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一筋の光

 私は力尽きた体をベッドにしずませ、吐き気や体のダルさを感じながら、エルヴァンのいない休息を噛み締めていた。


「……あ……う……」


 さて、ここに来て一体何日目だろうか?もう訳が分からない程にエルヴァンの拷問がずっと続いていた。


 私の喉に指を突っ込んで嘔吐物と唾液をグチャグチャと遊びだしたのはもう狂気の沙汰だった。そのせいで喉が切れて血が混じってる。


『母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さん母さんフフフ、楽しいね?昔、よくこうやって遊んでたね?覚えてる?覚えてるよね?ねぇ、楽しい?楽しい?』


肺からあふれ溢れる酸素の固まり、指に絡まった髪の毛、引きちぎられそうな肌の痛み。


『アガガガカ!!ヴォブザザァア!…………ゲボッ…やめ…ムグク!?』


やっと水から解放されたかと思ったら、指を喉に突っ込まれてまたグチャグチャにかき混ぜられる。大量に飲んだ水は喉から溢れ、胃のなかの吐物と混ざりあう。



 昨日のことを思いだし、私は身震いをした。


「……っ……うぅ……」


 何かに身を隠すようにして、私は小さく丸まりガタガタ震えた。これが前世の私そのままならば、危機感や恐怖感は壊れてるのできっと大丈夫だっただろう。もしくは、反撃してた。


 しかし、今の私は8歳の子供だ。

 幸せに、平凡に生きていた為に危機感と恐怖感を覚えてしまったこの心では、反撃も出来ず、身を震わせることしか出来ない。


「まだ……大丈夫」


 恐怖を覚えていることに、私は安堵する。危機感や恐怖感、体が震えているのは、まだ私が正常な印だ。ここで平気になったらそれこそ異常だ。


 異常になったら、私は前世の私になる。前世の私になったら……


『君がお母さんに戻れたら、抱いてあげるね』


 息子に……抱かれる。


 あの目は本気だった。本気で抱こうとしている目をしていた。そんなの嫌だ。抱かれたくなんかない。気持ち悪い。死にたい。


 あぁ、もう本当にエルヴァンはあいつの子だ。私を薬漬けにした奴の子だ。娼婦時代は私の客は大体狂っていたが、あいつが一番狂ってた。


「まる たけ えびす にたこおいけ あねさん ろっかく たこ にひき……」


苦しさをまぎらわせる為に小さいころから知っている歌をくちずさんでいると……


 ガチャガチャガキンピン……キィイ


 沢山の鍵の音と、ドアが開く音が聞こえた。


「……っヒィ!」


 エルヴァンだと思って私は布団を頭まで被ってブルブルと震える。正直、余り意味のない行為なのだが、震えは止まらない。今度は何をされるのだろうか?


 入れ墨でもいれられるのだろうか?


 水に沈ませられるのだろうか?


 それとも、今度は友人を食べさせられるのだろうか?


 拷問のかぎりを思い付き、嫌だ嫌だと震えていたのだが、いつもの狂気の声が聞こえず、気になって布団から出たら……


「子供?」


 そこには、エルヴァンではない男性がいた。優しそうな瞳と、この国の代表ともいえる栗色の髪。容姿はエルヴァンのようなハッキリとした美形ではないながらも、優しげな人だった。


「貴方は誰ですか?」


「あ、私は……ソファル国の第3王子だ」


 ソファル国。たしか、花や鉱石が有名で温暖な気候で人柄も穏やかな人が多い国。この国の同盟国だった気がする。なんでそんな奴がこんなところに……と思ったのは相手も同じだったらしい。


「何故……君のような子供がここに?ここは、エルヴァンの部屋で……」


 君のような、というのはどっちを示すのだろうか?

 この国では珍しい黒毛黒髪の東洋人であることを示すのか、それとも私が王族にみえない場違いだからだろうか…………まぁ、どっちでも対した違いはない。


「私はエルヴァンの母だから」


 そういえば、彼は疑問の顔をした。キョトンとした顔が可愛いなと思いながら、私はフフッと笑って彼に近づく。


「……え……あ……」


 戸惑う彼を見上げながら、ゆっくりと焦らずそして、じらすように彼に抱きついた。そして、私は声をだす。


 可愛らしく、かん高く。無邪気さと悲壮感を併せ持ち、壊れる寸前のような、保護欲を掻き立て、子供だから警戒を出しにくい心理の隙をついて、可愛く、可愛くいった。


「貴方の名前が知りたいな……」


 彼は戸惑ったように、しかしながら頬を少し赤くした。その反応をみて、上手く『種』を植え付けれたと確信した。




 やっと見えた一筋の光を私は決して逃がさない。

息子には抱かれたくないけど、目的の為ならなんでもします。

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