意を示してくれたため、俺は隊長達が集まっているところに向かった。
話し合いは乱闘寸前にまでヒートアップしていた。理由を聞くと、今後の方針でもめてるらしい。味方の部隊は無事撤退中だが、俺ら囮部隊はどうするかと言うことだ。ケビンと名乗る小隊長は徹底抗戦をおす。今ここで敵をあらかた削っておけば、自分たちが逃げる時に楽だ。と言うことらしい。もう一つが、ジョニーという小隊長が言う今すぐ脱出派だ。こっちは説明する必要はないだろう。被害を最小限に抑えるという考えだ。
俺は、まず味方が無事撤退していることにホッとした。俺らの仕事の所為で失敗していたらたまったもんじゃない。それから今後の方針についての言い争いを聴いていた。
出来ることなら、脱出したい。こんな戦場からはおさらばして、元の生活に戻りたかった。
しかしそんな俺の気持ちにお構いなく事態は動く。
隊長達の言い争いに一つの報告がもたらされた。
「た、た、大変です!て、て、敵にこの村は包囲されています!」
それからは蜂の巣を突っついたような大騒ぎだった。囮として引き寄せたのに、いざ敵が来られると対処できないなんて。
それでも俺はここにいる意味を思い出して、それを質問しようとした。ケビンのほうはいなかったのでジョニーに聞いた。すると
「お前らで保護しておけ。お前らが発見したんだろ。それで後方に避難しててもいいから。」
ですよねー。まあ分かっていたことだ。後方に避難する名目もできたし、遠慮なく避難しよう。
そう思って、俺はその場から離れた。その時、俺の背中にジョニーが声をかける。
「そうそう、お前ら五人いたよな。最低でも三人は戦ってくれ。俺はいいんだが、ケビンがうるさい。」
ありがたい助言を受けながら俺はみんなのところに帰った。歩きながら後方に避難する二人を考えていた。まあもう決まったようなものだが。
7
想像してた通り、残ったのはケンとマリアだった。まああいつらが自分から言わなくても、俺ら三人に強制的にやらせただろうが。
後方に避難といっても、村そのものが包囲されているのだから、後方もなにもない。だから、後方避難組は村の中心にある大きな家に居させた。二人から弾倉を受けとり、俺らは村の端に向かう。
別れる時、隊の空気がピリピリしていた。その空気を緩和してくれたのは、以外にもジャックだった。
「二人とも、そいつ俺の妹に似ているしな。絶対に危ない目に合わせんじゃねえよ。」
そんなジャックの言葉にサラが空気を読む。
「あんた、自分より年下の女の子を見ると、皆妹に見えるんじゃない。」
そんな二人のやり取りを見て、隊の空気が少し緩んだ。マリアやケンも笑みを浮かべている。
突然、パーンと甲高い銃声が鳴り響いた。
「始まった!」
「マリア、ケン、その子を頼んだわよ。」
「分かりました」「任せてくれ」と二人の返事を背中に俺らは、戦場に向かった。
そこは地獄だった。さっきの囮作戦が遊びに感じれる。真夜中だというのに、昼のように明るい。森の木が燃えているのだ。木が燃え、銃口は光り、鳴り響く。銃声のうるさすぎて隣の人との会話もままならない。
「おい!生きてるか!」
どこか遠くでジャックの声が聞こえる。俺も負けじと怒鳴り返す。
「生きてるぞ!」
「ちょ、ちょっと!向こう戦車まで出てきたわよ!」
「伏せろ!」
奇跡的に、俺らはだれ一人として怪我せずにすんだ。長い時間戦っている気がしたが、実はそんなたっていないのかもしれない。
やがて、敵の攻撃が散発的になった。周りの味方の会話を聞く限り、もう一回来る可能性があるとか。これが戦場の凪というやつか。
「みんな無事か?」
「おう…」「何とか…」
返事が聞こえてきてホッとした。やはり生の声が聞こえると落ち着く。
「今は敵が来ないみたいだから、一回二人のところに戻らないか?」
「て言うか、もう撤退してもいいんじゃないか?」
それは俺も思った。敵を殲滅することは目的じゃないし。っていうか流れで戦っちまったけど、もう撤退してもいいんじゃないか?
周りを見たらもういくつかの隊は帰り支度を始めていた。でも残る隊もあるみたいだ。
こういう時は、誰に聞けばいいのだろうか?ケビンもジョニーも見当たらないし。 「あの人に聞けば。」
サラが言った人物はうってつけの人だった。そう思って俺は端末を開く。
『それが俺ってわけか』
「そ、どうすればいいと思う?」
俺がかけたのは鈴木大佐だ。こいつの命令なら、ケビンやジョニーに文句を言われても言い訳のしようがある。
『死にたいなら。そこに居続ければいいさ。』
「分かった。なら撤退するわ。どう行けばいい?」
『なんでも聞くな。ちょっとは自分で調べろ。その場所からずっと南にいけば街道に出る。そこをまっすぐに行けば国境につく。以上だ。』
なんだかんだ言って、答えてくれることに優しさを感じる。
「ああ、そういや、一人の少女を保護したんだけどどうすればいい?」
『少女?』
「興味あんのか?お前まさかロリコンのか?犯罪だぞ。」
『その少女はどんな格好で、いま何をしている。』
あいつの声が少し切羽詰まった声を出していた。その声にあてられて俺も思わず声が上ずる。
「しょ、少女は布一枚をくるまっている感じで、今はケンとマリアと一緒に村の家いるけど…」
『今すぐ!』
突然の大声に俺は思わず端末から耳を離す。そんな俺に構わず、鈴木大佐は話を続ける。
『今すぐ二人をその少女から離せ!早く…』
俺はその言葉を最後まで聞くことができなかった。村の中心で大きな爆発音が鳴ったのだ。俺は端末から耳を離し、現場に向かった。不安で押しつぶされそうだった。
まさか、ありえない、何かの間違いだ…
そう感じながら俺は走った。現場にはジャックとサラが呆然と佇んでいた。
そこでは、ケンとマリアがいたはずの家が燃えながら崩れ落ちるところだった。
8
あれから、崩れた家を探し回った。ドックダグを回収したところで、爆発に乗じた敵が来たので俺らは、走って森の中へ逃げ込んだ。
鈴木大佐が言うには、あの少女は敵軍がよく使うやりかたらしい。保護してくれたところを遠隔操作で起爆。なるべく人が密集しているところでやるらしい。あんな少女だったら身体検査なんてしないだろうし、服装も布一枚を羽織っているだけなのもその理由だ。そんな格好をしている少女を疑う奴はいかれているだろう。だが、今回はそれが裏目に出た。
俺は何にも考えれなかった。あまりにもあっけなかったからだ。今この場でケンとマリアが走って追いかけて来ても、何も違和感なく受け入れる自信がある。
だが俺たちは見たのだ。ドックタグを拾うとき、近くに転がっていた物を…
近くに転がっている物を思い出して俺は吐き気がした。人間があんな風になるなんて想像もしていない。あんなに血まみれで転がっている物が、ついさっきまで話していた仲間のものだなんて・・・
やっぱり吐きそうになるのを堪えて俺は走る。この暗い森の中、頼りになるのが端末のコンパスしかないなんてな。周りから聞こえる草をかき分ける音が敵なのか味方なのかもわかんない。
走る、走る、走る・・・
とにかく何も考えないようにした。考えると立ち止まってしまいそうだった。ケビンとマリアのこと、今も一緒に逃げているはずのサラとジャックのこと、追いかけてくる敵のこと、他の囮部隊のこと。全部を頭から無くして。俺は街道に向かって南下し続けた。
突然森が開けた。どうやら鈴木大佐の言う街道らしい。俺はそこまで来て気が抜けたように座り込んでしまった。
さっきまで聞こえていた、草をかき分ける音はもう聞こえない。もしかしたら、そんな物は最初っから無くて、俺のびびりな心から生まれた幻聴なのかも知れない。
座り込んで気持ちを落ち着かせると、いろんなことが心に浮かんできた。
時計を見ると丁度0時を過ぎるところだった。ってことは、この戦場に来てから8時間くらいすぎたことになる。たった8時間の間にいろいろあった。そして、たった8時間の間に十年間一緒だった友だちを二人失ってしまった。
「ケン、マリア・・・ごめんな・・・」
二人を死なせたのは誰か?と聞かれると、これはたぶん俺だろう。隊長は俺だったのだ、みんなは俺のことを文句も言わずに聞いてくれた。信用していてのだ。それを裏切る行為だ。残った二人もきっとそう言うだろう。
突然、後の藪がガサガサと音を立てる。
敵だろうか?敵だと嬉しいな。敵だったら俺のことを殺してくれる。そしたら俺はケンとマリアに謝ることができる。
そう考えながら俺は藪から出て来る人を待ち構える。
出て来たのは、予想もしていなかった人だった。
「またあったな。」
ジョニーの姿がそこにはあった。
9
「どうして・・・」
「逃げていたのさ。こいつらに手伝ってもらってな。」
ジョニーが指さす所には、汗だくになっているジャックとサラの姿があった。
「ジャック!サラ!」
「キム、無事だったか。」
「キム聞いてよ。このジョニーって人、片足無くて杖ついてんのに私たちより早いのよ。」
サラの言葉で俺はジョニーの方を凝視した。暗くて見づらかったが、ぼんやりとした輪郭でジョニーの片足が根本から無いのが分かった。本人は「片足ぐらいなくったってどうってこと無い。」とかいっているが。
「なんで一緒にいるんだ?」
「それは俺が説明しよう。」
ジャックがサラに変わる。サラはその申し出をありがたく受け、木にもたれて座り込んだ。
「俺らがお前とはぐれたあと。お前がどこにいるかわかんなくて困ったんだ。敵からは逃げなくちゃならないし、現在位置もわかんないし。それで俺らは鈴木大佐と連絡とったんだ。キムの端末の現在地を教えろってね。あいつがすんなり教えてくれて良かったよ。だから俺らも急いで街道に向かおうとした。そしたら・・・」
「俺がすごい勢いで杖をついて走って来たわけだな。」
ここでジョニーが割り込んでくる。
「俺も近くで逃げ纏っていたんだ。俺の端末はオンボロでね。通話と細々としたことしかできないのさ。」
彼が出した、端末は何世代も前のガラケーみたいだった。
「アンテナの部分が逝ったらしく。通話ができないんだ。それで困っていたとき、こいつらの会話が聞こえて来たんだ。救われたって感じだったよ。まあ最初はサラのほうが嫌がっていたけどな」
「あれは。」
サラが座り込んだまま反論する。
「あれは、違うのよ.。キムのことが心配で、心配で頭が回らなかったのよ。それに杖をついてる姿をみて、足手まといになるって思っちゃたの。だから方角と国境までの行き方を教えて私たちは先に行こうと思ったの。そしたらジャックが・・・」
「俺は、これ以上自分が関わるところで死人がでるのを避けたいんだ。もしジョニーが歩けない状態だったとしても、俺はジョニーを担いできただろうな。」
「だから私は気付いたの。もうこれ以上死人をだすのは止めよう。助け合えるんなら、助け合おうってね。最初の時もそう言ったでしょ。」
ケンとマリアの話を出される度に、俺は耳をふさぎたい気持ちだった。罵倒されるのは覚悟している。もう殺されても文句を言えないと思っている。
だが、話題に出すだけ出して、何も無いというのは止めて欲しい。
「あれは・・・あれは俺が・・・」
俺は自分から話を振った。早く楽になりたかった。
しかし、サラが人差し指を口に当ててシィーとやって、俺の動きを止める。
「とりあえずこれからのことを話しましょ。ほら、隊長仕切って。」
そう言って俺に話を投げる。俺は話自分の話を続けることができなかった。
⒑
意識の切り替えに四苦八苦しながらも、俺はみんなの前に端末を広げて説明する。
現在置かれている状況を説明すると、とてつもなく簡単なことだ。一本道の街道をまっすぐ南下すると目的地の国境である。進行方向には敵はいない筈だが、そのぶん敵は、今も俺らの背後から迫っているのだ。突然近くの藪から敵が出てきてもおかしくないってことだ。
話しているうちに、みんなの顔に焦りが出て来た。こんな悠長に座っている訳に行かないと感じ、俺らの話し合いは走りながらやることとなった。
走るとなった時、ジョニーのことが心配になったが、そんな必要はなかった。サラの言っていたように、むしろ俺たちより早いのだ。ベテラン兵士だからなのだろうか?
そんなジョニーだったが、俺たち三人の持っている端末に興味を持っていた。
「その端末、最新機種だろ。しかも装備もめっちゃいいやつだし。ほんとにお前ら新兵か?」
こんな時にケンがいないのが悔やまれる。と思い、そのケンを殺したのが俺だったと自己嫌悪するループを何回も内心でやりながら、俺はジョニーとの会話をしている。
「新兵も新兵、8時間前に配属されたばっかですよ。この装備や端末もその時支給されたものですし。」
「…ちょっと前まで学生だった奴が最新装備をもたされてこんな最前線に…?お前らはもしかして、鈴木大佐って名乗る男に派遣されたのか⁉」
「え、は、はい、そうですけど…」
どうしたのだろう、突然ジョニーがぶつぶつ独り言をいいはじめた。聞き取れる単語に「自殺」と聞こえたのは気のせいだろうか?
ジョニーがぶつぶつ言っている時、横で走っていたサラが神妙な顔をして声をかけてきた。
「今、大事な話をしても大丈夫かしら?」
「…あのことか」
「えぇ、そうよ」
やっと、始まる。最初は怒られるだろうか?それとも軽蔑?いきなり張り手がきても覚悟はできている。俺にはそれをされる責任がある。
しかし、サラの第一声は予想のいていなかったセリフだ。
「あれは、みんなの責任よ。」
頭が真っ白になった。
「さっきね。ジャックと話したの、あの時のことはみんなの責任だってね。あの少女を疑わなかったことはみんなが悪かったてね。」
「ち、違う。俺が、俺が悪いんだ。みんなが悪いなんて言っても死んだあいつらは納得するか?あの時あいつらを置いてった俺が悪いんだ!あの会議でさっさと議題に出さなかった俺が悪いんだ!俺が…」
「じゃあ、一番悪いのは俺だな。」
突然前方からの声で、俺の台詞を遮る人がいた。見ると、ジョニーがこっちを振り向きながら喋っていた。
「あの時、お前に命令してのは俺だったな。じゃあ責任は俺にあるんじゃないか?」
頭を思いっきり殴られた気分だ。
「ち、違う。あんたの所為じゃ…」
「じゃあ、お前の所為でもないな。さっきサラとジャックからきいたんだがよ。お前一人で責任を感じることがあるかね。」
ジョニーは部外者だったが、彼の台詞に言い返せない自分がいた。
「お、お前ら。なんで、なんでそんな平気そうなんだよ!仲間が死んだことはどうでもいいことなのか!」
「そんな訳ないじゃない!」
サラが感情を爆発させて叫び返す。
「私だって、いやよ!今すぐ泣きわめきたい。でも、それで何が変わるの?泣きわめいたら、あの二人は生き返るの?」
「それは…」
「私は、二人の死んだことをどうでもいいことなんて思ってないわよ!」
「じゃあどうすりゃいいんだよ!」
思わず俺も叫び返してしまった。言った後に後悔した。やってしまったと感じる。
俺の近くによって並走してくる奴がいる。でもサラの足音ではなかった、この足音は…
「お前さ、どうしていいかわかんなくなっても仲間にあたんのは止めろ。見苦しい。」
ジャックの辛辣な台詞を浴びた。しかし彼のその後の言葉で俺は唖然としてしまった。
「お前があの二人のことを考えているなら。あの二人の為にも生き残ろうぜ。俺も、一人でも多く帰れるように力を尽くすからさ。」
死んだ二人の為にも生きて帰る…?
「あ、あいつらはそれを許してくれるか?生き残った俺を許してくれるのか?」
「だったら」
サラが横から笑いかけながら言う
「許してもらえるように、二人のお墓に何回も頭下げに行きましょ。私たちも一緒に行くから。」
あいつらに謝るために生き残る。
二人は俺に目標を見つけてくれた。
「ありがとう」
二人のお陰で俺は立ち直れた。
さあ、国境を目指そう
⒒
俺は立ち直り、再度国境を目指す。
死んだ二人に謝るためにも俺は走り続ける。
しかし俺らはまだ知らなかったのだ。本当の敵を…
ここからが折り返し地点
戦争の恐ろしさを見た
⒓
午前三時くらいだろうか。俺らはかれこれ3時間くらい走っていた。さっき端末を見たところ、国境まではあと三キロまで来たらしい。
そんな時、ジョニーの様子に異変があった。
「おい、ジョニー。おい!」
ジョニーが、突然倒れこんだ。
疲労だろうか?3時間も走り続けているのだ。普通に走っている俺らですら、もう走るのがままならないのだ。杖をついているジョニーがどんなに大変か想像に難くない。
走り寄ってジョニーを抱える。周りにサラやジャックも近寄ってきた。
「おい、ジョニーしっかりしろ。おい!」
「悪い、ちょっと休憩したい。さっきから血が止まらないんだ。」
慌ててジョニーの脚の傷口をみる。適当に巻いた包帯はほつれて、血が滲んでいた。
「何時からそうなってたんだ?」
「分からない。走っている内に、血が地面にしったたっている感触がしてな。まあ気にすることもないと思って無視してたんだ。」
ジョニーは笑いながらそう言ったが、明らかに無理しているのが分かる。笑顔は引きつっているし、息遣いも粗い。もう立てるのかも怪しい。
俺らは街道脇にそれて休憩した。脇といっても街道が見えなくなるくらい下がった。これは、ジョニーがさっき俺らに教えてくれたことだ。
「休憩するときは、街道からは見えなくなるくらいは離れとけ。敵も、こっちがこの道ぐらいしか使えないことを知っているんだから、休憩の時は見つからないように森に入るんだ。」
このように、ジョニーは走っている最中はずっと俺らにいろんなことを教えてくれた。
長距離を走る楽な方法や戦場でのサバイバルの仕方、彼自身の体験談もあった。
それは、俺たちがもう一生使わない知識かも知れないが、知って損はない物ばかりだった。
話を戻そう。
街道脇で休むことになった俺たちは、役割分担をすることになった。ジョニーの包帯を巻くのを手伝う係、街道の監視係、そして鈴木大佐との連絡係だ。
それぞれサラ、ジャック、俺になった。鈴木大佐に連絡をすることでなにか変わる訳ではないが、通信をしないことで味方に混乱を起こすのは良くない・・・とジョニーが言っていた。
だが、いざ通信をするとき、ジョニーが妙に嫌がっていた。聞くと
「あいつにこの状況を伝えたらな・・・」
とかぶつぶつと言っていた。何なんだろうか?
ジョニーをサラに任せて、俺は端末を開く。数秒のコールの後あいつが出た。
『もう大丈夫か?』
そういや、こいつとの会話は俺が悩んでいた時以来か。
「ああ、仲間に助けて貰った。」
『そうか・・・良い仲間をもったな・・・』
鈴木大佐の安堵の気持ちが伝わってくる。心配させたようで、恐縮してしまう。
「悪いな心配かけて。今は仲間と四人で力を合わせて国境に向かっている。」
『お前を合わせて四人・・・』
おっと。さらっとジョニーを仲間扱いにしていた。でも、実際彼のお陰でここまでこれたと言っても過言ではないし、他の二人が否定するとは思えないし良いだろ。
「ああ、途中で合流したジョニーって奴だよ。いまそのジョニーの治療も兼ねて休憩しているんだ。」
『ま、待ってくれ。途中で合流したジョニーだと?あの通信のあとなにがあったんだ?』
ま、ジョニーの治療にも時間が必要だし、もうちょっと休憩したいしな。
そう思って、あの通信の後なにがあったかを一から丁寧に説明し始めた。
『はぁ~』
説明し終わると、鈴木大佐は深い溜息をつく。
「な、なんだよ。なんかあったのか?」
『俺だってこんなこと言いたく無いんだぜ。』
「は?」
『命令だ。ジャックを殺せ。』
思考が停止した。
13
「今なんて・・・?」
『聞こえなかったか?もう一回言うぞ。ジョニーを殺せ。』
鈴木大佐の声は、さっきとは打って変わって、感情の波がない命令口調だった。
「なんでだ!なんで殺さなくちゃならない。あいつが、あの少女みたいに爆弾を持って居るとでも言いたいのか?あいつは味方だぞ。何だって味方を殺さなくちゃならない。」
そんな俺の怒りに一切動じないで、彼は俺に言い放った。
『足手まといになるからに決まっているだろ。』
「あとたったの三キロだぞ・・・直ぐ目の前がゴールなのに、なんで見捨てなくちゃならない?殺すくらいなら、あいつを負ぶってでも連れて行ってやる。」
『俺はな、お前らに生きて帰って来て欲しいんだ。さっさと足手まといを切り離して、帰って来い。』
「できるか!」
ふざけんな。俺が手を下してまでジョニーを殺して欲しいのか。だったら・・・
「さっきのお前の命令だけどな。断らして貰う。俺は意地でもあいつを連れて帰ってやる。」
『できると思ってんのか?もう立てるのかも怪しいんだろ。そんな奴に固執する理由もないだろ。』
「あるさ」
こいつは何でわかんないんだろう。俺はそれを最初に言ったのに。
「あいつが仲間だからだ。」
『・・・そうか。』
「きるぞ。」
そう言って俺は通話を終了しようとする。その直前に、あいつがポツリと言った。
『おれはジョニーのためにも命令しているのにな・・・』
通信が切れる。
あいつが言ったとおりなら、ジョニーは死にたがっていることになる。んな馬鹿な。あとちょっとでゴールなのに、そこで諦める奴なんかいるか。
あいつが最後に言った台詞が少し気になったが、俺は、それを考えても不毛なこととして、頭のゴミ箱に入れて置いた。
ジョニーの所に戻ると、治療が終わったジョニーとサラが話していた。しかし、ジョニーの顔色は余り良くなく、むしろ悪化しているように見えた。
サラに状態を聞くと、予想以上に酷い答えが返ってきた。
「さっきね、寒いのに眠くなってきた。っていたの、だからずっと話すことで意識を持たせていたの。」
・・・まずくね。それテレビとかでよく見る、死に際の人が言うフレーズだわ。俺も思わず声をかける。
「大丈夫ですか?」
「ちょっときついかも・・・今の内にお前に頼みたいことがあるんだけど、いいか?」
「なんですか?言って下さい。」
ジョニーの声は、会った時に比べて元気がなく、音量も小さい。俺はジョニーの口元に耳を近づけて、話を聞く準備をする。
「私、ジャックのところに行くね。」
サラはそう言って、その場からいなくなる。まるで示し合わせたかのようなタイミングだ。
「俺が言ったんだ。キムと二人で話がしたい。てね。」
俺と二人で話したいこと…?
気になる俺はジャックの次の言葉を待った。
「キム、俺を殺してくれないか。」
14
なんでなんだ。なんでアンタはあいつと同じことを言うんだ。
「もう俺は限界だ。走るのも歩くのもな。それ以前にもう立てないと思う。頭は朦朧としているし、寒気もする。分かっちまうんだ、俺はもう長くないってな。怖くもないし、ただ目をつむって寝ちまいたいんだ。それが最後になることが分かってもな。」
「だったら、俺が背負ってやるよ。それなら…」
「いや、駄目だ。」
ジョニーは俺の申し出を一蹴する。
「俺はお前らの足手まといになりたくないんだ。」
「足手まといなんかじゃ…」
言い切れない。今までは、ジョニーが俺たちと同じように走れたから、何とかなってきた。でも、ジョニーが歩けなくなったらどうなるだろう。足手まといなんかじゃないと、俺は言い切れるだろうか?
「だからな、俺はお前に殺してほしいんだ。俺のことを仲間として扱ってくれた、この隊の隊長にな。死ぬ前の我が儘だからさ。」
「できるか!」
仲間だからこそ助け合って、ピンチを脱するもんじゃないのか。仲間の願いでも、この願いは聞くべきではないのではないか。隊長なら止めるべきじゃないか。
俺の返事をきいたジョニーは一瞬悲しい顔をした後、一言
「そうか」
といった。そしてポケットから端末を取り出し、ボタンを押しながら言う。
「これは使いたくなかったんだけどな。」
端末の画面では、300・299とカウントダウンが刻まれていた。
「それは…?」
「自爆スイッチ。俺の服に仕込まれている爆弾と連動している。悪いな、お前に難しい決断をさせちまって。」
そして、ジョニーは俺の胸倉を掴む。
「俺が死ぬのは、仕方ないことだ。お前が手を下すか、そうじゃないかの違いだ。俺はお前に殺してほしいとか言ったのも忘れろ。お前は、これが終わったら何事も無かったようにあいつらのとこに戻って、俺が自殺したと伝えろ。」
一気に言われた後、気が付いた。
これはジョニーなりの配慮なんだ。俺が、仲間を失った時の反応を知っているから、もうそうなってほしくないから言っているのだろう。
そうと分かった俺は
「分かりました」
と答えた。
彼はそんな俺を見て微笑む
「いい目をしてる。あいつらと一緒にちゃんと帰るんだぞ。」
そう言った彼は、俺から離れて地面に横になった。その彼の隣に俺は座る。
「一ついいか。」
「いくつでも、これが最後なんだからな。」
俺はさっきの通信を思い出しながら聞く。
「鈴木大佐にも同じ命令をされたんだ。」
ジョニーは驚くと思っていた。しかし、予想に反して彼は当たり前のことだと言わんばかりに
「だろうな…」
と答える。
「どういうことだ?アンタと鈴木大佐のつながりは何なんだ?」
「昔、俺と一緒の部隊で、この戦争が始まった頃を戦った戦友だ。これ以上のことは俺からは話せない。あいつ本人に聞くことだな。」
意外だった。昔の戦友だったとは。
しかし疑問も残る。何故、ジョニーは今も最前線で命張っているのに、あいつは内地で大佐なんて階級になってるんだ?すごい功績でもおさめたのだろうか?
「すまなかった。」
ジョニーの言葉で俺は我に変える。
「なんで、謝ったんだ?」
「お前に我が儘を言ったこと…かな。悪かった。」
「もういいんです。僕はもう大丈夫ですから。向こうでケンとマリアに会ったらよろしく言っといてください。」
「あの村で一緒にいた二人か。分かった、キムのことは心配すんな、もう大丈夫だ。って伝えとくよ。」
「その前に謝っといてください。」
「わかった、わかった。もういいか?俺は少し疲れた。」
ジョニーの端末は100を切る所だった。
「お疲れ様でした。そしてありがとう。」
俺はそう言って、目を閉じるジョニーのもとから立ち去った。
15
キムが立ち去ってから数秒後、ジョニーの端末に着信が掛かる。もう眠ろうとしていた、ジョニーは飛び起きて電話に出る。
『アンテナはぶっ壊れたって聞いたが?』
「あいつらに近づく理由が必要だったんだよ。仲間が死んですぐの新兵は発狂したりするからな。でもあいつらは、もう大丈夫だ。あの隊長は俺の死もあまり動じないくらいにまで成長した。ほかの二人も、ちゃんと割り切れている。あいつらならこの任務、達成できるかもしれないぞ。」
『してくれなきゃ困る。俺の為にも一人でいいから任務をやり遂げてくれなきゃ。』
「…まだあの願いは変わっていないのか?」
『俺の罪はこいつらが任務を達成することで初めて清算される。』
「この他殺志願者め。あれはお前がやってなくてもきっと誰かがやってしまったことだ。お前自身が気に病むことはない。」
『でも、あれをやったのは俺だ。IFの話じゃないんだ。やった事実を見なくちゃいけない。』
「はぁ~」
こいつは、あの時から何も変わっていない。
カウントが残り一分を告げる。その時俺は耳を疑う言葉を聞いた。
「あいつらをずっと見守てくれて、ありがとな。」
「…はは、まさかお前にお礼を言われる日が来るなんてな。」
『…俺だって礼くらいは言うさ。』
正直頭はもう限界だった。さっき聞いたあいつの礼が幻聴だと言われても納得してしまいそうだった。
でも、俺は最後にこいつに言わなくちゃいけないことがある。体中から力を振り絞って、俺は言った。
「なあ鈴木。」
『なんだ』
「少なくとも俺はお前を恨んでないからな。」
あいつの返事を聞くことはできなかった。
視界が暗くなって、端末を持つ手に力の力が抜ける。
直後、森の一角で爆発が起きた。
16
二人と合流した後、俺は素直にジョニーとの会話を話した。話し終えるとサラが
「大変だったね。」
と抱き着いて来たのは想定外だったが。
サラに抱き着かれたとき思わず泣きそうになったのは内緒だ。恐るべし母性本能。
ジャックからの報告を聞くと、敵の車両がすごい勢いで街道を走り去ったらしい。
「どう思う?」
「味方の本隊を追いかけたか、もしくは検問を張っているか…」
どっちにしてもいいニュースではない。
しかし俺らにできるのは国境に向かうことだ。周囲の警戒を密にしながら俺たちは走った。
走っているとき、サラはずっと俺に話しかけてきた。「大丈夫?」「無理してない?」「なんでもいってね。」…
そのたびに、返事をするのが億劫になるくらいだ。
ジャックには謝っておいた。街道監視をずっとさせて蚊帳の外にしてしまったからだ。まあ、本人はあまり気にしてないと言っていたが。
こうして俺らはまた走った。
⒘
走った。と言っても、たったの十分ほどでまた止まることになった。俺の端末に着信があったからだ。
俺の端末に電話を掛ける奴なんて一人しかいないのは分かっていたが、それでも俺はあいつじゃないように願った。
もちろん、かけてきたのはあいつだったが。
俺らは、また街道脇で休むことにした。また、役割分担をしようと思ったが、今度は二人に反対された。これ以上蚊帳の外にするなということか。
俺らは輪になり、端末を真ん中に置き、スピーカーモードにする。
『ジョニーは死んだか。あいつに頼まれでもしたか?』
こいつ、しょっぱなから喧嘩売ってんのか。だけど、実際こいつの言う通りになったのが腹立たしい。
「そうだよ。なんか文句あるか?」
『すまなかった。』
…は?
これは予想外だった。まさか謝られるとは。
『お前らのためでもあるんだわかってくれ。』
ここで負けちゃいけない。ここで、こいつを許しちゃいけない。
「他の…他の方法はなかったのかよ!」
俺じゃない。ジャックだ。ジャックが俺の代わりに怒っている。
「殺す必要はなかっただろ。なんだってあいつを殺すように命令したんだ!」
『わかんないのか。あいつはお前らに殺してほしかったんだ。聞いてなかったのか?あいつは敵に殺されるのでもなく、まして、出血多量で死ぬのでもなく、仲間であるお前らに殺してほしかったんだ。』
「っ。」
そんなのは誰だって理解している。頭では理解してても、どうしても鈴木大佐の言い分を認めたくなかったんだ。もはや意地になって。
だが、この話をこれ以上するのは不毛だ。
「わかった。もういい。それであんたが連絡をよこした理由はなんだ?まさか謝るためじゃないだろ。」
『では、本題に入ろうか。』
彼がそう言うと、端末に地図が表示された。
地図が示しているのは、この街道と俺らの現在地だ。ご丁寧に国境の部分にはゴールと書いてある。
問題はここから。ゴールの寸前に赤い点が無数にある。普通に考えてこれは敵なのだろう。その赤い点は、ほかにも俺らの来た道にある。これはつまり…
『前門の虎後門の狼、ってやつだな。お前らの後ろにいる敵は夜に強いらしくてな。もうお前ら以外の囮部隊はこいつらによって全滅しちまった。』
全滅…!
背筋がぞっとした。俺らがここにいる間もあいつらは近づいてきているのだ。今すぐ立って走り出したい。
「私たちのほかにいた人たちってみんなベテランの人たちでしたよね。なんでそんな人たちが死んで私たちは生きてるんですか?」
サラの疑問はもっともだ。あいつらがそんな簡単に死ぬとは思えない。そんなに敵が強いのか。
だが、鈴木大佐の返答は意外なものだった。
『単純に運だろ。お前らはコンパスも地図もついている端末を持っていた。あいつらは持っていなかった。ジョニーの端末を見ただろ、お前らの端末についているような機能があるように見えたか。』
ジョニーの端末は何世代も前のガラケーみたいな感じだった。あんなのにコンパスや地図はついていないだろう。
じゃああいつらはどうやって帰るつもりだったのだろう?手持ちのコンパスを頼りに暗い森を歩くつもりだったのか?
『今、敵は街道を徒歩で歩きながら、残党狩りをしている。綿密にやっているみたいだから時間はかかるだろうが時間の問題だ。そこでお前らに命令を出そう。』
嫌な予感がする。
『一人が囮になって、前の敵をおびき寄せ、後の二人が国境を突破して来い。』
⒙
つまりこういうことらしい。
まずこの街道以外を通る以外の選択肢はない。で森に入って国境を突破するのは不可能だ。崖などの天然の障害物があるからだ。これは地図でも表記されていない。後ろの敵をやり過ごすのも不可能、っていうかやれるならとっくにやっている。
だから鈴木大佐の命令はこうだ。一人が前にいる敵に銃をぶっ放して、敵を森の中に引きつける。で、敵が少なくなった検問を大佐が用意した迎えの援軍が倒す。で、後の二人が国境を突破するわけだ。
「なら、その用意した迎えでここまで来いよ。」
『そうもいかない。国境での撃ち合いは小競り合いの一言で済むけど、敵地に入ったらそれは侵攻だ。お前らのために戦争を起こすわけにはいかない。』
敵地に銃を撃ち込むのも充分まずいことに感じるが。こういう形式がめんどくさいのも戦争ってやつなのか。
『決まったら、本人が俺に連絡してくれ。』
そういって切れる通信。
言われたときにはもう決めていた。
俺がやろう。ほかの人にやらせるわけにはいかない。
「俺が…」
俺は二人に伝えることができなかった。
ジャックが俺の鳩尾を思いっきりぶん殴ってきたからだ。
「すまん」
ジャックの言葉が耳元に聞こえ。
俺は意識を失った。
⒚
「悪いなサラ、俺がやるよ。お前たちにはまだ生きていてもらいたい。」
「反対はしないわ。反対したら私まで殴られそうだからね。」
そう言って悲しそうに笑うサラを見て、俺の心は痛んだ。
「でもさ、あんた妹はどうすんのよ。あんたが死んだらあの子独りぼっち
になるのよ。」
「…頼めるか?」
「仕方ないわね。頼まれたわ。」
これで心残りはないか?も宇やり残したことはないか?
「なんでこんなことをするの?」
なんでって聞かれても…
「言ったろ。俺は一人でも多く生き残るなら俺はなんだってやる。」
「…馬鹿よあんたは。」
サラの顔をみて俺はやり残したことを思い出す。
「お前さ、さっさとキムに告白しろよ。俺たちのことは気にしなくていいからさ。」
「仲間が死んでるのに、告白しろと。馬鹿じゃないの?」
「俺たちのこと気にして、思いを伝えないのは、許さねえぞ。ケンとマリアには俺から行っといてやる。」
「…キムは自分を許さないわ。」
確かにそれはあるな。あいつならやりかねない。
「だったらあいつを絶対に振り向かせろ。じゃなきゃ俺が化けて出てやる。」
俺がそう言うとサラはキョトンとし、そして笑った。
「ばっかじゃないの。」
彼女はそう言って笑った。
サラが笑い終わった後、俺はもう出発することにした。
「もう行くの?」
「いつまでもこうしてるわけにもいかないだろ。」
するとサラが俺に銃を渡してきた。サラとキムの二人分だ。
「これは…?」
「私たちもう使わないでしょ。装備ももういらないわ。」
そういってごつい軍服を脱いで計装になる。キム上も脱がした。
「何やってんだ?」
「どっかの誰かが、キムを気絶させてせいで背負わなくちゃいけなくなったから、少しでも軽くしたくて。」
サラがキムを背負う手伝いをする。それが終わったら本当にお別れだ。
「キムのこと支えてやってくれ。」
「わかったわ。」
そんなやり取りをした後、
「頑張って。」
とサラの応援で俺は出発した。
さよならは言わなかった。
⒛
俺は敵の検問に行く道中、端末を開いた。
「俺だ。」
『そうか…作戦はさっき伝えたとおりだ。なにか質問はあるか?』
「二つようがある。」
『なんだ?言ってみろ。』
「妹のジェーンには、俺の死を伝えないでくれ。そして毎月一定額お金を口座に振りかむんだ。」
『それぐらいは何とかするが…ほんとに伝えなくていいのか?』
「あいつに悲しい顔をさせるくらいなら死んだほうがましだ。」
『もう一つは?』
「お前の目的を知りたい」
鈴木大佐の言葉が止まる。たっぷり十秒してから話し出す。
『他の人には絶対に伝えるな。っていうか伝える必要がない。』
「…?どういうことだ。」
『それは、俺の目的が
』
彼の言葉を聞いて俺は愕然とした。
『以上だ。武運を祈る。』
そう言って切れる端末を見ながら。俺は決意を新たにする。
「これは、本気であいつらの安全を確保しないとな。」
俺は前に見えてきた、検問に突っ込んだ。
21
変な浮遊感を感じながら。俺は目覚める。
誰かに背負われているのか。そう思いながら。俺は背負っている人物を見る。
考えていたように、サラだった。
「あ、目が覚めた?」
「今どこだ?」
「国境まであと一キロってとこかしら。空も明るくなってきたわ。」
「…で、ジャックは?」
俺が質問するとサラは固まってしまった。 もう一度聞く
「ジャックは?」
「囮になったわ。ほら銃声も聞こえてくるでしょ。」
確かに銃声は聞こえてくる。予想以上に近くて怖い。でも恐怖よりも先に怒りが沸いてきた。
「あいつ次会ったら、思いっきりぶん殴ってやる。もし死んでたら、墓に毎日怒りに行ってやる。」
「…え」
見ると、サラが呆けた顔をしている。
「どうした?なんかあったか?」
サラが立ち止まったので、俺は背中から降りる。サラの顔を覗き込む。
「どうした?」
「ああ、ごめん予想外の反応だったから。あんたなら、もっと泣くなり、落ち込むなりすると思っていたから。」
そして彼女は
「強くなったね」
といった。
22
私はキムが無理しているように感じていた。
ケンとマリアが死んだときも、ジョニーが死んだときも、心に無理やり押し込めているように見えた。
でも、今回のジャックのことは、自然に受け入れているように見えて、キムが成長したことが分かった。
私は、どうだろう?
私のほうが受け止め切れていないのかも。
頭がテンパって、焦って、死ぬ前にキムに思いを伝えたいと思っている。
ひどいだろうか?
仲間が死んでいるのに、好きな人のことを考えるのは悪いだろうか。
でも、私はジャックの言ってた台詞を信じる。
みんなのためにも告白しよう。そう考えることにした。
とにかく何か話そう、これからの事でもいい、身近なことでもいい、とにかく話そう。動かなきゃ始まらない。
そう思って、キムのことを見る。
そして見てしまった。
キムの頭に光る赤い点があるのを
23
「伏せて!」
突然サラに後ろからタックルされ、地面に投げ出される。
直後、風切る音が聞こえた。
「スナイパーか!」
戦場におけるいやなものでもトップに入るといわれている。たぶん木の上に潜んでいたのが、止まっていた俺たちを狙っているのだろう。
「逃げるぞ!立てるか。」
「えぇ…何とか…」
サラの掠れたこえが聞こえる。生きていることを確認できたので、ひとまず安心だ。
腰につけてあるスモークを出して、俺らは走った。途中でサラが転びそうになったので、背負ってやる。
かれこれ十分ほど走ると、検問が見えてきた。どうも全員ジャックのほうに行ったらしく、検問には誰もいない。走り抜けると国境が見えてきた。
「サラ見えた。国境だ!」
「そうね…」
ジョニーの最後似ている。そんな不安から俺はとにかく話しかけ続けた。
「大丈夫か。しっかりしろ。」
「…ええ心配しないで。」
「帰ったら、まず何する?」
「…お墓参り…」
「そうだな墓参り行こうな。」
背中にかかるサラの体重がどんどん重くなる。背中には生暖かい何かが滴る
「許さねえぞ。俺をかばって死ぬなんて許さねえぞ。」
「ごめんね…」
「謝んな!」
迎えの部隊はどこだ。早くサラを助けてやってくれ。
焦る。何回も転びそうになる。どんどん弱弱しくなるサラの声が俺をさらに焦らせる。
「キム…」
「なんだ!なんかあったか⁉」
「だい…好き…」
それっきりサラは黙ってしまった。
もう国境は過ぎた。
俺は立ち止まって座り込む。
彼女を抱いて俺は泣いた。
一生分泣いた。
24
泣き終えた俺は必死に考える。
半日経って、僕の周りには誰もいない状態になった。
不思議なことに今は頭は混乱していない、むしろいつもより冴えているくらいだ。
俺はやることを考えながら歩いていた。サラは背負ったままだ。さっきのことを考えられないくらい必死に考えていた。
それがまとまった時、直ちに決着をつける方法に着手した。端末を手に取り、あいつに電話した。
「全ての決着をつけよう」
暁の地平線に太陽が昇ろうとしていた。
25
私、スミスは町の大工をやっている。妻もいて娘も一人いる。娘のマリアに最近彼氏ができたと聞いた時は驚いたものだ。家に連れてこいと言ったら、
「ケンには、そんな勇気無いわ」
と笑ってごまかされた。娘の成長に涙が出たものだ。
そんな平和な時間から、一週間たったのだろうか。私の娘の名前を含めて6人の名前が示されていた。
思えば昨日から変なことが起こりっ放しだった。
家に突然、軍の人が来て、基地に強制的に連れてこられ、そのまま待機。娘の学校の友達の親もいたから会話し、一夜を過ごすと鈴木と名乗る人からいきなり、
「あなた方のお子さんは、大変立派に戦い、殉死しました」
と言われ、基地の裏にある共同墓地に連れられていった。木で作られた墓には、娘のマリアの名前が刻まれている。
話が早過ぎて、ぶっちゃけ、頭の整理が追いつかない。
娘が死んだ。なんで軍に入ってた? 昨日の朝は普通に学校に出発したはずだ。それが、なんで、戦場で死ぬことになるんだ。もう一生、娘には会えないのか?
まったく整理のつかない頭を抱える、周りの人の泣き声が、さらに混乱を生む。
「キムは? キムはなんで死んだの?」
そう叫んで鈴木に掴みかかるのは、キムの母、ハナだ。
「なんでキムは死んだの? 昨日何があったの? どうして前線にいるの?」
「みなさんのお子さんが前線で死んだのは、軍事機密ですのでお答えできません」
取り乱すハナに鈴木は事務的な口調で続ける。
「残念ながら、遺品も何も回収できませんでした。お帰りになる際、事務の方で、学生服を貰って下さい。それではごゆっくり」
「おじさん……。なんで、兄さんは死んだの?」
そう言って出て来たのは、確かジャックの妹さんだったか、たった一人の家族だと、ジャックから聞いたことがある。
「それは、機密事項だと……」
「じゃあ、兄さんが最後に伝えたことなどは分からないの?」
「……あなたには死んだことは秘密にして欲しいと」
「なのに、なんで私に伝えたの?」
「機密事項です」
「どうせ、私のこともいろいろ言ったでしょ」
「お金は、毎月送っておいてくれと言われました」
「そんなお金は要りません」
鈴木は驚いた顔をしていた。事情を知っている俺も驚いている。もう、妹さんは一人なのだ。これからどうするのだろう。
「私は、兄を失いました。たった一人の肉親をです。だから、私は自立します」
「どうするつもりですか」
「将来的にはこの戦争を終わらせます。家族を失った怒りを思い知らせてやります。戦争が嫌で、軍が嫌です。何十年、何百年掛かっても終わらせます。みなさんも、協力してくれますか?」
こっちを見る彼女の目は燃えていた。もしかしたら、戦争を終わらせくれる英雄は、こんな目をしているのかも知れない。
「いいぜ」「やってやる」一人、また一人と声が上がる。
「ありがとうございます、皆さん。さて、」
妹さんが鈴木に向き直る。
「最後に一つだけいいですか」
「何でしょう」
「歯を食いしばってください」
思いっ切り、鈴木を殴り付ける。
「これは、宣戦布告です。軍の人達、そして、この戦争そのものに対するね。皆さん、行きましょう」
そう言い放ち、先頭に立って墓から去る。その背中を見て、私はマリアの為にも、彼女について行こうと思った。
26
墓の前に一人残された鈴木は、やがて、近くの木に声を掛けた。
「これで満足か」
「あぁ、あと二つだ」
と言って墓に名前の刻まれているキムが顔を出した。
「あれはジャックの妹か? 予想以上にいいパンチをしているぞ、なんであいつに教えたんだ?」
「……嘘は吐きたくなかったんだ。それに、遅かれ早かれ気付いただろ?」
「なんで、死んだことにしたんだ、あれか、遺族に説明するのが嫌だったのか?」
「それもある、だけど、この後の願いに関係のあることだ」
あの後、俺は、鈴木と苦笑した。俺は三つの願いを申し出た。正直無理だと思ったが、すんなりと聞いてくれた。その代わり、一つ注文を出されたが。
「で、あと二つはなんだ?」
「じゃあ、二つ目を言おう。全部話せ」
「はっ」
「だから、何から何まで全て話せ。こいつらの前でな!」
俺が指した墓の下にはサラの遺体しか眠ってはいないが、名前だけは俺ら五人とジョニーのが彫られている。
「……なるほど、だからここで話すことを条件にしたのか。長くなるぞ」
「いくらでも。時間はたっぷりとある」
「じゃあ、話すぞ。まず、私はこの戦争を始めた張本人だ」
「はっ?」
「そもそも、この戦争がどのように始まったか、理由を知っているか?」
「どっかの橋での小競り合いだったか」
「その小競り合いは銃弾一発で始まったんだ。火薬庫にマッチ一本を突っ込んだ感じだなぁ、あの時は。風船が割れても戦争は始まったんじゃね」
「まさか……」
「そのまさかさ、私だよ、私が撃ったんだ。つまり、私が撃たなきゃ……、こんな戦争は始まらんかったんだよ。恨んでいいぞ、私が悪いのだから」
恨むか、恨めるか、分かんねぇ。恨むべきなんだろうか。
「で、私は、自分が悪いと思って、上司に言ったさ、私を処分してくださいとな。私を殺せば、この戦争はまだ終結させられる。私の命一つで未来の何万もの命を救えるんだ。言わない選択肢はないだろ。だけどな……」
「だけど?」
「今、私がこうしていることがその証明だ。上司に殺されなかったたんだ。どうも、この戦争で旨みを吸っている奴がいるんだと、それが私に死んでもらうのは困るらしい、そりゃそうだ、私が死ねば戦争が終わっちまうからな。そこで私はどうしたと思う?」
「自殺か……」
「その通り。罪悪感で押しつぶされそうだった私は、遺書を書いて、自殺しようと思った。この戦争も、もう収集のつかないレベルに達していたし、もういいかなってな、だけどな、死ねなかった」
「何があったんだ?」
「銃を頭に向けて引き金を引く、そう思って、机から銃をとろうとした瞬間、部屋に軍の奴らが来て、取り押さえられた。そして、その上司が来て、床に組み伏せられた、俺に言うんだ。『お前は、これから軍の基地内で、一生私たちの監視下に入ってもらう』てな。私は怒鳴った、殺せ、殺してくれって、私が撃たなきゃ、こんな戦争は始まらなかった。私が撃たなきゃ大勢の国民が死ぬこともなかった。口封じでも何でもいい、私を殺してくれ。てな、実際私を生かす理由はないはずだと思ってたんだ。だけど、その上司が言うには『駒としてとっとくんだ』てな、簡単に言えば、戦況はどう動いても、大丈夫なようにとっとくらしい。負けそうになったら、私に責任をなすりつけるためだろう。それでも、死にたかった私を見た上司はこう条件をつけた。『お前を俺と同じ階級に置く、お前はそこで私らが連れてきた新兵の上司になるんだ。そいつらが、生きて任務を遂行したら、そいつらに殺してもらえ』それがお前らだ」
「―っ!?」
「ま、向こうも私を殺したくないからな。その新兵の初陣は、毎回死地になるんだな。ほら、今回の場合は、味方の部隊が突出しすぎたって話だったろ。あれ、お前らを送り込むための芝居みたいなもんだ。まぁ、味方のピンチも事実なんだが、それは演出みたいなもんだ。で、私は考えたわけだ、新兵を殺してわいけない。そんな簡単に命を捨てさせちゃいけない。俺にできることはなんだ?って考えたときにわかったのさ。新兵には至れり尽くせりの環境を整えることで、生きて帰られるようにしようってな」
すべてが、つながる。
「私の気持ちは半々だ、自分が死ぬためってのと、お前らに生きてほしいっていうな。で、私の願いは一つだって言ったろ?もうわかったと思うが」
そう言って鈴木は大きく手を広げて言う。
「私を殺してくれ」
「お前の願いもわかったし、今まで何があったのかもわかった。そのうえで聞いていいか?」
「なんだ」
「俺らは何回目だ?」
「……二ケタ行ってからは数えていない」
つまり、こいつは何年も俺たちみたいのが死ぬのを見続けてきたのだ。
「大変だったな……」
「正直な、もう感覚はマヒしていた。あぁ、またか、って感じだったんだ」
「楽にしてやる前に、俺は、最後の一つの願いを言っていいか」
「なんだ、まだあるのかい」
「あぁ、俺を―――――――――」
鈴木の目が大きく見開かれる。俺も手の中にある四人分のドッグタグを握る。この頼みをするとき、緊張で手が震えていたが、不思議と四人のドッグタグを握ると震えが止まった。四人が背中を後押ししている感じだ。
「それで本当にいいのか?」
「あぁ、俺は、このアプローチで戦争を終わらせる」
「全部任せていいか」
「おう、任せろ」
鈴木はその言葉を聞いて、顔が楽になったように見えた。
「ありがとう」
共同墓地に銃声が響き渡った。
27
三年後。トムは、軍の部屋の前で緊張していた。自分のような高校生が放課後、軍の基地に呼び出された理由はよくわかっていない。緊張はしていたが、今すぐ逃げ出すほど、怖いわけではない。学校の友達に四人が一緒にいるのだ、メイ、ロック、デイ、そしてジェーンだ。このジェーンがこのジェーンがすごい奴で、軍のやっている戦争の反対運動を繰り広げている団体の中心人物だ。きっかけは兄の死だと聞いていたが。
「なにボサッとしてるのよ、サッサと行くわよ」
ジェーンにせかされて、我に返りドアノブを回す。
部屋の中は、学校の校長先生に近いだろうか、とにかくお偉いさんがいそうな部屋と考えればいい、そして、その本来、校長が座っているべき椅子はこちらに背中を見せていた。
机の前に一列に並んで立っていると後でドアが閉まる音が聞こえる。
すると、椅子が半回転し、そこに座っている人がにこやかに話しかけてきた。
「というわけで、君達5人にはこの戦争を終わらせる一大作戦に参加しています」
「は?」
机の上にある四枚のドッグタグが鈍く光っていた。
反撃ののろしが上がる。
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