武闘派の彼女とバカな奴ら(改)
江見によるお仕置きが終わった後、智樹はボコボコにされてピクピクと痙攣していた。
「な...何で...?」
「コソコソ話していた罰」
「...度が重過ぎると思うんだよ...毎回毎回...」
智樹はそう言いながら、ゆっくりと起き上がり、その場に胡坐をかいた。
「顔は可愛いんだからさぁ・・・暴力振るわなかったら、そこそこモテるのに...」
江見の容姿はパッチリとした瞳、通った鼻筋、小さい唇、栗色の少し長い髪をポニーテールで纏めている。
最近は、子供の頃亡くなったおばさんそっくりに育ってきている。
将来間違いなく美人になると思う、そしてモテる様になると思う。
......あの暴力さえなければ
「煩いわね、あんなのは暴力じゃないわよ折檻よ」
「そうですか...」
これ以上何も言うまい、彼女の鉄拳制裁が怖いから...
「ふん...小娘勇者に邪悪な魔王か...今回の召還はハズレだな」
さっき江見ちゃんと言い合った。おっさんが何かまだ言ってる。
僕を言うのは構わないけど、江見ちゃんにまだ言うのは駄目だなコイツは...
「あんたね...」
言いかける江見ちゃんを遮って、僕は立って江見ちゃんの前に出る。
「智樹?」
「そこの...えーと筋肉自慢さん?」
「ガストンだ!十騎士聖団の!」
十騎士聖団とは国王に仇なす者たちを国王に代わり、鉄槌または粛清する十人の騎士の事である。
結構上の位に位置する。
「十騎士聖団だか何だか知らないけど、あんたが役に立たないから僕らが召還されたんでしょう?」
にっこり と笑いながらガストンだかゴストンだかを挑発する。
「違う!そんな事は無い!我ら騎士聖断は無敵である。今は苦戦をしているだけで、いずれ世の愚か者どもが我らに屈服するのだ!」
そんな事を拳を握り締めて豪語してるけど、具体的な案この人言ってないね......
「どうやって?」
「無論!我らが武力によって!」
......この人本気で頭まで筋肉だ。よくこんなんで偉そうにふんぞり返っていられるなぁ...
「圧倒的武力によって敵を撃破し、この国の栄華を築くのだ。その為に軍を結集しその力でもって...」
うん。もう聞きたくないから意識から除けようこの人
「待たれよ。ガストン殿」
今さっきのハゲさんが口を入れてきた。
「何だ、財務大臣殿」
煩そうにそちらを見る、ガストン(筋肉馬鹿)
「それは非現実的だ。軍を動かすにしても大量の食料、備蓄が要る。ましてや大軍となれば進軍速度は遅くなる」
うん、普通そうだよね財務大臣が正しい。
すると江見ちゃんが、肘で突いてきて小声で囁く
「智樹、つまりあの人達何言ってるのよ?」
まあそうだよね。軍の話なんて普通は分からないだろうし、そんな事に詳しい一般人っていたら怖い。
「つまりだね江見ちゃん、大勢で行動すると少人数で行動するより時間がかかる。分かるよね?」
「そりゃ分かるわよ。大勢が移動するとなると意思疎通が難しくなる でしょ?」
「正解」
これで分からないとか言われたら、江見ちゃんまであの筋肉と同類と見なければいけない・...
「...今何か失礼な事考えなかった?」
「何が?」
鋭い江見ちゃんがいぶかしんでくるが、スルーしとく。
「...まあいいけど」
「話を元に戻すね。で、遠出するに至っては、何日も出かけるなら食べ物は必要だよね?」
「そこらにあるコンビニとかスーパーで買えばいいんじゃない?」
「......江見ちゃん。ここ異世界、そんな物はないよ...」
「あ、そっか忘れてた不便ねー」
江見ちゃんらしいなぁ...
「で、話を戻すけど、食糧問題は行動する人数が多くなるほど大変になる」
「食べる人数が増えるから、その消費量も大量になる?」
「そうそう、でその食料を備蓄できていれば良いけど、そんなに大量の食料を貯め込むには時間もお金もかかる。だから普通は何年も下準備をしてそれから大軍で攻め込むんだ。」
「......めんどくさいのね」
「しょうがないよ、生き物は食べないと生きていけないんだから」
だからこそ貧困等が生まれるのだが
「でも、大軍の食料をすぐに手に入れる方法がある。」
「どんな?」
「1つは商人とかが売ったり備蓄している食料を買い込む事、まあこれだと大量のお金は要るけど、食料の問題は結構早く解消される。不作、凶作で無い限りね。」
「そうなんだ」
「問題は買占めによって、食料が少なくなるから、どうしても価格が高くなるインフレだね。」
「あんた本当に詳しいわね」
感心する江見ちゃん
「そりゃそうさ、これでも僕は<魔王>だったからね」
僕がそう言いながら笑うと、彼女は頬を膨らませ、眉を吊り上げながらボスっとボディブローをしてくる。軽く叩いてるんだろうけど痛いよ。
「...だからその自傷気味な言い方やめなさい」
「じ...自傷って...別に本当の事を...」
そう言いかけると、彼女にガシッと両手で顔を掴まれて睨まれる...怖い...
「もしかして...あんた気がついてないの?」
「へ?」
「あんた自分が元<魔王>だって言うとき、凄く寂しそうな...泣きそうな顔してんのよ?」
僕は両手を頬に当て、驚いた顔をする。
......あ、どさくさで江見ちゃんの手をにぎっちゃった...すると彼女の顔がどんどん赤くなっていく...どうしたんだろ?
「大丈夫?江見ちゃん?」
「だっ...大丈夫よ!」
そして江見ちゃんは僕の顔から手を離し...ちょっと残念。
「兎に角、あんたは自分から言わない事。じゃないと私が思いっきり殴れないでしょ?」
「......殴るの前提なんだ......」
「挨拶じゃないの受けなさい」
「もっと穏やかな挨拶して欲しいよ!」
「まあ、それは置いといて」
「置かないで欲しいなぁ...」
「いいから置きなさい、で今さっきの方法はまだあるの?」
ああ、その事か。
「あるよ。もう1つ、あんまり人道的じゃないけど...それは...」
するとあっちで財務大臣と話をしていたガストンとかいう人が、こっちに聞こえる位の声で言うのが聞こえた。
「そんなものは民から強制徴収すればよい!更には相手国からも奪い取ればよい!」
「......今、あの人が言ったような民とかを全く無視した方法で搾取だよ...」
それを聞いていた江見ちゃんが顔を潜める。
「...あの筋肉馬鹿、他の方法一切示唆しなかったわよね?多分あの様子じゃ...」
「だろうね...」
本当にどうしてあんな男が称号を得ているんだろう?この国もう危ないのか?
「戦争って特にお金がいるのは分かってる筈......だよなぁ...?」
「ゴリラまで知能が退化して分からないんじゃない?」
「それはゴリラが可愛そうだよ」
「じゃあミジンコ」
「うわー、もうここに居ないほうがいいじゃんそれ」
「居たって今邪魔でしかないじゃない」
「貴様ら!聞こえておるぞ!」
あ、しまった。馬鹿にされたとだけは分かる知能は残してたか。
「誰がゴリラだ」
「あんた」
間髪入れず突っ込んだGJ江見ちゃん。
「子供は黙って遊んでおれ」
あーあ、黙っていればいいのに...
「うっさい筋肉馬鹿、一回死んで微生物からやり直しなさい」
「こっ小娘!いい加減にせぬとただではおかんぞ!」
でもそれで止まる江見ちゃんじゃあないんだよな......
「何?自分の無能は棚に上げて、食い物よこせ、戦え、略奪だー、って単純脳みそが私に物申してんじゃあないわよ!いい!あんた程度はね。騎士とは言わないの、野党とか盗賊っていうのよ!分かる?」
うわー、言いたい事言ってるなぁ...でもまあ止めないけどね。止めたら江見ちゃん怖いし
「き...貴様...十騎士聖団、第十位のこのワシに......」
「はっ!何?一番下っ端で何威張ってんのよ!馬鹿なの?死ぬの?いっそ死んだほうが為になるんじゃない?そしたら財務大臣さんの気苦労が減って、あの人の髪の毛が生えてくるわよきっと!」
江見ちゃん...相変わらずえぐい...
財務大臣さんも何か言いかけたけど、堪えた。うん大人だなぁ...
僕は思わず財務大臣さんの方に何度も頭を下げていた。本人は驚いていたけどまあいいや。
下級兵士みたいなのがおっさん宥めてるけど、あの様子じゃ無理だね。
「きっ...きさ...」
「大体あんたなんて不正とか闇討ちをして、そこから上に上がったなんて口でしょう?あんたなんか普通に手柄を立てて、昇進って柄じゃなさそうだもん。お腹の中は真っ黒で汚れがこびり付いてるんでしょ?
あー、汚い汚い」
鼻を摘んでジェスチャーまでやってるよ...
「キサマァーー!!」
兵士が止めようとしたけど、振り払われて殴りかかっていった。まあ、流石に王宮内で刃物は抜かなかったね。
だけど...
「甘い!」
殴りかかってきた相手の拳を払い流しながら、肘を相手の顔に叩き込んだ。
更に怯んだ相手の顔の髪をジャンプして両手で掴み、そのまま相手の顔に飛び膝蹴りを決める。
「ぐわっ!」
痛いんだよねあれ...てかあれを決められる江見ちゃんも凄いんだけど、見慣れちゃったからなぁ...しかもまだ終わりじゃないしあれ......
「はー...、せいせいせいせいせい!!」
江見ちゃんは飛び膝蹴りを叩き込むと、そのまま相手の体を利用しジャンプする。
そして更によろけた相手の顔面に、上空から更に高速でストンピングや足蹴りを連射する。
相変わらずよくあんな事やれると思う、悪友がよくやってる格闘ゲームのキャラみたいに...
「はぁい!!」
...更にとどめに思いっきり横蹴りを叩き込み、江見ちゃん本人はクルッと回転して見事に着地。相手はそのまま吹っ飛んだ。
相変わらず凄いバランス感覚だなぁ...
でもこれで終わってくれない、更に追撃がある。
「はっ!」
掛け声と共に倒れた相手に素早く接近すると、江見ちゃんは相手の胸の上に馬乗りになる。
マウントポジションってやつだね。
「はぁーー・・・せせせせせせせせせせせい!」
ボゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!っと相手の顔面に、雨あられと江見ちゃんの拳が降り注ぐってまった!
僕は急いで江見ちゃんに駆け寄ると、彼女を後ろから羽交い絞めにし彼女を相手から引き剥がした。
「何すんのよ!!」
憤慨してるけどこれは止めないと。
「江見ちゃん、グローブしてないのに殴っちゃ駄目だよ。手を痛めちゃう」
「あ、そかごめんごめん、忘れてたわ」
そっちかよ!っと居る人から突っ込みが入ったけど、相手が悪いので知りません生きてるから大丈夫でしょ。
まあ、ピクピク痙攣してるけど気にしないでおこう。
===閑話休題===
あの後あの人はやってきた衛生兵に連れられて医務室送りになった。
え?回復呪文とかかけないのか?それはね...
「この方も暴言が過ぎた所がある。呪文で治療せず普通に治療せよ、ただし緊急の用があれば呪文で回復させよ」
との国王様のお達しが出たからです。
「さて、今度こそ真面目に聞いてくれるか?」
流石に可哀想だしなぁ...聞いてあげようか
「いいわよ、聞いてあげようじゃない」
良かった。江見ちゃんのご機嫌もある程度直ったみたいで...でもさ江見ちゃん。両手を腰に当てて胸を張って...物凄く失礼な態度と言葉だと思うんだけど...
江見ちゃんの後ろで、僕は周りの人に必死に謝っていた。
周りの人は驚いていたけど......昔からこのポジションは変わってないんだよなぁ...
「ん...おほん...では勇者殿を召還したのは他でもない魔族達の中で五覇将王が復活したからなのじゃ」
五覇将王?なんだそれ?
「智樹なんか知ってる?」
「全然、全く」
「そうであろうの、五覇将王とは5人の魔王、力、魔法力、美貌、残酷、知恵で魔界の各地を統一しておった人物じゃ」
美貌って事は一人は女性って事か
「そなたが倒れた後、何百年かして新たに5人が国を作り、そして独立してそれぞれが王を名乗ったからのぅ」
そうなんだでも今の僕には関係ないや。
「まあ、もしそなたがまた魔王として...」
「ありません」
即答した。
「いやしか...」
「何でそんなつまらない事しないといけないんですか?」
大体世界征服なんて、いつの時代だよ。
けど文官Aがまたなんかほざく
「ふん、所詮口だけよ魔族と合流すればまた世界...」
うるさいなぁ
「じゃあここに居る皆さんに聞きますが」
その方が良いだろうし
「世界征服して良いことありますか?」
僕がそう言うと文官Aが。
「世界を掌握できるのであろう?何が悪い事がある?」
足りないなぁ...
「仮に、世界を征服したとして...その後どうするんです?」
「は?世界を征服したらその後は思うがままであろう?」
うわーー...その答え0点
「世界を征服して思うがままー?世界には人間、魔族、エルフ、ドワーフ、ホビット、ノーム、翼人、ダークエルフ、ハーフエルフ、その他色な種族が居ます。中には滅んだ種族も居ますが。
その各種族と共存共栄していくには、話し合いが必要になります。いかに征服したからと言って、彼らが素直に従うとは思えませんから、長い年月の話し合いが必要になります。」
「従わぬ物には鉄槌で良いのはでないか」
はぁ...駄目だこいつもぉ...
「種族根絶やしですか?その種族が持っている貴重な能力や、力全てが失われる事になりますよ?」
しかし文官は
「必要など無いわ!人が世界を征服すれば問題等何もない!異種族など要らぬ!」
...ああ、コイツ異種族排斥派なんだ......
でも、人間が世界征服しても問題アリアリなんだけどね。
「僕らが居た世界では...」
更に僕は言葉を続ける。
「世界には人間だけで異種族はいませんでした」
そう言うと文官Aが。
「素晴らしい世界ではないか」
「でもそこから召還されたんですけどね」
「ふん!召還したのはワシではない、知らんわ」
ああ、そう来ますか。
「しかしその世界でも戦争は無くなっていません。迫害も差別も、些細な事で諍いが起こります。肌の白黒、文化の違い、宗教の違い、様々な事で起こります」
「些細な諍等良くあることではないか」
「違います」
「たかが、で簡単に人の命は失われます。簡単に です」
「ええい!貴様は何が言いたいのだ!」
ああもう分からんかこの耄碌文官
「結局一緒なんですよ!人間だけでも、異種族がいても諍いや戦争は起きるんです。だったら平和的解決を第一に考えましょうよ!話し合いましょうよ!!」
「そんなものは詭弁だ!異種族など全て消せばいいのだ!」
......駄目だこの文官A役に立たないやつだ......
でもこの場に居る人の顔を見ると、何人かが考え込んだり話をしていたりしてる。無駄ではなかった。
けど、そんな気分も文官Aが台無しにしてくれた。
「所詮魔王が何を言っておるか!」
その時の僕は酷い顔をしていたと思う、心はドス黒いものが渦巻き、瞳からは涙が出るのを必死に堪えていた。唇を噛み締めていた、握り締めた拳は痛い位だ。怒りなのか悲しみなのか分からない感情が自分の体を痙攣させる...
「どうした言い返せぬか!このまおぶうごはぁ!!」
変な叫び声と共に、文官Aが吹っ飛んで壁に激突して床に落ちた。
僕は文官Aを吹っ飛ばした人物の方を呆気にとられて見ていた。
「江見ちゃん?」
そこには拳を振りぬいて、目に大粒の涙を貯めている江見ちゃんの姿があった。
「智樹を......虐めるな!!」
のーんびりと更新