昔陽攻略戦
「はぁ~」
「おいおいどうした、ため息なんかして。折角これから俺たちも暴れられるってのによ」
そんなことを言ってる兄貴をちらっと見ると、「はぁ~~」とさっきよりも長いため息がでちゃった。これは不可抗力ですね、うん。
いきなりどうしたかって言うと、廉頗様に従って行軍してようやく今回の目的らしい昔陽の近くに居るんだけどさ。なぜか昔陽の兵に見つからないように迂回して西へと回り込んだんですよ。
あ、位置関係を説明しておくと廉頗様率いる趙軍の先陣は昔陽の東から近づいたんだよね。だから自然と東門の方へと攻撃が集中するわけで、秦の内部へと繋がってる西門の方は手薄な状態だったとか。ここからは俺の予想になるけど、先陣より遅れて来た本隊の一部は西から一気に攻撃を繰り出して落とそうって作戦のようなんだ。
問題はここから。なんとその西から攻撃を仕掛ける部隊は廉頗様が直々に攻撃するって決められたらしいんだよ。そうなってくると廉頗様の領地からの兵として俺たちも当然のように駆り出されるわけでしてね。いや、援軍とかが来れば挟撃されるよ?そもそも意表を突いた後は混戦になるわけで、激戦地に突入させられるの?それだけは勘弁してくれないのかな、と心の中で叫び続けてるんですがね。
残念ながらそんな思考逃避も長くは続けられず、無情にも突撃の合図が来ちゃった。落ち込む俺に構うことなく兄貴は突撃していきやがった。え、ちょっと待ってよ。戦争では常に兄貴の後ろについてって危険を回避する予定なんですから。最も、それなりに距離は開けるけど。兄貴が槍なんかを避けてそれがそのまま俺に直撃とかってなると笑えないからね。
そんな理由もあって急いで兄貴を追っていく。ちょっと、速いよ!その筋肉は見せかけじゃなかったんだってことは分かったから少し待って。
城壁近くでやっと兄貴に追いつけました。途中で味方の無残な死体を見て吐き気がしたけど、正直そんなことはすぐに言ってられなくなった。少ないながらも敵から矢が飛んでくるから、ちゃんと気を配ってないと危ないんだよ。そのくせ足元にも注意が必要で様々な状態の死体を見たらなんか耐性ができたみたいだ。
兄貴はというと、特に死体を気にした風でもないようだ。まだ先頭の兵士たちが梯子を使って登ってる状態だから、前が詰まってたおかげで追いつけたのには助かったわ。それでも兄貴はどんどん前へ進んで行くから、仕方なく俺も前へと進む。うそ、もう登り始めるの?もっとゆっくりしていかない?俺はそう思ったけど、兄貴はそうは考えてないらしい。複雑な心境で俺も兄貴に続いて梯子を登っていった。
そうして城壁の上に着いた訳ですが、当然ながら敵の数の方が多かった。まあ中途半端な時に来ちゃったからそのせいだね。とりあえず兄貴と適度に距離を取って、あまり敵と戦わなくても良いような位置取りを心掛けようか。うわっ、ちょっと冷静になれたと思ったらまた吐き気が……。
とはいえ敵は襲ってくる。なんとか吐き気を抑え込んで周囲を見渡すと、ちょうど兄貴たちのいる方の死角となる位置から敵兵が一人迫っていた。兄貴たちは正面の敵でいっぱいいっぱいで気付けそうにないな。兄貴には死なれたくないし、俺がやるしかない。そう思って、兄貴たちを不意打ちすることに気を取られてたその兵士を横から剣で突き刺した。……人を刺した感触が指にこびりつくみたいだ。
その敵兵は驚きの表情でこっちを見ると、俺の目の前に崩れ落ちた。うん、もう無理だったからその敵兵の亡骸の上に思いっきり吐いちゃった。
……えーっと、本当にごめんなさい。
戦場における兵士の心境を書くのは難しいですね。
ちょっと冷静すぎるかもと思いながら今回は書きました。
不安定な時代なので、良くも悪くも最低限のグロ耐性はあるかとも思いましたので。